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27.調理の時間③

今回は6000文字近くありますが、内容は軽いのでさらっと読めると思います。

宣しくお願いします。

 戦いの幕は切って落とされたけど、直ぐにどうこうという訳ではない。

 何故ならご飯を蒸らさないといけないから。

 そしてフライヤーの油が温まるのを待たないといけないから。


「フライヤー点火。ご飯はしばらく放置。その間に、から揚げの衣~衣~」


 縦四十センチ横七十センチの大型ばんじゅうに小麦粉と片栗粉を混ぜ合わせると、冷蔵庫から下味処理済みのコカトリスの肉を取り出した。

 一袋あたり五キロ前後の肉をばんじゅうに出して衣をまぶしてボールへ移す。同じようにして残り三袋の肉に衣をまぶし終わると手を洗い、奥の部屋へ移動した。

 蒸らし終わった、ご飯を家庭用のものより持ち手が長いしゃもじでほぐすと釜を持ち上げてキッチンへ運べば、マジックハンドを嵌めているとは言え、重量感満載の大釜を持って現れた私にレオナルド様は慌てて駆け寄った。


「大丈夫か?」

「マジックハンド嵌めていますから問題ないです」


 マジックハンドしなくても、これくらいなら運べますけどね。


「あっ、保温器の蓋……」

「何だ?」

「あの、壁際にある丸みを帯びた箱のようなもの分かりますか?」


 私の視線を追うようにして移動すると、レオナルド様は保温器を指さした。


「これか?」

「はい。ボタンを押して貰えますか?」


 ガチャっと音を立て、蓋が開いたのを視認し釜を収めるとレオナルド様が中を覗き込んだ。


「アゼリア。お前が言っていたご飯と言うのは米の事だったのか?」

「はい。私の村では白米が主食だったので、ご飯と言えば白米なんですが……。ヴァシェーヌ国でもお米は食べますよね?」

「我が国の主食は麦だ。米は一部の人間しか食べない」


 何と!?

 やってしまった……。

 餃子の友と言えばご飯だと、何も考えずに用意してしまったが、食べる習慣のないものを出されても困るよね。

 いくら美味しいものでも食べ馴染まないものには抵抗を覚えるとか、口に合わないとか……。


「アゼリア」

「はい」

「その、行儀が悪い事だと分かってはいるが、少し貰ってもいいか?」

「それは構いませんが……。あっ! 直ぐに用意しますので、カウンター席に座ってて下さい」


 フライヤーの温度を確認し、ばんじゅうからコカトリスの肉を五つほどフライヤーの籠に入れて下すとじゅわっと油の弾ける音が響いた。冷蔵庫から餃子を取り出し、鉄板で焼き始めた。

 揚げ物完了を知らせるアラームに、沈めていた籠を上げ、油切りをしている間に茶碗にご飯を盛りカウンター席に座っているレオナルド様の前に置いた。


「から揚げと餃子も直ぐにお待ちしますね」


 今度は餃子の焼き上がりを知らせるアラームが鳴り、急いで鉄板へ戻る。

 鉄板から餃子を回収し続いてから揚げを回収。

 こんがりとはちみつ色に揚がったから揚げとしっかりと焼き色の付いた餃子をレオナルド様の前に置くと困惑顔で見つめられた。


「お米を食べた事がないなら、ご飯だけだと食べ辛いと思いましてから揚げと餃子を用意しました」

「気遣いは嬉しいが、一人、先に食べるのは……」

「先程、上の人間が食べないと下の者が食事ができないと言っていたじゃありませんか。レオナルド様は団長ですのに給仕をしないといけませんので、今しか食べる時間がありません。レオナルド様が食べないと部下の方達が食べられなくなります」

「確かにそうだが、それを言うなら俺はフェリックス様より下だ。先に食べる訳にはいかない」


 誰も見ていないからいいよね?

