天使編・後編
一瞬男の方と視線がかち合ったもののお互いに牽制のみですぐに離した。とにかく状況を確認すべく、髪の水気を拭いながらじっと目の前の殿下だけを見る。殿下は若干ばつが悪そうに目をさ迷わせたものの、すぐに切り替えてご説明くださった。
「……広間に戻る途中彼らに会ってな。重要な話があるというから少々人気がない所に来たのだ。」
まぁ、聞かれて不味い話となれば廊下ではできないだろうし、複数人と密室になる休憩室に入るのは危険すぎる。それならば多少は逃走経路が残せる中庭の方がまだしもマシと言えなくもない。
だが、そんな事態にこそ護衛代わりにでも私を呼んでいただきたいところではある。私はその為の盾でもあるのだし。いくら殿下が武にも優れるとは言え御身の尊さを思えば余りにも軽率ではないか。
いや、そもそも私がトイレにまできっちりお送りするべきだったのか?だが流石にそれは殿下を侮りすぎているというか……それだとコルネリア様の場合もお送りすることになってしまう。それは以前既に断られてしまったんだが。
「それで話していたのだが、その中で少々意見の食い違いもあり……多少白熱しすぎた部分があったと言えなくもない、かな?」
伺うような上目遣いありがとうございます。殿下のご認識が全ててますので、それが事実で間違いありません。
でも、どうしても確認しなければならないことがあるのはご了承ください。
「髪が濡れているのは?」
「あー…………白熱した結果の一部というか、不幸な偶然というか、まぁそういったアレだ。」
……つまり、この二人は殿下のお言葉に楯突くほどの愚者であり、その彼等が不幸にも手元に飲み物(水と推測される)を持っていたため、天使殿下にそれをかけるという大罪を犯す機会が出来てしまったということだろうか。
いや、しかしそんなことがあり得るのか?私の言語理解能力に問題が発生したのでは?殿下に害を為す存在がそうそうこの世に居るとは思えない……しかも一ヶ所に二人も集まるなんて偶然、奇跡のような確率じゃないのか?
私はなにか前提を間違えているのだろうか。
「ハーディ、」
「なんだ?」
「その……、怒ってるか?」
「リオには怒っていない。」
私が殿下に怒るなんてあるわけがないじゃないですか。奴等なら兎も角。
それにこの宮殿で命の危機に陥ることは流石に私も心配していない。毒物は持ち込めないよう全ての出入口で秘密裏にチェックされているし、暴れようとしてもそこかしこに立っている衛兵が常に目を光らせている。今も実は垣根の周りには数人が立っているしな。人気がないとは言うものの、こんな宮殿でのパーティーともなれば彼らを撒いて集まるなんて不可能だ。
ちなみに衛兵は国家のもの、ではなく王家に忠誠を誓った私兵である。代々集められた忠臣だけに買収するには相当面倒な相手であることを付け加えておこう。
だから別に殿下がご自分の意思で好きに振る舞われても怒るような問題はないのです。私が怒るなんておこがましい限りです。
ただ、心配ではあるのと頼ってもらえない寂しさが少しばかりあるだけです。望みすぎだとも分かっています。
「何故私を呼んでくれなかったんだ?」
分かってはいますが望まずにはいられないのです殿下。
その辺の衛兵に一言告げてくれれば光の早さで飛んできたのに。殿下が一人で阿呆共の相手をする必要なんて全くないのですよ?そんな雑事は私の仕事です。
「だって……、」
「ちょっと!」
振り払ったまま完全に黙殺していたら、いよいよ焦れたらしい女に腕を掴まれた。避けても構わなかったが矛先が殿下に向かうことの方が望ましくないので逆らわずに振り返ってやる。面倒くさいやつだ。
「突然来てなんなのよあなた!」
「今夜この宮殿で、私が来た理由が分からない者がいるとは思えないがな。」
ついさっき殿下のお相手として発表され、広間を騒然とさせたばかりじゃないか。婚約者が人気のない中庭に連れていかれたのに黙っている方がおかしいだろう。
「貴女方こそ殿下をこんな場所へ連れてくるなど何の理由があってのことだ?」
「我々はアエミリオ殿下に話がある。」
「相手に水を掛けるようなものを話とは呼べない。見過ごすことは出来ない。」
「それはっ……殿下が余りにも頑なに拒まれるから!大体あなたが悪いんじゃない!」
やけに興奮している女を一瞥し、とりあえず警戒だけはしておく。飛びかかってくるとは思えないが何か投げつけてくる位はするかもしれない。パッと見では魔術具も見当たらないがどこかに隠し持っているとも限らないし。
これだけ感情的になっていると何時血迷うかわかったものじゃないからな。
「あなたが……、あなたなんかが殿下の婚約者になるなんて有り得ないのよ!」
視界の中に入っている男の方も意識してみるがどうやら同じ意見らしい。私を睨む力が強くなっている。
「あのコルネリア様が婚約者だったから納得して諦めていられたのに…………なんであなたみたいな粗暴な軍人が殿下に選ばれるのよ!信じられない!絶対間違ってる……!」
なるほど。
まったくその通り。同感だ。貴女は私か?
