38.アルフリードの剣①(三人称)
8000文字超えたので2話に分けたかったのですが、何処で切っていいか分からず1話になりました。
少し長めですが、宜しくお願い致します。
太陽が傾きかけた頃、ルーベル国へ続く街道から外れた森の奥にて一組の冒険者が魔物狩りを行っていた。パーティーの名は<金色の獅子>
サクリ村のトッド……改めアルフリードがリーダーを務める総勢六人のパーティーである。
「クソッ! クソッ! クソッ!」
アルフリードが新しく手に入れた剣の慣らしをすると言うので、メンバーのうち支援系魔法使いのソフィ・攻撃系魔法使いのヤルドガル・槍使いのジュードの三人はそれに付き合う形で森に来ていたのだが、剣の慣らしと言うより、憂さ晴らしにしか見えない荒々しい剣捌きにジュードは首を傾げた。
「あいつ、何を荒れてんだ?」
槍に付着した魔物の血を振り落としながら隣に立つヤルドガルに尋ねれば、静かな声は質問で返した。
「折角戻った故郷ではなく、数キロも離れた隣村に宿を取った理由を理解しているか?」
「ああ? そんなの、剣を修理して貰うはずが目の前で木っ端微塵に砕かれ、しかも店から叩き出されたアルフリードが腹を立てて村を出ただけだろ?」
アルフリードとソフィの二人とは別行動を取っていたジュードはソフィから聞かされた愚痴を要約して話すが、ヤルドガルは不満げに眉を顰めた。
「それだけか?」
「他に何があるんだよ」
「ソフィがパーティーに入る前、我々にしていた自慢を覚えていないか?」
「自慢~? あいつ自慢ばっかじゃねーか」
「今はそうだが、奴が駆け出しの頃にしていたただ一つの自慢だ」
「駆け出し~? んな昔の事、お前じゃあるまいし、覚えてねーよ」
短く刈り上げられた頭ををバリバリと掻きむしるジュードを横目で見つめ、ヤルドガルは肩で切り揃えられた金色の髪を揺らし、答えた。
「自分の帰りを待っている婚約者がいる」
「は?」
「覚えていないか?」
「ああ……」
ヤルドガルの言葉を聞き、何とか記憶を手繰り寄せる事ができたジュードは『リア充爆ぜろ』と呪いをかけていた当時の気持ちまで思い出し、現在も目の前で巨乳美人な恋人といちゃついている(ように見える)アルフリードに『爆ぜろ! 爆ぜろ!! 爆ぜろ!!!』と念を送る事によって現在と過去における嫉妬を清算した。
が、はやりムカつくので足元に落ちているこぶし大の石を拾い上げ、アルフリードめがけて投げつけたが、ソフィの張ったシールドに跳ね返されリア充男には当たらなかった。
「確かに言っていたな。クソリア充なクソ自慢。で、それがどうしたよ?」
鈍い男だとヤルドガルは溜息を吐いた。
「鍛冶師が婚約者だ」
「はあ!? え? あいつそんな事言ってたっけ?」
「言ってはいないが、婚約者の話をする時には剣を大事そうに抱いていたからな。十中八九間違いないだろう」
ジュードは目を見開き、数メートル先でソフィによる支援魔法を受けながら、魔物を蹴散らしているアルフリードを繁々と見つめる。
「ソフィ連れて鍛冶屋に行ったって、言ってたよな?」
「ああ」
「あいつ、バカなの?」
ジュードの質問には答えず、ヤルドガルは話を続けた。
「私には鍛冶師が目の前で剣を砕いた心情が理解できる」
「鈍い俺でも分かるわ」
「だが、奴には理解できないらしい」
「ええ~。マジで~」
パーティーメンバー二人を置き去りにして森の奥へ進んで行くアルフリードを残念なものを見る目で見つめた後、目頭を押さえた。
「つまりなんだ。あいつの村の村長が英雄凱旋の祭りやりたいから出てくれって頼みに来た時に、クソみたいな条件を出したのって……」
「村長から頼まれれば件の鍛冶師も、剣の修復をすると思っていたのだろう』
「確か、朝になって修復も謝罪も無理だって、村長が言いに来てたよな?」
「剣の修復も謝罪もしたくないと強情を張る鍛冶師を村から追いだしたと言っていたが、恐らく鍛冶師自身の意思で出て行ったに違いあるまい」
「自分の思い通りにならなかったから、イラついてんのか、あいつ」
「心に幼さを残している男だからな」
二人はそう結論付けたが、アルフリードが荒れている理由はそれだけではなかった。
今から遡る事五時間程前。
王都から遠く離れた小さな村の宿屋兼酒場にて<金色の獅子>の全員で少し遅めの朝食を取っていた
