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短編 三題噺

三題噺 [湖][贈り物][鏡]

作者: Win-CL

『ほら、お前もこのアニメ好きだったんだろ?』

 それは遙か昔の――小さかったころの記憶。

 近所で仲良くしていた兄妹(きょうだい)との別れの日。兄の智行(ともゆき)餞別(せんべつ)として玩具のロボットを貰った時の記憶だった。

 兄の貝瀬(かいせ)智行(ともゆき)と、妹の塔香(とうか)

 妹の方も兄に負けず活発で、よく三人で裏山の湖へ遊びに行ったものだ。

『俺たちはここを離れないと…けな…けど……』

 ――その後の言葉がよく聞き取れない。

『……か…ず、生きて……う…。(けい)

 どうにか聞き取ろうと必死に耳を澄ませたところで、ゴォォォォォという重く圧し掛かるような音が響き――夢から現実へと引き戻される。

 ――目が覚める。

 はっきりと覚醒しないままベッドから降り窓を開けると、音の圧力が一段と増した。机の上にある、ペットボトルの中の水が振動している。

 見上げると、一対の翼を持って高速で移動する影――戦闘機が青空を真っ直ぐに横切っていた。

 今――この国は戦争の真っただ中にある。

 一般人でさえ武器を取っている。自分も、今月に入ってから民兵の真似事のような立場を義務付けられた。訓練もなにもあったものではない。

 そして、こんな冗談のような世界で――さらに冗談のようなことが一つだけあった。夢に出てきた兄妹と自分の、三人だけの秘密の場所――思い出の場所。裏山にある湖だ。 

 その異変に気付いたのは四か月前。二月のある夜だった。

 街中を包む重苦しい空気に耐えられなかった自分は、たまに裏山に入り込んでは湖の傍で過ごすことがあった。そしてその夜はたまたま、手に持っていたゲーム機を取り落してしまったのだ。湖の、中に。

 急いで拾おうと覗き込んでみたが、手を出すことが(はばか)られた。

 ――空に手を突っ込みそうだったから。あくまで比喩として、だが。一瞬、自分がどちらを向いているのか分からなかった。それぐらい水面が――驚くほど綺麗に、夜空を映し出していたのだ。

 そう――まるで鏡のように。

 今まで何度も訪れていたのに、こんな光景は初めてだった。

 映し出された満月は、湖の中心でも尚その輝きを保っており、月光は自分の体を照らしている。

 驚いて?

 見惚れて?

 しばらく身動きをすることすら忘れていた自分に――自分の頭の中に声が響いた。

『これはお前が落とした――……なにこれ?』

 声が響いただけでも、摩訶不思議。妄想か、幻聴か――はたまた戦場ノイローゼというやつだろうか。……戦場に出たこともないのに。

 とはいえ、今のフレーズには聞き覚えがあった。あくまで前半の部分だけ、なのだが。

 あれは童話だったか――鉄の斧を落としたきこりに泉から出てきた女神が言うのだ。『あなたが落とした斧はこの金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?』と。その話の中には、女神が聞きかえすような場面は無かっただろうけども。

『……ゲーム機だけど』

 ……とりあえず、聞かれた部分には答えてやることにする。口に出さず、こちらも頭の中で喋ってみる。さて、一体何が出てくるのだろうか。金のゲーム機だろうか、銀のゲーム機だろうか――

『あぁ、ゲーム機か。なるほど――』

 どうやら通じたようだ。しかし益々自分の頭の心配をする必要が出てきた。脳内とはいえ、幻聴と会話しているのは問題だろう。

 …………

『これはお前が落としたゲーム機か?』

「さっきからそう言ってるだろ!」

 俗にいうTAKE2。この泉の女神ならぬ湖の女神(仮)は、きっちり台詞を言わなければ気が済まないらしい。このテンポの悪い女神の反応に、思わず声が出てしまった。

『そ、そうか。そうだな……お前には代わりにこれをやろう』

 目の前がまばゆく光りだす。とっさに目をつぶる。

 目を開けると、金のゲーム機でもなく、銀のゲーム機でもなく――

 鏡餅には似ても似つかない、奇妙な物体が置いてあった。

「……なんだこれ」

 問いかけるも、声は聞こえてこない。湖を見るも――鏡のようだった水面は元通り、夜の闇を溶かしたような暗い色をしており、底に沈んだゲーム機は確認できない。明日の日中、明るい間に探すことにした。

 持って帰っていろいろ触ると、裏にボタンのようなものがあり、押すと画面のようなものが空中に浮かびあがった。どうやらゲーム機らしい。

 あれから、毎日暇があれば湖へと足を運んだ。そのたびに、家の中にある適当なものを持っていく。一月(ひとつき)通ったあたりで、再びあの状態の湖を見ることができた。

 丁度、その時持ってきていた自転車を投げ込んでみる。

 そして再び、あの声が聞こえてきた。

『これはお前が落とした自転車か?』

 どうやらこの湖の女神(仮)。一応、自転車は知っているらしい。スムーズなやりとりをすることができ、内心喜びながら返事をした。

『そうか、お前には代わりにこれをやろう』

 そして前回のように躊躇うような声はなく。目の前が眩い光に包まれる。ゆっくりと目を開くと――案の定金の自転車ではなく、タイヤもペダルもない、自転車(?)らしきものが目の前に置かれてあった。

