12.違います!
天幕を出でると、レオナルド様が私に合わせる形で歩き出した。
フェリックス王子が全快された事で先程までの肌に刺さるような緊張感はなくなったが、騎士様の隣は気後れしてしまう。
ほんの僅か歩調をずらし後ろに下がってみるが、それに気付いたレオナルド様は速度を落とし、私の隣に付いた。
「悪い。速かったか?」
「いえ。とんでもない」
隣が少々辛いだけです。とは言えず、ニッコリ微笑むと手が差し出された。
「足場が悪い」
ですね。
手を取らずにいたら引っ込めてくれるかと思ったのに、逆に早く手を取れと言う無言の圧がかけられた。
どうにも、とらざるを得ないようだ。
遠慮がちに手を重ねると、ガッツリ拘束された。
隣を歩くだけでもアレなのに。手を繋いで歩くとか……。
緊張で手が汗ばんでしまう。
レオナルド様は革の手袋をしているから気付かないだろうけど、申し訳ない。
変な緊張に一人苛まれつつ、草木を避けながら来た道を歩いて行くと、獣人と人間の兵士が話し込んでいる姿が見えた。
身振り手振りの大きさから、獣人達の興奮の度合いがここまで伝わってくる。
何か大変な事でも起きたのだろうか?
怪我が急激に悪化した人が出たとか……。
ポーションを必要としている人がいるかもしれないと、レオナルド様に声をかければ、私達に気付いた獣人達が一斉にこちらへ振り向いた。と、同時に駆け寄って来た。
獣人達は目の前まで来ると、次々に片膝を地面に付き両手の平を天に向け頭を下げた。
一体何!?
何かの儀式!?
「お前へ感謝の意を表しているんだ」
「え? 私? 何でですか!?」
「ポーションでオム…獣人の男を救っただろう」
「救ったのはレオナルド様で、私はただ売っただけです」
「お前が運んで来なければ買う事も出来なかったぞ」
それはそうかもしれないが、やはり救ったのはレオナルド様だろう。
「聖女様ありがとうございます」
何か。妙な言葉が聞こえたような……。
セイジョってナニ?
いや。正常って言ったのかも。
身体治ってよかった。正常な身体素晴らしい。ありがとう的な……。
「聖女様のご慈悲に感謝を」
慈悲じゃないから!
三百億クレ請求していますから!
勘違いをしている獣人達の視線と言葉が辛くて、レオナルド様の影にそっと隠れる。
「レオナルド様。ちゃんと説明して下さい」
「うん?」
「聖女じゃないって。ただの商人だって言って下さい」
「ああ」
レオナルド様は獣人達に向き直ると大きくハッキリとした声で告げた。
「お前達。この者は商人だ。聖女じゃない」
のに、奇跡の復活を目の当たりにし、興奮している獣人達の耳には届かなかった。
「聖女様万歳!」
「万歳!」
「違います! ただの商人です!」
「聖女様万歳!」
「万歳!」
「ですから、聖女じゃありませんから!」
私自身何度も否定したが、聞いてもらえなかった。
興奮状態の人に何を言っても無駄だと悟った私は、状況が分らず呆然とする兵士達の横を走りぬけ、その場を逃げ出した。
辛い聖女コールを振り払うように獣道を全力で走り、気付けば結界魔法の際近くまで来ていた。
レオナルド様を置いて来てしまっただろうかと振り返れば、黒髪の騎士は当たり前のようにそこに居た。
「脚が長いって反則です」
「何の話だ?」
「ただの独り言です。忘れて下さい。それより、獣人達は一体何なんですか? 何で私を聖女だなんて呼ぶんですか。私はただポーションを使っただけなのに」
「あれほど凄い威力のポーションを使ったのだ。誤解されても仕方あるまい」
いや! いやいやいやいやいやいやいやいや! 仕方なくなんかないですよ!
「それに、彼等の故郷に伝わる昔話に似ていると言うのもあるしな」
「昔話……ですか?」
「ああ」
レオナルド様曰く。
昔々。獣人達の故郷であるマルアッタン国で大災害が起き、国が傾くほどの被害にあった。
そんな時、天から聖女が使わされ、傷付いた人々を奇跡の妙薬で癒し、水や食料を分け与え国を救ったそうだ。
「聖女の使う薬はどんな怪我もどんな病気も一瞬で治したそうだ。今回お前が使って見せたポーションによく似ている」
「確かにスーパーメガポーションの威力だけ見れば、よく似ていますが……」
私、天から使わされていないし。聖女ぽい神々しさとかないのに……
「聖女の髪色も黒かったらしいからな。そのせいもあるだろう」
何だ。その無駄な一致!
「黒髪の女性なんて珍しくもないのに……」
「あれ程の威力のポーションを持っている人間はそうはいない」
そんな事ないです。
作成者のマルマール様が、あちらこちらで売りさばいています!
ついでに、マルマール様の髪も黒いです。
「そう悲壮な顔をするな。後でもう一度説明し、誤解を解くようにするから」
「お願いします」
本当に、全力でお願いします!
「善処する」
そんな遣り取りをしている間に、結界魔法の際まで来ていた。
予告なしに肩を抱き寄せられ、再び不細工な叫びを上げる。
「ぎゃぼん!」
先程は無視してくれたのに、今度は確り笑われてしまった。
乙女らしさ皆無ですみません。
恥ずかしさから、結界魔法を出ると直ぐにレオナルド様から離れ、そのままトランクへ駆け寄った。
「アゼリアよ」
不機嫌な声に呼ばれそちらを見れば。
「我は何時までこうしていればいいのだ?」
命令の為、伏せの姿勢のままでこちらを恨みがましげな目で見る霽月の姿があった。
「あ…ごめん」
忘れていた訳じゃないよ。
本当だよ?




