女神編・後編
いやいやいやまてまて、そうだ、よく考えろ私。冷静になれ。今ならまだ取り返しもつくかもしれないじゃないか。諦めるのはまだ早い。
兎に角なぜコルネリア様はいきなりそんな反応をされたのか?その時の状況をよく思い出すんだ。
まず現在の状況を整理しよう。
原因の究明に当たる上ではどんな情報も無駄には出来ない。
現場はここ、マハルバル家の邸宅で、シチュエーションとしては舞踏会だ。もう少し詳しく言えばマハルバル家は討伐で同じ班メンバーであり幼馴染であるラフィーニの生家で、私が少しでもパーティーに慣れるようにとなるべくささやかに開いてくれたものだ。有難い話である。
出席者も同じくマハルバル家御当主のご厚意でラフィーニをはじめとした士官学校の卒業生や在校生が多く呼ばれている。滅多に軍や学校から出てこない彼等ではあるが、今回に限っては私の叙任式見たさに王都に出てきている者も結構な数いるので集めるのはそう難しくないのだ。ついでに御当主は彼らにも伴侶を見つけさせようとお相手候補もたくさん招待されたようなので、幸いにして男ばかりという感じもまったくない。
士官学校から国境軍のレールに乗るとどうしても結婚から遠ざかるからな……親御さんたちも悩ましいところだろう。私も入ってから知ったが。軍服が凛々しいとご令嬢方からの評判は悪くはないんだが、どうしても出会いがな。私の事情はともかく、たまにはこういった機会があっても良いのかもしれない。
やや逸れたが、つまりは私にとってはそれなりにホームに近い環境である。コルネリア様が不快になるような態度を取る相手はいなかったはずだ。
では舞踏会がお嫌いなのか?
いや、会場に向かう間も着いた直後も非常に楽しそうだった。お贈りした腕輪に合わせたのだというそれはもう麗しいドレス姿でご機嫌に微笑まれていたとも。後に絵画の題材にされるだろう場面だったな。仕上がりはよくよく確認しなければならない。
それに仮に嫌いだったとしてもコルネリア様のお立場上、今更それを気取られるようなことはないだろう。
マハルバル家が苦手とか?
いや、当主へのご挨拶の時は普通だった……だが、ラフィーニの時は若干予兆があったか?
となると話し相手によるのか?
体調面では問題ないだろう。部屋の温度も湿度も許容範囲内だ。靴擦れもされていないしコルセットも平気だろう。女神はもともと必要ないほど素晴らしいプロポーションであらせられるしな。来たばかりだし雰囲気としてもお疲れという訳でもない。
やはり会話をした相手なのか?
ちなみにコルネリア様の名誉のために言っておくが、彼女は完璧な令嬢である。別に声のトーンが違うとか表情が固いとか、会話中に一瞬間が空くとかそんな分かりやすい反応で感情を気取られるようなことはない。
よって今問題としているちょっと微妙な雰囲気というやつは彼女と対面して会話したところで誰も気が付かないだろう。気付くとしてもご家族かアエミリオ殿下くらいではないだろうか?
だからコルネリア様は失態などなに一つされていない。
では何故私が気付いたのかと言われると、愛故としか言えないな。出会ってからの期間は短いが、私が注ぐ視線の粘度というか密度が濃いため……この言い方だと変質者のようだが決してそんなことはない。と思う。思いたい。やぶへびだったか?
ともかく、コルネリア様は完璧だし、私は愛故に、婚約者の変化を見逃さないようよく注視しているから気付いたということだ。
質問も反論も受け付けられない。
考察に戻ろう。
会話の相手ではというところまできたが、これは悪くない線だろう。
では具体的な相手だが、そう言えばたった今別れた夫妻にはなんの反応もされなかったな。だが、その前の士官学生の時はもやっとしておられた。
ということは、軍人系統がお嫌いなのか?
……て、私ももろ軍人ではないか。大問題だ。それは不味い。転職が必要だろうか?しかし英雄になってしまうからそれは結構難しいぞ。
いや、まだ年齢という線もある。うん。士官学生は基本的に若いからな。厳つい若者が苦手なのかもしれないしな。……私もばっちり厳つい若者ではないか。大問…………落ち着け。まぁ落ち着こうじゃないか私よ。堂々巡りしているぞ。時間がないのにいちいち自分に当て嵌めていたら進まないだろう。
それに自分に都合の悪いパターンを除外して考えるのは悪手だ。とりあえず自分のことは棚上げして原因の究明を目指さなければ。
丁度あそこに士官学校の教官殿がいる。軍人系統だがそこそこ年配だから、コルネリア様には申し訳ないが少し検証させていただこう。
……駄目だ。もやっとされている。やはり軍人ということなんだろうか?任命を受けない方が良いのか?コルネリア様が不満を抱えるよりは軍人を辞める方が遥かに良い。
しかし、教官殿はラフィーニの時よりは反応が少なかったように感じる。教官殿もまだまだ体格や気配は現役軍人と変わらないものを維持されているからあまり違いはないと思うが……。汗臭さか?いや、いくら士官学生でも貴族は貴族。こんな場所でむさ苦しさを引き摺るような奴はいない。それに一見して軍人系統とはわからないような後輩でも駄目だった。
では一体なにが…………?
