22.誤解
1話が長くなってしまったので、2話に分けました。
続きは明日公開しますので宜しくお願い致します。
獣人達の総司ちゃんに対する第一印象は『何これ?』て感じだったのに、王子による『聖獣』『驚きの白さ』と言う謎の煽りによってか、疑問も恐れも払拭したらしく嬉々として総司ちゃんの中に入って行く。
また一人、入った獣人が吐き出された。
「おお! 驚きの白さ! 聖獣様万歳! 聖女様万歳!」
「万歳!」
「万歳!」
最早、訂正する気力も無い私は万歳コールに突っ込む事もせずに獣人達を生暖かい目で見つめていると、次の獣人が吐き出され……。
「驚きの白さ! 聖獣様万歳! 聖女様万歳!」
「万歳!」
「万歳!」
前者の文言そのままに繰り返した。
そして次の獣人も……。
「驚きの白さ! 聖獣様万歳! 聖女様万歳!」
「万歳!」
「万歳!」
何だろう。
万歳コールが総司ちゃんから出た時のお約束となってしまっている。
辛い!!
「驚きの白さ! 聖獣様万歳! 聖女様万歳!」
「万歳!」
「万歳!」
胸焼けするほど万歳コールを聞き、総司ちゃん待ちの獣人が三人になると、解体作業から解放されたレオナルド様がこちらへ戻って来た。
「レオナルド様お疲れ様です」
全身黒尽くめの為分り辛いが、前腕と膝から下が魔物の血でドロドロ。ついでに臭いも酷い。
残り二人が総司ちゃんの順番を待っていたが、割り込みで先に入って貰う事にした。
既に中に入っていた獣人が吐き出され、仏頂面の黒騎士が入ると、天幕の向こうから悲鳴が上がった。
「レ、レオナルド殿が、魔物に喰われておる!」
見れば、老齢の騎士様があんぐりと口を開け、二メートル越えの巨人騎士二人と供に立ち尽くしていた。
「なっ何をしておる! 早くレオナルド殿を助けぬか!」
ローレン様の命令で我に返った巨漢の騎士二人は剣を抜いた。
「待って下さい。これは違うんです!」
総司ちゃんの前に立ちはだかり制止するも、巨漢の騎士二人は私を飛び越えて総司ちゃんに斬りかかった。
本来、スライムとは超絶弱小の魔物である。
ファイアスライムだろうがメタルスライムだろうが、レベル五までなら棍棒で殴れば倒せる位だ。
レベル十前後までは剣や魔法の最弱の攻撃で倒せ、レベル二十前後までは頑張れば属性無視で倒せるが三十にまでなると、そのスライムの弱点となる攻撃をしないと倒すのが難しくなるとリッカ母さんは言っていた。
因みにうちの総司ちゃんは物理攻撃無効にするレベルのスライムなので……。
ズズズズズッ……。
巨漢騎士の攻撃は無効。二人は底なし沼に沈むように総司ちゃんの中へ沈んで行く。
「ひっ! 何だこれは!」
「抜けぬ! 抜けぬぞ!」
慌てふためく騎士二人。もがけばもがく程その巨体は沈んで行く。
「こうなれば魔法で……」
「バカ止めろ! レオナルド様まで巻き込んでしまうぞ!」
巨漢が二人も入った為、総司ちゃん自身の判断で体のサイズを大きくし、一気に二人を飲み込んだ。
「グホッ!」
「ブフッ!」
「ホフマン! ニール!」
レオナルド様に続き部下二人がスライムに食べられてしまったと、愕然とするローレン様。
所狭しとスライムにぎゅうぎゅう詰めの三人の姿に、フェリックス様が腹を抱えて笑っているとローレン様が睨み付けた。
「殿下! 貴方の仕業か!」
「え? いや、これは私ではないよ」
「言い訳は結構! 今直ぐ三人を解放しなさい!」
「解放と言われてもな……」
助けを求めるようにフェリックス様に視線を向けられるが、怒り心頭なローレン様にどう説明したらよいものか……。
考えているうちにレオナルド様が吐き出され、続けて巨漢の騎士二人が吐き出された。