店内に他の客はおらず貸し切り状態だったのもあり、にぎやかに談笑していると、サクリ村の村長であるマルコーがやって来た。
アゼリアの姿がないのは新しい剣を打っているからに違いないとアルフリードは信じていたが、マルコーからアゼリアが要求を拒否したと聞かされ愕然とし、それに対する処遇を聞き、アルフリードは酷く動揺した。
英雄である自分に失礼な態度を取ったからと言って、村から追い出させるまでではなかった――と。
だが、それと同時に怒りが沸き起こった。
村を追い出される以上に剣の修復や謝罪が嫌なのかと。
自分が婚約解消を言い渡すまで、婚約者だったのだ。帰りを待ち続け、一途に思っていた相手が女を連れて帰って来たのだから、婚約者の心を取り戻そうと剣でも何でも捧げるのが普通だろう。何故そうしないのか――。
アゼリアに対し身勝手な怒りを募らせたアルフリードは凱旋の祭りなど知った事かと、朝食を中断して立ち上がった。
そこへ見知った顔が酒場に入って来た。
「おお。英雄アルフリード殿。王都以外でお会いできるとは思ってもいませんでした」
柔和な顔に立派な口ひげを蓄え恰幅の良い身体で優雅にお辞儀をする男に、アルフリードは礼を返す事をせず顔を顰めただけだった。
ルーベル国の首都ビジェツにて武器から赤子の産着まで何でも取り扱っている老舗商会<ハマゴウ>の会長であるバーナムはアルフリードの失礼な態度を気にもせず、パーティーメンバー一人ずつに挨拶をしていると、酒場の扉が勢いよく開かれた。
三十手前の気の強そうな美人はつかつかとバーナムに近寄ると、眉を吊り上げた。
「会長。急に消えられては困ります」
「ああ、すまない。お得意様がいたので、ついな」
バーナムの秘書は愛想笑いの一つも浮かべずに<金色の獅子>へ一礼すると、直ぐにバーナムへ向き直った。
「宜しければ、商品の引き渡し手続きは私の方で済ませておきますが、いかがなさいますか?」
「ああ。よろしく頼む」
「では、こちらにサインをお願いします」
バーナムからサインを貰うと、秘書は一礼して酒場から出て行った。
「失礼しました。秘書が荷下ろしを済ませ次第、ヴァシェーヌ国へ出立する予定です。何かご入用な物があれば早めに仰って下さいませ」
既に朝食を食べ終わっていた<金色の獅子>のメンバーは何か不足物があってはいけないと、荷物の確認の為に二階にある部屋へ上がって行った。
「アルフリード殿は宜しいのですか?」
「俺は欲しい物なんかねぇよ」
バーナムの登場で、出て行くタイミングを逃したアルフリードは荒々しく席に腰を下ろし、フンと鼻を鳴らした。
失礼な態度を窘めるようにマルコーは睨み付けるが、アルフリードは悪びれた様子もなく、皿から食べかけのパンを取って噛り付いた。
身体ばかりが育ち、中身は子供のまま……いや、村を出る前より酷くなっているとマルコーは溜息を吐き、バーナムへ向き直った。
「うちの者が失礼な態度を取ってすみません」
「いえいえ。お気になさらず。失礼ですが、お身内の方ですか?」
「私はこれの故郷であるサクリ村で村長をやっておりますマルコーと申します」
「アルフリード殿の故郷の方でしたか。私はビジェツにて<ハマゴウ>商会を営んでおりますバーナムと申します。以後お見知りおきを」
頭を下げ、丁寧なお辞儀をするバーナムにマルコーもお辞儀を返す。
「定期的に王都とヴァシェーヌ国を行き来しております。何かご入用の際はお声がけ下さい」
バーナムから名刺を受け取ったマルコーは、慌てて懐から三つ折りの紙を取り出し、差し出した。
「宜しければこちらをお持ち下さい」
「これは?」
「ワンドリンク無料引き換え券付きのチラシです」
英雄凱旋祭りと書かれたチラシを広げると、村全体の地図が現れ、祭りの会場となる商店街の中央広場を中心に屋台の配列が書き込まれていた。
「急ごしらえで作ったチラシなので、簡素な内容でお恥ずかしいです」
「恥ずかしなどとおっしゃいますな。縮尺が均一な地図に、すっきりと見やすいデザイン。しかも薄く手触りの良い上質な紙に、にじみの殆どないインクを何色も使われている。こんな素晴らしいチラシは初めて見ました」
「ほほっ。王都で商会を営んでいる方にそこまで褒めて頂いたと知ったら、役所の者も喜びます」
