第7話 終幕 〈ゆくらみんゆい〉
私はドレス姿で階段を駆け下りた。急いでいる演技をしないといけないんだけど、ドレスの裾が長くて走りにくい。しかも、パニエみたいなのがスカートの中にいっぱい入っていて、足も上げにくい!
その時、私は不意にドレスの裾を踏んでしまった。
べちっ。
間抜けな音が、体育館に響いた。
私、こけた……!! どうしよう!
慌てて起き上がるけど、ドレスがぐちゃぐちゃになっている。頭の中が真っ白になって、なかなか立ち上がれない。そんな、私のせいで台無しに――――!?
そのとき、でした。
「シンデレラ!」
「と、ばく」
現れたのは、鳥羽くん。その姿は、本当に私の王子様だった。
あの日、私を助けてくれた鳥羽くん。今この瞬間も、助けようとしてくれている。ううん、助けてくれている。
「ありがとうございます!」
私は、王子様の鳥羽くんに手を引いてもらい、何とか立ち上がることができた。そして最後は、もう一度躍る。
「僕と、結婚していただけませんか?」
そう、いい雰囲気。12時を過ぎているわけでもない。このシナリオでは、魔法が解けてしまうことはないんだ。
だけど、このシナリオはどこまでも現代風。
「……ごめんなさい」
観客のどよめきが伝わってくる。「えーっ!?」という声も響いてくる。
私だって、演技でも好きな人にプロポーズされたりなんかしたら、喜んで頷きたいよ。でも……。
「私はまだ15歳なので、結婚は出来ないんです」
「……」
日本で結婚できるのは、女子は16歳から。私たちは中学3年生。私は15歳。
シンデレラの舞台がどこの国かは知らないけど、ここでは日本の法律が適用されるみたい。
「なら、付き合おう!」
「よろこんで!」
なんだこのシナリオ……。呆れたような顔をする観客の皆さん。私だって思ってます。なんだこれ、ですよ。
でも、これはこれで楽しかった。
なんとか劇は終わり、盛大な拍手が沸き起こったのだった。
「ごめんなさい!」
教室に戻って、私はぺこっと頭を下げた。
「あの時、鳥羽くんが来てくれていなかったら、劇は台無しだったと思います。本当に、すみませんでした……」
あの時というのは、もちろん私がこけたときのこと。
本当に恥ずかしかったし、最悪だと思った……。
「気にしなくていいよ。上手くいったんだし」
鳥羽くんはそう言ってにこやかに笑う。こういうところが、王子様っぽいんだよなあ。
彼がそう言ったのをきっかけに、他の人たちも許してくれた。
「頑張ったんだからいいじゃん」とか「むしろあれの方がいい感じだった」とか。確かに、ハプニングがあった方がよかったから、いいのかな? この劇には、ハプニングシーンがなかったし。
「まあ、終わってよかったわよね! はい、みんなで打ち上げいこー!」
「おー!」
篠山さんの言葉に、みんなが賛成する。
うん……? 打ち上げ?
「え、これってみんな行く感じ?」
遥に尋ねると、彼女は笑顔でうなずいた。
「そうに決まってるでしょ。鳥羽くんと近づくチャンスでしょ?」
「……ウン、ソウデスネ」
どうもみなさん、望月麻友です。文化祭の打ち上げに行くことになりました。