私ももし私以外の脳筋軍人がアエミリオ殿下に選ばれたとしたらまず間違いなく正気を疑う。勿論、私が選ばれたことも何を勘違いされたことなのかと脳内で真偽について何千回も検証を繰り返したとも。
しかし、殿下が是と言えばそれはこの世の真実である。空の青さを否定したところで意味がないように真実は受け入れるしかないものなのだ。
可哀想だが彼らは諦めるしかない。というか諦めてくれ。
「すまない、ハーディ。だから彼らとは会わせたくなかったんだが……。」
うつむき気味に小さく呟かれた殿下の気まずそうな様子をしっかりと視界に収めながらも焦点自体は二人から外すことはない。本当ならば正面からしっかり見つめたいところだが、今はとりあえずこの広い視野に感謝しておこう。
「今すぐ撤回しなさい!今ならまだ今夜ここにいる人にしか知られていないもの!陛下さえ納得していただければ、」
「私が殿下から離れることは有り得ない。」
どんなに殿下の正気が疑われようとも手中に落ちたのなら此方のもの。外から見てどんなに異質な組み合わせであったとしても、選ばれたのが自分であれば話は別だ。
私を気に入ったことが勘違いであったとしても、一度好機を得た以上、その間違いに気付かれるような愚は冒すまいと心に決めている。殿下が正気に戻るようなチャンスなんて悉く潰してやるとも。
「この婚約は殿下の御意向に沿った結果だ。それは陛下もご存知のこと。」
わざわざ一芝居打って直談判までして叶えた結果だというのにそれを反故にしてしまったら殿下のご苦労も水の泡だ。私の思惑云々に関わらず、そんな暴挙は到底看過できないな。
「嘘よ。アエミリオ様があなたを好きになるなんてありえないわ!そんなの間違ってる。」
良いんだよ間違ってようが勘違いだろうが兎に角私は殿下を手放す気なんかさらさらないんだからな。
もしも、考えたくはないがもしも万に一つ仮に殿下から別れを切り出されるその時までは、私は絶対に殿下のお側を離れないぞ。勿論そうならないよう全力を尽くす。尽くすが、天の意思を縛ることは出来ない。私に出来ることは身を捧げて誠意を示すことだけだ。頑張ろう。幸せな未来のためにも。
今はとりあえずこの二人を追い返さなくては。
「貴女の言葉と殿下の御意向、どちらを優先させるかなど考えるまでもないだろう。この場で何を糾弾しようと無意味にすぎない。貴女方がどう喚こうと、私は殿下との婚約を取消さない。私が殿下の手を離す日など未来永劫、絶対に、来ることはない。」
一言一言はっきりと言い切った上で、悔しそうに歯を喰いしばる女と暫し睨み合う。といっても形勢が悪い相手の方が一方的に目を吊り上げているだけだが。
「……なら、あんたに決闘を申し込む。コルネリア様の婚約者の座を賭けてオレと勝負しろ。」
なんだこいつ、大人しくしていたと思ったら突然爆弾を投げて来るとは。というかこいつコルネリア様狙いか。油断ならなん奴だなおい。簀巻きにして森に捨ててやろうか。
確かにこの国、というか近隣の国でもだが何かを賭けた決闘は権利として認められている。賭ける対象が人物や行為の場合は当然その人物や行為を実行する人物が承諾しなければ成立することはないが、確かに古来より恋愛に関しても用いられてきた手段ではある。
だがしかし、それはそれとして畏れ多くも天使たちを賭けの対象にするだと?
