夢の声
体育が終わり、いつものように羽の入ったダンボールとラケットを倉庫にしまい、体育館を出る。由子は先に教室に帰り、俺は一人、とぼとぼと歩く。
一人で寂しいからではない、体がだるいのである。
朝はすこし軽い程度だったが、今では体が重たい。妙にぞわぞわとして、気持ち悪い。体内で細胞がウイルスと戦っているのだろうか。
保健室に寄って行こうかと思ったが、もう少し様子を見れば治まるかもしれないと考え、寄り道をせずに教室に向かう。
時計を見ると、あと数分で本鈴が鳴る。
俺は重たい体を走らせた。
二時間目の数学。
同じ勉強を復習すれば頭に入ると言うが、こんなに何回も勉強しても、メリットなどない。体がだるいのもあり、俺は授業中ではあるが寝ることにした。
机に伏せたとき、四回目の『今日』と同じように、後ろの男子がまた由子の話をしていることに気づき、密かに耳をすませた。
「なあ、さっきの休み時間見た?」
「何を?」
「滝沢が小倉に話しかけてたところ」
「え、まじで? 見てねえわ」
「俺ビックリしたよ」
『また』、由子と滝沢が話していただと?
何故だ。どんどんと『今日』が変わっていく。まるで、一日以上時間が進んでいるかのようだ。今は、一回目や二回目の『今日』と同じはずだ。その時に由子と滝沢が話すことなんてなかった。なのに、何故話しているんだ? 何が変わっているというのだ?
「え、なに話してなかったか聞いてないの?」
「さすがにそこまではな」
一体何を話していたのだろうか。……好きな人の話、か? いやいや、二人にとってはじめて話すんだ。いきなり「好きな人はいる?」と聞かれたらなにか裏があるのかと疑ってしまうだろう。
じゃあ、一体……何の話……?
そこから、俺の思考は一時停止した。
声が、聞こえる。
――結構な人が知ってると思うけど、西田くんは知らないんだね。やっぱりね、小倉さんもそういうことなんだと思うよ。
――教室で見た人影、誰だったんだろうな。
――お、図星か? さては俺の由子がとられて嫉妬しているってところか?
――いや……。西田がな……。
――西田くん、純情だねー。
――西田、私先に行くな。
――西田くん!
――……何か、その……。ちゅ、中学生だし、好きな人の話とか。
――気づいてほしいことに、気づいてくれないとき、かな。
「きりーつ」
号令係の声で、俺は目を覚ました。
あの夢は、何なんだろうか。