 ってならないのか。真面目だなぁ……。

 う~ん。それなら。


「毒味って王子より先に食べますよね?」

「それは……」

「レオナルド様は見た事も聞いた事もない、得体の知れないものを身をもって試すだけです」

「確かに……」

「これは毒味です!」

「毒味か」

「そうです! 毒味です!」


 レオナルド様は僅かに口角を上げ、ニヤリと微笑んだ。


「そういう事なら食べない訳にはいかないな」


 言うが早いか、レオナルド様はフォークを使いご飯をすくい口に運んだ。

 味わうようにゆっくりと咀嚼しご飯を飲み込むと、から揚げとご飯。餃子とご飯を繰り返し、あっという間にお茶碗を空にしてしまった。


「おかわり要りますか?」

「ああ、たの……」


 茶碗を持ち上げるが直ぐにそれを戻し、レオナルド様は頭を抱えた。


「まずい」


 不味い!?

 あんなにガツガツ食べていて?

 おかわりまで行こうとして!?


「米がこんなに美味しいものだと思わなかった」


 ん?


「何か問題でも?」

「俺が食べた米の量が一人分か?」

「そうですね。先程の量で一人分です」

「何人分用意した?」


 えっと、三升で三十合でしょ。お茶碗二膳で一合だから。


「大体六十人分でしょうか」

「全然足りない」

「えっ? でも、スープもサラダもありますし、から揚げも餃子も一人二皿は食べられるように用意していますよ?」

「何皿分用意した?」

「から揚げが約百三十皿。餃子が百二十四皿。大体一人二皿食べられます」

「駄目だ。全然足りない」

「足りないですか?」

「ああ。硬いパンと干し肉なら五十人分きっかりでも問題なかったが、高級レストランでも食べられないような美味しいものを出されては……」

「出されては?」

「騎士道精神を叩き込まれた連中であっても、理性を失い獣と化すかもしれない」


 はい?


「大げさじゃないですか?」

「いや、現に俺ですら高級品と知っていながら、おかわりを要求しそうになった」


 高級品?

 主食が麦だから稲作はほとんどされていないのかな?

 手に入り辛いものって、高値が付くよね。


 美味しいと言う名の正義に負け、おかわりを要求した事を反省するように項垂れているレオナルド様だが、何かを思い出したのか、勢いよく顔を上げた。


「アゼリア。茶碗一杯のご飯でいくらだ?」

「普通盛りご飯で百クレです」


 値段を聞き安堵の息を漏らすレオナルド様。

 ヴァシェーヌ国での米の値段って一体どれほどなんだろう。


「契約時にわざと一食目の値段を低く見積もり、二食目から吹っ掛けるような事はしませんのでご安心下さい」

「お前がそんな事をする人間だとは思っていない。なにせポーションの値段すら吹っ掛けないのだからな」


 あははっ。

 商才無いんです。私。


「値段はいいとして、在庫の方はどうだ?」

「お米は倉庫にたくさんあるので問題ないです。ただ、早炊きにしても炊き上がりまで四十分かかるので、食事の時間を一時間近く遅らせる事になりますが、大丈夫でしょうか?」

「それは難しいだろう。皿だけならまだしも、サラダとスープを運んでいる。特にスープのにおいを嗅いでもう直ぐ食事ができると腹が臨戦態勢に入っている上に、ハリソンとルーイ……魔法使いの二人だが、あいつらがメニューについて吹聴しまくっているから期待値も高まっている。一時間近く遅れるとなったら発狂するかもしれない」


 発狂って、大げさじゃ……。

 でも、期待を裏切るのも悪いし。


「分かりました。何とかしましょう」


 空になったお茶碗にご飯を盛り、レオナルド様の前に置く。


「レオナルド様は残りを食べちゃって下さい。私はその間に準備をしますから」


 食事を再開したレオナルド様を残し、私は急いで寸胴鍋三つに水を張り火にかけると奥の部屋へ移動した。三升の米を洗米機に入れ、研いでいる間に部屋の隅に積み上げられた箱の一つを持ってキッチンへ戻りコンロ前に置いた。

