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彼らに明日は来なかった。  作者: ヤブ
第二章「四回目の『今日』」
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また

「う……」


 自分のうなり声で、俺は目を開けた。一瞬、ここがどこなのか分からなかった。自分の部屋ではない、どこかのベッドの上。


 そうだ、俺は階段から落ちたんだ。

 ということは、ここは保健室のベッドか?


 俺は自分の体を起こす。換気扇が回っている音だけがする。

 滝沢が持っていた荷物を家庭科室に持っていくついでに、保健室に行っているという太田を見にいこうといたのだ。しかし、階段から落ちてしまったため、見舞いではなく怪我人として保健室に来ることとなった。さすがに、もう太田はいないだろう。


 ところで、今は何時だ?

 三時間目に落ちて、俺はどのくらい眠っていたのだろう。


 俺は布団から出て、カーテンを開ける。

 保健室には誰もいなかった。先生は職員室だろうか。

 時計を見ると、一時十分を示していた。つまり、俺は二時間ほど眠っていたことになる。頭に手をやると、包帯が巻かれていた。血でも出たのだろうか。落ちたときは、ほとんど感覚はなかった。ただ、滝沢の声が聞こえただけだった。


 ……ん?

 俺はもう一度時計を見た。時計は明らかに一時十分を示している。


 ……由子は?

 俺は胸騒ぎを感じた。

 午後一時十分。


 それは、由子が自殺をした時間である。

 俺はすぐに保健室を出た。


「あら? 西田くん」

 保健室の先生が職員室の方から戻ってきた。やはり、職員室に行っていたのか。


「大丈夫なの?」

「はい、全然大丈夫です」

「でも、一応診とかないと」

「あの、急いでるんで!」


 先生を振りきり、俺は屋上へ向かった。

 少し体がだるいのは、階段から落ちたせいだろうか。

 一段飛ばして階段を上がる。そして、すこし控えめにドアを開けた。


「由子……?」


 屋上には、誰もいなかった。教室にいるのかと思ったが、それはないと思った。由子は一人で話す人がいないとき、屋上へよく来るらしい。いや、もしかしたら滝沢といるかもしれない。


 その時。

 下から女の叫び声が聞こえた。ちょうど屋上の下あたりから。

 俺は、確かめるしかないと思った。もう一度『明日』が来ると信じて。


 ゆっくりと、足を進めた。手すりに手をかけ、覗きこむ。

 そこには、頭から血を流して倒れている、由子の姿があった。


 心臓が一回、大きく跳ね上がった。それから何度何度も、大きく跳ね上がる。俺は胸をおさえ、しゃがみこんだ。


 由子が『また』死んだ。

 また……。

 何かが終わった様に、目の前が暗くなった。

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