「役所の人間がこれを作ったのですか?」
「はい。一晩で書き上げました。ああ、紙やインクなどはここに書かれている十七番の店で取り扱っています」
地図を指さしながらしっかりと売り込みをするマルコーに、バーナムが商人の顔で尋ねる。
「取り扱っているのは紙とインクだけでしょうか?」
「文房具店ですので、色々ありますよ」
「ほう。例えば?」
「そうですね。ペンや筆。それらを入れるケース。テープやのり。バインダーやファイル関係などですね」
「てーぷ!? それはどういったものですか?」
「どうって、普通の物から飾り用のやつまで色々です」
商品自体の説明を求めたのだが、伝わらず、バーナムは質問を変えた。
「それは何に使うものですか?」
「何って、貼って使う以外にありますか?」
「貼る……ふむ。できれば見本のようなものがあると嬉しいのですが、お持ちではないでしょうか?」
「見本? そんなものは持って……あっ!」
マルコーは尻のポケットから手帳を取り出すと、表紙を捲って見せた。
「これは!?」
「孫娘からのプレゼントに貼られていたシールです」
「しーる?」
住む土地によって物の名前が変化する事があると知っていたマルコーは王都では別の名前で呼ばれているのかもしれないと、身振り手振りを交えて説明をした。
「私の村では、長い帯状の物をテープと呼び、こんな感じの一枚の物はシールと呼んでいます」
「なるほど」
ノリを付着させ飾りなどに使う紙を形状によって『てーぷ』『しーる』と呼んでいると認識したバーナムは商品もさることながら、紙の種類やそれに描かれたイラストの方に興味を覚えた。
「しーるに使われている紙ですが、何と言う種類のものですか?」
「種類と言われましても……シールはシールですので……」
「滑らかな手触りに光沢まである紙。こんな素晴らしい高品質な紙を何処から仕入れているのでしょうか?」
「仕入れも何も、普通に文房具店で購入しているだけですよ」
「マルコーさんの村の文房具店ではこういったものが普通に売られていると?」
「ええ、まあ」
「紙は文房具店で作られている物ですか?」
「文房具店は物を売るところです。作るのは別のところです」
「因みに紙を作っている店は何処でしょうか?」
チラシを傾けて見せるが、マルコーは不思議そうに地図を眺めるだけで、答えなかった。
「文房具店で取り扱っている商品は同じ店で作られているのですか?」
「まさか。紙は紙すき職人が作り、ペンやその他の物も専門の職人が作っています」
「ほうほう。ペンは何処の店が作っているのですか?」
再び沈黙が返された。
とぼけていると言うより、思い出せないといった反応に、その後も色々と質問を繰り返したが、商品に関してはすらすらと説明をするのに対し、商品の作られている場所を訊くと途端に黙ってしまう。
製法や技術の漏洩を危惧しているのかとも思ったが、表情を見る限り本当に知らないように見える。
堂々巡りなやり取りに、バーナムは話題を変える事にした。
「先程見せて頂いた、しーるですが、描かれた鳥が色鮮やかで美しかったですね。職人の方が描かれたんですか?」
「いえいえ。あれは孫娘が私の為に描いてくれたものなのですよ」
「そうなのですか!? お孫さんは素晴らしい才能をお持ちなんですね」
「いえいえ。そんな……有難う御座います」
孫娘の絵を褒められて上機嫌となったマルコーは、ジャケットのポケットから小さな紙包みを取り出した。
「これ、今朝できたばかりの英雄饅頭の試作品です。道中にでもお召し上がり下さい」
「まんじゅう? ですか?」
初めて聞く名前に、バーナムはマルコーと饅頭を交互に見つめた。
「甘い物は駄目でしたか?」
「いえ、甘味は大好きです」
饅頭が食べ物。しかも甘味だと分かり、バーナムは生唾を飲み込んだ。
「今頂いても宜しいでしょうか?」
「どうぞどうぞ」
包装紙を丁寧に開けると、中から茶色の塊が出てきた。初めて見る食べ物にバーナムは鼻を近付けた。これまで嗅いだ覚えのない甘い匂いが鼻をくすぐり、匂いに誘われるままに一口食べれば濃厚な甘みに顔が綻んだ。
「何とも上品な甘味ですね」
「饅頭の他にも英雄煎餅や英雄キャンディも作る予定です」
「せんべいにきゃんでー……ですか?」
「はい」
「それらの試作品は?」
