リーダーのクジラです。
遅刻、遅刻ー、ライブに遅れちゃうぅぅ。
私は走る。包丁を食らえてひたすら駆ける。
路地の曲がり角。
そこには人影がっ。
背広姿のリーマンだっ!
やばい、このままじゃぶつかる。
いや、どうあがいてもぶつかる。
私は早々に止まるのを諦め、さらに加速する。
どーん。
どーんですよ。
私達は衝突の衝撃で反発。互いに吹っ飛んだのであります。
いてて。尻餅をつく私。
「おらぁぁぁあぁっ! こらぁぁ、われぇぇ。どこ見てあるっとんじゃ、ぁああぁ?!!」
これは相手のセリフじゃないの。
私のやつ。
私はさっさと立ち上がると、まだ倒れていた男の前に行き見下ろすように睨んだ。
「われぇ、私が、殺人愛人形のクジラちゃんと知っての仕打ちか、あぁ?」
「い、いえ、そんな、し、知りません」
目で殺す。眼光で相手を締めつける。
私は、さっきぶつかった拍子に地面に落ちた包丁を拾う。
「この落とし前は、われの命で償ってもらおうかのぉぉぉぉ」
「はぁぁぁぁ??? ちょっと、え、え、え、え、えええ」
こうして、私は幾度となく、刃を振り下ろしたのでした。
「・・・・・・斉藤さん。コレ、またたのんますわ」
息絶えた男を見ながら声をかける。
どこからか、一人の女性がさっと姿を見せた。
長い髪を一つに束ね、スーツを着こなす、ザ、仕事ができそうな女性。
「はい。お任せを。ですが、本来こんな事している場合じゃありませんよ。もう時間が押し迫っております」
斉藤さんは私達のマネージャー。詳しい事はおいおいだ、そう言われてはっとした。
「いっけな~いっ! 時間ないんだったぁっ! じゃあ、私行きますっ! 後、お願いしますねっ!」
車でも手配してくれればいいのだけど、斉藤さんは私だけを甘やかせてはくれない。
こうして、全速力で今日ライブが行われる会場へ急ぐ。
ついたのは、開演5分前だった。
「クジラ、遅いべしたっ!」
「ちょっと、やだ、血だらけじゃないっ! またあんた屠ったでしょっ!?」
出迎えてくれたのは、同じ愛人形グループのメンバー達。
眼鏡で頭良さそうだけど、頭がイカれてるアイリ。
ポニーテールで活発そうだけど、頭が狂ってるチカ。
私達は三人で、愛人形グループ、デスパレードです。
二人はもうステージ衣装に着替えていた。
私も早く着替えなきゃ。
返り血を浴びた私服を脱ぎ捨て、慌ててステージ衣装に。
なんとか、ギリギリ間に合いそう。
「今日のキャパどんくらいだっけ?」
「1500。勿論フルハウス」
「次はもっとでかいとこじゃなきゃ駄目だべよ」
喋りながら私達はステージへ。
そこには、すでにファン達が今か今かと私達を待ち構えていた。
私達は姿を見せると、その観客達が一斉に声をあげた。
「ぎゃいあああああ、チカチーっ!」
「アイリーンっ! 愛してるぅぅぅっ!」
チカチー、アイリーンとは愛称だね。
「クジラちゃーーんっ! 今日も禍々しいぃぃぃっ!」
「可愛いよ、クジラ様ぁぁっ!」
私にはないんかいっ!
てわけでね、まずは一曲いっちゃいましょう。
響け、虐殺メカニズムっ!
