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17.ご安全に!

 静止画二十四枚撮りのスフィアをあっという間に撮りきったフェリックス様は、今度は動画を取らせて欲しいと霽月に詰め寄った。

 最初は面倒臭そうにしていた霽月だが、フェリックス様の褒め言葉の嵐に気をよくしたのか、尻尾を左右に揺らしふんぞり返って答えた。


「許すぞ。人間」

「ありがとう。フェンリル殿」


 質問の定番「好きな食べ物は?」から始まり矢継ぎ早に繰り出される質問にノリノリで答えて行く霽月。

 嬉々として質問を続ける王子の姿に、私以上にサプライズが刺さっている人がいてよかったね。母さん。と出てもいない涙を拭うと、商品確認の為にレオナルド様と向かい合った。


「水入り水筒なんですが、水の入った樽をお渡ししますので各自で入れて貰ってもいいですか?」

「それは構わないが、中身の入った樽を担いでトランクから出るのは大変だろう」

「重さを軽減させる魔術具がありますので、大丈夫です。直ぐに持って来ますので少々お待ち下さい」


 トランク開け、階段を下りるとキッチンスペースにある棚からマジックハンドと言う名の手袋型の魔法具を嵌め、流しに置いたままの樽を持ち上げる。

 綿入りクッション程度の重さにしか感じられない樽を抱え外に出れば、無表情のレオナルド様に迎えられた。


「随分と軽そうだな」

「はい。クッションの様に軽いです」


 レオナルド様の視線が何故か私の手に固定されている。

 そんなに凝視しなくても……。

 ただのマジックハンドですよ?

 視線を無視し、ダイアルを第一倉庫に合わせ台車を運び出すと、その上に樽を乗せた。


「すみませんが、残りの商品を台車に乗せておいて頂けますか? その間に私は水筒を取りに行って来ますので」

「分った」


 再びダイアルをカフェに合わせ、キッチンに置いたままの箱から余分な数の水筒を取り出し、変わりに階段下の水入り水筒を箱に入れて外に出れば、既に台車には全ての商品が積み上げられていた。


「荷造りありがとうございました。こちらの五つには水が入っていて、後は空です」


 私から箱を受け取るとそのまま台車の上に乗せ、中から水入りの水筒を二つ取り出し一つを自分の腰のベルトに下げると、もう一つをフェリックスへと手渡しに行った。

 霽月との質疑応答に夢中だったフェリックス様は水筒を差し出され、喉が乾いている事を思い出したのかすぐさま口を開けて一気に飲み干した。

 まだ飲み足りないのではないかとレオナルド様は自分の腰に下げている水筒を外そうとするが、フェリックス様はそれを手で制すると、霽月との動画撮りに戻った。

 空となった水筒を手に戻って来たレオナルド様はそれを私に差し出した。


「すまないが、水を入れてフェリックス様に渡してくれ。俺はこれを渡しに行ってくる」

「分りました。運搬を宜しくお願い致します」


 ガタガタと台車を引く後姿を見送るとカフェへ下りて行き、空の水筒に水を補充すると、鍋置き場から新たな樽を運び流しで水を注ぎ始めた。

 まだ喉が渇いているかもしれないと、樽をそのままにして階段を上がり外に出れば背に王子を乗せた霽月が居た。


「アゼリアよ。我はこやつと狩りに行ってくる」


 は?

 何言っているの?


「駄目よ霽月。その方は王子なの。傷一つ付けてはいけない程重要かつ大切な人なの。狩りに行くなら霽月だけで、ね?」

「だが、こやつが自分も付いて行くと言ってきかないのだぞ」


 霽月よりも上にあるフェリックス様を見上げれば、極上の笑みが返された。

 うわっ! 眩しい!


「心配は必要ない。自分の身は自分で守れる。こう見えて私は強いのだぞ」


 先程まで死に掛けていた人が何を言う。


「それに、伝説の魔獣であるフェンリルの戦う姿を映像記録できた者はこれまでいないのだ。私が最初の一人になれるなら、命をかける価値がある」


 そんなものに一国の王子が命をかけないで!


