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彼らに明日は来なかった。  作者: ヤブ
第四章「そして」
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急変

 カーテンの隙間から朝日が入り込み、俺の瞼に覆い被さった。暗かった瞼の中に淡い光が生まれ、俺は強く瞼を閉じる。


 朝が来た。

 俺はゆっくりと瞼を上げた。


 なにか違和感を憶えたが、寝起きの俺には知ることが出来なかった。

 俺が目を覚ましたのは、六時過ぎだった。前と同じで早くに起きた。


 しばらく何も考えずに、ただベッドの上に座っていた。本当に何も考えていなかった。考えようと思っても、何も思い出せないのだ。


 しばらくしてのっそりとベッドから立ち上がると、俺は部屋を出て一階に降りた。

 やはり、誰もいなかった。


 俺は静かなリビングにある二人掛けのソファにどっかりと座る。そしてそのままゆっくりと倒れた。クッションを二つ積んで枕がわりにして、今にも寝そうになる。


 近くの台にあるリモコンに手を伸ばしたが、電源は入れなかった。どうせ、同じことの繰り返しだ。


 俺はしばらく画面を見つめたままおり、天気予報が終わったあとに朝食を食べることにした。


 いつまで寝ぼけていたのか、気づいたら制服を身に付けていた。

「俺……寝ぼけてんなー……」


 珍しく独り言を吐く。ベッドの上に座っており、時計を見ると七時過ぎを差していた。起きてから一時間が経っていた。こんなに早く制服を着ても、暑苦しいだけだ。


「ん?」

 俺はブレザーを着ていない。いつも制服を掛けている壁を見てもブレザーは無かった。俺は立ち上がり、クローゼットに近づく。開けると、ブレザーは掛かっていた。


 何故、片付けてあるのだろうか。五回目の『今日』の夜の事を思い出すが、由子からメールが来ないのが気になってずっと携帯電話を持っていたことしか印象に残っていない。もしかして、朝寝ぼけているうちに片付けていたのだろうか。


 由子からのメールの事を思いだし、俺は机の上においてある携帯電話を手に取る。が、また『今日』が来たため、返信は来ていても来ていないことを理解した。


 滝沢へのメール、滝沢からのメール、そして由子へのメール。それらは全て、『また』消えてしまったのだ。滝沢からもらったメールアドレスがかかれた紙も、机の上に置いてなかった。メールボックスを何度見返しても、それらは無かった。


「……あれ?」


 また、違和感を覚えた。今日で二度目だ。

 しかし、いくら考えても違和感の正体が分からない。

 俺は考えることを止め、『また』大道具を手伝うことにした。



 学校に着き、また違和感を覚えた。今日は可笑しい。同じ『今日』のはずなのに、何故か、いつもと違う感じがする。


 美術室にいくが、誰もいなかった。鍵も開いておらず、誰も着ていないようだ。


 ……まさか。

 俺は良からぬ事を考える。


 ――まさか、『明日』が来たのか?

 俺は急いで教室に向かう。


 教室にも誰もいない。黒板にかかれている日付に目をやる。俺は目を見開いた。

 状況がよく、分からなかった。何故、こんなことになったのか。


 黒板の日付は……進んでいるどころか、『戻っていた』のだ。

俺が過ごしていた『今日』は十月であった。しかし黒板には九月と書かれている。


「時間が……戻った……?」



 八時を過ぎると、ちらほらと生徒が教室に入ってくる。だいたいが一人で来る生徒である。


 俺は窓側から二番目の一番後ろの席で頬杖をついて座っている。そして、窓の外をぼんやりと見つめる。隣の席の由子はまだ来ておらず、窓からは体育館が見える。


 何故、こんなことになったのか。『今日』が繰り返されるのが終わったのかと思えば、次は時間が戻ったのだ。急にこんなことになったのは、やはりなにか問題があるのだろうか。


 滝沢に告白されたことが原因か? 告白されたことで何かが変わったのなら、原因は俺か滝沢にあるだろう。気持ちか? それとも、告白で何かが達成された?


 まるで、ゲームのようだ。

 何かが達成されれば、次のステージに進む。

 ……どうして、こんなことになったんだ。


 朝から違和感をよく感じたのは、恐らくこのせいだ。朝、俺が日の光で目が覚めとるというのは今まで無かった。まず、『今日』が来たのなら、朝は曇っているのだ。そして、メールボックスを見たときの違和感、メールが一部、無かったのだ。時間が戻ったことで、『今日』からあの日までのメールは消えてしまっていた。今日見たとき、最後のメールは夏休みに来た由子からの返信だった。


