prologue ~ ある少女の追憶 ~
前までは三人で転がっていた土手を一人荒い息を吐きながら走り抜ける。みんなで釣りをした橋、川遊びをした川、お父さんとはしゃぎまわった草原……。全部、全部今は一人しかいない。
みんなは先に行ってしまったから、私もその後を追わなければいけないのに私の番がすぐに回ってこないのが悪い。一人残されるのはもう嫌だったのに…。
だけど、だけど今彼らを救えるのは私しかいない。
だって見ちゃったんだもん、今彼らの置かれている状況を。
だって知っちゃったんだもん、これから彼らに起きることを。
冷やかしに時々訪れていた施設の大きな扉を開く。奥にはきっと顔なじみがいるだろう。
私のこの決意を告げれば、きっとその人は「あなたは本当に大馬鹿者だな」といつもとは違った真剣な表情で告げるんだろう。
私も大馬鹿者だと、そう思う。
でも多分、“あいつ”は全部知った上でこれを選択したんだ。そういう大馬鹿者なんだ。
なら血の繋がってる私も、そうに決まっているでしょう?
通路を進みながら息を吐く。
選択に後悔はない、だけど緊張感からほほに冷や汗が伝う。
事前に聞いた話を頭の中で反復する。
逆に良かったかもしれない。
こういう状況になっても相変わらずに私の大切な人は、“星”は変わらない。変わることなんてあるはずがない。
そのためなら、私は何でも、自分でも犠牲にするわ。
最後の重たい扉を開いて、一歩を踏み出した。
「————————— ねえ、お願いがあるの。嫌とは言わせないわ」
読んでくださりありがとうございます。
最後まで終わると…いいな。