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13.トランクは秘密①

「えっと、バタバタしてたから命令を解くのが遅くなってごめんね」


 指輪に念じる事で命令を解除すると、縛りが消えた事を確かめるように灰色の巨体は伸びをした。


「身体大丈夫? 痛いところはない?」


 怒っているのか、霽月はフンと鼻を鳴らし、無言のままそっぽを向いた。


「ごめんね。謝るから許して、ね?」


 言葉では足りないと、黒く立派な鼻を天に掲げ、再びフンと鳴らした。


「霽月?」


 無視……。

 どうにも、肉と言う名の誠意を示さねば口も利いてくれないようだ。


「お詫びと言ってはなんだけど、霽月の食べたい物何でも作ってあげるからね。仲直りしよう」


 そっぽを向いたままだが、尻尾が忙しなく左右に振れた。

 どうやら、誠意は伝わったようだ。

 よかった。


「ただ、お肉が余りないから、捕って来て貰う事になるけど、いい?」

「フン。狩など我にとっては呼吸するより容易い。何でも捕って来てやる」

「それじゃあ、霽月の食べたい魔物を捕って来てくれたら、大好きなにんにく醤油味のステーキにするね」

「うむ。にんにくしょーゆもいいが、デミなんとかも我は好きだぞ」

「デミグラスソースね。分った。それも用意するね」


 ステーキが余程楽しみなのか、先程より激しく揺れる尻尾に思わず噴出してしまった。

 大きな身体をしているのに、子供みたいで可愛い。

 にやけ顔で揺れる尻尾を眺めていると、顔に大きな影が差した。

 いけない。

 レオナルド様を放置したままだった。


「お待たせしてすいません。レオナルド様。マジックポーションは幾つ用意しましょうか?」


 振り返り、営業スマイルで窺うが、青い瞳は私を通り越して霽月に固定されていた。


「レオナルド様?」

「ああ、すまない。マジックポーションだったな。上級を十頼む」

「上級を十ですね。他に何か要る物はありますか?」

「他か…それなら……」


 腕組みして次から次へと必要物資を上げていくが、どうにも霽月が気になるらしくレオナルド様の視線は依然と霽月に釘付けだ。

 もしかして、レオナルド様ってば犬派だったりする?

 でも、それにしては表情が渋過ぎるというか、好きなものを見る顔ではないと言うか……。


「以上だ」

「はっ、はい。それでは確認の為、繰り返させて頂きますね。

 マジックポーション上級が十。

 ポーション上級が二十。

 ポーション中級が二十。

 大きめの天幕を一つ。

 水入り水筒が五十個。

 毛布が五十枚。

 五十人分の食事。ですね?」

「あるのか?」


 何に驚いたのか、レオナルド様の意識が漸く私に向けられた。


「水や食料は駄目もとで言っただけだったのだが……」


 家ごと持ち歩いているから何でもあるけど、普通の行商人は食料はともかく、販売用の水を携帯してないか。

 あははっ。


「水も食料も問題なくご用意できますので、ご安心下さい」

「そうか。それはよかった」

「ところで、食事は一食分でいいのですか?」

「ん? ああ。そうだな。用意できるなら三食分で頼む」

「三食分ですね。それでは、先程渡した契約書魔法書の控えを出して頂けますか?」


 私の持つ本書に追加分の商品名と値段を記入していくと、控えの契約書の方にも自動的に転記されていく。

 追記される文字を目で追うレオナルド様の顔が僅かに顰められた。


「ポーションの値段はこれでいいのか?」


 ん?

 いいのかって事は安いって事?

 サクリ村(平民)価格の十倍が貴族価格だと聞いていたんだけど、ルーベル国とヴァシェーヌ国ではポーションの価格が違うのかな?


「森などの危険地帯では、通常より高く吹っかけられるものなんだが……」


 なるほど!

 危険地帯お手当。希少品お手当て。みたいな感じで吹っかけるのが普通なのか……。

 あーー。ぬかった。

 でも、まあ、いいか。

 お金儲けが目当てじゃないから。


「スーパーメガポーションを購入頂いたので、特別料金です」

「そうか。欲がないな」


 そんな事言うなら、他の商品の値を上げちゃいますよ?


