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19.驚きの白さ

色々あって更新が滞ってすいません

 食事に必要な物を取りに行くとレオナルド様に断りを入れて第二倉庫へ下りて行き、私物と書かれた棚から折りたたみ式の簡易テーブルを取り出した。

 私やリッカ母さんのバースデーパーティは招待客が多過ぎて店に入りきらず、カフェの前にテーブルを並べて立食形式のパーティだった。

 これはその時使っていたものだが、四人用のそれは全部で十卓。五十人分には足りないが、給仕や配膳係の席はなくていいから何とかなるだろう。

 マジックハンドを嵌め、片手に一卓ずつテーブルを持ち第二倉庫から外へ行ったり来たりを繰り返し、十卓のテーブル全てを運び出し終わる頃にはレオナルド様にお願いしていた中型天幕が張り終えられていた。

 うちの店で取り扱っている天幕は一人でも張れる様に設計されているけれど、ここまで素早くキレイに張れるとはさすがだ。


「お疲れ様です」

「そちらこそ、一人でこれだけのものを運び出して疲れただろう」

「これのお陰で全然です」


 顔の位置でマジックハンドを嵌めた手をひらひらと振って見せた。


「便利な道具だな」

「積荷の作業や重量のあるものを取り扱っている業種の方達から、絶大なる支持を得ています」

「支持は高いだろうが、販売数は多くなさそうだな」

「何でですか?」

「一度買ってしまえばそれまでだろう?」

「ああ。その心配なら要りません。マジックハンドには使用期限を設けているので、定期的に買い替えが必要なんです」

「そうか」

「はい」

「それで、それは誰でも購入可能なのか?」


 うん?

 特に制限をした事はなかったけど……。


「騎士団で購入したいのだが、大丈夫か?」


 大丈夫というのは、大量購入に対応できるかという問いだろうか?


「在庫は十セットだけですが、お時間を頂ければご入用な数をご用意できますが、いかが致しましょう?」

「いや。数の問題ではなく。その……危険とは思わないのか?」


 危険とは、一体!?

 レオナルド様は何を危惧されているのだろうか。

 私の作ったマジックハンドが自国の物より優秀につき、研究されるとか!?

 そういう話?


「マジックハンドを使ってケンカをしたなら、大惨事になるのではないのか?」


 マジックハンドを使ってケンカ?

 随分妙な事を言うな。


「レオナルド様。ご存知の通り、マジックハンドは筋肉強化の魔法とは違い、触れた物へ一時的に浮力の魔法を施す道具です。ケンカには使えません」

「大きな岩を投げ飛ばせないのか?」

「マジックハンドから離れた途端に元の重さになるので、投げても目の前に落ちるだけです」

「それなら人を持ち上げて頭から落とす事はできるだろう」

「可能ですが、マジックハンドは表面に刻まれた魔方陣が傷付けられると使用不可になりますので、掴まれた際に爪で引っ掻くなどすれば回避できるかと。あー……。でも、不意を衝かれたら引っ掻いたりできないですからね。投げ落とされるかもしれないですね」


 サクリ村でそんな使い方する人が居なかったから、考えもしなかったなけど。

 そうか、人を傷付ける為に使う事もできるんだよね。これ。


「私は鍛冶師で、戦う為の武器を作って売る者です。ですから、私の店で買った物を使って戦うなとは言えませんが、商品を売る相手は見定めているつもりです。レオナルド様や部下の方が使うのなら間違えた使い方はしないと信じておりますので……」


 ご入用ならお売りしますよ――と続けると。


「恩人である商人の信頼を裏切る訳にはいかないからな、使用方法を遵守すると誓おう」


 真剣な眼差しで硬く誓われ、圧の凄さに思わず目を逸らした。


「そ、それで、何セットほどご用意致しましょうか?」

「とりあえず、俺の分だけでいい」

「分りました」


 確りと契約魔法書に売上を計上し、商品をレオナルド様へ手渡すと、無表情ながら目を輝かせてマジックハンドを嵌めると私が運び出した簡易テーブルを持ち上げた。


「本当に軽いな」


 筋肉強化の魔法が使える騎士様には不要な商品ゆえに、これまで一度も手にした事がなかったのだろう。

 新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉々として、そこいらに落ちている木や石を持ち上げては下ろすを繰り返している。


「これがあれば、筋肉強化を使えない者達が助かるだろうな」


 おおっと。

 大口注文の予感!

 今ある材料だけでは百セットしか作れないから、マルマール様に材料の追加注文をかけた方がいいかな?


「もっと早くに出会っていれば、街の舗装工事をスムーズに進められたかもしれんな」

「レオナルド様がご存知無かっただけで、街の住民は普通に使っていたかも知れませんよ?」


 何故か、無言が返えされた。

 いや、違いますよ!