「あの、恐れながら。記録映像が必要でしたら、私が後で幾つかお撮りしますので、フェリックス様は結界魔法内へお戻りになられてはいかがですか?」

「申し出はありがたいが、私は自分の目で見たいのだ」


 ですよね。

 先程からのはしゃぎっぷりを見ていて、そう言われると思いました。

 何でそこまで霽月にご執心なのか分らないけど、トランクの事をあっさり諦めてくれたのは未知の魔道具より伝説の魔獣の方に意識が向いていたからかもしれないし、霽月との思い出が増えれば増える程にトランクの事など記憶の片隅にも残らないかもしれないし……。

 何より、平民の小娘に一国の王子を止める術はない。


「分りました。お渡ししたい物がありますので、少々お待ち下さい」


 トランクのダイアルを第一倉庫へ合わせると、急いで下りて行き、鞄の棚からレッドボア革製の斜め掛け鞄を掴み取るとポーションと魔道具を幾つか詰め込み、戻った。


「フェリックス様。上級と特級ポーション。マジックポーション。結界の護符。長距離通信可能な伝書魔法具が入っています。万が一に備えてお持ち下さい」

「心遣い。感謝する」

「何かあれば、直ぐにご連絡下さいね」

「我が付いていて、何かある訳ないだろう」

「霽月の強さは知っているけど、急に天候が崩れて落雷に遭うとか、地盤が緩んでいる所に立ってしまって滑落するとか、あるかもしれないでしょ?」

「……アゼリアよ。心配しすぎではないか?」

「備えに、備え過ぎなんてないんだからね」


 そんな遣り取りをしているうちに黒髪の騎士が戻って来た。


「レオナルド様。随分と早いお戻りですね」

「マジックポーションを持って行った際に、奴隷達に結界際で待つように言っておいたからな。それはそうと、何故フェリックス様がフェンリルの背に乗っているのだ?」


 かくかくしかじかでと説明をする。

 レオナルド様ならフェリックス様を止める。そう思いきや、諦めを含んだ溜息を吐き。


「分りました。ローレン殿には上手い事言って誤魔化しておきますので、なるべく早くお戻り下さい」

「頼んだぞ。レオ」


 意気揚々と手を振るフェリックス様に頭を下げるレオナルド様。

 習うようにして私も頭を下げる。


「それでは行こうか、フェンリル殿」

「うむ。アゼリアよ行って来る」


 遠ざかる足音に顔を上げ、既に小指程の大きさに見える霽月の背に声をかける。


「ご安全に!」


 本当に、無事に戻って来てね。絶対だからね!

 視界から完全に一人と一匹の姿が消え、隣に立つレオナルド様に訊いた。


「止めなくてよかったんですか?」

「あの方は行くと言ったら行く。そういう方なんだ」


 憂いを帯びた瞳からこれまでの苦労が伝わってくる。

 お疲れ様です。


「あっ!」

「どうした?」

「霽月に走る速度を注意するの忘れていました」


 速度というか走り方。

 私の時みたいに急に止まって宙に吹き飛ばすとか、頭からパクッと銜えて全身涎まみれなんて事になったらどうしよう。


「フェリックス様は筋肉強化や全身硬化の魔法も使える。どれ程の速度で走るかは知らないが、問題ないだろう」


 森を走り抜ける等の通常走行ならそうかもしれないが、獲物を見つけたら……。

 フェリックス様を下ろすのを忘れて、獲物目掛けて一直線。

 飛ぶわ。下るわ。回転するわでとんでもない目に遭うかもしれない。


「そんなに心配しなくとも、あの方は強い。初見があの状態だったから信じられないかも知れないが……」


 強い?

 護衛役が四十九人いて、その殆どがたいした怪我もしていない。

 だというのに、護衛対象である王子が瀕死の重傷を負っていた。

 酷く矛盾した話だ。


「あの方が強かったからこそ、あの状況で生還できたのだ」


 ギリッと歯噛みしたレオナルド様の目には明らかに怒りがあった。

 私は他国の人間でただの鍛冶師だ。

 訊く権利も必要もない。

 だけれど……。


「何があったんですか?」


 レオナルド様の怒りの理由を知りたいと思ってしまった。

 私の問いに、レオナルド様は怒りを沈めるように瞳を閉じ、ゆっくりと開くと、静かな声で吐き捨てるように言った。


「第一王子派の連中に嵌められたのだ」

家族が病気でして、その対応でバタバタしておりました。

だいぶ良くなりましたが、まだ完治しておりません。完治するまでの間、更新が遅くなります。

読んで下さっている方に忘れられないように、これからも更新を続けますので宜しくお願い致します。

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