11.SMPの効果②
私の二倍はありそうな歩幅で歩くレオナルド様に遅れまいと小走りで付いて行けば、急ごしらえで作られたと思われる天幕に着いた。
入口前に立つ見張り役の騎士二人が礼を取ると、それに応えるべくレオナルド様は片手を挙げた。
「レオナルド・フォン・ヴァーレーン入ります」
レオナルド様の断りの言葉に、中から低く重々しい声が返された。
左右の布が重ね合わさっただけの扉をレオナルド様が開き、一緒に中へ入ると、天幕の端には先程入室許可を出したと思われる老齢の騎士が苦悶の表情で立っており、中央には地面に座り込む四人の魔法使いが男性を囲むようにして治癒魔法を展開している。
魔法使いの陰に隠れはっきりとは見えないが、レオナルド様や他の騎士とは異なる赤い衣装を纏った男性が横たわっている。察するにその方がフェリックス王子なのだろう。
「レオナルド殿。そちらの女性は?」
「彼女はアゼリア。商人です」
こんな森の奥深い場所に何故商人が居る。
そう言わんばかりの表情で私を凝視するが、老齢の騎士が口にしたのは別の事だった。
「ポーションを持って来たのだろうが、特級であっても、もう……」
――助からない。
苦い表情で呟いた老齢の騎士にレオナルド様は一歩近付いた。
「助かります」
「レオナルド殿?」
不審げに眉を寄せる老齢の騎士に、レオナルド様は私の背を押して前へ出した。
「彼女は特級以上の物を持っています」
「特級以上……だと?」
「はい。意識不明であっても使用可能な上に、一度で全てを完治させるほどの威力です」
「何を馬鹿な……」
「実験としてオムに使用し、効果を確かめております。お疑いでしたらご自身の目でお確かめ下さい」
レオナルド様の言葉に老齢の騎士は低く唸ると、魔法使い達を見た。
治癒魔法は魔力の消費が激しい。
どれだけの時間治癒魔法を展開しているのかは分らないが、四人の顔色と安定を欠いた魔法から、魔力と体力の限界が近い事が分る。
「このままでもフェリックス様は……」
小さく呟き、硬く目を閉じると深く息を吐いた。
そして、目を開くと私を見た。
「アゼリア殿。フェリックス様は治癒魔法で辛うじて命を保っている状態だ。魔法を止めれば直ぐにでも死んでしまうだろう」
ああ。
それでポーションを使う事を躊躇っていたのか。
聞いた通りの効果がなければ、王子の命を奪う事になるからと。
「このポーションは即効性のものです。魔法解除と同時にかければ大丈夫です」
私の言葉だけでは不安が拭えないのだろう。
老齢の騎士はレオナルド様を見た。
力強く頷く姿に漸く心が決まったのだろう。老齢の騎士は手前側の二人の魔法使いに、私が入れるだけの間を空けるように指示した。
二人の魔法使いは立ち膝となり、左右に別れると人一人が入れるだけのスペースができた。
「失礼します」
空けられたスペースにそっと割り込むと、長めの金髪を蒼白い顔に張り付かせた美丈夫の姿があった。
引き裂かれた服の跡から胸を貫かれ心臓、肺、胃などの臓器を潰されたのだろう事が分かる。
治癒魔法で損傷箇所は修復されているが、上手く機能させられず、治癒魔法で潰れた臓器の代わりをし、延命させていたようだ。
私はポーションの蓋を開けると、治癒魔法停止をお願いした。
四人の魔法が解除されると同時に瓶を傾け液体を浴びせると、王子の身体は白い光りに包まれ、周りから驚きの声があがった。
光りが治まり、あらわになった王子の姿に老齢の騎士を初め、その場の全ての人間が息を顰めて見詰める。
ひゅっと、王子の口から零れた呼吸音に、その場の全員が息を飲み、硬く閉じられていた瞳が開かれると同時に安堵の息を漏らした。
「フェリックス様!」
老齢の騎士が側寄り王子を抱き起こすと、王子は驚きと混乱から目を見開いた。
「ろ、ローレン。私はまだ生きているのか?」
「はい。奇跡の治療薬にて助かりました」
王子の声を聞き、張り詰めていた緊張の糸が途切れたのだろう。気力だけで魔法を行使していた四人がその場に崩れた。
「お前達もよくやった」
老齢騎士の言葉に四人は微笑を浮かべるが、表情を保つ事も難しいのだろう。直ぐに俯いてしまった。
「あの。ご入用でしたら魔力回復薬もございますが……」
誰に問うていいか分らず、独り言のように零すと答えたのはレオナルド様だった。
「よし。それも貰おう」
「直ぐにご用意します」
立ち上がり踵を返すと、腕を掴まれた。
「何処へ行く?」
「トランクを置いてきてしまったので、取りに行ってきます」
「それなら人に取りに行かせるが?」
「あれは、私以外の人間では持ち上げられないようになっているんです」
「そういう事なら俺も行こう」
「いえ。一人で大丈夫ですので……」
「俺がいなければ結界魔法を出入りできないぞ」
あ! そうでした。
「ローレン殿。この者と一緒に薬を取りに行ってきます」
「うむ」
「フェリックス様。天幕を出る事をお許し下さい」
「許可する」
礼を取るレオナルド様に習うように慌てて頭を下げると、フェリックス王子は優しげな笑みで応えてくれた。




