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湖水の夢 ー斎藤利三伝ー  作者: 青木
第1章 盟友
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第2話 争闘

 先頭で乱入してきた刺客の頸筋(くびすじ)めがけて利三は無銘「関孫六(せきのまごろく)」を抜き打ちざまに斬り上げた。先頭の刺客は頸筋から血しぶきを上げながら、どうっと倒れた。何が起こったか分からぬまま絶命したであろう。


 利三が起居に使っているこの書院造りの寝間(ねま)は闇である。利三は、この寝間の隅に身体をかがめ、刺客が躍り込んでくるのを鯉口(こいぐち)を切って待っていたのだ。


 先頭の刺客が闇の中へ倒れ込んだため、残りの4人は警戒したのか濡れ縁には登っては来ない。深夜それも室内での乱闘を考えたのであろう、手燭を持っている者が1人。手燭の灯火が陽炎のごとく揺れている。この男の身体の震えに合わせて揺れているのだ。この男は多分、こういう仕事は初めてなのであろう。まだ20にはなっていないように見える若い男だ。他の3人は、落ち着いた様子で目の前の標的をねめすえている。


 刺客の頭分(かしらぶん)と思われる年嵩(としかさ)の男が叫んだ。

「斎藤内蔵助殿、殿の命により討ち果たす!覚悟されい!」


「殿・・・。お(ぬし)たちにとっては殿かもしれんが、おれにとってはもう殿ではない。お主たちは不明の主をもち、その理不尽な(めい)で、自らの命を賭ける。つくづく不運だな。」


 利三は、義龍が刺客を送ってきたことを直覚的に感じたとき、義龍を見限ることを決めていた。


(おれには、仕えるべき(まこと)の主がいるはず。それに巡り会うまでは死ねぬ。)


「黙れ!」

「不忠の(やから)が!」

 刺客の頭分は押し黙ったままだが、頭分の両端に控える若い刺客たちは激昂し、利三に向かって叫んだ。1人は上段に構え、もう1人は下段に構えている。手燭を持っている一番の年若はまだ震えている。


 次の瞬間、頭分の両端にいたその2人の刺客が同時に斬りかかってきた。利三は、上段の男が振りおろした太刀を(つば)のあたりで食い止めた。火花が散った。


 刹那、下段に構えていた男の太刀が利三の左の脾腹(ひばら)めがけて一閃された。この攻撃は刺客たちの練った利三暗殺のための策戦だったのだろう。利三の剣名は、先代・斎藤道三の頃から斎藤家中に名高かった。刺客たちも周到に準備・鍛錬を積んできたのだ。


 だが、鍔ぜりあいから相手の(たい)を崩すのは、利三がもっとも得意とするところだ。上段の構えの刺客の左腕に体を寄せ、太刀を相手の左の首元につけると力任せに左へいなした。


「うっ!」


 上段の刺客は、一言うめくと、その場に倒れ込んだ。下段の刺客の斬り上げを腰に受けたのだろう。


 下段の刺客は明らかに狼狽していた。練った策戦が最初の斬撃で破られた上に、自分の仲間を斬ってしまったのだ。下段の刺客は、その狼狽した心気を整えることもせず、遮二無二(しゃにむに)斬り込んできた。下段からの斬り上げだ。


 心気を乱した相手は、構え、()のとりかた、動き出しに大きな隙ができる。利三は、それを経験から知っていた。利三は、斬り上げてきた相手の太刀を(したた)かにたたき落とすと即座に一歩踏み込み、その胸を刺し貫いた。


 と同時に強烈な殺気を感じた。年嵩の刺客。利三が倒した3人の刺客とはくらべものにならぬ殺気を放つ一個のその獣は、濡れ縁を踏み台にして虚空に跳び上がっていた。次の瞬間、猛り狂ったその獣は、()がれた牙のごとき太刀を利三めがけて虚空をつんざく音と共に振りおろしてきた。利三の太刀は、まだ先ほど倒した刺客の胸を刺し貫いたままだ。


( ― 間に合わぬ。ここで終わるか。)


 利三は、眼を閉じた。

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