 続けて奥の部屋からばんじゅう二枚を運び込み、キッチン中央の作業台の上に置くと、麺の湯切り用のざるを収納棚から取り出した。

 そうこうしていると洗米終了を知らせるアラームが鳴り、洗米機から炊飯器へ移して戻ると食事を終えたレオナルド様がコンロ前に立っていた。


「何か手伝える事はあるか?」

「はい。今からパスタを茹でますので、お手伝いをお願いします」


 沸騰した鍋に塩を入れ、湯切りザルを五つセットする。

 一つのザルに二人前のパスタを入れタイマーをセットすると次の鍋、その次の鍋へと同じようにしてセットして行く。


「今から新しい料理を作るのか?」

「いえ。先程運んで貰ったスープに入れて食べて頂きます。そうすれば、ご飯のおかわり率が減るかも知れませんから」

「……だと、いいんだがな」

「もし、減らなくても、次のご飯炊き上がりまでの時間稼ぎになるかもしれませんし」

「そう、だな……」


 歯切れの悪い返事、止めて下さい。不安になります。


 一つ目のタイマーが鳴り、湯切りザルの取っ手を右に二つ左に一つ持つと、レオナルド様も同じように左右に一つずつザルの取っ手を持った。


「私の真似をして下さい」


 両腕を上下に三度振り下ろすと、レオナルド様もそれに続いた。

 湯切りが済んだパスタをばんじゅうに入れ、ザルを鍋に戻しパスタをセットする。

 ばんじゅうに入れたパスタがくっついてしまわないように、スープの味に合わせたごま油を垂らし混ぜ合わせていると、次の鍋のタイマーが鳴った。

 同じように作業を繰り返し、六十人前のパスタを茹で上げるとばんじゅう二枚を積み重ね、レオナルド様に差し出した。


「パスタはスープ用のお椀に収まるように入れ、後からスープを入れるように伝えて下さい」

「分かった」


 カフェから出ていこうとする背中に言伝を追加する。


「サラダとスープパスタは先に食べるように言って下さい」

「分かった」


 次に運び出して貰うご飯の保温器にしゃもじを付け、マジックハンドを使ってキッチンから階段下へと運んでいると、レオナルド様が袋詰めされた肉を持って戻って来た。


「代わろう」


 肉を階段下に下すと私から保温器を奪うようにして、階段を上って行く。


「あの、白米を食べた事が無いと一人分が分からないと思うので、握りこぶし一つ分位と伝えて下さい」

「分かった」


 階段下の肉を持ってキッチンに戻ると、肉を冷蔵庫へ入れ、代わりに冷凍庫からフライドポテト用に八等分のくし形に切られたポテトが入った袋を取り出した。

 困った時のポテト様。

 美味しいし、腹に溜まるし、手軽だし、コストも良い。

 今日も大食いの民から救って貰おう。


 パスタの追加はないだろうけど、もしもを考えて鍋諸々をそのままにし、コンロの隣にある二槽式のフライヤーの片方にポテトを入れ、もう片方にから揚げを入れると、続けて鉄板に四十八、四十八、計九十六個の餃子を並べ水を加えて蓋をする。

 揚げ物完了を知らせるアラームが鳴り、ポテトとから揚げをそれぞれ油切り用のバッドに移すと空になったザルに次のポテトとから揚げを投入し、フライヤーに沈める。

 カウンターに用意しておいた大皿を取りに行こうと振り返ると、大皿二枚を抱えたレオナルド様が立っていた。


「何か手伝える事は無いか?」

「次、揚げ物が上がったら運んで貰うので、それまで待機でお願いします」

「分かった」


 餃子焼き上がりを知らせるアラームが鳴り、蓋を取って水分を飛ばしているとフライヤーのアラームも鳴った。フライヤーの籠を上げ、油切りしている間に先程バットに移した揚げ物をレオナルド様の持つ大皿へと移すと、上がったばかりのから揚げとポテトを足した。


「から揚げは五個で一人前。一人十個までは食べて頂けます。ポテトは制限はありません」

「分かった。そのように伝える」


 左右に大皿を持ったレオナルド様は颯爽とキッチンを出て行くと、指示を受けずとも岡持ちにから揚げとポテトを収納し、カフェを出て行った。

 フライヤーに次の分を入れ沈めると、キレイに羽根ができた状態の餃子を大皿三枚に分けて乗せて、カウンターへ置き、次の餃子を鉄板に並べていると、レオナルド様が戻って来た。


「餃子を持って行くぞ」

「一人前八個。一人十六個までは大丈夫です」

「分かった」


 揚げて焼いてを繰り返し、千個ある餃子の半分ほどを焼き終えた頃に悲報が届いた。


「ご飯がなくなった」


 保温器と共に現れたレオナルド様に一縷の望みをかけ、尋ねる。


「パスタは?」

「だいぶ前に無くなっていたようだ」


 何て事!?

