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14.トランクは秘密②

予告通りUPできました。よかった。

 短い階段を下りて直ぐに適当な大きさの空箱を探すと、それを持ってポーション保管棚へ向かう。

 二十四本入りの箱を引き出して、上級を二十。中級を二十。マジックポーション上級を十本を手元の箱へ移し入れるとそれを持って階段を上がりトランクから出ると、何故かレオナルド様が鬼の形相で仁王立ちしていた。


「お待たせしてすみま……」

「アイテムボックスに入るなど、正気か!?」

「えっと……」

「空間の開閉には本人がこちら側に居る必要がある。そんな事も知らないのか?」

「いや、その……」

「もしも空間が閉じたらお前は異空間を永遠に彷徨うんだぞ! 分っているのか!」


 鬼の形相は怒りではなく、心配からのようだ。


「あの、これ、アイテムボックスではないので大丈夫なんです」

「何?」

「魔法でトランクと家が繋がっているというか、トランクの中に家があると言うか……」


 仕組みをきちんと理解していない為説明がしどろもどろとなり、レオナルド様から疑わしいと言わんばかりの目が向けられた。


「百聞は一見にしかずと言いますか、よかったら覗いて見ますか?」


 以前、マルマール様のアイテムボックスを覗かせて貰った事があるが、異空間なかは白く、果てもなければ底もない。不思議な光景だった。

 取り出したい物があれば念じる事でその物が現れる。念じなければただただ白い空間があるだけなのだ。

 私のトランクは覗けばそこに部屋が見える。

 アイテムボックスとは明らかに違うと、ちょっと覗けば分ると思うのだが……。

 他人のアイテムボックスを覗くのは失礼かつ危険な行為なので、余程の信頼関係がなければ普通は覗かない。

 レオナルド様も、さっき知り合ったばかりの商人のアイテムボックス(と思っている)など覗かないよね。


「変な提案をしてすみま……」

「いいのか?」


 ん?

 心なしか、騎士様ってば前のめり気味な気が……。


「見るんですか? 本当に?」

「何だ。駄目なのか?」

「いえ。駄目ではないです」


 どうやら、レオナルド様は恐いもの知らずの性格らしい。


「どうぞ」

「失礼する」


 断りを入れて静かにトランクに頭を沈めたレオナルド様から、感嘆の声があがった。


「おお! これは凄い!」


 倉庫など珍しくないだろうが、トランクの中に広がる倉庫となれば話は別だろう。

 頭だけだったのが、徐々に身体が中へ沈み込んで行く。

 このままでは倉庫に落ちてしまうかもしれないと、腕を掴んで引っ張りあげれば、子供のように目を輝かせた顔がそこにあった。


「アイテムボックスとは違い、部屋があったぞ」

「はい。このトランクは魔法で部屋と繋がっているんです」

「部屋の奥にドアがあったが、まだ部屋があるのか?」

「今見て頂いたのは第一倉庫で、奥のドアの向こうは第二倉庫があります」

「倉庫を二つも持ち歩いているとは、凄い商人だな」


 持ち歩いているのは家丸ごとだけど、それは今はいいか。


「アイテムボックスとは違うと分って頂いたようなので、よかったです。それでは、残りの商品を取ってきますね」

「アゼリア」

「はい」

「思うのだが、ここで商品を取り出して結界内に運ぶよりも、トランクごと運んだ方が早いのではないか?」


 確かに、その方が早い。

 けど……。


「それですと私がトランクに出入りする所を多くの人に見られる危険性があり、困ってしまうのです」

「確かに。アイテムボックスを出入りなどしていたら、皆がこぞって説教を始めるだろうな」


 説教……。

 それはそれで困るが。


「何故アイテムボックスを出入りできるのかと、魔法使いから追究されかねませんし」


 適当な説明で煙に巻こうとしても、探究心の鬼である魔法使いは納得などしてくれない。謎を解き明かすまでずっと張り付かれてしまうだろう。

 以前。マルマール様の作った魔道具に惚れ込んだ魔法使いがしつこく付き纏い、マルマール様の怒りをかって遠くへ転移させられたのを見た記憶があるが、私にはそんな力技できはしないので、付き纏われたら霽月に乗って逃げるしかない。


「仮に、魔法でトランクと家を繋げていると話してしまったら、その魔法は何なのか。どういう仕組みなのかを根掘り葉掘り聞かれますし」


 私が作った物でないから分らないと説明しても、作った本人を紹介してくれとしつこくせがまれ、紹介するまで永遠に付き纏われる恐れがある。そんな事になったら、やはり霽月に乗って逃げるしかなくなる。


「確かに、あの連中は未知のものと遭遇すると、言葉が通じなくなる事があるからな」

「魔法使いは知識の要求だけですが、権力とお金を持った人達は中を見せろ。自分も中に入れろ。挙句にはその便利な道具を寄越せ。ってなりますので」

「フェリックス様を初め、今回の同行者にそんな無茶を言う人間はいないが」

「今回はいなくとも、人の口に戸は立てられません。見た聞いたが巡り巡って何処からともなく、俺の物は俺の物。お前の物も俺の物。理論な人が尋ねて来るんです」


 と、リッカ母さんは言っていた。

 実際あった話の一つ。リッカ母さんが現役の頃、その戦いぶりを見ていた冒険者仲間がリッカ母さんの強さと剣の威力の凄さに『あれは聖剣ではないか』と、酒場で冗談話していたのを誰かが耳にし、巡り巡って何処かの王族の耳に入ってしまい、聖剣を寄越せと宿に乗り込んで来たらしい。

