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26.調理の時間②

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

12月下旬から体調不良で年末年始は布団の民でした。

その為更新が全然できませんでしたが、今年も宜しくお願いいたします。

 霽月にステーキ第二弾を届けて戻ると、カフェのフロアはお肉だらけだった。

 袋に詰められた肉のうち角切りにされたコカトリスの肉だけを残し、他の肉はレオナルド様と供に物置部屋の隣にある冷蔵室へと運び込んだ。

 キッチンへ戻ると冷蔵庫から生姜とにんにくを取り出して、作業台の上に置いた。


「それでは、から揚げの下準備にかかります」


 作業台の引き出しからにんにくクラッシャーを取り出して見せると、レオナルド様は眉間に皺を寄せた。


「何に使うかご存知ですか?」

「いや。初めて見る」


 ですよね。

 そんな顔しています。

 

 百聞は一見にしかずだと、にんにくクラッシャーの握り手の上側を持ち上げ、先端に付いた箱の部分に皮を剝いたにんにくを入れると握り手部分を戻し握り込めば、複数穴の空いた箱の底からにんにくが搾り出された。


「この通り、面倒なにんにくのすりおろしを解消してくれる便利グッズです」


 普段調理などしない騎士様にはこれがどれほど素晴らしい調理器具か伝わらなかったらしく、眉間に皺が一本追加されただけだった。


「レオナルド様はこれを使って、台の上に出してあるにんにく全てを握り潰してボールに入れて下さい。私はおろし金で生姜をおろしますので」


 にんにくクラッシャーを手渡すと、レオナルド様はすぐさまにんにくを潰し始めた。

 私も生姜の皮を剝き、おろしがねでおろし始める。


「さっきの話の続きなんだが」


 さっき……。

 何の話をしていたっけ?


「魔法使いは大雑把だと言っていたが」


 ああ。

 マルマール様の話か。


「どう言う意味だ?」

「ええっと、そうですね。マルマール様は他人に興味がないんです。厳密に言えば私の母と私以外にはですが……。ですので、相手が何処の誰かなんて気にせずに対応してしまうので問題が起きやすいんです」

「冒険者には粗野な者が多いが、それでも貴族相手には態度を変えるものだ」

「普通はそうですね」

「魔法使いは尊大な男なのか?」

「いえ。マルマール様は物腰の柔らかい方です」

「なのに問題が起こるのか?」

「最初にも言いましたが」

「うん?」

「マルマール様は絶世の美男子なんです」

「……」


 私の言わんとする事が伝わったのか、レオナルド様が苦虫を噛み潰したような顔になった。


「常に魅了の魔法でも発動させているのかと思うほどに老若男女が恋に落ちます。大概の人間は自分なんかが相手にされる訳がないと遠目で見ているだけですが、金と権力を持った人間はそれらを使って言う事を聞かせようとします」

「……」

「が、言う事を聞きません」

「うん?」

「言葉を向けられれば言葉で返しますが、力を向けられれば力で返し、悪意を向けられれば悪意で返し、相手が向けるものをそれ以上のもので返すので、相手が強ければ強いほど組織が大きければ大きいほどに被害が甚大になります」


 レオナルド様の形の良い瞳がすっと細められた。

 甚大の程度を探るように。


「大雑把の意味ですが、力加減や範囲が適当なんです」

「うん?」

「例えば、レオナルド様の屋敷に鼠が一匹入り込んだとしたら、どうしますか?」

「それは、捕まえて殺すか、追い払うかするだろう」

「ですよね。普通はそうします。でも、マルマール様は()()()()()んだそうです」

「は?」

「私も実際に見た訳ではないのですが……。潰したんだそうです」


 マルマール様に追っ手を差し向けた貴族を屋敷ごと……。

 その他にもどこぞの小国が地図から姿を消したとか色々聞いているけど、それについてはそっとしておこう。


「それは……かなり危険な人物だな」

「はい。その……危険といえば危険ですが、マルマール様は自分と身内に手を出されない限りは大人しい方ですので、関わらなければ安全です」


 ですので、マルマール様とお近付きになりたいと思わないでくれると嬉しい。


「その魔法使いは、今は旅に出ているんだったか?」

「はい。多分ですが、魔大陸に居ると思います。――あっ。にんにくすりつぶし終わっていますね」


 レオナルド様からボールを受け取り、角切りコカトリスの肉の袋を四つ全てを開け塩コショウを振り、おろした生姜とにんにく、酒と醤油を入れると袋の口を縛り、袋の上から揉み込んだ。

 後は味が沁み込むまで冷蔵庫に寝かせておけばよし。

 次はサラダだ。

 冷蔵庫や木箱から各種野菜を取り出しざっと洗うと、レオナルド様にはレタスを手でちぎって貰い、私はその隣で玉ねぎやきゅうりをスライスして行く。

 ちらりと横目でレオナルド様を見れば、心なしか表情が暗く思える。

 母から聞いたマルマール様の話しをかなり薄めて話したけれど、もっと薄めて話した方がよかったかな?