 レオナルド様の事を物知らずとかそういう意味で言った訳じゃないですからね?


「アゼリア」

「はい」


 常に鋭い目付きが、更に鋭さを増してこちらを見ている。

 まさか、怒っています?

 私、怒られちゃいます?


「ヴァシェーヌ国にこれに類する商品は無い」


 ん?

 今、何て……。


「アゼリアァァァァァ! 今、帰ったぞぉぉぉ!!」


 私の思考を遮るように遠くから霽月の声が響いた。

 小さな影は器用に樹木を避けながら距離を徐々に詰め大きさを増して行き、背中に乗せている物が何なのか視認できた次の瞬間には数メートルもある巨体は目の前にあった。


「少し足を伸ばして、コカトリスを捕って来てやったぞ」


 得意げにふんぞり返る霽月の背にはコカトリス二匹とレッドボア。それからレッドホーンブルが括り付けられている。

 が、そんな事よりも。


「ねえ、霽月。フェリックス様はどうしたの?」

「あやつならそのうち追いついて来るだろう」

「そのうちって、置いてきちゃったの!?」

「それより、体に括り付けている魔物共を外してくれんか? 窮屈でかなわん」


 荷解きよりもフェリックス様の安否確認が先だと、霽月を無視し走ってきた方角を見ていると人とは思えないシルエットのものが尋常ではない速さでこちらへ近付いて来た。

 と、思ったらコカトリスを担いだ何かは既に目の前に来ていた。

 

「筋肉強化を最大限にして走ったのに、霽月殿には振り切られてしまった」


 そう言い、眩しい笑顔の何かは肩に担いだままのコカトリスを地面に下ろした。

 お疲れ様です。ではなく……。


「ほっ、ほぎあぁ!!」


 何をどうしたらこうなるのか。

 美しかった蜂蜜色の髪も陶器のように透き通る肌も鮮やかだった赤い制服も何もかもが、灰色一色。

 まるで頭からモルタルにでも突っ込んだように髪や肌に灰色のあちらこちらに砂利の塊が付いている。


「霽月さん。ちょっとお話いいですか?」


 何時もより声を低くし、無表情のまま霽月に目を向けると、先程まで高らかに掲げていた鼻を低くし、そそくさと目を逸らした。


「我は悪くないぞ。そ奴がどん臭かっただけで……そのだな……」

「そんな事言って。自分が加護で汚れないからって、考えなしに沼地に飛び込んだんでしょ!」

「……」


 返事が無いのは肯定とみなす!


「せ~い~げ~つぅぅぅぅ!」


 遥か頭上にある魔獣の顔を睨みつけていると、泥で輪郭もおぼろげなフェリックス様が間に入った。


「怒らないでくれ。霽月殿は悪くない。私が背から下りるのを渋った所為なのだから」

「そーだそーだ。我は悪くないぞ」

「霽月!!」


 睨み付けると、霽月は再び目を逸らした。


「大丈夫。怪我はしていない。泥など拭けば何とかなる」


 泥は乾燥して固まってしまっている。拭いて何とかなるレベルではない。

 今直ぐ我が家のお風呂に入れて差し上げたいが、奴隷にならないと入れる事はできないし……。

 そうだ!


「あの。直ぐに戻りますので、少々お待ち下さい!」


 断りを入れるとすぐさまトランクのダイアルを三階にある洗濯室に合わせ、中へ飛び込んだ。

 何時もならそこに居るはずの半透明体はおらず、扉を開けて隣に設置されている脱衣所を通過し、浴室を除き込むと、それは居た。


「総司ちゃん。今こそあなたの力が必要なの。来て」


 呼ぶと、総司ちゃんは嬉しそうに手の平サイズの球状の体で飛び跳ね、私の肩へ飛び上がった。

 開けた扉をそのままに浴室から脱衣所と洗濯室を走り抜け、外へと続く階段を駆け上がり急いで二人の下へ戻った。

 勢いよく飛び出した私に驚き身構えたが、私の肩に乗っているものを見てフェリックス様もレオナルド様も警戒を解きつつ、不思議そうな目で見つめた。


「アゼリア殿。それはスライムか?」

「スライムなど連れてどうした?」


 困惑顔の二人に対し、私は得意げに紹介する。


「この子はスライムの総司ちゃんです!」

「うむ」

「そうか」


 無言に等しいリアクションを吹き飛ばすべく、私は更に続けた。


「この子は母が手塩にかけて育てたクリーナースライムです」

「……」

「……」


 もはや、返事すらなかった。

 クリーナースライム何か珍しくないのは分っているけど、総司ちゃんはそんじょそこいらのクリーナースライムとは違うんですからね!