「これは――」

 なんだと問いかけようとしたが、再び水面はもとに戻っていた。

 しまった――。先にいろいろ聞いておくべきだったと後悔するが、水面に薄く映った満月は風にゆらゆらと揺れるばかりである。

 満月――そうだ、確か前回の時も満月の夜だった。どうやら、これがその湖の女神が出てくる条件の一つだと睨んだ。それが確かなものだと確認するのは――もちろん、来月の満月の夜。

 毎月、満月の夜に何か手近にある物を持って行き、それを湖へと投げ込む。

 そのたびに変わりのものが目の前に置かれる。時には投げ込んだものと全く違った形で。時には投げ込んだものとほぼ変わらない形で。

 投げ込んだものを金や銀にするのではない――

 投げ込んだものがグレードアップして戻ってくる湖(それと女神)。

 これまで投げ入れた物は、四つ。

 ゲーム機――

 自転車――

 硬貨――

 地球儀――

 そして代わりに受け取った物を見て、どうにも一つの事実を受け入れなければならなかった。

 けれどそれが、あまりに荒唐無稽すぎて――なんだか笑えてきた。いや、笑うしかなかった。

「けど……信じるしかないよな……」

 目の前にそれがある以上――疑いようのないことなのだから。

 それが、これまでの出来事。

 どこか狂った世界の中で、一際奇妙な湖での出来事。

 その不思議を残したまま、世界はじわじわと。

 戦場となる区域を広げていた。

 ――六月のある夜。

 眠りについた自分を叩き起こしたのは、けたたましいサイレンの音だった。

 自分たちが住んでいる居住区、そこが戦闘区域に変わってしまったことを知らせる警報音。

「まさか――とうとうここまで……」

 たかだか民兵もどきの自分たちに、緊急時の行動なんて訓練されていない。ただ――このまま家に留まっておくのは危険だと感じた。

 急いで銃を担いで家を出る。しかし、あの妙な品々を残しておくわけにはいかず、全速力で鞄に詰め込んだ。原理は分からないが、小さくなって収納できる、というのはこの状況ではとても有難い。

 それ以外は――もともと物なんてない家だ。殆ど持っていくものなんてない。――が、思い出の――あの玩具だけは手放すことができなかった。

 これから先、戦場のど真ん中に放り込まれることになるだろう。あの兄妹と再開できる可能性なんて限りなく低いに決まっている。けど――持っていくべきだと、そう思ったのだ。

「別にそこまでの大荷物ではないし――」

 誰に対しての言い訳だろうか、思わず出てしまった呟き。その呟きと共に押し込むように、玩具のロボットを荷物の奥底へと仕舞い込み、そして裏山へと走り出した。

 銃声のしない方、しない方へと走ってゆくと、奇しくもあの湖の前。

 あたりから物音は聞こえない。ここだけ外の世界から切り取られたかのようだ――。

 安心して腰を下ろし、荷物を下ろそうとしたところで――鋭い声が響いた。

「動くなっ! 武器と荷物を捨てて投稿しろ!」

 慌てて立ち上がる――が、振り向けなかった。声は後ろから聞こえた。

 恐らく、敵国の兵士が銃をこちらへと向けているに違いない。不意に立ち上がってしまった手前、これ以上危害を加えると判断されたら、たちまち引き金を引かれてしまうだろう。

「……わかったよ」

 手に持っていた銃を地面に捨てる。できるだけ自分より遠くに。

 ――それでも警戒は緩まない。続けて命令される。周りには他の兵士たちも出てきた。

「……荷物もだ。早くしろ」

 下げていた鞄の肩かけを外し、そのまま湖へと放り込んだ。水しぶきは撥ねない。湖に移った満月が全く揺れていないことに気付いたのは――恐らく自分だけ。

「どういうつもりだ!」

「まて、この男の無力化が先だ」

「待ってくれ……荷物を捨てただけだ。……投稿する。撃たないでくれ」

 声が聞こえない――

 まだか。まだなのか……。

『これはお前の落とした……』

 ――来た!

『……? なんでこんなに沢山? ……こっちが送ったものばかり?』

 恐らく、向こうに鞄ごと届いた(・・・)のだろう。そして自分の予想通りならば――

『あぁ、あったあった……』

『これは――お前が落とした(・・・・・・・)ロボット(・・・・)か?』

 おもちゃだけどもロボットには違いないだろう。大切な思い出の品だが――、こうする運命だったのだと思う。

『――そうだ』

 これが――最後の贈り物だ。

『そうか、お前には代わりにこれをやろう』

「……向こうの世界(・・・・・・)は今――」

 ゆっくりと口を開く。目を、閉じたまま。

「――レトロブームなんだってよ」

 そして瞼の裏からでも分かるほどの輝き。敵の兵士たちの驚く声が聞こえたのを確認して、急いで態勢を低くした。光が収まる時間を見計らって、目を開くとそこには――

 ――巨大な、人型のロボットが降り立っていた。

続きません(大声)

トゥービーコンティニュりません。


リハビリ三題噺第十五弾

[湖] [贈り物] [鏡]


Q.冒頭の兄妹のくだりいる?

A.実はあのロボットの中にごにょごにょ


話を広げて広げて、どこに行きつくの?

それが分からなかったが故にプロローグ回。


国同士の戦争って規模が大きすぎたね。

別世界から飛ばされたロボット一機で何とかなるものじゃないだろと。


ゴールが見えたあかつきには、連載作品へと昇華すると思います。


読みにくいのは、空行を入れてないからでしょう。

縦書きPDFで表示されるかどうかの実験的意味合いで、

この形式で投稿しました。


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