24.お肉の回収
私を先頭に外へ続く階段を上っている途中で、ある事に気付いた。
「あっ!」
「どうかしたか?」
「解体現場って血塗れで大変な事になっていますよね?」
「それがどうした?」
「私、総司ちゃんを連れてきますので、レオナルド様は先に解体現場へ行ってて下さい」
「分った」
寸胴鍋を所為で両手が塞がっているレオナルド様を外に出す為に、トランクを開けて外に出ると、レオナルド様を通した。
「直ぐに追いつきますので、お願いします」
「ああ」
トランクのダイアルを三階にある洗濯室に合わせ下りて行くと、総司ちゃんは階段横に居てくれた。
「何度も出たり入ったりごめんね。もう一度いい?」
半透明の球体は返事の代わりにその場で小さく飛び跳ねると、私の肩へ飛び乗った。
総司ちゃんは言葉は喋れないけど、リアクションで伝えてくれる所が可愛い。
肩にちょこんと乗っている総司ちゃんに頬ずりし、トランクの外に出ると、魔物の解体現場へ向かった。
天幕から数十メートル先に積みあがった肉の山とその手前に佇む黒騎士と大柄な獣人を目指してかけてゆくと私に気付いた二人は同時に振り返った。
「アゼリア」
「聖女様。聖獣様」
狼の耳と尻尾を生やした獣人は居住まいを正すと礼をした。
確かスーパーメガポーションで治した獣人だ。名前はオムだったかな?
「オムさん?」
「さんなどと、我々は奴隷です。オムで結構です」
大きな身体を丸め申し訳なさそうにしている。
さんを付けられると居心地が悪いのかもしれない。
私も様付けされると居心地が悪いしな。
「えっと、オム」
「はい!」
「レオナルド様から聞いたかも知れませんが、解体済みの肉や骨を貰っていっていいですか?」
「勿論です。こちらの鍋にお入れすれば宜しいですか?」
「あの。私、自分で入れますので……」
「解体現場は魔物の血でぬかるんでおり足元が危険ですので、我々でお入れ致します」
そう言って、自分とレオナルド様に挟まれるようにして置かれている鍋の取っ手へと手を伸ばすが、すんでのところで止めた。
肉の解体で血にまみれた手で触れば鍋を汚してしまう。
それに気付いたオムは慌てて服で手を拭くが、焼け石に水。全くキレイにはならなかった。
「総司ちゃん。中の大きさに戻って」
ぷるぷると体を震わせ直径二メートル程の大きさになった。
「オム。手を中に」
オムは言われた通りに手を総司ちゃんの中に入れ、キレイになった手を見て。
「おお! 驚きの……」
「それはいいので、一緒にお肉を取りに行きましょう」
万歳コールを阻止すべく、二つ重なったままの鍋を持ち上げるが、それをオムに取り上げられてしまった。
「いけません。聖女様はこちらでお待ち下さい」
鍋を取り戻そうと手を伸ばすが、ニメートルをはるかに越える獣人に頭の高さまで持ち上げられてしまい掠る事もできなかった。
「直ぐにお持ちしますので、お待ち下さい」
踵を返し、解体済みの肉へ向かおうとするオムに大事な確認をする。
「何の骨と肉を入れるか分かっていますか?」
巨体はゆっくりと振り返り、困ったように笑った。
「何の骨と肉をお入れしましょうか?」
「一つにはコカトリスの骨だけを入るだけ入れて下さい。もう一つの寸胴鍋にはレッドホーンブルの肉だけを入れて下さい」
「コカトリスの骨とレッドホーンブルの肉ですね」
「それとお願いしたい事があるんですが」
「何でしょうか?」
「コカトリスの肉を細かく切って袋に詰めて欲しいんです」
「細かくですか? どれくらいの大きさにすれば宜しいでしょうか?」
「ええっと、だいたいこれくらいの大きさでお願いします」
指で輪を作りサイズを伝えると、オムも大きな指で輪を作りサイズの確認をした。
「これくらいですね。分りました」
「寸胴鍋の中にまな板と包丁と袋が入っていますので、使って下さい。それと皆さん汚れが酷いでしょうから、総……聖獣様を連れて行ってもらって構わないので、気になる汚れを食べさせて下さい」
「聖獣様を!? 有難う御座います」