 気持ち多めに茹でていたのに、足りないとは……。


「ご飯炊き上がるまでもう少しかかるので、パスタを茹でて出した方がいいでしょうか?」

「いや。餃子やから揚げと共にご飯が食べたいと、泣き叫んでいるらしい」

「申し訳ありませんが、待って頂く他ありません」


 ご飯以外なら用意できるが、ご飯じゃないと嫌と言われてはどうにもできない。

 私は冷凍庫からおもむろに枝豆の袋を取り出し、パスタに使った鍋に投入した。


「それは?」

「枝豆です」


 茹であがった大量の枝豆を皿に盛り塩を振ると、レオナルド様に手渡した。


「これを食べて暫しお待ち下さいとお伝え下さい」

「分かった」


 レオナルド様が出て行き、保温器を奥の部屋へ運び込み蓋を開ければ米粒一つ残されていない事から騎士団の方達の米渇望具合が見て取れた。

 炊飯器の残り時間を見れば、五分と表示されていた。


「待っている時の五分て長いよね……」







 五分後。

 通常ならご飯を蒸らしたり、かき混ぜたりするんだけど、その時間が惜しいと炊き上がって直ぐにご飯を運んで貰い、私は再び揚げる焼くの作業に戻った。

 から揚げがなくなり餃子も全て焼ききり、達成感に浸ったのも束の間。


「今度はおかずが足りないそうだ」


 悲報第二弾。


「レオナルド様。すみませんがお手伝い頂けますか?」


 レオナルド様と二人係でレッドホーンブルの肉を切って切って切りまくり、一口サイズのステーキを大量作成。ついでにポテトを揚げまくり、ステーキとポテトのセットを大皿四枚ほど届けると漸く騎士団員の胃袋との終戦宣言が届いた。


「終わった!」


 両手の拳を高らかに上げ、伸びをする。

 が、大変な事に気付く。

 肉の解体作業をしていた獣人の皆さんて、ご飯食べてないよね?

 今からご飯を炊いていては時間がかかる。

 申し訳ないが、獣人の皆さんにはコカトリスの肉入りうどんで勘弁して貰おう。

 十人ではあるが、騎士団の皆さんの食べっぷりを見ると五倍の量を用意した方が無難かもしれないと、寸胴鍋二つ分のスープと六十人分のうどんを用意した。

 五十ではなく六十なのは、ご飯を食べたものの食べ足りないレオナルド様と、がっつりステーキを食べたが目の前で食べられると欲しくなる食いしん坊な霽月。そして昼ご飯を食べ損ねた私の分含めの数だったりする。

 解体し終わった皮、肉、骨などトランク内の各所に収納し、血みどろの大地を総司ちゃんでキレイにすると、獣人の皆さんと輪になって合掌。


「頂きます」


 ヴァシェーヌ国には『頂きます』の文化が無いのか、レオナルド様を始め獣人の皆さんに不思議そうに見られた。


「お前たち、聖女様に倣え」


 オムに促され、獣人達が次々に『頂きます』と両手を合わせた。


「えっと、あの……食事前の『頂きます』は私の村だけの習慣かもしれないから……」

「頂きます」


 私の右隣に座るレオナルド様が私を見つめた状態で合掌し続けるので、言葉が続けられなかった。

 今更ですが、まつ毛長いですね。

 じゃなくて!

 レオナルド様も獣人の皆さんも私をじっと見つめたままだ。

 え? これって何待ち?


「あ……えっと、め、召し上がれ?」

次回28話は騎士視点(三人称)で食事シーンとなります。29話も三人称の話。30話で漸く森から移動するかもしれません。あくまでかもしれない……。

本当にスローペースですいません。

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