「レオナルド殿! ホフマン! ニール!」
三人に駆け寄り、身体も服も装備も全てが洗い立てのようにつるつるピカピカなっているのを見て、ローレン様は苦虫を噛んだ様な奇妙な表情となった。
「どうだローレン。凄いだろう。このスライムはクリーナースライムと言ってだな……」
ドヤ顔で説明を始めるフェリックス様にローレン様は目を剝いた。
「殿下! こんな魔物、何処で拾ってきたのですかぁ!!」
「いや、これは私のではなくて……」
「黙らっしゃい! ホフマン。ニール。殿下を拘束せよ!」
「「ははっ!」」
巨漢騎士二人に左右の脇に腕を通され、体格のよいフェリックス様の身体が持ち上げられた。
「ローレン。聞いてくれ」
「言い訳なら天幕で聞きます」
まったくもって濡れ衣なのだが……。
日頃の行いって大切ですね。
「レオナルド殿。直ぐに魔法使いを寄越すゆえ、暫しそのスライムの監視を頼みますぞ」
「レオ。お前からも誤解だと言ってくれ」
フェリックス様の要請にレオナルド様は無言を返し、無表情のまま「さよなら」と言うように手を振ると、フェリックス様は連行されて行った。
「誤解をそのままにして、よかったのでしょうか?」
「フェリックス様には結界内の天幕に居て頂くのが一番だ」
「……確かに」
食事の準備をするにあたり、王子様にうろうろされては進むものも進まなくなってしまう。
私の従魔の所為で大目玉を喰らう事になってしまい大変心苦しいけれど、ここは一つ、ローレン様の監視の下、天幕で大人しくしていて貰おう。
フェリックス様。ごめんなさい。と心の中で謝り、手の平を合わせ頭を下げた。
本人に全く伝わらないけど、一応謝ったし、気持ちを切り替えて食事の準備だ!
と、その前に、総司ちゃんをどうしよう……。
「レオナルド様。魔法使いが総司ちゃんを見たら、探究心をくすぐってしまいますよね?」
「魔法使いじゃなくとも、興味を持つだろうな」
「ですよね。どうしよう……」
「どうも何も、トランクに戻せばいいだろう」
「それはそうですけど、スライムは何処へ行った? って、なりませんか?」
「なるだろうが、俺が適当に誤魔化すから大丈夫だ」
レオナルド様がそう言うならと、総司ちゃんを元の大きさに戻せば、総司ちゃん待ちしていた獣人二人が寂しそうな顔をした。
聖獣……と信じているものに自分達だけ入れないのは辛いか。
「時間がありませんので、お二人同時に総じ……聖獣の中に入って下さい」
二人は返事の代わりに何故か万歳と叫ぶと総司ちゃんの中に入った。
数秒後吐き出された獣人二人は、例の如く万歳コールを叫び、私に深々と頭を下げると魔物解体現場へ走って行った。
結界からここまでは数十メートル。何時魔法使いが現れてもおかしくないので、そそくさと総司ちゃんを元の大きさに戻し浴室へ帰すと、トランクを閉めた。
「レオナルド様。魔法使いの方がトランクに興味を持ったらいけないので、荷物の出し入れなど全て天幕の中で行います。ですので、天幕はレオナルド様以外出入り禁止でお願いします」
「ああ。分った」
レオナルド様はおもむろに剣を抜き、太陽光を使って獣人達に合図を送った。それに気付いた獣人の一人が手で合図を送り返してきた。
「獣人達にも天幕へは近付かないように伝えておいた」
「有難う御座います」
「魔法使いが中を覗かないように見張っておくから、準備を進めてくれ」
「はい」
スライムの強さですが、リッカ母さんの感覚の話ですのであてにならないです(笑)
あと、スライムは弱小で直ぐに倒されてしまうので、レベル20まで成長するのも稀という設定です。




