目覚めは大樹の根本で
目が覚めた聖の前に人だかりが・・・
状況の掴めない聖に風神と名乗る男が声をかける。
ガヤガヤとうるさい・・・。
「聖王様よ!!」
「これで世界が平和になる!」
「一刻も早く魔物どもを消し去ってくれ」
そんな声が聞こえる。
目を開けるが、見慣れた光景はここにもなかった。
カーテンから漏れる陽の光も、スリープのパソコンも、枕元のスマフォもない。
心地よい陽の光と、ざわめく人々と、上を見上げると大きな大樹があった。
「ここはどこだよ・・・」
うねうねと横を太い木の根が這っている。上を見れば、枝の間からこぼれる木漏れ日が眩しい。
どうやら大樹の根本に自分はいるらしいことだけはわかった。
「樹のしたか?・・・・刀はッ!?!?」
慌てて胸元を見るが刀の切っ先が胸から出ていることも
足元に血溜まりができていることもなかった。
---にしてもだ、なんだこの状況は・・・
自分を囲うように人々が立っている。
自分に向けて指をさしていたり、両手を合わせて拝んでいたり、土下座して礼をしているものまでいる。
言っておこう、俺は人生で一度の拝まれるようなことはしていない。
そして人々に囲まれるような珍事を起こしたこともない。
「下がってくださ~い!!道を開けてくださ~い!!
七星賢者 風神さまのお通りです!!道を開けて~・・・・ちょっと!おじいちゃん!そこ触ってるんですか!!」
大衆の向こう側から女の声が聞こえる。
その声の後をついてくるように人をかき分けて白い立派な服に見を包んだ男と、その男を守る従者のような女が目の前に歩いてきた。
そして白い服の男が膝をつき、最大限の礼節を持って挨拶してきた。
「大変民衆が失礼をおかけいたしました。
私は七星賢者連合国 風の国エアロヒル国王 兼 七星賢者隊風神隊総帥 風神と申します。」
現状を把握できない。
なんなんだこれは・・・シチセイケンジャ?フウジン??意味不明である。
とりあえず肩書が長い・・・。多分偉い人なんだろう。
「んと・・・ここはどこで、一体何が起きているんですか?」
「なるほど・・・伝承の通りのようですね・・・。
ここは世界樹と言います。世界にあふるる魔力を生産放出する大樹です。
そして・・・信じられないでしょうが、あなたはこの世界を救う”聖王”として今ここに降臨されたのです。」
この時俺は黒ローブの男の話を思い出した。
(君にはこれから新たな環境で人生をやり直してもらう。それも君が思い描いた異能のある世界で英雄になれる座を用意した。)
---なるほど、そういうことね・・・。
魔法(異能)のある世界で、聖王(英雄)になれる座・・・。
黒ローブの話がつながった。
「とりあえず、ここは人が多い。向こうに我々の詰め所がございます。ご足労いただけるでしょうか?」
たぶん俺の選択肢はここで「はい」「いいえ」のどちらかしかない。
何もわからない。刀で刺されて、気を失って・・・いや、多分死んだ。で、目覚めたら人に囲まれて大きな樹の下にいた。
この”フウジン”とかいう奴はなにか知っているようだし、俺もこんな人に囲まれたままでいるのはゴメンだ。ならば答えは・・・・
「は、はい。」
「では、参りましょうか。手をお貸しいたします。」
少しだけど足がふらつく。なんだろうボーッとする感じで足元がおぼつかない。
おれはフウジンの肩を借りて、人の波間を抜けて詰め所に向かった。
風神1:七星賢者連合国 風の国エアロヒル国王 兼 七星賢者隊風神隊総帥賢者風神。
世界樹:魔力を生産放出する大樹。