また
「う……」
自分のうなり声で、俺は目を開けた。一瞬、ここがどこなのか分からなかった。自分の部屋ではない、どこかのベッドの上。
そうだ、俺は階段から落ちたんだ。
ということは、ここは保健室のベッドか?
俺は自分の体を起こす。換気扇が回っている音だけがする。
滝沢が持っていた荷物を家庭科室に持っていくついでに、保健室に行っているという太田を見にいこうといたのだ。しかし、階段から落ちてしまったため、見舞いではなく怪我人として保健室に来ることとなった。さすがに、もう太田はいないだろう。
ところで、今は何時だ?
三時間目に落ちて、俺はどのくらい眠っていたのだろう。
俺は布団から出て、カーテンを開ける。
保健室には誰もいなかった。先生は職員室だろうか。
時計を見ると、一時十分を示していた。つまり、俺は二時間ほど眠っていたことになる。頭に手をやると、包帯が巻かれていた。血でも出たのだろうか。落ちたときは、ほとんど感覚はなかった。ただ、滝沢の声が聞こえただけだった。
……ん?
俺はもう一度時計を見た。時計は明らかに一時十分を示している。
……由子は?
俺は胸騒ぎを感じた。
午後一時十分。
それは、由子が自殺をした時間である。
俺はすぐに保健室を出た。
「あら? 西田くん」
保健室の先生が職員室の方から戻ってきた。やはり、職員室に行っていたのか。
「大丈夫なの?」
「はい、全然大丈夫です」
「でも、一応診とかないと」
「あの、急いでるんで!」
先生を振りきり、俺は屋上へ向かった。
少し体がだるいのは、階段から落ちたせいだろうか。
一段飛ばして階段を上がる。そして、すこし控えめにドアを開けた。
「由子……?」
屋上には、誰もいなかった。教室にいるのかと思ったが、それはないと思った。由子は一人で話す人がいないとき、屋上へよく来るらしい。いや、もしかしたら滝沢といるかもしれない。
その時。
下から女の叫び声が聞こえた。ちょうど屋上の下あたりから。
俺は、確かめるしかないと思った。もう一度『明日』が来ると信じて。
ゆっくりと、足を進めた。手すりに手をかけ、覗きこむ。
そこには、頭から血を流して倒れている、由子の姿があった。
心臓が一回、大きく跳ね上がった。それから何度何度も、大きく跳ね上がる。俺は胸をおさえ、しゃがみこんだ。
由子が『また』死んだ。
また……。
何かが終わった様に、目の前が暗くなった。