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後編


「十年前になるでしょうか。私はエフェソ侯爵邸で開かれたお茶会でお会いしましたの。」


 エフェソ侯爵のお茶会と言えば……どれだろうか。

 確かにあの家には小さい頃何度も連れていかれたが、派手好きで催し物好きな家だったから思い出もごちゃごちゃに混ざっている気がする。招待客も多かったから公爵家が参加されていても不思議ではないけど。


「あの日は庭に緑の迷路をお造りになったとかで、皆様と一緒に散策させていただきましたわ。」


 迷路と言うと、姉上が迷子になって兄上が救出に行って結局二人とも出られなくなったあれか。

 あの時は本当に参ったな。初めは純粋に楽しかったが子供どころか一部の大人まで迷うような本格的な造りで迷子が続出。おかげで何故か迷わなかった私は救助隊がわりに何度迷路の中を周回させられたことか。最後の方はうんざりして壁代わりの生垣を突っ切りたくなったものだ。


「一度は皆様と一緒に問題なく出口へ辿り着くことができたのですけれど、後からイヤリングを落としたことに気がつきましたの。一度通ることが出来たから大丈夫と思って探しに入ったのですけれど、案の定迷ってしまいました。」


 公爵令嬢の自分が迷子になっては大変な騒ぎになると思われたコルネリア様は助けを呼ぶことを躊躇い、なんとか自力での脱出を試みたらしい。

 おまけに迷子のきっかけが落とし物で、なおかつそれが皇女なお婆様からの贈り物だと分かった日には、最悪迷路の木を全て切り倒してでも捜索が行われただろう。催し物自体が非難されてエフェソ侯爵に何らかのペナルティが下ることも、多少大袈裟かもしれないが無いでもない。


 諸々の事柄を考えてひとりで頑張ろうとするなんて、女神は小さくてもやはり女神だというのか。なんとお優しく思慮深い……同じような壁ばかりの出口も分からない迷路の中でさぞかし心細かっただろうに、ご自身の持つ影響力をよくよくご理解されていたのだろう。


 しかし、この話の流れからすると、


「その時に、私を助けてくれたのがイハダド様でしたの。」


 私、GJ。

 幼い女神を知らない内にとは言え助けることが出来ていたなんて私の今までの人生で最も素晴らしい働きであったと言わざるを得ない。人生史の中で太字で特筆すべき出来事だ。


 全く覚えてはいないが。


 そう、全く覚えてはいないのだが。


 何故だ?女神の幼少期なんて愛らしさの極みを軽々と超えていた筈だ。それなのに少しも記憶にないなんて信じられない。あり得ない。記憶喪失なの?でなければ私の頭にはおが屑でも詰まってるんじゃないだろうか?本当は脳筋どころか筋肉なんて上等なものは入っていないのかもしれない。悔やんでも悔やみきれない。

 その時の私を褒め称えたいやらぶん殴りたいやら。


「優しく手を引いて一緒にイヤリングを探してくださった男の子に、幼いながらも胸が高鳴るのを感じましたわ。」


 とは言え、その頃には既に殿下との婚約が準備されかけていたのをご存知だったコルネリア様は、その淡い初恋を誰にも言わないままそっと胸に秘めていたらしい。


 なんというピュアな……!相手がおが屑脳の私であるのが信じられないような少女漫画テイストな話だ。


「それで、殿下には申し訳なかったのですけれど、やはりずっと気になってしまって…………時々家来に命じてイハダド様のご様子を伺わせていただいていましたの。」


 頬を染めた照れくさそうな微笑み最高です。ありがとうございます。

 前世では純愛とストーカーを履き違える輩が多かったが、コルネリア様に関しては間違いなく純愛だ。少女の可愛らしい純情さを疑う余地がない。

 大分大きな権力が付随した避けようのない監視に近いという意見もあるかもしれないが、それは邪推というものだろう。

 女神のなさることは全て正義なのだ。


「不思議なものだが、お互いの気持ちが明らかになってからは以前よりも随分親しくなってしまってな。」


「まさか婚約者のリオ様と好きな人の話をするなんて思ってもみませんでしたわ。」


 今「ねー♪」ってやった。絶対やった。私の妄想ではない。間違いない。

 二人してちょっぴり小首を傾げるとかなんなんだ?ご褒美か?それともキュン死狙いか?私ならされかねませんけど。


 二人とも育ちが良すぎるほど良いからどんな仕草ひとつ取っても上品で困る。あざとさが欠片も感じられないせいで脳内ハートマーク状態から正気に戻れそうな切っ掛けが全く見つからない。

