胸から生える刃
ベットに飛び込み、聞こえるTVと親の笑い声に苛々しながら眠りにつく。
目が覚めるとそこには何もなく、黒いローブの男がいた。
そして黒いローブの男は告げるのだ
「―――目覚めたかね。」と
目が覚めた。
ぼやける視界で周りを見る。
「・・・んん、どこだよここ。」
いつもの風景じゃない。
ベットから起き時に見える目の前の窓のカーテンから漏れる陽の光も、机上のスリープ状態のパソコンから漏れる青色の光も、枕元にあるはずのスマフォもない。
「っていうか、なんで俺座ってる・・・?」
ベットに寝ていたはずなのに、なんだか立派な椅子に腰掛けている自分。
「―――目覚めたかね。」
頭をあげると目の前に黒いローブの人物がいた。起伏のない体躯、程よく低い声、肩幅・・・男だ。
ローブの男は物静かに落ち着いた口調で続けた。
「君にはこれから新たな環境で人生をやり直してもらう。それも君が思い描いた異能のある世界で英雄になれる座を用意した。」
―――何言ってんだこいつ。
「君の世界は一度生まれ変わる。これは、君のことではない。世界のことだ・・・。
君のいた時代の12年後にErloeschenという隕石によって一度人類史は幕を引く。 人類の一部は地底に作ったシェルターに避難し、生き延びる。だが、ほかは死滅する。
君が行くのはこの後に開かれた新たな世界。いや人類史だ。Erloeschenは何も死を運んだだけではない。
新たな可能性―――わかりやすく言えば”魔法”という現代になかった可能性を世界にもたらした。君にはその世界で”英雄”になってもらおう。」
何一つ狂わない口調で淡々と口上を続けるローブの男に俺は懐疑的な目を向けた。
「んー、それが本当ならすごく嬉しいけどさ・・・。証拠はあるんですか?」
すると、スーッとローブの男が右手を空中にかざす。
右手の前の空間が歪み始めそこから刀が出てきた。
そこには何もなかった。
たしかに何もなかった。
空間が渦巻くように歪んだその時には刀はそこにあった。
「―――信じたか?」
黒ローブの男が変わらないトーンで聞いてきた。
俺は首を縦に振ることしかできなかった。
そして、ローブの男は続けた。
「君には期待している。もちろん私は目的もなく君をこの世界によんだわけじゃない。ここで話すつもりもないが、追々わかるだろう。
ーーーさぁ、生まれ変わる覚悟はできたか?」
たぶん、ここで首を横に振っても戻れない気がする。
いや、戻してくれない気がするんだ。
刀を持ったローブの男の目の前に
「いいえ、結構ですッ!」なんて言う気にはなれない。
絶対あの刀で斬られるだろう・・・。たとえそんなことがなかったとしても、この状態でそう考える気にはなれなかった。
―――俺は首を縦に振った
「良い選択だ。評価しよう。
……では生まれ変わった世界を楽しむがいい。・・・・活躍に期待する。」
黒いローブの男がそう言うと、フォンっと目の前から消えた。
―――なんて夢だ。
確かに塾の帰りに代わり映えしない最近を憂いたけれども、こんな夢を見るとは思わなかった。
……と、気持ちを整理していると後ろから再びこう聞こえた。
「―――また会えることを祈っているよ。」
「えっ!?」
―――ドスッ!!!
何かに押された?いや、刺されたのか?
違和感を感じる自分の胸に目を移すと刀の切っ先が生えてる。いや、貫通していないかっ!?
「ンンン――――――――――ッ!!!」
声が出ない!!
えっ、なんで!?
なんで俺刺された!??
嘘だろっ!?なんでだよ!!!夢じゃねーのかよッッッ!!糞痛いッ!!
痛い痛い痛いッッッッッッ!!!!!
ドウシテコウナッタッ!!!ナンデコンナニモイタイッ!!?
刀の切っ先を流れる自分のどす黒い血が床にポチャリと垂れる。
足元には結構な血だまりができていた。
そしてこの血だまりがこの悪夢の最後に見た光景であった。
黒ローブ:多分男。聖の目の前に現れた謎の人。
Erloeschen:エアレーシェン「死」を意味する隕石。これによって現代は滅びる。