「ドニ。」
「イハダド先輩!」
少し離れた位置から呼び掛けられ、振り向けば見覚えのある二人が笑いながら此方に向かってくる所だった。
男女のペアだが、同じ髪色によく似た顔立ちのために並んでいても恋人に間違われることは少ないだろう。
「コルネリア様。彼らはアンノーノ家の兄妹です。」
「お初にお目にかかります。兄のレオンです。」
「妹のシエラです。」
この二人は伯爵家の長男長女で、中央寄りの領地にも拘らず何故か士官学校に来た変わり者でもある。兄の方は私と同じタイミングで卒業したが、所属が別れたから顔を合わせるのは暫くぶりだ。
どちらとも何度か合同訓練で一緒になったが中々の腕前だった覚えのある良い兵士だ。
つまり、コルネリア様がもやっとされる可能性の高い人間ということである。
「はじめまして。コルネリア・プブリウスと申します。」
いつもながら素晴らしい笑顔です女神。何度見てもその目映さに慣れる気がしません。隣にいると正面からしっかり見られないことだけが悔やまれます。今日だけで何度チャンスを逃したことか。でも横顔も大好きです。
「……あのドニがこんなにも美しい方を婚約者に迎えるなんて思ってもみなかったなぁ。」
簡単な挨拶だけ済ませると兄のレオンがしみじみとそう呟いた。
私だって思わなかったとも。まさに青天の霹靂さ。
折角の機会だからレオンも女神の美しさでしっかりと心を清めていくと良いぞ。
「でも先輩はもうすぐ英雄ですもん!それくらい格好良ければコルネリア様だって好きになっちゃいますよ。ね?コルネリア様?」
「フフ、もちろんですわ。」
それ本当ですかコルネリア様!?
信じますよ?本当に英雄叙任受けちゃいますよ?大丈夫ですか?嫌だったらすぐにでも返上しますから言ってくださいね?
だが確かに今コルネリア様はなんの陰りもない笑顔だ。無理をされている様子は全くない。
しかし、そうなると軍人も士官学生も問題ないのか?
コルネリア様はなにが気になっているんだ?
…………なんて、思った私をぶん殴ってやりたい。
仮にも五十年間も女をやっていたくせに私はどうしてこんなに女心に疎いのだろうか。恋愛脳が干からびているにも程がある。だから五十年間も結婚と縁がなかったのだと反省せざるを得ない。
あれから少しアンノーノ兄妹と話したが、コルネリア様の反応があった台詞に着目してみれば答えは自ずと絞られていたのだ。
コルネリア様がもやもやを感じる内容はいくつかパターンがあり、例えばレオンからの「ドニ」という呼び掛け。これには一瞬反応されるのだが、対してシエラの「イハダド先輩」には反応が薄い。それ以外だと私とレオンの冗談めかしたやり取りや、訓練中の失敗を茶化すような会話なども反応があった。
そこまで来てやっと、漸くぼんやりとコルネリア様が考えていることが見えてくる私の鈍さよ。
私の頭は回転速度は悪くないくせに全くもって方向性が狂っているからいただけない。困ったものだ。
ヒントをかき集めた結果、恐らくだが、畏れ多くもコルネリア様は私との間にある距離を縮めたいと感じてくださっているのではないだろうか?
例えば、愛称で呼び合ったり冗談を言ってみたりだとかの。
だからこそレオンやラフィーニ、ひいては軍人系統の、特に私と年が近い友人達との会話に反応されていたのだと思う。その辺りと話す時は私もそれなりに砕けた調子になっているだろうし。
女性からの呼び掛けよりも同期の男友達に反応されるなんて私の好みに疑いが掛かっているのかとも思ったが、幸いにも違った。
私からの「コルネリア様」という呼び掛けにも反応されていたと気付いた時はいよいよ首を括ろうかと絶望しかけたが、そのような結末にならなくて本当に良かった。
それにしても、私の女神はなんて繊細で素直で女性らしく可愛らしい方なんだろうか。愛称呼びに憧れたり親しげな友人にやきもちを焼くなんていう余りにも少女らしい少女っぷりに何だか私の方が照れてしまうな。
私にもこんな初々しい時代があったのだろうか?