 聖剣の噂ばかりが先行していたのだろう。リッカ母さんの美しさを目の当たりにした王族の男は事もあろうに。

『聖剣もお前も俺のものだ。喜べ。今日からお前は俺の側室だ!』

 などと叫んだとか。

 リッカ母さんの怒りを買った王族の男は、雑かつ乱暴に追い返されたとかなんとか……。

 母とは違い、私には王族を相手に喧嘩するだけの力がないので、面倒な事になったら、やはり霽月に乗って逃げるしかない。


「悪かったな」

「え?」

「トランクの中を見るべきじゃなかったな」

「ああ。口外についてなら、大丈夫です。レオナルド様は今は私の奴隷にありますから、トランクの中で見た事を口にする事はできませんし、私の許可なくトランクから物を持ち出す事もできません。契約魔法書の下の方に書かれていますが、読んでいませんでしたか?」


 レオナルド様は懐から契約書を取り出すと、ざっと斜めに目を通して行くが、見つける事が出来なかったらしく、目を凝らしもう一度読み始めた。

 契約に関する注意書きの最後。他よりずっと小さな文字で書かれた文言を見つけたのか、視線が止まった。


「記憶が消えるとあるが、どう言う事だ?」

「それはですね。奴隷解消後、奴隷と言う縛りがなくなりトランクの事を吹聴されては困るので、解消と同時にドランク内で見聞きした記憶は封印されます」

「忘れてしまうのか?」

「はい」


 レオナルド様は「そうか」と寂しそうに呟くと、契約書を懐に戻した。


「皆様疲労困憊でしょうから、レオナルド様は先にポーションを届けに行って貰えますか? 私はその間に他の商品を用意して置きます」

「ああ。分った」


 手渡したポーションの箱を持って霽月の向こうへ消えていく背を見送り、私はトランクの中へ入った。

 大型魔獣である霽月に近寄る人はいないだろうけど、レオナルド様がいないので、念の為トランクを閉め、階段を下りた。

 よく売れる商品が並ぶ第一倉庫を突っ切り、第二倉庫へ続くドアを開ければ、壁に設置された光りを発する煌々こうこうせき倉庫内なかを照らした。

 入口に置かれた台車を引いて行き、旅用品と書かれた棚の前で立ち止まると、箱に書かれた商品名を一つずつ確認する。

 水筒×三十個と書かれた箱を見つけるとそれを二箱台車に乗せ、今度は毛布と書かれた箱を探しそれを水筒の箱の上に乗せる。

 最後に、倉庫の隅に雑然と積み上げられた組み立て式の天幕セットの中から十人用を見つけると、それを肩に担ぎ、第一倉庫へ戻った。

 一度に全てを持ち出せないので、一番重くて嵩張る天幕セットだけを外へ運び出す。レオナルド様はまだ戻っていなかったのでトランク横にそれを置き、今度は圧縮袋に収納され通常の五分の一の薄さになっている毛布を箱から五袋ずつ運び出すと、水筒を持って第一倉庫からカフェに向かった。

 少々長めの廊下を横断し、辿り着いたキッチンでヤギ革製の水筒に水を入れていく。

 五個目を入れ終わった時に、ふと、樽と言う名のウォーターサーバーを渡し、各々に入れて貰った方が早い気がした。

 大体、水筒一つの水など直ぐになくなってしまうし、飲料以外にも水は必要だろう。

 うん。樽。樽で渡そう。

 鍋置き場から空の樽を流しに運び、蛇口を捻る。

 水を溜めている間に、入れた分だけでも外に運び出そうと五つの水筒を持ち、キッチン内に設置されたボタンを押せば、カフェの店内に外への階段が現れた。

 階段を少し上がると、僅かに人の声が聞こえた。トランクをそっと開き、僅かな隙間から辺りを窺うが覗く風景は草木だけだった。


「……下さい」


 レオナルド様の声だ。霽月と話でもしているのだろうか?

 さらにトランクを開き外を窺えば、霽月の巨体からレオナルド様の下半身がはみ出すように見えた。


「レオナルド様?」


 私の呼びかけに顔を覗かせたのは、光りを集めたような金髪と湖のような澄んだ碧眼を持った美丈夫だった。


「凄いな。人がトランクから現れたぞ」


 霽月の向こうからひょっこり飛び出し、嬉しそうにはしゃぐ金髪イケメン。その後ろから苦い表情の黒髪の騎士が現れた。


「すまない、アゼリア。付いて来ないように手は打ったのだが、止められなかった……」

「ふふ。ごめんね、お嬢さん。レオを叱らないでやってくれ。私が無理に付いて来ただけなのだから」


 金と権力を持った人。

 ヴァシェーヌ国の王子。

 何故一番見られてはいけない人に見られてしまったのか。

 どうしよう。

 どうするのが正解?

 うん。ちょっと分らない。

 とりあえず、心の整理の為に一旦戻ろう。

 満面の笑顔の王子からそっと目を逸らし、静かにゆっくりとトランクを閉め、階段を下りた。

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