04話
実家から原動機付自転車を走らせて約一時間。
俺が通っている鬼鳴大学に到着する。
キョロ キョロ
「おーーい、大丈夫か?」
キョロ キョロ
尻尾と目をずっとキョロキョロと回す紫苑に声をかけるが返事が無い。
始めは元気にはしゃいでいたが、次第に口が数が減ってきて車酔いにより撃沈した。
このまま、太陽が照り付く大学の駐車場にいると熱中症になる危険があるので、俺は紫苑を背負い目的の場所へと誰にも見つからすに移動しなければならない。
紫苑はただの少女ではなく人外、誰かに見つかればあっという間に騒ぎになるだろう。
「よ、白坂。 こんな日に学校にとは珍しいな。」
「!」
「あのもしかして、そのニット帽の子は彼女?」
「......そうだな、彼女と言うより親公認の結婚相手だな。」
俺は、紫苑をお姫様抱っこしているとことを、呆気なく第三者に目撃されるのであった。
しかし、幸運にも目撃者は俺の知り合いで、今日の会う約束をしていた黒木哲也。
金属加工を得意としている鉄工技能士の資格を持っているから、鎖の一本や二本など安全に切断してくれるだろう。
「許婚か、ラブコメみたいだな。」
「許婚では無いけど、本人は俺と結婚する気だぞ、押しかけ女房ほど厄介な生き物は居ないんだぞ。」
「そうか、おめでとう。」
乾いた拍手を打ちながら黒木は俺から離れていく。
「なんで、自分は祝福されているんだ。」
「悪いが、婚約指輪は他をあたれ。」
黒木の実家はジュエリー工房で婚約指輪も作るが、黒木は装飾品を作るよりもカッコイ刃物や武器を作ることを生きがいとしている。
「いや、お前を呼び出したのは鎖を外してほしいからだ、メールで書いただろう。」
「あぁ、メールの内容はちゃんと読んだけど、知り合いに彼女の足に巻かれた鎖を解いてくれとメールで送られて、平常心を保つほど人間出来てないから、一体どんなプレイをしていたんだよ!」
「本当に迷惑を掛けてすまない。あと俺はメールに彼女とは一切書いてないぞ。」
アスファルトの上に陽炎が揺れる熱い夏の日、俺は熱中症になって保健室に運ばれた小学生のころの記憶を思い出しながら紫苑を校内に運ぶ。
倒れた時は良く周りの人達に迷惑を掛けてしまったな。
「ふぅ。」
「ん?」
途中、狸寝入りしていることが分かり、鼻を摘まんで起こすのであったが、起きた紫苑は学校内を探索しようと駄々をこねて、そのまま寝かせた方が良かったと俺は後悔するのであった。
元気すぎると周りが疲れるから考え物だ。
「黒夢、ここが目的の部屋か、封印を解くにしては狭いし何の準備もしてないぞ。」
「これから準備するんだよ、多分。」
俺達が訪れたのは、工芸部の部室兼作業場。
部室には作業机と金属を加工するための機器だけがきれいに並べられて、人の気配が無く閑散としている。
夏休みだから人が居ないのは当たり前だけど、いつも人で溢れている場所が静かだと、とても不思議な感じだ。
「黒夢、これはなんと言うものなんだ。」
「さぁ? 機械の正式名所なんて一々覚えていない。」
ちょっとした非日常感に浸っていたが、目の前には非現実的な珍生物がいる。
いまだに、その存在を認めきれないが、そこに存在している事実は変わらない。
「白坂、その子に巻きついている鎖にこれを塗っとけ。」
「これ安全なのか?。」
俺は黒木から百均に売ってそうな安っぽい瓶を受け取る。
プラスチック製の瓶の蓋にはガムテープで『特塩酸液』と書かれている、おばちゃんが作った梅酢を思い出す。
「少量なら人体には影響が無いから大丈夫だ。」
「これで本当に金属が数分で錆びるなんて思えられないな。」
試しに瓶から数滴、液体を手にかけるが何とも無い。
何とも無いが、念のために手を洗おう。
洗面所に行き腕を洗っていたら、腕時計が外れた。
腕時計は金具の一部が赤く変色していて錆びている。
百均で買った腕時計が!?
「昔、その液体を水道に流した馬鹿がいて、どうなったか知っている。」
「どうなったの?」
後ろから黒木が声をかけてきて、俺は焦るが平常を装う。
「学校の水道が破裂して、金属片が顔に食い込んだらしいよ。」
「たった数滴では破裂とかしないよね?」
「......冗談だ。」
宮園の顔は真に迫って冗談は聞こえないんだけど。
「黒夢! 鎖が外れたぞ。」
、
、、
、、、
「夏に雪菓子が食べれるとは、世の中は変わったものだのぅ。」
「そうだな。」
俺達は学校の屋上にあるベンチに座り、コンビニで買ったアイスを不思議そうに食べている紫苑に適当な相槌を打つ。
俺はアイスを食べることに時代の変化を感じることは無いから、紫苑がどういう思いでアイスを食べているのかは分からない。
とりあえず、屋上から見える風景をスマホでパシャリ、ついでにアイスを頬張る紫苑もパシャリと撮る。
どうやら俺は最近、写真を撮ることにはまったようだ。
「じゃ、お二人さん、邪魔者は消えることにするよ。」
「黒木、ありがとうな。紫苑も礼ぐらい言った方が良いよ。」
「あ、ありがとう。」
紫苑は口に含んだアイスを飲み込み、お礼を言うが、黒木はすでに階段を降りていて姿が見えなくなっている。
「ぐふぅん!、頭にキーンと痛みが、黒夢助けて。」
「ただアイスの食べ過ぎただけだ、そのうち治る。」
「くぅ~~おぉん。」
甘えたがっている子犬のような鳴き声を出す紫苑を仕方なく撫でる。
甘やかすのは余り良くないけど、この可愛さは反則的だ。
「紫苑、帽子はどうした?」
「ふむぅ~~ 帽子を脱いだ覚えなんて無いぞ。」
帽子を探しに校内を紫苑の耳を隠しながら歩き回ると、帽子は工芸部に落ちていた。
そして俺は思った。 何時から帽子から脱げていたのか?
何か嫌な予感がする。
、
、、
、、、
「全く、白坂の奴。良い者を連れてきたな。」
男はそう言いって、端末を操作する。
その端末の画面には帽子を外して、狐耳を生やす少女が映っている。
「面白く成りそうだな。」
男は笑う、手で口を覆いながらニタニタと笑う。
、
、、
、、、
頭に靄を抱えたまま俺は学校を後にする。
黒木に、紫苑の正体が破れたか確認したいけど、もしかしたら破れていないかもしれないし、何かあったらコスプレってことにして誤魔化すか。
「黒夢 黒夢! 帽子を落としたことは謝るから無視しないで。」
「あ、すまん、 少し考え事をしていた。」
「そうか、怒ってはいないのか。」
「うん、だから泣くな、可愛い顔が、台無しになるから、笑ったえ。」
「?」
慣れない事は、言うんじゃないな。
紫苑もキョトンと黙り込んだし、もう二度と気障なことは二度と言わないと俺は心に強く誓うのであった。