 ビデオが無理ならもう画家でいいんで3ダースくらい連れてきて。ローテーションでスケッチさせるから。


「しかし、いくら気持ちが通じあったとは言え、イハダドと結ばれたいなんてことは流石に我々も考えてはいなかったのだ。」


 通じあったって……なんだか使い方が間違っている気がするが、女神も納得されているようだし私の気のせいだろう。


「寧ろ、気の合うコニーとの婚約を取り止めるなんて思い浮かびもしなかったよ。」


「二人でずっとイハダド様のご活躍を応援しましょうと約束もしていたんですのよ。」


 え、お二人からの応援とか無敵の呪文に等しいと思うんだが。

 この世界って魔王とかいましたっけ?


「ところが、な。」


「えぇ。本当に驚きましたわ。」


 思わせ振りな殿下の言葉にコルネリア様が深く頷く。

 順調に結婚への道を進まれていたお二人にその考えを改めさせた出来事とはつまり、姉上達が激怒していた例の人型台風の発生だろう。今回の婚約破棄ラッシュの序章とも言える。


 一人の男爵令嬢を取り囲む何人もの令息令嬢、その顔ぶれの中には殿下の周りを固めるような高位貴族も少なくなく。

 乱れ飛ぶ甘い言葉とプレゼント。陰に陽に行われる潰しあいの牽制合戦。結果として低下していくモラルとマナー。


 狂乱のお花畑集団と、それに反比例するかのようにネガティブな空気が流れるお花畑集団の婚約者たちとそのご友人方。

 関わりの薄い生徒たちの失笑も多分に含まれた学院の中はさぞかし過ごしにくい空間だったことだろう。


 学年の初めから予兆はあったらしいが、夏頃にはいよいよその少女と取り巻き達の醜態が顕著になってきたのだそうだ。


「友人たちの問題行動もはじめは些細なものだったのだが、諌めても一向に止める気配がなくてな。」


 収まるどころか逆にエスカレートしていくそれは徐々に奇行と大差ない程になり、ついに前代未聞の珍事へと発展していったそうだ。


 本人達がそんな状態では殿下を含めた周囲がどんなにフォローをしても蔑ろにされた婚約者たちの心が離れてしまうのは止めようがなく。

 両者の決裂がどうしようもなくなったのが秋の終わり。

 最終的な結末を決めて殿下が動き出したのもその頃だという。


 で、事態の収拾を図る一方、この前代未聞の珍事は叶う筈のない願いが叶うチャンスなのではとの閃きを得た殿下は同じ望みを持っていたコルネリア様を説得。進行中の収拾プランを一部変更すると水面下ながら学院全体に築いた協力体制を使って個人的な希望が通りやすくなるような操作もちょっとばかりやっておいたんだとか。


 友人たちを切り捨てる計画をしながらちゃっかり自分の恋愛についても混ぜ込んでしまえるなんて素晴らしい計画立案能力ですね。

 そんな抜け目ない殿下が素敵です。


「しかし、たった一人にそこまで皆が夢中になるとは……。それほど魅力的な方だったのですか?何か突出した特徴でも?」


 というか、女神と天使が同じ空間にいるというのにお二人以外に惚れるとか意味がわからない。そんなに全員節穴なのか?

 ぶっちゃけ正気か疑わしいと思……は!あまりにもお二人がお似合いすぎて自分たちの相手としては想像すら出来なかったとかか?


 十分あり得る。いや、間違いなくそれだ。

 全員節穴なんて疑ってしまうなんて失礼も甚だしかったな。


「特徴か……そうだな、彼女は明るく快活なところはあるが基本的には人が良いくらいで特徴らしい特徴はなかった、と思う。成績もごく普通だろう。容姿は個人の趣味によるものだろうから一概には言えないが、俺はコニーの方が良いな。」


 女神と人間を比べるのは酷というものです殿下。

 同世代の少女をコルネリア様と比べたら性格も成績も品性も容姿も何もかも全て取るに足らないレベルであると私は確信しています。


「彼女は女性らしく小柄で可愛らしくて、とても人懐っこい方でしたわ。おおらかな性格で誰にでも分け隔てのない接し方をなさいますから、多くの人に愛されたのだと思います。」


 女神は多くの人に信仰されてるんですよね。わかります。

 私も常に祈りを捧げています。だから見捨てないでください。


「ただ、人間関係には好みや状況といったものはありますから、距離を詰めすぎだと感じる方がいらっしゃるのは仕方がないことだと思いますわ。」


 コルネリア様はオブラートに包んでらっしゃるが、それはつまり、相手の階級にあわせた敬意の表し方が甘いという認識で合っているんだろうか?二重言語解釈できてる?


