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彼らに明日は来なかった。  作者: ヤブ
第一章「三回目の『今日』」
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Tell me?

 六時間目は英語だ。俺にはわかる、今回の英語は楽だ。何せ、今回で三回目だからな。何なら、答えだってわかる。


 今日は、班に分かれてプリントをする。それも中1にでも出来る、簡単なプリント。先生は一体、何を考えているんだと思う。先生いわく、「簡単な単語こそ、受験で書けないことがある。それを防ぐために、皆でこのプリントを完成させてほしい」だそうだ。そうならば一人一枚ずつ渡せば良いと思う。その方が一人一人が覚えられるだろう。わざわざ班に一枚というのには違和感を感じるが、その分楽になるからいいか、と思う。


 班は一班五人。それが六班ある。つまり、俺らのクラスは全員で三十人というわけだ。一応、三学年の中では一番人数が多い学年である。都会に行けば、このクラスが五個か六個くらいあるのだろうか。そう考えると、田舎で良かったと思う。


 机を班体形に動かす。俺は由子の隣だから、同じ班だ。いつもは隣にいる由子が目の前に来る。


「誰がプリント書く?」


 同じ班の女子が言う。俺は字が汚いから書かない。『二回目』の時に同じ班の生徒にからかわれて、散々痛い目に遭っている。


 けど、誰も書こうとしないんだよな……。


「私が、書く」


 そう言ったのは、俺の目の前にいる由子だった。

 ……変わってる。


 俺はそう思った。『一回目』の時、誰も自分から言わなくて、結局じゃんけんで決めることになった。今回もそうなると思っていたのだが、まさか由子が手をあげるとは。何か、『二回目』と変わったことがあるのか? そうだ。音楽室でピアノを弾いた。ついさっきのことなのに、もう忘れてしまっていた。


 もしかして、ピアノを弾いて気分が良いのだろうか。


「あ、小倉さん? はい」


 女子生徒が由子にプリントを渡す。由子はプリントを受けとるとすぐに記入し始めた。他の三人はそれを見て手伝わなくても良いと判断したのか、お喋りを始めた。俺は由子が机に向かう姿を見ることにした。


 さっき、あの女子は由子の事を自殺女ではなく、名字で呼んだ。やはり、このクラスの人たちは由子の事をそれほど避けていないようである。前の時間のように、いつもは弾いていない子が弾いていたらビックリしていたが、基本的には避けていないようだ。これは、時間がこうならないと分からなかったことだ。もし、時間がいつも通りに進んでいたら、そんなことも分からなかっただろう。


 由子の手が止まった。

「……電話」


手元を見てみると、『電話』のところで手が止まっていた。


「電話は、Phoneだ」

「……Tellだ」


 ん? Tellは伝えるじゃないのか?

 俺と由子の会話を聞いていたのか、三人のうちの一人が言う。


「電話って言えば、あれだよな!」

「え、あれって何だよ」

「電話とTellだべ? お前、知らねーの?」


 電話とTell? 電話と、伝える? 一応、似ていると言われれば似ているが……。電話で伝える? ……何も分からない。もしかすると、漫画とかアニメであるのかもしれない。中学生が電話で伝える? 最近の中学生はスマホを持っているから、電話なんてあまりしない。アプリを使ってやり取りをしているだけだ。


「違う」


 突然、由子が言った。俺は、ずっと考えていたため、状況が全く理解できない。


「由子、どうした?」

「何でもない。気にするな」


 それだけいうと、『電話』のところに『Phone』と書いた。

 俺は三人に話を聞くことにした。


「なあ。何の話をしてたんだ?」

「あのな――」

「西田」

 由子が俺を呼んだ。

「何だ?」

「象は何だ」


 象は象だろ、と言おうとしたが、由子が聞きたいことと違うと分かり、言い直す。


「Elephantだ」


 そう言うと、由子は顔を机に向ける。


「で?」

「ああ、俺がおま――」

「西田」


 また由子が俺を呼んだ。


「ん?」

「綴りがわからない」


 俺は、由子の顔を見た。どうにも、邪魔をしているようにしか思えない。それほど、俺が聞いてはいけないことなのだろうか。しかし、そこまで聞く必要はあるのだろうか。由子が俺に知ってほしくないのなら、俺は知らない方がいいのではないだろうか。


 俺は言った。

「ごめん。やっぱりいい」


 そういうと、俺は由子の方を見る。

「エレファントの綴りはな、――」

 世の中、知らない方が良いこともある。

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