「総司ちゃん。この獣人さんのお願いを聞いてあげてね」
ぷるぷると体を震わせて返事をすると、総司ちゃんは私から離れ、オムの方へと近付いた。
「聖獣様。宜しくお願い致します」
オムが膝を折って挨拶すると総司ちゃんも体を震わせて挨拶をした。
一人と一匹は仲良く肉の解体現場へ行くと、オムは他の獣人を呼びつけ指示をし、呼ばれた獣人の汚れを食べる総司ちゃん。
十人もの獣人が作業をしている様子を見ていて、ふと思う。
基本、何でも自分でやる人間にとって、見ているだけは辛い。
何か手伝いたいな……。
でも、解体現場に足を踏み入れたら、速攻で追い出されるだろうしな……。
いっそ、トランクに戻ってお米でも炊いてこようかな……。
「アゼリア。テーブルに置かれていた砂糖は何なのだ?」
レオナルド様の唐突な質問に驚いて返事もせずに、整ったお顔を見つめてしまった。
「あの白く四角いものは砂糖ではないのか?」
「はい。砂糖です。角砂糖がどうかしましたか?」
「何故、無防備にテーブルに置いているのだ?」
「ええっと、それはですね。人によって使う量が違うからです」
「量?」
「コーヒーや紅茶に砂糖を全く入れない人もいれば、三つ四つと入れる人も居ます。注文時に砂糖の数を聞いて持って行ってもいいんですが、砂糖の数を言うのが恥ずかしいって人も居ますので、それならテーブルに置いておいて好きなだけ入れてもらったらいいかなって事で、置いています」
「盗まれたりしないのか?」
「う~ん。子供が紙ナプキンに包んで幾つか持ち帰る事がありますが、それに気付いた親が砂糖代として野菜や果物を持って来てくれますから……」
「大人はどうだ?」
「う~ん。大人だと、酔っ払ったお客が角砂糖一瓶分を食べて、気持ち悪くなってその場で吐いた事がありましたけど……」
「そう言うのではなく、営利目的で盗まれはしないのか?」
営利目的?
「一瓶分の角砂糖を売ってもたいしたお金になりません。窃盗と言うリスクを負ってまで盗む人はうちの村には居ませんよ」
私の答えに納得がいかないと言うようにレオナルド様は眉を寄せた。
「アゼリア」
「はい」
「砂糖の一キログラムの単価を知っているか?」
店を一人で切り盛りしているのだ。
砂糖どころか全ての商品の単価を知っている。
「勿論です」
「いくらだ?」
「多少の変動はありますが、大体四百クレです。角砂糖は加工料があるので五百クレになります」
暫しの沈黙の後。
「そうか」
と、静かな声で返された。
何だろう。今の間は?
「聖女様。お肉と骨をお持ちしました」
声の方へ振り向くと、オムとその弟のアールシュが寸胴鍋を持って立っていた。
「有難う御座います。後は私達で運びますので、お二人は作業に戻って下さい」
「こんな重い物、聖女様に持たせられません。我々が運びます」
「マジックハ……物を軽くする魔法の手袋があるので大丈夫ですから」
「いけません」
頑として鍋を渡してはくれないオムに折れ、天幕前まで運んでもらう事にした。
「宜しければ中までお運びしますが……」
「いえ、その……天幕の中に入れるのは私とレオナルド様のみと言いますか……」
「なるほど。聖域なのですね」
「いや、えっと……」
全然違うけど。
そんなんじゃないけど。
「まあ、そんな感じです」
「おお!」
「ですので、決して中に入らないで下さい。覗くのも禁止です」
「畏まりました。命に代えても、何人たりとも中へは入らせません!」
誰も入らないように注意してくれるのは嬉しいけれど、命はかけないで欲しい。
「宜しくお願いします」
「はい! 命がけで頑張ります!」
「ほどほどでいいので。本当に!」
「はい、頑張ります!!」
「……はい。頑張って下さい」
使命に燃える獣人兄弟に何を言っても命がけになりそうだと諦め、二人をその場に残し、レオナルド様と供に天幕へ入った。
6万字以上書いていて、まだ最初の森とか大丈夫かこの小説!?
とか、作者自身もうっすら気付いております。
早く次のステージに行きたいなって思っていたりします……。