 俺の今の状況は、滝沢に告白された時と少し似ている。驚きと困惑で俺の頭は溢れ返っているため、まともに考えることが出来なかった。



 一時間目は理科で、理科室で行われる。

 六つの机が置かれており、班ごとにグループに分かれる。縦二つ、横三つで並んでおり、俺の班は後ろの列の真ん中だ。右側には実験器具が並べられており、左側は水道である。


 この日の実験は、物体の移動距離を記録する。どんどんと高さを上げて、どれくらいの距離を進んだかを記録する。とても簡単な実験だ。


 俺は誰も取りに行こうとしない実験道具を取りに行く。前の教卓に一班ずつ先生が準備してくれているのを取りに行くだけなのだが、席を立つのが面倒なのだろう。


 実験の準備が整い、さっそく取りかかる。

 ……あれ? 確かこの日って……。


「おい、小倉。お前の左手の人差し指にあるものはなんだ」


 声がした方を見ると、そこには怖い松本先生がいた。

 そうだ。『今日』は由子が指輪をつけてきて、先生に注意された日だ。


「……指輪です」

由子は何の悪びれもなく言う。


「学校にそんなものつけてきて良いと思っているのか」

「……いいえ。これは……」


『亡くなった祖母の遺品です』


 つい俺も声を出してしまい、見事にハモった。

 俺は急いで口に手をやる。由子の顔を見ると特に疑っている様子もなく、安心した。


「……そうか。特別だぞ」


 松本先生はそう言うと、別の班のところへ行った。

 その後、由子が何かを聞いてくるかと思ったが、特に聞いてこなかった。


 実験は終了し、結果と考察を記入する。

 その時、急に眠気が襲ってきた。

 俺は我慢することができず、そのまま机に伏せ、瞼を下ろした。



 俺は由子の声で目を覚ました。

 しまった、いつの間にか理科の時間は終わっていたのか。


 勢い良く顔を上げ、辺りを見回す。ほとんどの席は教室の後ろに下げられ、中央に生徒が集まり手には台本を持っている。


 今は、総合の時間だ。

 ……時間が、『あの日』に戻ったのか?

 一瞬そう思ったが、自分の今の席を見て違うとわかった。俺は今、窓側の一番前の席にいる。


 じゃあ、今は………いつだ?


「西田、みんなが待っているから早く行くぞ」


 目の前にいる由子が言った。

「え?」


 俺はあることに気がついた。

「あ、ああ」


 立ち上がると、歩く由子についていく。

 由子が向かった先は、全学年の小道具係が集う技術室だった。と、いうことは俺は今、由子と同じ小道具係……。


 そうか。今は二年生なんだ。一年前に戻ったというわけだ。

 由子と俺は他の小道具係を探し、近づいた。みんなは劇で使う小さな道具を作っている。


 たしか俺と由子は、二年になってもクラスにまともに馴染めず、なにも手伝わなかったんだよな。だから、文化祭ではあまり達成が得られなかったことを覚えている。まるで、他人事のようだった。


 一人の女子が立ち上がり、大きな段ボールを持ち上げる。

「これ、いらないよね? 準備室に持っていくね」

その女子は、俺の隣を通っていく。


 俺はその女子を追った。

「おい」

 そう言うと、女子は振り返る。


 滝沢だ。

 滝沢が保健室で言っていたのは、この時のことか。


「……何?」

「あ、その箱、俺が持っていくよ」

「え、いやいいよ」

「いいっていいって。俺どうせ暇だしさ」


 そう言うと俺はほとんど無理矢理段ボールを取り上げた。

「あ、ありがと……」

 滝沢の頬が少し赤かったのが見えた。滝沢は技術室へと戻っていく。


 由子が見えた。しかし、由子は目があった瞬間に目を逸らした。

 技術室は一階で、準備室は二階だ。意外と遠い。


 由子が目を逸らしたことが気になる。普段ならしばらくは目があうのだが、すぐに逸らされた。


 何だか、少し由子が違う気がする。二年生のときの由子は、もっと怖かった。いや、三年生になって、表情が優しくなったのだ。だから、俺が目を覚ましたときの由子のあの表情が引っ掛かる。


 もしかして……。

 いや、そんなことはないはずだ。


 ――さては俺の由子がとられて嫉妬しているってところか?

 あのときの太田の言葉が突如、流れてきた。

 嫉妬、か。


 滝沢は俺が由子とずっと居るところをみて、嫉妬していたのだろうか。それならば、悪いことをしていたと思う。


 別に俺は嫉妬していたわけではない。少しもやもやしていただけだ。しかし、今から思えば俺は嫉妬していたのかもしれない。嫉妬ともやもやは一緒なのではと思ったからだ。


 色々と考えているうちに、準備室についた。俺はドアを開け、中に入る。


 ん?

 俺はあることに気づく。


 嫉妬、純情、告白、好きな人、もやもや……。

 ……もしかして俺……は……。


 その時、また眠気が襲ってきた。俺は倒れ、その後の記憶はない。

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