ふざけるのも大概に……
「ハーディの決闘か…………見たいな。」
速やかに執り行おう。
ポンコツ野郎、駆け足で舞台を用意しろ。
殿下をお待たせするんじゃない。
……わかっている、指を指さないでくれ!だがこれは最早条件反射というか、習性のようなもので、そう簡単には直らないものなんだ。あっさり意見を翻すのは間抜けな感じではあるが仕方がないことなんだ。
「その女も相手になるのか?」
「いいや、フィリスは武術も魔術も使えない。」
「代理として弟に出場させるわ!」
弟は勝手に決められて不運なことだ。典型的な姉と弟(下僕)の関係なのかもしれない。
「ディオンは交流戦で武術の副将を務めていた剣士だ。フィリスの弟は戦略のメンバーに選ばれていたと思う。」
後ろから殿下がこっそり教えてくださるが、そのレベルであれば何ら問題はない。というか、大将ですらないなら学生時分から私に負けているということだろう。笑わせてくれる。
「私が今日、何に叙されたのか知っているか?それでも挑むと言うなら受けてたとう。」
私の価値は戦力のみという武一辺倒の人間なんだぞ?いくら陛下の贔屓や殿下たちの御意向があったとはいえ単身で大迷宮を討伐出来るだけの能力は変わらない。それを相手に一騎討ちで挑んでくるなんて賢いとは思えないがな。
しかし告げてやっても二人の表情は変わらない。それならばと楽しそうな殿下の背を押して広間に戻る。どのみち決闘には立会人が必要だからここでは出来ないからな。
折角だし二度と挑んでこないよう陛下にもきっちり見届けていただこう。余興としてはちょっとばかり荒っぽいが主役の片割れが私だから仕方がないと言えば仕方がない。
拒否権のなさそうな弟くんだけは可哀想かもしれないが。
騒然とする広間の上座、陛下の近くに殿下と共に控えて立つ。コルネリア様は王妃様の傍に案内されたようだ。様子を見るにまだまだ開始には時間がかかりそうなので、殿下のために給仕から軽いワインを受け取った。
さて、広間に戻った我々が何故のんびり構えているのかというと、決闘が始まらないからである。
決闘を執り行う場が整わないとかそう言ったことではなく、単純に参加者が増えたからだ。
陛下に話を伝え承認していただこうとしたら舞踏会の出席者から待ったがかかり。自分も挑戦したいという者が次々に現れて結局決闘の挑戦者は代理も含めて三十四人。現在は彼らの準備や立会人による意思の確認などを順次行っているため殿下や私は待ち状態なのだ。
この世界の正式な決闘では始める前にしつこいくらいに意思を確認される。確認内容はそう大したものでもないのだが、ただひたすらにくどい。短く言えば、決闘は結果が全てなのでどのような結果になっても取消すことは出来ません。だからその覚悟をもって実行するかを決めなさい。これだけ。
ただ、これを様々な例を挙げたりしながら延々と繰り返すので非常に時間がかかるのだ。
これには例えば決闘中にドラゴンが舞い降りて片方しか生き残らなかったとしても受け入れますか?というような突拍子もないものも相当数含まれている。正直、突拍子もなさすぎて宣誓中にちょっと面白くなってきてしまうくらいだ。
勿論私もやった。あんまりにも念を押されるのでだんだん不安になってしまったのだが、隣でサクサクと了承していかれるお二人を見れば弱気も吹き飛ぶというものだ。お二人の信頼に応えてこそ、婚約者足り得るのだものな。
そうして未だ宣誓を続ける挑戦者達を尻目に、我々は上座で終わるのを待っているというわけだ。
「……すまない、何だか思った以上に大事になってしまったな。」
渡したグラスに軽く唇を付けながらぽつりと殿下が呟く。この長い待ち時間の間に思うところがあったのだろうか。
しかし殿下はそう仰るが、殿下とコルネリア様の婚約者の座を賭けた決闘なわけだし。三十人なんて寧ろ少なすぎると思う。世の至宝と言っても過言ではないお二人の未来を頂けるかもしれないラストチャンスなんだから、もっとゼロが一つ二つ多くて当たり前なんじゃないだろうか?