 だって貴族の人間関係の中で、しかも下位貴族の子女があの正学院で「誰にでも分け隔てなく平等」って結構な問題があると思う。

 超実力主義の脳筋士官学生だって学校の中では出自なんかぐちゃぐちゃだが、一歩敷地外に出れば外部の人目を気にして各々階級にあった態度を取り繕うくらいはするのだ。この国ではその住み分けが当前のものとして根付いているんだから。

 それがお貴族様々な正学院ならば学生の身分とは言え気にしない訳がない。多少緩くはなっているかもしれないが、越えられない壁が絶対に存在しているはずだ。


 そこを越えての平等ってことは、爵位も領土も関係なく同じ態度ってことだろう。

 悪くすれば殿下にやぁ殿下!って挨拶しちゃう可能性もなきにしもあらず。


 …………なんという由々しき事態だ。天使殿下が汚されかねない。今すぐ成敗しに行かなくては。

 いや、もう殿下が処理済みなのか。さすが殿下。素晴らしい手際です。


「もっとも、好意を持っていた者たちはその対応の新鮮さと物怖じしない物言いも気に入っていたようだぞ。」


 随分のろけを聞かされたと思い出し笑いをする殿下萌え……じゃなくて、殿下がそんな庶民よりたちの悪い令嬢に引っ掛からなくて本当に良かった。取り巻き共も耳から洗脳しようとすんな。