「煎餅もキャンディも型を作っている最中でして……」
「そうですか……」
残念です――としょぼくれながら、一口また一口と饅頭を頬張り、最後の一口を食べ終わると、バーナムは包装紙をキレイに折りたたみポケットへとしまった。
「至福の一時を有難う御座いました」
「気に入って頂けたようで、良かったです」
「砂糖を使った菓子はいくつか食べた事がありますが、香り・触感・舌触り・味の濃密さ。ここまでの物は初めてです。英雄まんじゅう。素晴らしい商品です」
「有難う御座います」
「して、このまんじゅうと言う商品はお一つおいくらなんでしょうか?」
「六個入りで八百クレの予定です」
「何と! 一つ百四十クレしないのですか?」
「ええ、まあ……」
バーナムは低く唸り、マルコーへにじり寄った。
「まんじゅうだけでも今すぐ購入する事はできませんか?」
「いやぁ……その……」
「これ程の商品なら四倍の金額にしても売れますよ!」
「たかが饅頭ですよ?」
「何をおっしゃいます。これ程までに完成された甘味。ヴァシェーヌ国へ持って行けばいくらでも売れます!」
鼻息荒く断言され、圧の凄さにマルコーは後退る。
「お、大げさじゃないですか?」
「大げさではありません。どうでしょう。今ある分だけでも売っては貰えませんか?」
ぐいぐいと迫るバーナムに、マルコーはおろおろと答える。
「そ、それがその……饅頭は作った分は村の者で分けてしまって、もう無いのです」
「無いのですか?」
「……申し訳ない」
「いえ。こちらこそ無理を言ってすみません」
初めて見る食べ物。甘味でありながら安い。
ルーベル国でもヴァシェーヌ国でも飛ぶように売れる事間違いなし。
そんな夢のような商品が今は無いと分かり、冷静さを取り戻したバーナムは脇に挟んでいたチラシを広げた。
「無い物は仕方ありません。まんじゅうは祭りの日に買うとして、開催日ですが……」
二人の話を横で聞いていたアルフリードは、テーブルの脚を乱暴に蹴飛ばした。
「さっきから勝手に話を進めているが、俺は祭りになんか参加しないからな!」
アルフリードの言葉に反応したのは、夢のような商品と出会ってしまった商人。バーナムだった。
「おやおや。お祭りの主役が参加されないとは……何かご事情でも?」
普段と変わらぬ穏やかな声音。微笑みを浮かべた口元。だが、目だけは笑っていなかった。
「アルフリード殿?」
バーナムの迫力もさる事ながら、英雄と言う称号を手に入れ、無駄にプライドを高くしたアルフリードは、参加を渋っている理由を口にする事ができず、押し黙った。
子供の様にそっぽを向いたアルフリードに代わり、マルコーが口を開いた。
「実は、以前使っていた剣が駄目になってしまい代わりの剣を探しているのです」
適当な話を始めたマルコーを勢いよく睨み付けるが、マルコーはアルフリードを無視し、話を続けた。
「剣を差していないと格好がつかない。新しい物が見つかるまでは祭りには参加したくないと言っておりまして……」
「なるほど、あれの代わりですか。以前、修理依頼された時に店で見せて頂いた事がありますが、あれの代わりは中々見つかりませんでしょう」
「そうなのです。ほとほと困り果てている次第なのです」
アルフリードへ背を向けると、目配せのような視線をバーナムへ送ると、察しの良い商人はにっこりと微笑んだ。
「それでしたら、今回ヴァシェーヌ国へ卸す荷の中に剣がありますので、お勧めの物をいくつか出しましょう」
給仕係にテーブルの上の食器を片付けさせると、バーナムは「失礼します」と断りを入れ、アイテムボックスの中から剣を五本取り出し、テーブルへ並べた。
「おお。なんと素晴らしい! トッド。そっぽ向いていないでちゃんと見てみなさい」
「俺はアルフリードだ!」
苛立たしく訂正をされるが、マルコーは好々爺然とした笑みで受け流し、一振りの剣を指指した。
「これなんかどうだ? 前の物と長さが同じくらいじゃないか?」
「フン!」
「赤をベースとした鞘に施された金の細工が見事じゃないか」
「鞘だけよくても意味ねぇーし」
「そう思うならちゃんと剣身も確認してみなさい。ほら」
マルコーに言われ渋々剣を取ると、鞘から剣を引き抜いた。
「何と美しい!」
「……悪くはねぇな」