いや、コルネリア様と私を比べるなんて月とダンゴムシを比較するようなものだ。愚の骨頂だろう。実に無意味な思考だったな。
自分と親しくなりたいんじゃないかなんて一歩間違うとかなり自意識過剰な推測だが、私の願望を除いてかなり冷静に判断してもおそらくコルネリア様は私のことを好いてくださっているだろう。
なので仮にこの推測が間違っていたとしてもそこまで嫌がられることはない、と信じたい。気持ち悪がられたりなんてことはないはずだ。もし気持ち悪がられたりしたら………………死ねる。
いや!女神は女神だし!あんなにお優しいんだからそんなことは思われないはずだ。きっと大丈夫。あんなにも…………あんなにもお優しいのに気持ち悪いとか言われたら……………………………………………………………………………………………………………………………………駄目だ、考えたら駄目だ。大丈夫、きっと大丈夫。コルネリア様を信じよう。女神の愛を疑うなんてあり得ない背信行為じゃないか。大丈夫、絶対に大丈夫……コルネリア様なら大丈夫……。大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫きっと大丈夫全然大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫犬丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じる信じれ信じろ信じる信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じろ信じる信じられる大丈夫、私は信じられる。コルネリア様なら信じられる………………よし!大丈夫、信じられる!
私の信仰は今試されているのだ。
覚悟を決めろ、コルネリア様に不安を抱えさせたままで良いわけがない。失敗しても挽回のチャンスはある!……と信じないと踏み出せない。息を吸って、吐いて、とにかく落ち着いてはっきり話せよ私。
「……コニー、」
「!」
南無八幡大菩薩、私の女神様、天使様。どうか嫌わないでくださいね。嫌われたら言わずもがなな結果になりますからね。
「私が……貴女を、コニーと呼んでも良いだろうか?」
振り向いたコルネリア様の目を見つめ、ついに言い切ってしまった。もう取消しは効かない。
場所はアンノーノ兄妹と別れてすぐ休憩の為に誘ったテラス。二人きりで話すシチュエーションとしては悪くない。予想を外してしまった時に笑って流してもらえる確率が少しでも上がるよう、この爽やかな夜風がコルネリア様の気持ちを多少なりとも持上げてくれることを願うしかないな。
「私もご家族や殿下と同じくらい、貴女に近い存在になりたい。」
愛称呼びとか実際やってみると緊張しすぎてくらくらする。たった二文字なのに噛みそうだ。おまけに丁寧語まで外すなんて早まりすぎただろうか?自分の心音が鳴り響いて五月蝿すぎる。
私を見上げるコルネリア様は美しいし一秒は長いし柔らかな月光の中の女神は美しいし沈黙は怖いし見開かれた大きな瞳で私の心臓は貫かれそうだ。やけに口が渇く。なんでも良いから二三杯飲んでから言えば良かった。今なら消毒用アルコールでも飲める気がする。
でも、もしかしてコルネリア様が近づきたいと考えてくださっているかもと思ったら、なんだか私も無性にそうしたくてたまらなくなってしまうから不思議だ。
僅かでもいいから女神との距離を縮めたいなんて凡夫には過ぎた望みだとわかっている。それでも願望に気付いてしまえばもやもやするし、だからって段階を踏んで少しずつ詰めていくなんて無理だ。何度もこの緊張を味わうなんて私の心臓がもちそうにない。だから一か八かでどうせなら全部一気にやってしまおうかと思ったわけで。
はっきり言えばただのヤケだよ。
「どうだろうか。駄目ならばすぐに元に戻しますコルネリア様。」
「コニー!私のことは是非コニーとお呼びくださいませ!」
慌てながらいただいたお許しの言葉に張り詰めていた緊張が一気に弛むのがわかる。女神からの福音だ。
良かった…………本当に良かった。とりあえずコルネリア様との未来だけは守られた。ついでに私の命も。今のやり取りで寿命が縮んだかもしれないが、コルネリア様を残しては逝けないので健康維持には細心の注意を払おうと思う。
それにしても、びっくりおめめのコルネリア様もなんと可愛らしい。そんなに開くと只でさえ大きな瞳がこぼれ落ちそうですよ女神。勿論、万が一こぼれ落ちてしまっても私が責任を持ってエリクサーでもなんでも入手してくる所存ですのでご安心ください。
「どうしてイハダド様は私の考えている事がお分かりになりましたの?私、そんなに分かりやすいのかしら?」