「何時もはこの通り手の平サイズですが」


 肩に乗った総司ちゃんを二人とは逆の方へ優しく投げる。


「総司ちゃん。中の大きさになって」


 地面にちょこんと着地した総司ちゃんは球体をぷるぷると震わせ、一気に直径ニメートルへと膨らんだ。

 唖然とする二人に私はドヤ顔で告げる。


「ご覧の通り、うちの総司ちゃんは手の平サイズから小中大と大きさを調整でき、更に分裂もできる為、狙った汚れは逃がしません」


 再び無言が返されるが、構わず続ける。


「いいですか」


 私は足元の土で両手を汚し、総司ちゃんの中へと差し込む。

 クリーナースライムが汚れしか食べないと知ってはいても、スライムの体内に腕を入れる事に驚いた二人は待ったをかけるように私へと手を伸ばした。


「溶けたりしませんから、安心して下さい」


 シュワシュワっと手に付いた汚れだけが食べられ、キレイになった両手を総司ちゃんから抜き取ると二人に向かって手を突き出した。


「どうです。この驚きの白さ!」

「確かに。汚れだけなくなっているな」

「キレイだが、白さ……? 手の色か?」


 あっ。

 リッカ母さんが白い布を総司ちゃんでキレイにする度に言っていたから、つい言っちゃったけど、白さ関係なかった。


「と言う訳で、フェリックス様。総司ちゃんの中に入って下さい」

「うん?」

「ま、待て! スライムの中に入るなど認められん」


 目をキラキラ輝かせ今にもスライムに飛び込みそうなフェリックス様の腕を取り、押し留めるレオナルド様。


「大丈夫だレオ。お前も見ただろう。あのスライムは人を溶かしはしない」

「かもしれませんが、万が一があるかもしれません」

「そうは言うが、あのスライムに入らないと私は城に帰るまで、ずっとこの姿でいる事になるんだぞ」

「それは……」


 流石に全身灰色の泥にまみれた姿の王子に我慢してくれとは言えず、レオナルド様は言葉を飲み込むと意を決したようにフェリックス様を見つめた。


「なら、俺が先に試して安全性を確認してきます」


 スライムに入る事に余程抵抗があるのだろう。

 顔を顰め、総司ちゃんを睨みつつ近寄って行った。


「レオナルド様。総司ちゃんに入る際には目と口を閉じて息を止めて下さいね」


 どう中へ入っていいのか分らず、レオナルド様がペタペタと総司ちゃんを触っているとずるりと引き込まれた。驚いてジタバタともがくが、衝撃を吸収するスライム相手に暴れても無意味だと悟ったのかレオナルド様は直ぐに大人しくなった。


「あははっ。黒き死神と恐れられている男がスライムに負けたぞ」


 負けた訳ではないだろうが、手足をだらりと垂らし、こうべを下げている姿はそう見えなくもない。


「して、アゼリア殿。出る時はどのようにすればいいのだ?」

「ええっと、それはですね」


 見ると、丁度総司ちゃんが吐き出し体勢になっていた。


「見て下さい」


 指し示すと、総司ちゃんはしならせた体からポイッとレオナルド様を吐き出した。

 吐き出されると知らなければ、衝撃で地面を転げるところだが、素晴らしい反射神経の持ち主であるレオナルド様はキレイに着地してみせた。


「おお! 何だこれは!?」


 衣服は勿論。身体の汚れも全て消えている事に感動しているレオナルド様をよそにフェリックス様は総司ちゃんに勢いよく飛び込んだ。


「あっ! フェリックス様!」


 不意を衝かれ慌てるが、楽しそうに微笑を浮かべ総司ちゃんの中で漂う王子の姿を見て、レオナルド様は脱力し言葉を失った。

 ――ご苦労さまです。

 灰色一色に染まっていた身体が徐々に色を取り戻し、完全に元の姿に戻るとフェリックス様はペッと吐き出された。


「おおお! 身体も衣服も洗い立てのようだな。確かに、驚きの白さだ!」


 すみません。

 そのセリフ、使い方違うんです。

 とは言えず、笑顔で流し、総司ちゃんを手の平サイズに戻し肩の上に乗せていると……。


「それにしても、クリーナースライムなんて個体がいるとは知らなかったな」

「ええ」


 妙な言葉が耳に飛び込んで来た。

 そう言えば、少し前にも妙な事を言われたような……。


 ええっと……。

 取り合えず、一旦トランクへ戻ろうかな?

5000文字数あったのに全然話が進んでませんね

申し訳ない

11中旬か下旬からもう少し更新が早くできると思いますので、宜しくお願いします

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