第5話 練習 〈ゆくらみんゆい〉
「じゃ、早速練習しようか」
「は、はい……」
私は緊張しながらゆっくりと頷いた。私なんかにシンデレラ役が務まるのか不安。シンデレラって結構バイオレンスな性格みたいだし、叫ぶシーンもいっぱいある。私、あがり症なんだよね。上手く出来るか心配だなあ。
「とりあえず、始めよう。台詞は、最悪シンデレラだけでも録音にして、フリだけしてもらえばいいから」
鳥羽くんの優しさが身に染みて、嬉しかった。でも、いくら代打だからと言って、みんな台詞を頑張って覚えているのに私だけ録音っていうのは少し嫌だ。みんなに心配をかけたくない。頑張って、台詞を覚えてみせる!
そんなわけで、練習が始まった。
「な、なんでそういうことするんですかっ!?」
「はいはいストップ。望月さん、全然違う。『なんでそーゆーことするんですかぁー!』って、声を張り上げて」
台本を作った篠山さんにそう言われて、私は項垂れた。気の強い子の役って、難しい……。やっぱり、私には無理なのかな? ううん、きっと大丈夫。練習すれば、上手くなるよね!
「『なんでそーゆーことするんですかーっ!』」
思いっきり叫ぶ。すると、お姉さま役の子がそれに答えた。
「『はー? 聞こえませーん。パードゥーン?』」
負けじと私は次の台詞を口にした。
「『英語使えるからって調子乗らないでよ! あたしはロシア語話せるんだからね!』」
「『だったら話してみなさいよ!』」
「もあ、しすとらーしーしゅぅな」
なにこれ、ロシア語? 凝ってるなあ。というか、読めないんですが。
「ダメっ! もっと流暢に!」
篠山さんの怒鳴り声が響いた。だって、ロシア語なんて話したことないもん! なんでロシア語の話になってるの!?
「もあ、しすたらーすーしゅうなぁ」
「もあじゃなくて、Моя! Моя сестра очень шумно!」
うぅ、篠山さん怖い。なんでそんな綺麗に話せるの? でも、頑張ろう。
「『Моя сестра очень шумно!』」
「はい、続けて」
やっとオッケーが出て、そのあとの演技が続けられる。
「『意味が分からないじゃないのっ!』」
「『私の姉はとてもうるさいですって意味よ!』」
「『はあぁー!?』」
姉役の子、すごく演技が上手い。本当に怒鳴られてるみたいで、今すぐ謝りたくなってしまう。
特に、『はあぁー!?』のところの音程の流れ方がすごく良くて、もう、とにかく素晴らしい。
「じゃあ、次の場面に行こう」
練習はとても大変。でも、頑張らなくちゃ。私は、鳥羽くんに選んでもらったんだから。
ここで失敗して、鳥羽くんの選択が間違っていたみたいに思われてほしくない。主役になったんだから、誰よりも努力しなきゃ。ごめんね、シンデレラ役だった人。でも私、頑張るから。