16.伝説の魔獣?
予想より短くなってしまいました。
短い分、ささっと読めるので、読んでやって下さい。
「ねえ、霽月。霽月はフェンリルじゃないよね?」
振り返り、灰色の巨体に確認をすれば、フンと鼻を鳴らされた。
「何を言っているのだ。我はフェンリルだぞ」
「嘘。聞いていないよ!」
「何が嘘か。何処からどう見てもフェンリルだろうが。逆に、今まで我を何だと思っていたのだ?」
何って、そんなの。
「狼に似た大型の魔獣……」
大きな溜息を吐かれた。
「リッカとマルマールは知っていたぞ」
どちらからも、聞いてないよ!
大体、始めて霽月と引き合わされた時『大きいワンワンだよ』て、言われたし。
まあ、当時五歳だった私にフェンリルって言っても分らないだろうから、ワンワンと言ったのかもしれないけど、十数年も有ったのだ。どこかで訂正を入れてくれればいいのに。
二人が大雑把な性格なのは知っているけど……。
いや、マルマール様はともかく、リッカ母さんは態と訂正しなかった可能性が高い。
悪戯好きな母の事だ、霽月の正体を第三者から聞き、驚く私を見たかったのかもしれない。
今頃あの世で『イエーイ。サプラーイズ』などと笑っていそうだ。
「騎士達も記録用魔道具でしか見た事がない為、半信半疑だと言っていたが、やはりフェンリルなんだな」
爛々と目を輝かせて霽月を見上げるフェリックス様。
心なしか、鼻息が荒いような……。
「生息地が海の遥か向こうにある魔大陸だと伝書には記されていたが、まさかこのような所で会えるとは思わなかったぞ」
霽月ってば、魔族や魔物が跋扈する魔大陸から召還されていたんだね。
レオナルド様が霽月を気にしていたのって、魔大陸生息のフェンリルだと疑っていたからか。
渋い表情の合点がいった。
「魔大陸へ渡った冒険者も中々遭遇する事がないというのにな。こんな近距離で姿を見る事ができるなんて、感動で胸がいっぱいだ」
「我は個体数が少ないからな」
突然。フェリックス様は「おお!」と叫んだ。
「私は今、フェンリルと会話をしている! スフィアでもその姿は一瞬だけしか記録されていない。伝書や物語の中でしかその名を見る事のないあのフェンリルとだ! ああ。実物は想像以上に美しく荘厳で内から溢れ出る威厳に震えが止まらない。全身が光り輝いて見えるのは加護か特性なのか? ただ見下ろしているだけなのに圧が凄い! 凄過ぎる!」
「騒々しい奴だな」
「おおっ!」
変なスイッチが入ってしまったのか、王子の興奮の度合いが酷い。
褒められるの大好きな霽月が、若干引いている。
「ああ。伝説の魔獣との邂逅。歴史的な日だと言うのに、何故スフィアが手元にないんだ」
フェリックス様の嘆きに、レオナルド様が私をちら見する。
出会ったばかりで言葉なき意思の疎通ができる間柄ではないけど、この状況での視線の意味は分ります。
「ご入用でしたら、スフィアをご用意致しましょうか?」
「要る! 幾らだ? いや、幾らでも買う!」
そんな事言うと、お値段吹っかけちゃいますよ?
「静止画と動画。どちらにしますか?」
「両方だ。三つ。いや、五つずつ頼む」
静止画は二十四枚。動画は二時間記録できるのに、五つも買って一体何を撮るつもりなのか。
まあ、お客様に売ってくれと言われたら商人としては売るだけですけどね。
トランクのダイアルを第一倉庫に合わせ、中からスフィアを持って出ると、フェリックス様は嬉々としてそれを手に取った。
「フェンリル殿。一緒に静止画を撮っても構わないか?」
「何故我がそんな事を……」
断ろうとする霽月に、口パクで「か・ら・あ・げ」と伝えれば、大きな尻尾が左右に振れた。
まるで物語の勇者にでも出会ったかのように喜んでいるのだ。少しだけ付き合ってあげて。
「ま、まあ、伝説の魔獣である我の姿を残したい気持ちは分からぬでもない」
「なら」
「少しくらいなら付き合ってやろう」
「よし! レオ、静止画を撮ってくれ」
スフィアを受け取り、レオナルド様が構えると、フェリックス様は霽月をバックに色々なポーズを取り始めた。
「フェンリル殿。座っている姿も大変凛々しいのだが、それ以外の姿も撮らせて貰えないだろうか?」
面倒くさいと言わんばかりに目を細める霽月に、口パクでからあげを連呼する。
すると、渋々ながら霽月は立ち上がり、ポーズを取り始めた。
「成人の儀式を受けに来ただけなのに、まさかこのような褒美が用意されているとは思いもしなかった。粋な計らいをしてくれたのは戦いの神アーリエスか、それとも運命の女神アストロスか?」
恐れながら破壊神リッカと混沌の神マルマールでございます。
「どの神かは分らないが、驚きと興奮をくれた感謝する!」
イエーイ。サプラーイズ?