「リオとコニーの婚約者になれる可能性があるなら私だって名乗りを上げるさ。」
「ハーディはもう婚約者だろ。」
「だから挑戦を受けるだけで済む。私を倒すのは骨が折れそうだ。」
冗談半分に言ったものの、内心は結構本気でそう思っている。
だってもしも殿下たちが別の相手を好きになっていて、その相手が同等以上に強い相手だったとしたら。決闘で勝つことは難しく、かつ殿下たちからの信頼や好意の獲得だって一からはじめなければならないという難易度なのだ。
それを考えれば私は信じがたいほど恵まれている。
「む……確かにそれはそうだが……。」
「リオたちの好意を得られた幸運に比べれば、決闘を受けるくらい甘んじて受けるとも。」
「……まったく、ハーディはずるい。同じ男で年下のくせになんなんだその余裕は。」
むくれたような殿下のジト目に緩みかける頬を全力で引き締める。努力虚しく三割くらいはにやけてしまったが、殿下を前に仏頂面よりは良いだろう。と、思うことにしておこう。うん。
にやけすぎて気持ち悪がられなければ良いのだ。
良いよね?
「いや……またやってしまった。すまない、俺はいつもハーディを困らせてばかりだな。今回の決闘についても本当は受ける必要なんてなかったのに。」
「リオ?」
「本当はこんな我が儘を言うつもりなんかないんだが……なかなか上手くいかないものだ。これからはきちんと気を付けるから、できればまだ嫌わないでほしい……。」
哀しげに苦笑される殿下に思わず眉間に力が入る。
なんといじらしい方なんですか貴方は。
そんな杞憂でもって悩んでおられるとは、なんたる不覚。天使殿下にそんな悲観的な考えを起こさせてしまうなんて一重に私のアピールが足りなかったからに違いない。もっと泰然と構えていただけるようもう少し私の思いも前面に出していかなければ。
だが全てをさらけ出すとドン引きされることは間違いないので、
申し訳ないが少しずつ様子を見ながら小出しにさせていただくことにしよう。気持ち悪い婚約者で申し訳ありません。
「リオ、私がリオを嫌うことなんて有り得ない。天地が返ってもそんな事は起きない。」
全くもって無意味な心配です殿下。あ、もしやこれがマリッジブルーというやつですか?マリッジブルーってどうやって解決していけばいいんだ?