「商品と値段に間違いがなければサインをお願いします」

「食料が一食分となっているが?」

「それは、追加がどれだけ出るか分らないので、一食目は五十人分の料金。二食目で一食目で出た追加分を足した料金。三食目で二食目で出た分と、出るだろう追加分を入れて請求しようかと思いまして。いけませんでしたか?」

「構わないが、干し肉と硬いパンをそれほど大量に食べる者もいないと思うぞ」

「え? 干し肉とパンがいいんですか?」

「干し肉とパン以外があるのか!?」


 あ!

 うん。

 普通の行商人が取り扱っている携帯食は干し肉とパンくらいですよね。

 サクリ村にも時々旅人が立ち寄るので、一応取り扱いはしているが、数はそうない。


「干し肉とパンは在庫が余りありませんので、それ以外のものでもいいですか?」

「干し肉とパン以外があればその方がこちらもありがたい。それで、食料の内容は? どういったものが出せる?」

「私の店で取り扱っているメニューになりますが……」


 カフェ【猫のしっぽ】では、今日は週に一度の餃子の日。

 本当なら定時上がりの見張り役の人達が夕飯を食べに来て、私が丹精込めて作った餃子を湯水の如く食道に流し込み、腹に納めて行くはずだったので、冷蔵庫には千個の餃子が作り置かれている。

 冷凍庫に眠る肉を解凍すればステーキでもなんでも用意できるけど、解凍には時間がかかるし、何より『作っても作っても終わりが見えない!』と叫びながら作った餃子を売り切ってしまいたい。

 ので……。


「餃子をお出しする予定です」

「ぎょーざ?」

「小麦粉で作った皮で、みじん切りした野菜や肉を包んで焼く料理の事です」

「……」


 レオナルド様が不思議そうな顔をしている。

 貴族様は平民の食べ物なんか知りませんよね。

 エールが進むと評判のメニューなんですよ。


「貴族の方にはハンバーグをお出しします。あ、勿論スープやパンもお付けしますし、ご希望とあればワインもご用意いたします」

「野営地でハンバーグにワイン……」


 先週作った冷凍物だけど、干し肉に比べてずっと美味しいし、軟らかいからいいですよね?


「問題がなければサインをお願いします」


 疑問も質問もある。そんな表情だが、レオナルド様は無言のままサインをしてくれた。

 トランクを開き内ポケットに契約魔法書をしまうと、トランクを閉める。


「霽月。少しの間、その場に座っていて欲しいんだけどいい?」

「ム。我は狩りに行きたいのだが……」

「霽月ならどんな獲物でも一瞬で仕留められるんだから、今直ぐ行かなくても大丈夫でしょ?」

「まあ、我のように強きものは、時も場所も関係なく獲物を捕る事ができるが……」

「だよね。前にコカトリスと対峙した時。瞬殺だったし!」

「フン。あんなもの、我の敵ではない」


 自慢げに胸を張り、黒い鼻を天高く掲げる霽月。

 尻尾もパタパタ揺れている。


「さすが霽月。かっこいい!」

「うむ」


 天を仰いでいる鼻が更に上を向く。

 何て可愛いドヤ顔。


「なるべく早く終わらせるから、お願い」

「フン。永遠の時を生きる我にとって一日も一年も変わらん。幾らでも待ってやる」

「ありがとう霽月。大好き」


 できれば首に抱きつきたいけど、手が届かないので、もふもふの胸に抱き付き、顔をすりすりする。

 ああ。気持ちいい。堪らない。

 ずっとこのままでいたいけど、お客様を待たせているので、我慢。我慢。

 名残惜しみつつ霽月から手をを離すと、レオナルド様に付いて来るようにお願いし、トランクを持って霽月の背後に回り込んだ。

 犬座りしている巨大な壁に隠れ、あちら側は見えない。

 勿論、あちらからもこちらは見えない。


「霽月が動かない限り、結界内の人に見られる心配はないかな」


 トランクを開きダイアルを倉庫に合わせる。


「量があるので中に入って取ってきます。誰も近付かないと思いますが、一応見張っておいて下さい」

「中にって……」

「見張り、お願いしますね」


 困惑顔のレオナルド様をその場に残し、私はトランクの中に入った。

1話が6000文字を超えたので、2話に分けました。

続きは殆ど書けているので、明日にもUP出来ると思います。

UPできた際には宜しくお願いします。

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