07話
紫苑の花言葉
追憶、君を忘れない、そして遠くから思う
今日は色々ありすぎて、特に疲れた。
紫苑に会ってから俺の日々はドタバタ続きだ。
俺の日常は完全に漫画やアニメの世界に踏み出しつつある。
いや、もう入っているほうが正しいのか?
「黒夢、この服は似合っているか。」
「うん、うん、似合っているぞ、可愛いぞ。」
「そうか!」
俺は、紫苑が着る女物の服を買いに服屋を訪れているが、男の俺には服選びはこの上なく退屈である。
母さんに連れられ服を買いに来ることはあったが、いまだに服選びに長い時間をかける女性の気持ちが分からない。
「黒夢! こっちの服はどうだ。」
「コッチの無地のワンピースの方が似合うぞ。」
紫苑が紫の生地に黄色と緑色いドクドクしい花が大量に描かれている、おばさん臭がする服を持ってくるが、そく却下して無難な無地の服をすすめる。
俺はおしゃれなどはしないが、それはシンプルな服装が好きだからだ。
基本、無地の黒服がタンスを占拠して、母親が今風のおしゃれな服を買ってくるが、大半がタンスの奥深くに眠ることになる。
「そろそろ時間だし帰るぞ。」
「待て、まだ店中の着物を全部見ていないぞ。」
「また、次来ればいいだろう。」
「ぅ、そうだな。」
今度、来る時は母さんと一緒にされて、女同士ではしゃがせるか。
母さんは、前に「娘がいたら一緒にいっぱいおしゃれができるのに」と言っていたから、紫苑は母さんの着せ替え人形になるだろう。
生活に必要な分の服は買ったし、後は夕飯の材料を買って商店街をあとにする。
「......仏壇に飾る花を買い忘れた。」
俺は花屋さんに戻り、花を買うが菊の花が売り切れていた。
「すみません、お盆と言う事でお供え物の花はほとんど売り切れてしまいました。」
「そうですか。」
「余っているもので良かったらこれはどうですか?」
女性店員はそう言って、店の奥からある花を持って来た。
、
、、
、、、
紫苑: 九月から十月に開花する、紫色の小さな花が枝先に密集して咲くキク科シオン属の植物。 別名 十五夜草。
「なぁ、紫苑の名付け親とかは居たのか?。」
俺は紫苑という名の花を持ちながら、紫苑の名前の由来を聞く。
神様に親がいるか分からないが、名前の由来ぐらいはあるだろう。
「私は白狐から名前を貰い山神になったのだ。」
「その白狐は今どこにいるか分かるか?」
「白狐とは一度しか会って無いから今どこに居るかは分からん。」
「そうか。」
神に任命して放置。
コイツにはやっぱり頼るものが居ないのか。
「黒夢、なんでそんなことを聞くのだ。」
「いや、お前には家族とか居たのかなと、思ってな。」
「私には昔親にも捨てられて、人に育てられたんだ。」
「......」
「でも、ある日、その人にも捨てられて、人恋しさに狩人に近付いて殺されてしまってな。」
「嫌なことを思い出させたな、すまない。」
「いいのだ、もう随分と昔のことだ。」
紫苑は笑っていたが、どこか強がっているように見えた。
「ポテチでも、買うか?」
「何! 買うぞ、黒夢。」
その頃、多川凪沙は家に帰り着き、お供え用の花を買い忘れたことに気付くのである。
「村ちゃん! 私お花を買い忘れちゃった。」
「ふにゃ~~。」
昔、ある男は森で親狐に捨てられた子狐を見っけた。
男はほっとくことが出来ず子狐を拾い育てることにした。
子狐は病弱でよく体調を崩したが、男に大事に育てられてすくすくと育って、巣立ちの時が訪れる。
「子狐、お前は山でのびのびと生きる方が幸せなんだ、元気にやっていけよ。」
「くぉーーん くぉーーん」
(今日は何して遊ぶのだ)
「来るな、お前はもう子供じゃない、一人で立派に生きろ。」
「きゅ~~う?」
(何で泣いているの?)
男は子狐が大きくなったら野生に戻そうと考えていたが、情が移り泣きながら子狐を突き放し、その場を立ち去る。
翌日、狩人が見知った子狐を持っているのを見て、男は後悔した。
狩人から変わり果てた子狐を買い取り神社で供養した後、男は心に穴が開いたよう寂しさを忘れる為に仕事に没頭したが、家に帰れば子狐が出迎えてくれるような気がしてならなかった。
その後、村は国同士の戦に巻き込まれて、男は戦場に出向くことになったが目の前で誰かが死ぬ姿を見るのが耐えられなくて男はそっと瞳をとじた......