前世の友人で何人かなってしまった子もいたが、結局話を聞くくらいしかしてあげられなかったから根本的な解決方法がわからない。一つ一つ心配事を話し合っていけばいいんだろうか。
「我が儘といっても、貴方のものなんて可愛らしい内容ばかりだろう。決闘も友人への紹介も難しいものなんか何もない。そんな些細なことでリオを嫌うなんて不可能だ。」
だから全然困らないしむしろ我が儘におねだりなんてご褒美でしかないんですが。
でも素直にそれだけ言っても説得力がないかもしれないので少々テンションの下がってしまった殿下の手をそっと取らせていただく。冷たくはないが暖かくもない。滑らかだが固い、王子の手だ。
感無量だな……じゃなかった、少なくとも緊張などはされていないらしい。そこまで身構えられてはいないようで安心した。
「好きな人の小さな我が儘なんて嬉しいだけだ。頼ってもらえれば幸せで甘えてもらえたら馬鹿みたいに誇らしい気分になる。同じ男なら分かるだろう?」
繋いだ片手に近付くように一歩分だけ距離を詰めて、見上げる殿下の瞳に囚われないように細心の注意を払いつつ出来るだけ優しく、似合わなさに寒気はするが可能な限り甘ったるく囁いて。大理石のように美しい指先に口付けることを、寛大な天使がお許しくださっていることは知っている。
「だからリオには好きなだけ我が儘を言ってほしい。そうして甘えて、私のこともたっぷり甘やかしてくれ。」
万能で有能な殿下は本来であれば私に頼る必要なんてないのだ。そもそも本来はコルネリア様の夫として頼られる立場の方なのである。一介の脳筋がしてさしあげられることなどたかが知れているだろう。だからそんな方に頼っていただきたいなんて分不相応に大それた望みであるのも分かっている。
だがその分、そうなった時は天にも昇る気持ちだし応えられれば心底誇らしい。
たとえそれがジュース買ってこいでも三回回ってワンと鳴けでも、私は全力でそれに取り組みたいと思うだろう。
つまり殿下が我が儘を言ってくださるということは、イコール私を喜ばせ、幸せにする行為なのだ。こんなにWin-Winな関係があるだろうか。いや、必要もない要求をしてくださる分だけ殿下のご負担が大きいとも言える。
そこを押してわざわざ私を喜ばせてくださる殿下のお気遣いには頭が上がらない。なんとお優しい方なのだろう。天使のようだ。いや、天使だったな。納得だ。
「……………………呼び方、」
わずかに視線を逸らされた殿下の項に見とれていたら、ぽつりと小さくこぼされる。ほんのり赤くなっているように見える耳がちょっと可愛い……なんて不敬なことが頭をよぎってしまった。
「……さっき、殿下に戻ってただろう。」
え?………………あ、さっきの中庭か?いや、だってあれは第三者向けというか奴等相手に話していたから、や、確かに殿下も一緒にいらっしゃいましたけど…………はい、すみません。確かにリオでなく殿下と呼びました。
「元に戻ってしまったのかもと内心ちょっとドキッとしたんだぞ。……だからちゃんと呼んで、もう一度さっきみたいな台詞を言ってくれ。」
「リオ、」
……殿下、貴方は私を喜ばせる天才です。私でさえ気付かない幸せの欠片をどうしてそうも簡単には見付けられるのですか。やはり貴方には私の簡単な思考回路なんて全てお見通しなのですか?…………大変光栄ですが、ほんの少し後ろ暗い部分もあったりするんですが、まさかそこまでお見通しということは……。
嗚呼、その挑発するような微笑みはもう少しでも良いので控えていただけないでしょうか。脳がとろけて陛下の前でとんでもないことをしでかしてしまいそうです。それに私の背後にいる挑戦者には一目たりとも見せたくありません。
「リオ、愛してる。絶対に離さない。リオのいない人生なんて二度と考えられない。どうか一生涯、私の傍に居てくれ。」
速やかに大部分の視線は遮ったものの、やはり完璧には間に合わなかったようだ。油断した。
かくなる上は、決闘中の有耶無耶の中で今の殿下の微笑みを見た不届き者の記憶は必ずや消し去って見せようじゃないか。
…………と、意気込んだものの、結局私の連勝は四で止まった。
何故なら五人目以降の挑戦者が全員棄権したから。
どうも初めの四人を全て一刀のもと気絶させてやったことで怖じ気付いたらしい。不甲斐ない奴等だ。
そんな半端な覚悟で殿下たちの人生を頂こうなどとんでもない話だ。軽んじるにも程がある。根性を叩き直してやりたいところだか棄権されてはそれも出来ない。記憶も消すことが出来なくなってしまったし散々な結果だ。
しかし兎も角、これで私の婚約者の座は安泰というわけだな。今後も気を緩めず、精進して守っていくとしよう。
まぁ今回の決闘騒動で数組の婚約にヒビが入ってしまったかもしれないが、婚約破棄騒動が再来してしまったとしても私にはもうどうすることも出来ないな。すまんね。
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