「何が悪くはないだ。お前ほどの男なら分かるだろう。この剣の素晴らしさが」
「そりゃあ俺レベルになれば、分かるけどよぉ……」
折角だから腰に差してみたらどうかと勧められるものの面倒だと渋るが、荷物の確認から戻った恋人のソフィの「カッコイイ」の一言で即座に腰に差した。
「あつらえたようにピッタリじゃないか!」
「確かに。英雄アルフリード殿の為に作られたかのようですね」
「やはり、英雄には赤が似合う!」
マルコーが褒めるとそれを援護するようにバーナムが付け加える。
「赤は覇者の色ですからね」
「素敵よ。アルフリード~。王子様みた~い」
村長と大商人、そして恋人に褒められ、満更でもないアルフリードだったが……。
「俺に似合うのは分かるけどよぉ。俺が欲しいのは……」
「武器との出会いは一期一会だぞ。トッ、アルフリード」
「ええ、ええ。武器と言うのは出会ったその時に手に入れなければ、二度と出会えなくなるといいますからね」
「けど……」
「アルフリード殿。運命の剣に出会うまでの仮の剣とすればいいではないですか?」
「バーナムさんの言う通りだ。だいたいお前、今後の冒険をどうするつもりなんだ? 欲しい剣が手に入るまで丸腰で旅をするつもりか?」
「それは……」
「ねぇ、買っちゃいなよ、この剣。アルフリードに凄く似合ってるぅ~」
「そ、そうか?」
「うん。英雄って感じで凄く良いよ~」
思わぬ援軍にマルコーとバーナムは畳みかける。
「これ以上の剣を手に入れるとなれば、ヴァシェーヌ国へ行くか、王都へ戻るしかないぞ」
「商業国家であるヴァシェーヌなら、それ以上の剣もあるでしょう。ですが、自国の英雄を応援したい私共と違い、かなりの金額を求められるでしょう」
『ここで買えば値引きしますよ』暗にそう言われ、アルフリードは一瞬悩んだ。
<ハマゴウ>で扱われている商品はどれも高価な物だ。値引きが一割でもかなりの金額になる。
欲しい剣とは違うが、買っておいて損はないのではないか。
そんな心の揺らぎをアルフリードの表情から読み取ったマルコーは、そっと後押しをする。
「トッ…アルフリード。男なら決断しなさい」
「我々も出立の時間がありますので、なるべく早くお願いいたします」
「さあ!」
「いかが致しますか?」
二人に笑顔で圧をかけられ、アルフリードはなし崩しで剣を買わされるはめとなった。
鬱蒼と木々が生い茂る森の奥で、血の臭いに誘われ、次から次へと現れる魔物を屠りながらアルフリードは延々と喚き散らしていた。
「あぁぁぁ! クソッ! クソッ! クソが!」
買う予定になかった剣を半ば無理矢理買わされ、更に出席する気のなかった英雄凱旋祭りに出席する事になり、詐欺に遭ったかのような気分だったが、アルフリードが乱暴に剣を振るっている理由は別にあった。
剣の切れ味が違うのである。
バーナムから買い取った剣は、王都ビジェツにて一番の腕利きと称される鍛冶師グララガボルドの作品だ。
間違いなく一級品の剣である。
にも関わらず、アゼリアに貰った剣に比べると切れ味が劣る。
いや、そうではない。
切れ味云々と言うより、違和感を覚えるのだ。
これまでと同じように魔力を流しても、反応が乏しい。
身体の一部であった剣が、そう感じられない。
「何なんだ、この剣は!」
アゼリアの剣の様にアルフリードの意思に応えない剣に苛立ちが募り、力任せに目の前の魔物を薙ぎ払って行く。
「クソッ!!」
C級の魔物を一刀両断しながらも吐き捨てる。
「こんな鈍ら、使えねぇ!」
自分の真の力を引き出すのは、誰よりも自分を理解している幼馴染が打った剣なのだ。
そう、改めて思い知る。
「英雄アルフリードに必要なのはあの剣だ! クソッ! アゼリアの奴!!」
握った剣を振り下ろし、一匹また一匹と魔物を倒しながら、アルフリードは喚き散らし続けた。
マルコーとバーナムのやり取りはもっと簡素なものだったのですが、何でアルフリードに剣を購入させる手伝いをしたかを説明せねばとあれこれ足していたら、こんな感じになりました。
ヴァシェーヌ国へ行く前に、マルコーの村に仕入れに行く!とバーナムは言い出しますが、旅に同行している秘書に商談の日程にさわりがあるからと駄目だしされ、引きずられるように連れて行かれます。
その辺りを「アルフリードの剣②」で書けたらと思っております。




