『今日』という日
由子は幼馴染みだ。家は同じ町にあり、小さい頃からよく遊んでいた。由子は昔から真顔で無口、俺は目付きが悪くて同い年の子は怖くて誰も近づいてこなかった。だからなのか、由子と俺はよく遊んでいた。小さい頃は、由子が何を考えているのか全く分からなかった。けど、何年も一緒にいると、何故かわかってくる。幼馴染みというのは、そういうもんなのだろう。
あの後、由子と俺は教室に戻った。何も言わずに戻ろうとしたら、あの一年生に「逃げるんですか?」と言われたが、無視しておいた。ちらっと見て鼻で笑っておくと、俺が勝利したような錯覚を起こす。
教室には珍しく誰もいなかった。いや、珍しくないか。二回目の『今日』も誰もいなかったんだから。『昨日』だったら、女子がいたんだけどな。
「珍しいな、誰もいないなんて」
由子にとっては珍しいのか。『今日』が続いているのは、俺だけか。
「そうだな。次、音楽だし女子はそこにいるんだろうな。男子はいつも通り、外で遊んでるしな」
俺はあまりクラスの男子とは遊ばない。というか、遊ばしてくれない。元々、入学当初から俺はクラスメイトから避けられていた。やっぱり、目付きのせいだろうな。それに加え、『自殺女』という異名を持っている由子といつも一緒にいるんだ。誰もそんなやつとは遊びたくないし、話したくもないだろうな。
男子は中庭で元気に遊んでいる。今年で受験生だというのに、のんきに遊んでいるもんだ。
遠くに観覧車が見えた。最近、新しくできたと聞いたことがある。
「遊園地かー……」
正直、良い思い出はない。初めて行ったときは迷子になって、次に行ったときは大雨で、その次は風邪で行けなかった。残念なことしかない。
俺の言葉を聞いて、由子が言った。
「新しくできたそうだな」
由子は椅子に座り、本を読み始めていた。覗いてみると、小さな字ばかり。そんな本、よく読むよな。俺だったら、すぐに眠たくなる。
二回目の『今日』も由子は本を読んでいた。
俺は、『今日』がずっと続くのは嫌だ。しかし、俺は『今日』を満喫しようと思っている。もし、『今日』が終わってしまったら、由子は消えてしまうから。
未来は変えられない。だから俺は、最後の由子との時を何度も楽しみたいと思った。
俺は窓の外を眺め、由子は本を読んでいる。教室はとても静かで、まるでここだけ時間が止まっているようだ。
予鈴が鳴り、俺と由子は音楽の教科書とリコーダーを持って、音楽室に向かった。