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彼らに明日は来なかった。  作者: ヤブ
第二章「四回目の『今日』」
12/30

現実

 ドアの開く音がした。

 俺はゆっくりと瞼を起こす。


 はじめ、ここがどこで何があったのかも全て分からなかった。ここは見覚えのある場所、俺の部屋だ。小さい頃に天井にボールを思い切り投げつけて、壁紙を剥がしたことがある。その跡は直されることもなく、ずっとそのままである。


 俺は寝起きなのだろうか。そんな感じはしない。さっきまで何かがあったような、そんな感じがする。


 そして、思い出した。由子が屋上から落ちていたことを。

 俺は体を起こす。では、今は五回目の『今日』を迎えたのか?


 そして、由子は『また』、死んだのか?


「起こしてしまったか?」


 声がした方を見る。

 ん? 『起こしてしまったか?』。どういう意味だ。


「気分はどうだ?」


 そこには、何故か由子がいた。制服姿で鞄をもって。これじゃあまるで、誰かの見舞いにきたようじゃないか……見舞い?


 俺は部屋の壁にかかっている時計を見た。時計の針は四時四十五分を差している。


 そうか。

 俺はやっとのことで全てを思い出した。


 俺は総合の時間、階段から落ちたんだ。恐らくそのあと、保健室に連れていかれた後、家に運ばれたんだ。病院に行ったかもしれないが、その辺は分からない。由子が屋上から落ちたこと、あれは夢だ。夢じゃないと、由子がここにいることを証明できない。


「西田? 大丈夫か?」

 由子が話しかける。

「え、ああ。大丈夫だ」

 右側の額には湿布が貼られている。


 由子は鞄をおき、部屋においてあるクッションの上に座った。

「西田、覚えているか? 階段から落ちたこと」

「ああ、覚えてるよ」


「あの後、お前を保健室に連れていった。持っていたダンボールの上に落ちていたから、病院には行っていない。その湿布はあおたんが出来ていたから貼ったものだ」

「そうなのか」


 由子は頷いた。

 それから、部屋は静かになった。

 由子は、これだけを言うために俺のところまで来てくれたのか。メールで言っても良かったのに。まあ、家が近いからいいか。


「……今日の朝、な」

 由子が話し始めた。

「滝沢、さんと一緒に来たんだ」

 知っている。


「西田も、クラスの人と話してたな」

「ああ」

「意外と話してくれて、嬉しかった」

「俺も、嬉しかった」

「……うん」


 由子は顔を下にむけた。

 俺も由子も、クラスの人と話したり、馴染んだりしたら嬉しいと思うことは一緒なんだ。もし『今日』が続かず、由子がいる『明日』が来るのなら、俺と由子は楽しいだろう。しかし、そんな日は来ない。『今日』が終わり、もし『明日』が来れば、由子はいなくなってしまう。由子は今日、何がどうなっても屋上から落ちて死ぬ運命なのだから。それだけは変えられない事実だ。由子は、それを知らない。しかし、今回は例外のようだ。屋上からは落ちなかった。だが、『明日』になればいなくなってしまうことは間違いない。


 それにしても、何故由子と滝沢は一緒に登校をしたんだろう。

「由子、滝沢は朝、一緒になったのか?」

「うん。滝沢に話しかけられたんだ。何か、話してみたかったらしい」

「へー。何の話をしたんだ?」


「……何か、その……。ちゅ、中学生だし、好きな人の話とか」

「由子、好きな人がいるのか?」

「……さあ、な」


 まさか、今日話して気になるやつでもいたのか。一体どんなやつなんだろうと考えると、気になって仕方なくなった。由子はどんなタイプが好きなんだろう。話しやすい人か? 笑顔が素敵、とか? もしかしたら、顔か?


「……そ、そうか」


 しかし、残念なことにその想いは五回目の『今日』が来れば、無くなってしまう。そう思うと何故か急に落ち着いてきた。


 その後、由子は家に帰った。

 その日の夜、俺は由子にメールを送った


『今日はわざわざありがとう。また明日な。おやすみ。』

 送って数分後、返信が返ってきた。

『うん。おやすみ。』


 由子らしい、塩対応な返事だ。俺はそのメールを何度か読み返した後、布団に潜り込み瞼を下ろした。

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