 天使殿下の隣にそんな頭ゆるゆるで図々しさ丸出しみたいな女が並んでいる結婚式なんて見たら私は発狂していたかもしれない。

 取り乱して斬りかかって私の首に縄がかかる光景が目に浮かぶようだ。


 いや、その彼女がコルネリア様と並ぶほど美しい可能性も天文学的な確率だがないとは言えないかもしれないが、恐らくないだろう。

 だってそれなら評価に「とても美しい方だ」くらいは最低限あって然るべきだ。容姿の説明で可愛らしいなんて半端な形容のみのはずがない。


 少なくともコルネリア様と並ぶほどであるならまず間違いなく万人が美しいと褒め称えずにはいられないし、それは最早自然の摂理に等しい。抗うことは不可能なのだ。

 鏡を見慣れているお二人は別かもしれないが。

 まぁ、姉上達だって何も言っていなかったのだから、所詮その程度の容姿であることに疑う余地はない。


「便乗して婚約破棄に持っていくために最後の方では俺も少し彼らに混ざってみたのだが、なんというか……すごい体験だったぞ。」


 彼女の取り巻きに加わった殿下が経験した問題行動をいくつか教えてもらい、そのトンデモぶりに改めて驚く。

 しかし、トンデモ行動も殿下がなさるなら劇の一幕のようだったに違いない。神々しすぎて目にした者達だって誰も問題視なんかしていないだろう。

 羨ましい。私もその場で見たかった。もう二度とそんな行動はなさらないだろうからプレミア物なんだぞ?間近で見たお花畑集団が妬ましい。


 それにしても、姉上達から前に聞いた時はあまりの非常識ぶりに話し半分であまり信じてはいなかったが、まさかすべてが事実なんて思ってもみなかったな。

 殿下の精神が汚染されることなく無事に終えることができて本当に良かった。


「やはりリオ様には不名誉な出来事になってしまいましたわ。いずれ皆真実に気付くと思いますが、それまではリオ様に不快な声が届くかもしれません。」


「それよりも、俺自身がイハダドと共にありたかったのだから多少の無茶は仕方がない。それにコニーに代わりをさせるなんて死んでも御免だ。」


「そんなこと仰ってもし酷い言葉に傷付かれたらどうしますの?リオ様は昔から強がりなんですもの、絶対に隠してはダメですわよ?」


「分かっている。」


「本当に?」


「隠さないよ。ちゃんと相談するから。」


「絶対ですわよ?」


「分かってるって。コニーだって計画には納得してくれたじゃないか。」


「リオ様が嘘を吐く心配だけはずうっと消えませんわ。」


「……イハダド、貴方からもなんとか言ってやってくれ。」


 騒動云々よりも何よりも、コルネリア様に作戦内容を了承させるのが一番大変だと殿下は困ったように私に助けを求めてくる。


 私はむくれるコルネリア様にKOされないようにするだけで精一杯なので殿下までそんな可愛らしい表情で萌え死にを誘発するのは程々にしてください。でも程々には拝見させてください。


 仲良し幼馴染のイチャイチャ最高です。ちょっと子供っぽい女神の威力やべぇ。この光景の中で死にたい。


 いや、まだ死ねない。

 未練でまた転生しかねないわ。

 頑張れ私の平常心。全ては君の耐久性にかかっている。


「コルネリア様。殿下ならば大丈夫です。」


「イハダド様……、」


 気力を振り絞って会話をしているのにその表情は反則です女神。

 ……あー。殿下のことですよね、えぇ。承知しておりますとも。あとコンマ三秒で立ち直ります。はい。


 確かに醜聞で評判を落とした上、王族でありながら婚約を破棄されるという出来事は著しいマイナスポイントだろう。心ない者たちや考えの足りない輩がずっとその部分を蒸し返し続けるのも簡単に想像がつく。


 だがそれがペナルティになりえるのは、それが普通の貴族や王族だったら、という条件付きであることは私にも分かる。

 殿下ならば全くなんの影響も及ぼさないだろう。

 何故なら殿下は人類とは一線を画す天使なのだから。

 そもそも天使殿下の評判や評価はそんなことでは傷一つ付かない。


 と、言い切ることも勿論可能だが、そうでなくともあまり心配しすぎる必要はないと思う。

 なんといっても殿下には能力も権力も十分あるのだ。

 今回だって超ハイリスクなはずの婚約破棄を選んだにもかかわらず、学院の内外でその二つの力を上手に使って当たり前のように最も望んでいた結果を掴み取っている。涼しい顔でそんなことが出来る時点で殿下という方の価値は明らかだろう。


 王族という血筋も殿下自身の能力もそうそう変わることはないのだから、一時的に評判が揺らいだところでその輝かしい才能によってすぐ元通り以上になるのは間違いない。

 であればわざわざ蒸し返して殿下の不興を買うなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ないのだ。すぐに皆口を閉じるに決まっている。


 それに殿下は天使ではあるが、どうも話した感じでは随分と強かな小悪魔的要素もお持ちのよう。

 だからおそらく殿下と付き合うことで得られるメリットすら理解できないような取るに足らない外野の中傷など豚の鳴き声ほども気になさらないに違いない。

 聞くに値しない声がどれだけあろうとも、殿下のダイヤモンドのように美しい心を傷付けることは出来ないはずだ。


「殿下にはコルネリア様という素晴らしい方が傍に居られます。それだけでもどれだけ心強いことか。」


「ですが、」


 もちろんそれは長年共におられたコルネリア様の方がよくご存知だろうが、やはりお優しい女神の心配を拭いきることは出来ないのだろう。

 だって貴族の大人は海千山千。今回の顛末が裏を含めて公然の秘密として認知されたとしても、老獪な彼らが一度見せた弱味を使ってどんな風に足元を掬いにくるかは予想もできない。

 コルネリア様が恐れているのもそちらだろう。


 しかしもう賽は投げられてしまったわけで。

 後はもう心配するより殿下に心置きなく頼っていただけるような関係を作る方が良い。

 結局すべてのリスクを消しきることなんて出来ないしな。


「私も殿下をお守り出来るよう全力を尽くします。共に殿下を支えて行きましょう。」


「まぁ!それはつまり……?」


 頑張ってなるべく優しい笑顔を向ければその百万倍の眩い笑顔を返してくださるコルネリア様に見とれずにはいられない。

 今から殿下にプロポーズするんで私を機能停止させるのは待ってください。


「ちょっと待ってくれイハダド。押し掛けておいてなんだが、俺の件に関してはあまりにも唐突な話だろう。勝手な言い分であることは分かっているし、リスクだって大きい。もっと慎重に」


