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彼らに明日は来なかった。  作者: ヤブ
第三章「五回目の『今日』」
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マスク

 五回目の『今日』になると不思議と額のこぶは消え、なにもなかったようになる。親も、クラスの人も、俺が階段から落ちたことは知らない。


 『今日』は四回目のときのようなことが起こるのを避けるため、朝早く行って大道具の手伝いはしないことにした。そして、いつもと同じように由子と登校する。


「由子、おはよう」

「おはよう」


 今日の朝メールを確認したとき、四回目の『今日』に来た由子からのメールは消えていた。時間が繰り返されるごとに、『今日』は上書きされ消えてしまうのだ。


 俺は喉に違和感を覚え、二回咳をした。

「風邪か?」

 由子が俺に言う。


「多分な。朝から調子が悪くてな」

 そう、頭の傷はどうってことなくなったが、体がだるいのだ。喉の調子も悪く、風邪だろう。


 由子は鞄の中に手を入れ、何かを取り出した。そして、それを俺に渡してきた。

「あげる」

 それは、マスクだった。俺は受け取り、「ありがとう」と言う。


 その時、由子の左手の人差し指に目がいった。そこには、銀色に輝く指輪がはまっていた。二学期が始まって間もない頃、学校につけてきて先生に注意されていた。先生はあの怖い松本先生だったが、遺品だとか言うと素直に許可してくれた。


 俺はマスクをつけながら、何となしに後ろを見た。そこには、滝沢の姿があった。一人であるいており、いつもの友達はいない。たしか、方向が違ったな。もしかしてここで俺がいなかったら滝沢は由子に話しかけているのだろうか。


 下を向いていた滝沢と目が合う。だが、何もなく顔を逸らされてしまった。


 一時間目の体育では由子とペアを組んだ。


 由子は試合ではあまり役には立たないが、ラリーなら続く。ペア練習が始まって十分ほど経つが、ずっとラリーが続いている。

しかし、マスクが暑苦しい。やはり、体育は見学しておくべきだったか。


 ふと目を逸らすと、中西と太田と古和田の姿が目に入った。三人で練習をしている。『今日』が来たことであの三人の記憶にはあの日の俺はいなくなった。俺しか知らないとなると、あれは本当にあったことなのか分からなくなってしまう。


 俺は思い出す。あの三人に「もやもやしているだけ」と言うと、わらわれたことを。もやもやしているだけで、何故笑われなくてはいけないのか、俺には全く分からない。


由子はどんな時にもやもやするのだろうか。

「なあ由子?」

「ん?」

「由子は、どんな時にもやもやする?」

「ふむ……」


 そう言って、しばらくは返事が返ってこなかった。

 そして、由子が口を開いた。

「……気づいてほしいことに、気づいてくれないとき、かな」


 気づいてほしいことに気づいてくれない、か。小さい頃は欲しいゲームがあっても素直に言えなかったり、嫌いな食べ物でも頑張って食べたら好きなんだと勘違いされたり。そんなことがあったのを覚えている。


 俺の場合、そういう時は残念で仕方ないけどな。そう思ったけど、由子には言わないでおいた。

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