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20.注文入りました

 総司ちゃんを部屋に戻すという名目で三階の洗濯室へ下りて来たけど……。


「ヴァシェーヌ国にマジックハンドが無いって何?」


 マジックハンドなんて生まれた時から普通にあったし、サクリ村の皆だって当たり前のように使っている。

 それに……。


「王子と騎士がクリーナースライムを知らないって、どういう事?」


 スライムなんて何処にでもいる低級の魔物じゃない。

 火の玉を吐くファイアースライムや水を吐いて攻撃するウォータースライム。毒を吐くポイズンスライムや体を高質化して攻撃してくるメタルスライム。他にも色々居るけれど、それらは全てスライムが生息地で食べたものによって進化しただけ。

 クリーナースライムも汚れやゴミを食べて進化しただけのスライムだ。

 サクリ村にだって複数居るし、今だって村でゴミ集積所や下水処理所でもりもりとゴミを食べているだろうし……。


 あれ?

 ちょっと待って。


 村に居るクリーナースライムを管理って言うか、使役しているのは私だけど、元々はリッカ母さんの従魔だった訳で……。

 つまり……その……珍しい魔物だったりするのだろうか?

 もしかして、霽月みたく魔大陸から連れて来たとか!?

 いやいや。ゴミも汚れも何処にでもあるし。スライムさえ居ればクリーナースライムに進化するし。魔大陸とか関係ないはず!


 偶々……。

 そう、偶々フェリックス様とレオナルド様が知らなかっただけかも。

 だって、クリーナースライムが居なかったらどうやってゴミや下水処理をするって言うの?

 うん。居る居る。

 ヴァシェーヌ国にもクリーナースライムは居る。

 それと、マジックハンドにいたっては、リッカ母さんかマルマール様が売りに行きそびれただけかも。

 うん。きっとそう。


 手の平に乗せた総司ちゃんを浴室に放すと、脱衣所を通り抜け洗濯室へ戻り地上へ続く階段の前に着くと、崩れるようにしてその場にしゃがみ込んだ。


「あーー!! 無理があり過ぎる!! 好奇心旺盛でフットワークが軽そうなフェリックス王子や勤勉そうなレオナルド様が知らないなら、クリーナースライムはその辺に転がっているような魔物じゃないんだよ。魔大陸から連れて来たか、リッカ母さんかマルマール様が独自の方法で進化させたんだよ。きっと!」


 それに……。


「ルーベル国の首都ビジェツよりも近いヴァシェーヌ国に売り忘れるとかありえないから! 冒険者時代に何かやらかして売りに行けなくなったと考える方が自然だから!」


 母の冒険譚にヴァシェーヌ国の名前はなかった気がするけど、話しそびれただけかもしれない。

 歩くトラブルメーカーの母の事だ。貴族をボコボコにしたとか屋敷を潰したとか……。

 もしくはギルド相手に何かやらかした可能性もある。


「事件を起こしていたとしても、二十年以上前の事だろうし忘れられているかも知れないけど、念の為リッカ母さんの名前は出さないようにしよう」


 階段に掴まりながら立ち上がると、出入り口であるトランクを見上げた。


「外に出たらフェリックス様やレオナルド様に色々質問されるだろうけど、知らぬ存ぜぬで通そう」


 だって、本当に知らないし。

 マジックハンドは私が作ってはいるけれど、それもマルマール様が提供してくれる材料のお陰だし。浮力の魔法については私は全く分らないし。

 クリーナースライムも母の従魔を譲り受けただけで、ゴミや汚れを食べて進化したって事くらいしか知らないし。何処で見つけたとかも分らないし。譲ってくれと言われても、従魔契約うんぬんは全部マルマール様がやってくれたから、解除の仕方とか分からないし。


「マルマール様を紹介してくれって言われるだろうな……」


 映像付き通信用の魔道具があるから紹介する事はできるけど、マルマール様の事だから聖人のような優しい微笑を浮かべつつ、王族相手に『貴様等の相手をするほど暇ではない』と切って捨てるに違いない。

 常識に捕らわれない自由な態度にその場に居る全員が怒り心頭。怒りは遠く離れた場所に居るマルマール様にではなく目の前の私に向けられ『無礼者の仲間を投獄しろ!』って展開にでもなれば、私を助ける為に転移魔法を使い世界の果てからでもマルマール様は駆けつけて来るだろう。

 そうなったらヴァシェーヌ国は甚大な被害を受ける事になってしまう。


 駄目だ。

 マルマール様を紹介しては……。

 平時が乱時になってしまう。

 本人、魔大陸冒険につき音信不通って事で通そう。

 よし!

 ……それにしても。


「クリーナースライムもだけど、霽月の事とか秘匿案件くらいはちゃんと教えておいてよ。母さん……」


 大きな溜息を吐き、トランクを開けて外に出ると……。

 そこは血の海だった。


「一体何!?」


 辺り一面緑に覆われていた地面は赤く染まり、咽るほど血の臭いが立ち込める中、輝く黄金の髪を揺らし赤い制服を纏った美丈夫がこちらへ近付いて来た。


「アゼリア殿。頭は料理に使うのかな?」


 世界中の令嬢が一目で恋に落ちるような甘く優しい微笑を浮かべつつ、たった今切断したと思わしきコカトリスの頭を差し出された。

 笑顔が素敵な分、絵面が恐い……。

 先程総司ちゃんによって汚れを取り除いたというのに手は血塗れ、捲くるのを忘れたのか、袖口も血に染まっている。そして膝から下。主にブーツが血みどろの状態。美術品と見紛う程整った顔にも僅かばかりだが、血が付いている。


「フェリックス様。何をしておいでですか?」

「折角の獲物が臭くなってはいけないと、血抜き……と言うか、解体をしていた」


 フェリックス様の背の向こうでは、首なしのコカトリスがレオナルド様によって捌かれ、霽月が狩っただろう獲物達は首を切られ取り合えず血を抜いているところのようだった。


「狩りに向かう道中、霽月殿からアゼリア殿の料理の上手さを聞いた」


 何を話してくれてるの。霽月!

 無駄に期待値を上げないで!


「特にから揚げが絶品だとか。食感や味について事細かく聞き、食べた事も無いのに口の中が唾液でいっぱいになってしまった」

「はあ。左様で……」

「食事を楽しみにしているぞ」


 それは暗にから揚げを作って欲しいという事だろうか?

 ハンバーグを出す予定だったんだけどな……。


「それで、頭はどうする?」

「はい。料理に使えますので、置いておいて下さい」

「分った」


 フェリックス様は解体現場へ戻ると捌き終わった肉の側に頭を置くと、駆け足でこちらへやって来た。


「部屋へ戻したばかりですまないが、後でもう一度総司ちゃんを出してもらえるかな?」

「それは勿論かまいませんが……」

「ありがとう」


 極上の笑みを向けられ、眩しさゆえに顔を背けた。

 何時までも顔を背けたままでは失礼だろうと、そろりそろりと顔を戻せば宝石のような碧眼と目があってしまった。


 まっ、眩しい!

 目、目がぁぁぁ!


 それにしても、嬉しそうだなフェリックス様。

 目がキラキラ輝いている。

 まさかとは思うけど、クリーナースライムの中に入りたいが為に態と汚した訳じゃないですよね?

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