「殿下。」


 今更それは言いっこなしですよ殿下。

 もう待ったは利きません。


 相手が私であることだけが全く理解できないが、だからと言って憎からず思える相手にここまでしてもらって知らん顔が出来るわけがない。

 むしろこの降って湧いた幸運を掴まないなんて悟りでも開かない限り無理だ。


「殿下にそこまで想っていただけるなど無上の喜びでございます。」


「だが、」


「貴方に望んでいただけるなら、私に否やのあろうはずがございません。」


 畏れ多すぎるし俄には信じ難いが、オーケーと言って貰えているのにチャンスを逃がせるほどの余裕はない。

 貰えるというならガツガツ捕りに行きますよ私は。私にとって貴重な恋の相手は今のところ暫定で世界で二人しかいないんだから愛せるのは間違いないわけだし。もう既に好意だって十分ありますし。

 ここで殿下を諦めるなんて不可能な話だ。


「私は貴族のくせに粗暴で、戦うことにしか才のない者です。おそらく殿下のしてくださった行動の意味も苦悩も、正しく理解しきれてはいないでしょう。ですが、それもすぐに貴方に釣り合うだけの能力を手に入れて見せます。」


 だから絶対逃がしませんよ。代わりに私は身命を賭してもお二人の生涯を幸せで埋め尽くすことを誓います。頑張ります。なんでもします。絶対やり遂げてみせます。

 脳筋ポジションも返上しますから。


 先ずはその証明の第一段階として格好つけてのプロポーズだって有り難くやらせていただきます。

 似合っていないのも二度目の告白にもかかわらずぎこちないのも自覚済みです。

 でもそんな奴をわざわざ選んじゃったんですから殿下も諦めてコルネリア様と一緒に辺境へお嫁に来て下さいね。


「どうか、私の伴侶として生涯を共にしていただけないでしょうか?」


 アエミリオ様と、可能な限り真摯に努めて呼び掛ければ殿下の瞳がじんわり潤みだす。

 そしてご自分の美しい手を私の差し出したそこに乗せてくださった瞬間に溢れる宝石のような一粒。


 多分、たった今私は不老不死になったと思う。ちょっと後で試してみる。


 その後、重ねた私の手を引き寄せて抱き締める殿下のいじらしさに暫し回路がショートしていたのだが、思考が戻った時には何故か腕の中にお二人を囲っていてものすごく焦った。


 だって私の膝の上に半泣き涙目の天使とそれを横から抱き着くように支える女神の光景が。私の膝の上に。どうしようこれ白昼夢?それとも幻覚?いよいよ脳に異常が?筋肉におが屑混ざったからついに壊れた?でも質量あるよな?それも錯覚?本物と思ってもいいんですか?!


 もう何だって構わないけどなんにしてもやべぇ神々しい。目の前がキラキラチカチカして視界でハレーションがおきそうです。

 おまけにその二人が私に弾けんばかりの笑顔も向けてくれるなんてここは楽園か。楽園だな。天使と女神だし間違いない。


 しかも完全独占状態とか。

 夢のようなんですが。

 本当に?嘘じゃない?目が覚めたら実は血の池地獄に居たとかないですよね?


 いや、仮に夢でも私はこの夢が覚めるのを全力で阻止する。例え誰かがこのエデンを壊そうとするならその全てを返り討ちにして見せるとも。

 私はこの楽園を脅かすあらゆるものから必ずや私の理想郷を守り通してみせる!







 …………と、フラグを立てたのが不味かったのか。

 コルネリア様に加えてアエミリオ殿下という類い稀に高貴なお方を二人も同時に迎えるには余りにも私が不釣り合いすぎるという、至極尤もな待ったが母上達からかけられ。


 だからと言って今すぐに昇進も叙爵も出来ないので本当は待ってもらうしかないのだが、母上達だってお二人の想いを無下にしたい訳ではない。騒動で社交界が浮わついていることもあってお二人に拠り所を確保してあげたいのも本音のひとつ。


 悩める愛妻たちの様子を見てじゃあ地位が無理ならせめて功名の一つも立ててこいと、我が家の家長殿に未踏破ダンジョンへと単身放り込まれるのはまた別の話。


 くそっ……結婚とは、なんて厳しい道程の先にあるんだ……。





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