 いや、例え話が悪かったのかも。


「あの、レオナルド様。マルマール様は魔大陸やどこぞの奥地に居る事が多く、人が多いところには滅多に現れませんので、心配されなくても大丈夫ですよ」

「そうか?」


 神出鬼没なので絶対とは言い切れないけれど。


「まあ、その、何かあった時には私が間に入りますので、大丈夫です」

「本当か? なら何かあった時には頼りにするぞ」

「はい」


 力強く返事をしたものの、正直母と違って私にはマルマール様を抑える武力はない。

 が、私に対してマルマール様は激甘なので、お願いすれば何とかなるだろう。多分……。

 それから暫し無言のままサラダ作りに勤しんだので、思いのほか早く終わった。

 山盛りのサラダを入れた大きいボール四つをテーブルに移動させると、冷蔵庫や木箱からスープに使う野菜を取り出した。


「今度はお野菜を切って頂きます」

「ああ」


 手本にとキャベツを一枚乱切りにして見せる。


「こんな感じに切って、このボールに入れて下さい」

「分かった」


 ザクザクとキャベツを切ってゆくレオナルド様の隣でひたすらニンジンの皮を剥いて行き、それが終わると一本だけを千切りにして、玉ねぎに取り掛かった。

 玉ねぎの皮を手で剥き、ざっと水で洗い千切りにして行く。一個目を切り終わる頃にはレオナルド様がキャベツを切り終えていたので見本として切っておいたニンジンを見せ、残りのニンジンを切って貰い、私は引き続き玉ねぎを切り続けた。


「よし。終わった」

「これで終わりか?」

「はい。切る作業はですけれど」

「うむ」

「あ! 私スープ見てきますね」


 切った野菜を持ってキッチンの奥へ行き、火にかけたままの鍋を覗き込む。

 作業の合間合間に灰汁をこまめに取っていた甲斐もあり、いい感じに出汁が取れていた。

 火を止め、鍋からあらかた骨を取り除くと同じ大きさの寸胴鍋を用意してザルを乗せ、ザルの上にガーゼをひくと、マジックハンドを嵌めてコンロから鍋を下して濾して行く。

 透き通ったスープに野菜を入れて火にかければ、後は野菜が柔らかくなるまで煮るだけだ。

 レオナルド様の元へ戻り、使い終わった調理器具などを洗い片付けると一息つくために冷蔵庫から麦茶を出した。


「よかったらどうぞ」


 コップに入れた麦茶を手渡すと、においを嗅ぎ、探るような眼で麦茶を睨んだ。


「ただのお茶です。平民が飲む安物ですけれど、冷えてて美味しいですよ」


 自分の分を飲んで見せると、習うようにしてレオナルド様も一口飲んだ。


「美味い!」


 余程好みの味だったのか、一気に飲み干すと空になったコップを差し出した。


「もう一杯頂こう」


 麦茶を注ぐと再び一気に飲み干した。


「これは本当に安物なのか?」

「はい。私の住んでいたところでは、ほとんどの家庭で飲まれているものです」

「そうか」


 無言ではなく返事があったが、例の如く変な顔をされた。


「そっ、それでですね、あと少しでご飯が炊き上がりますが」

「ああ」

「そうするとキッチン(ここ)は戦場になります」

「戦場?」

「はい。ですので、打ち合わせをしましょう」


 私は調理に専念するのでキッチンから動けない。

 その為、できた料理はカウンターテーブルに置いて行き、それをレオナルド様に天幕外まで運んで貰う事になる。


「天幕前に運搬係その一を置き、結界との中間地点に運搬係その二を置き、バケツリレー方式を使えば効率よく運べると思うのですが、どうでしょう?」

「ああ。それでいいだろう」

「結界内での給仕係ですが……」

「給仕係は決まっている。運搬係として一人を結界前に置いて中まで運ばせれば、後はその他の給仕係が適当に配給するはずだ」

「そうですか。では、運搬係を決めて貰えますか? 私には誰がどういった役職の方か分かりませんので」

「うむ。それならオムとアールシュでいいだろう。あの二人は俺個人の奴隷だからな。仮に天幕の中を覗かれても口外禁止の命令ができる」

「なるほど。では二人にお願いしに行きましょう」


 天幕前に切り終えた肉が置かれているだろうから、まずはそれを冷蔵庫に運び込んだ方がいいだろう。

 スープの野菜が柔らかくなっているのを確認し、塩コショウで味を調えるとコンロの火を落とし、レオナルド様と共に天幕外に出れば、何故かオムと先程の魔法使い二人組が立っていた。