「いや……ただ、私がそうしたいと思ったからもしかしてコニーも、とは思った。」
だからそんな困った顔をなさらなくて大丈夫ですよ。わかったのは私がコルネリア様フリークの変……ゴホン、愛故です。愛ゆえ。
どちらにしろ引かれたら嫌なので言わないけども。
「それなら私もイハダド様を愛称でお呼びしたいです。もっとイハダド様に近づきたいですわ。」
大歓迎です。コルネリア様にならポチでもシロでも豚野郎でもなんでも構いませんとも。お好きな名前でお呼びください。期待に満ちた瞳の煌めき最高です。
「友人や家族は大体ドニかドニーと。」
ワンパターンなのは幼なじみのラフィーニがいつも側で呼んでいるからだ。なんだかんだで同じ進路を辿っているから学校でも国境軍でもどこに行っても同じものが定着する。呼ばれる方としては覚えやすくて良いけど。
他にもあるが、あとは殆ど悪口というか嫌味のようなものなのでわざわざ言う必要はないだろう。
「………………でしたら、ハディ様とお呼びしても?」
「もちろん。」
なんとでも。だが、何でまた別の呼び方にしたんだろうか?私の名前から取っているのは分かるが、
「これなら私だけの、特別な呼び方ですわ。」
うふふって、ちょ、なにそれかわいい。
え、なにこの子ちょうかわいい。花丸笑顔でなにをそんな可愛らしい……え?もしかして独占欲?え、私に?本当に?まじで真実に?からかってるとかではなく?
今のすごいキュンときた。私のツボをクリティカルヒットで狙い打ちなんですが。というかむしろ連打され続けて胸が痛いです。
「でも、ハディ様はお母様達やリオ様と同じにはなりませんわ。」
…………え?
「だってハディ様はもっとずっと、私と一番近くなる方ですもの。」
本当に、コルネリア様は私を殺しに来た刺客とかじゃないんですよね?今の台詞もそうだし、さっきから心臓が止まったり早まったりとんでもないことになっているんですが。この不整脈でよく生きてるな私。
頑丈な身体に産んでくれてありがとう母上。女神の為にしっかり役立たせてみせます。
「……一番になってくださいますよね?」
「なる。すぐにでも貴女の一番になりたい。」
死んでもその座は守りますっ!!
貴女のその上目遣いで既に瀕死ですが!!
不整脈なんて屁でもありません。アンデッド化も体が腐らないヤツで検討しておきます。
「他の誰にも渡したくない。」
コニーと呼んで、本当なら目一杯抱き締めたいところを額へのキスで我慢する。結婚前にけしからんなんて言われて婚約を取り消されたら正気でいられる自信がない。
やめてください女神。キスだけでそんな可愛らしく羞じらう姿を見せられたら私の残り少ない理性が限界です。見えないよう背後で握り締めた拳が悲鳴をあげっぱなしで痛い。と思ったら指の骨が折れる感触がしたが、コルネリア様に気付かれないようきっちり防音と回復の魔術で対応出来たので問題はない。セーフだ。
痛みで一秒でも崩壊のカウントダウンを遅らせることが出来るなら骨折も吝かではないと思う私はそこそこ末期かもしれない。
正直、こんな頼りない理性では結婚後ストッパーが外れた時が心配だ。コルネリア様を傷つけでもしたら私のような矮小な存在では償うことすらままならないというのに……不安すぎる。
嗚呼でも女神に魅力を制限してもらうことなんて不可能だ。そこに存在しているだけで常に麗しさの極みなのだから、行動を全て制限してもらったところで意味がない。
今だって…………なんなんだ、名前の呼び合いとか。呼ぶのも呼ばれるのも嬉し恥ずかしとか……清らかすぎる……!
年齢だけを重ねたつまらない大人の記憶がある私には相応にダメージも加算されているが、そんなものはコルネリア様の楽しげなご様子で回復されて相殺できる範囲だ。寧ろプラス判定。しかしそれだとこれ無限ループでは。なんて幸福なループだろう。
この純情さの百分の一でもかつての私に備わっていれば…… いや、コルネリア様と私を比べるなんて女神とポンコツ脳筋を比較するようなものだ。愚の骨頂だろう。実に無意味な思考だったな。……ん?今のは比喩になっていなかったか?……うん、ただの事実だったかもな。失敬。もう思考もループしてしまっているようだ。
とりあえず、名前の呼び合いはコルネリア様がご満足されるまでは続けよう。可愛いし。
後はふとした時に愛称呼びを忘れてコルネリア様が悲しむことがないよう、脳内の常時気を付ける事リストに念入りに書き付けておかないとな。
コルネリア様の一番へ一歩でも近付く為にな!
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