会場は一面、赤い光で包まれる。
うちらのファンは、サイリュームじゃないの。蛍光塗料を塗った包丁を振りかざして応援なの。
そんなこんなでライブも滞りなく進行していきました。
全曲を歌い終え、最後はお約束のトーク。
「みんな、今日はありがとうっ! じゃあいつものいくよ~、私達のためなら~?」
「命はいらないっ!」
「私達のためなら~?」
「なんでもします、やれますっ!」
「私達のためなら~?」
「私財を投げますっ 保険もかけますっ!」
この会場との一体感。いやぁ、素晴らしいっすわ。
「よ~し、みんな、良い子だねっ! じゃあ、本当かどうか、証明してねぇっ!」
私はステージ上を見渡す。そこで一人のファンと目が合った。
貧弱そうな男。赤いリストバンドはメンバーの中でも私が特に好きって証。
「お、じゃあ、そこの君っ! 私のためにちょっと自害してみようっ!」
指を向け指名してみた。
「あああああ、クジラちゃんと目があった、ああああ、声をかけてくれたぁぁぁ」
男はすごい興奮している。目は血走り、口から泡がではじめる。
「い、い、い、今すぐにぃぃぃぃぃ」
その人は、手にもってた蛍光色の包丁で自分の首をかっ切った。
血飛沫を上げ、フラフラしながら床に崩れる。
私はそれを見届けると、黙ってステージの下に降りた。
ファンの人垣が割れる。私のための道ができる。
倒れた男の傍まで来ると、足をたたみ男の体を抱き寄せる。
頬にそっと口づける。
「ぎゃあぁぁぁ、いいなぁあああ、クジラちゃん、口、口、唇がぁぁぁぁ」
「お、俺、いつでも死にますっ! だから、次は、次は俺をぉぉぉ」
「ふふふ、良い子、良い子」
私はそのままちょっとの間、絶命した男の頭を優しく撫でてあげた。
さぁ、気を取り直して次のコーナー。
「皆さん、お待ちかね、争奪、お宝ゲットオークションっ!」
ほげげげげげっと会場が揺れた。
すごい盛り上がりよう。
「今日は・・・・・・なんと、チカチーのライブ終わり、そのまま脱ぎたて下着だぁぁあ!」
ほんがががげげえげげげえげっと、会場が割れんばかり、いやちょっとした罅が入るレベルの絶叫。
「ほい、じゃあ、チカチー、たのんます」
「も、もう、ちょっと、ジロジロみないでよねっ」
その場でチカチーがスカートに手を入れると、パンツを下ろしていく。
これはエロい。女の私でもやばいと思います。
「はいっ! じゃあ、20万からっ!」
「30万っ!」「40万っ!」「いや、50万だっ!」
ハイスピードで値はつり上がっていく。
「120万っ!」
「120万出ましたっ! 他にいませんか、130万の人は?」
しばしの沈黙。
これは決まるか。そう思った時だった。
「ほほほ、500万」
最前列からそう聞こえた。
周囲は一気にざわつく。一気に値を上げてきやがった。
「あ、貴方はっ!?」
シルクハットのクルリンとした髭を蓄えた、貴方はっ!
「チカチーのために山二つくらい売ったと言われる、シルクハットおじさんっ!」
あぁ、もうこの人がでてきたんじゃ駄目だよぉ。もう決まりだ。
「はい、じゃあ、500万で決まりだぁっ! 落札者様は、チカチーから直接手渡されますっ!」
特別にステージに上がることを許されたシルクハットおじさん。
チカチーが赤面しながらも商品を手渡す。
「お、おめでとう。ちゃ、ちゃんと大事にしてよねっ!」
「ほほほ、勿論ですとも。もう毎日掃きますとも。ときに・・・・・・」
「え、なに?」
「ブラはもらえませんか。もう500万出しますが」
「なっ!」
さぁ、これは予想外の展開だ。どうする、チカチー。
「・・・・・・もう、しょうがないわね、今回だけだからねっ!」
そういって、手を背中に回してホックを外すのでした。
これで、ライブも終了。
そう思い、ふっと息をはいた、その時だった。
「大変だっ! 大変だぁっ!」
会場の扉が開き、一人の関係者が入ってきた。
なんだ、なにが起きたんだっ。
「さ、最近、売り出し中の、愛人形、ドメスティックララバイ、通称ドララが、この町で路上ライブ始めやがりましたっ!」
それを聞いた私達の顔が豹変する。
「あぁぁあああ!? ドララだぁ!? ここはあたいらのシマだぞっ!」
「これは、ちょっと聞き捨てならねぇぇぇえわねえ」
「随分、舐めた真似してくれっぺしたぁ!」
今更ながら愛人形達には、それぞれ縄張りがあるのだ。
ここ、首括り町は私達、デスパレード、デスパが仕切っている。
「おらぁ、てめぇら、ちょっと、行ってそいつらのガラさらってこいやぁ」
「こりゃ、薬漬けで玩具にしちゃおうかしらぁっ!」
「これでまた、資金が増える・・・・・・ぺよ」
私達の号令で、会場内のファン達が一斉に動き出す。
この地区には大きく分けて5つの勢力がある。
その規模はファンの数で決まる。
私達はいまのとこ、二番手、三番手ってとこか。
現状、どこもまだ他とは小競り合い程度、だがいつどこかが手を出してくるかわからない。
もっとライブとかやってファンを増やさないとね。
あ、メンバーをちゃんと紹介しておきます。
私、クジラ。学生。前世は殺人鬼だって占い師が言ってました。包丁をよく使います。血のような髪色。普段からあまり口はよくありません。滅多刺しのクジラってよく言われます。
チカ。学生。前世は殺人鬼だって占い師が言ってました。ノコギリをよく使います。血を抜いたような真っ青な髪色。普段はツンデレです。解体のチカってよく言われてます。
アイリ。学生。眼鏡。前世は殺人鬼だって占い師が言ってました。なんかハサミとか使います。血を抜いたような青になんか体液を混ぜたような緑色の髪色。普段は大人しいです。切り刻み眼鏡ってよく言われてます。
そして、ジャーマネの斉藤さん。スケジュール管理や護衛、買収、死体の処理までなんでもやってくれるスーパーウーマンです。素手で人間をポキポキ壊せます。
私達、プラス斉藤さんで、殺人愛人形、デスパレードです。
春のせい。多分すぐ終わります。次回、学園制圧編っ!