「どうかしたか?」

「はい! いいえ!」

「はいか、いいえか、どっちだ?」

「失礼しました。何もありません」

「なら何故ここに居る?」


 レオナルド様に問われ、ワンレングス黒髪の魔法使いは姿勢を正した。


「はい。僭越ながら、食事の準備で手伝える事がないかを確認しようと天幕へ来たのですが、オムに中はレオナルド団長と聖女様の聖域の為、入る事も覗く事も禁止だと言われ、お二人のどちらかが出てくるのを待っておりました」


 さらりと聖女と言う単語が混ざっていたけれど、このまま騎士団の人達に広まっていきはしないよね?

 魔法使い達に聖女と言う誤情報を与えた張本人のオムを見れば、誇らしげな微笑みを浮かべていた。

 天幕を覗かせなかったのはいい仕事だけど、聖女は余計です!


「えぇっと。でしたらサラダとスープ。それからタレやドレッシングなどを運んで頂けますか?」

「「はい。喜んで!」」


 前のめり気味な二人の返事にたじろぎつつ、足元の袋詰めされた肉を持ってレオナルド様と共にカフェに戻った。

 肉を冷蔵庫に入れると念の為手を洗い、サラダの入ったボールを一人二つずつ持って外に出ると既に魔法の絨毯を出して待っていたので、その上に置いた。

 カフェに戻り、レオナルド様にはスープを運んで貰い、私は冷蔵庫からドレッシングなどを取り出して籠に詰めて外に出た。

 空中浮遊している絨毯に籠を乗せると、栗毛ショートヘアの魔法使いが好奇心丸出しの顔で籠の中を覗き込んだ。


「聖女様」

「商人のアゼリアです」

「せ……」

「アゼリアです」

「アゼリア様」

「何でしょう?」

「容器に入っている液体は何ですか?」

「白い蓋のは餃子のタレです」

「ぎょーザとはどのようなものですか?」

「そうですね。みじん切りにした野菜や肉を皮で包んで焼いたものです」

「かわ?」

「強力粉や薄力粉などを混ぜて作る生地の事です」

「きょうりきこ? はくりきこ?」


 料理をしない人には縁遠い言葉だよね。


「餃子とは白くもちもち。焼き面はパリパリ。一噛みすれば肉汁がじゅわぁな食べ物です!」

「ほわぁ! よく分かりませんが美味しそうです」

「凄く美味しいです!」


 キメ顔で微笑むと、栗毛さんは頬を赤く染め口元を手で隠した。

 涎垂らしかけたのかな?


「こちらの緑の蓋の物は何ですか?」

「サラダ用のドレッシングです」

「ではこちらの赤いのは?」

「それはマヨネーズです」

「まよネーズ?」

「から揚げように出しましたが、サラダに付けても美味しいですよ」

「かっ、からあげとは!?」

「コカトリスの肉に衣を付け、油で揚げたものです」

「高級食材のコカトリスの肉を油で!? はわわっ……」


 栗毛さん口元を押さえる手を二本に増やし、ガクガク震えているけれど、大丈夫かな?


「結界内に戻ったら皆さんに、タレやドレッシングの説明をお願いします」

「はい。お任せ下さい」


 栗毛さん。まだ震えている


「あっ! レオナルド様。運搬係をお二人にお願いしたらどうでしょう? 魔法の絨毯を使えば一度にたくさん運べますし」

「その二人は上位の魔法使いだ。運搬係をやる立場にない」


 そうなの? 現に運搬作業をやって頂いていますが……。


「騎士団では上の者を差し置いて下の者が食事を取る事は許されていない。その二人が運搬係をしていたら下の者全員がお預けを食らう事になる」


 それはいけません。


「それでは、当初の予定通り運搬係はオムとアールシュにお願いした方がいいですね」

「はい。何でもお申し付け下さい」


 尻尾をブンブンと左右に振るオムと魔法使い二人に料理の運搬方法を説明すると、オムはアールシュを呼びに行き、魔法使い達は魔法の絨毯を伴って結界へと戻って行った。

 レオナルド様とカフェに戻り料理を乗せる皿を出していると、奥の部屋から炊き上がりを知らせるアラームが鳴った。


 さあ、戦いの始まりだ!

鶏ガラの出汁ですが、30分~1時間でOKというレシピもあれば3時間は煮ないとダメってレシピもあります。

作中では1時間位煮た設定です。

え? そんなに時間経ってた? って思われるかもしれませんが、経っていたという体でお願いします。


調理の話はこのページで終わらせるはずでしたが、やっぱり終わりませんでした。

次こそは調理話しを終わらせる予定ですので、宜しくお願いいたします。

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