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23.食事の準備

 天幕の中へトランクを運び込み、トランクのダイアルをカフェ【猫のしっぽ】に合わせ下りて行く。食器棚から必要なものを箱詰めして外へ戻ると天幕の外から人の話し声が聞こえた。

 スライムと言う単語が聞こえ、天幕の隙間から窺うと、一目で魔法使いと分るローブを纏った男性二人がレオナルド様と話していた。


「それでは、ローレン様が見たと言うスライムは、レオナルド団長が討伐されたという事ですか?」


 ワンレングス黒髪の目付きの悪い魔法使いが訝しげに聞くと、レオナルド様は堂々と嘘を吐いた。


「ああ、そうだ」

「ですが、物理攻撃が効かないスライムだと聞いていますが?」

「ああ。だから魔法で倒した」

「フェリックス殿下の従魔故、保護するように言われていたのですが……」


 もう一人の栗毛のショートヘアの魔法使いが訊ねれば、胸を張って宣言した。


「たかがスライムだ。必要とあれば俺が捕まえに行く」


 困ったと言う様に魔法使い達は顔を見合わせ。


「分りました。ローレン様にはその様にご報告致します」


 礼をして踵を返す魔法使い二人。

 手ぶらで返すのは勿体無いと、慌てて呼び止めた。


「あの!」


 天幕から現れた私に、魔法使いの二人は身体をビクつかせた。


「何だ、お前は?」


 ワンレングスの魔法使いに咎めるように問われ、営業スマイルを浮かべ、お辞儀をした。


「突然声をかけてすみません。私、商人をしているアゼリアと申します」

「商人?」


 怪訝な顔で私を見つめる二人に、レオナルド様が補足説明をした。


「フェリックス様の命の恩人だ。失礼の無いように」

「はっ! 失礼を致しました!」

「失礼を致しました!」


 魔法使い二人に勢いよく頭を下げられ、風圧……ではなく、驚きから半歩後ろへ下がった。


「いえ、その、大丈夫ですので、頭を上げて下さい」

「ですが……」

「お願いですから」

「「はっ! 失礼します」」


 頭を下げた時と同じ速度で頭を上げると、魔法使い二人は直立不動となった。


「あの、私はただの商人ですので、楽にして下さい」

「そう言う訳にはいきません」

「畏まられると辛いんで、本当にお願いします」


 頭を下げてお願いすると、どうすればよいかを問うように二人はレオナルド様を見た。

 

「アゼリアの言う通りにしてやれ」

「「はっ!」」


 二人の肩から力が抜けるのを見て、私もそっと胸を撫で下ろす。


「それで、アゼリア様は我々に何用ですか?」


 様……。

 まあ、いいか。

 スルーしておこう。


「お願いがありまして」

「何でしょう?」

「そこにある簡易テーブルを運んで貰っていいですか?」


 積み上げられた十宅の簡易テーブルを見て、魔法使い達は眉根を寄せた。


「持てるだけでいいので、お願いします」

「運ぶのは構いませんが、一体何に使うのですか?」

「これから食事の支度に取り掛かるんですが、できた料理を地べたに置くのは気分悪いですし、テーブルがあった方が食べやすいと思うんです」


 魔法使い二人は無表情のまま首を傾げた。


「干し肉とパンの為にテーブル?」

「いえ。サラダとスープとご飯。餃子とから揚げです」

「は? ごハン?」

「ぎょーザ? かラあげ?」


 魔法使い二人も貴族なんだろう。

 庶民のメニューが伝わらない。


「えっと、熱々で香ばしくジューシーな肉料理です」


 私の抽象的な説明に魔法使いは顔を見合わせると、にんまりと微笑んだ。


「よく分かりませんが、温かい食事が食べられるのですね?」

「香ばしくジューシーな肉料理が食べられるなら、何でもします!」


 ワンレングスの魔法使いが杖を回すと、目の前の縦横二メートル程の絨毯が現れた。

 そこへ二人がかりで簡易テーブルを乗せて行く。


「他に運ぶ物はないですか?」

「何でも運びますよ?」


 それならばと、天幕の中に引っ込み、トランクから取り出しておいた五十人分のホークとスプーン。スープ用のお椀。三つに仕切られているランチプレートを箱ごと手渡した。


「これを全員に配っておいて貰えますか?」

「分りました」

「任せて下さい」


 ワンレングスの魔法使いが杖を回すと絨毯は浮かび上がり、魔法使いと供に結界の方へと進んで行った。


「俺の仕事がなくなったな」

「まさか。これからが本番です!」


 レオナルド様を天幕の中に引き入れ、気持ち声を小さくして話した。


「調理に入ると、私はキッチンから動けなくなりますので、できた料理をトランクの中から外に運び出す作業をレオナルド様にお願いします」

「トランクの中から外に?」

「はい」

「俺は中に入れるのか?」

「はい。レオナルド様は私の奴隷ですので、トランクを出入りできます」


 レオナルド様が頬を緩ませるのを見て、トランクを開けて中を見せた。


「先程見せて貰ったのと、大分違うな」

「さっきのは倉庫で、ここはカフェですから」

「入ってもいいのか?」

「どうぞ。お入り下さい」


 確りとした足取りで階段を下りると、レオナルド様は店内を見回した。


「本当にトランクの中に店があるのだな」


 感動しているのか、基本仏頂面の騎士様の顔に笑みが灯っている。

 物心付いた時からマルマール様の魔法を色々見てきた所為で、魔法に関して感覚がだいぶおかしくなっているのだと、レオナルド様の反応を見て改めて実感する。


「座ってみてもいいか?」

「椅子もテーブルも何処にでもある普通の物ですよ」

「……」


 何んで疑わしい目で見るのですか?


「フロアにあるものは魔法とは無関係ですから、好きに触って頂いて結構です」


 テーブルや椅子を撫で感触を確かめると椅子に座り、テーブルの下を覗いたりし始めるが、これといって変わったところがないと分かったのか、次にテーブルの上に置かれた角砂糖入りの瓶に手を伸ばした。

 何処のカフェにでも置かれているだろう紙ナプキンや爪楊枝を繁々と見つめるレオナルド様をそのままに、私はキッチンの奥にある物置部屋へと向かった。

 煌々石に照らされた部屋に入り、予備の鍋やフライパンなどが収納されている棚から六十人分用の寸胴鍋二つを取り出すと大サイズの袋の束。そして包丁二本とまな板二枚をその中に入れてキッチンに戻ると、流しで水道の蛇口を突っついているレオナルド様の姿があった。


「蛇口を捻らないと水は出ませんよ?」

「捻ると水が出るのか?」

「そりゃあ、水道ですから」

「……」


 何故、無言?


「そんな事より、お肉の回収に行きましょう!」


 寸胴鍋を差し出すと、レオナルド様は無言のままそれを受け取った。

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