第20話 ぶつかる思い 〈ゆくらみんゆい〉
「それで、話したいことって何?」
席に座ると、僕が話すことを頭の中でまとめ終わらないうちに舞桜が聞いてきた。彼女は少し嬉しそうにしている。
確信はないけど、やっぱり誤解されているのかもしれない。そう思った僕は、早めにその誤解を解こうと思って口を開いた。
「僕は、舞桜とはこのまま友達関係のままでいたいんだ」
「……それって、どういう意味?」
舞桜は眉をひそめ、怪訝な表情を浮かべた。きっと、彼女は僕の言った意味が分かっていないわけではないと思う。ただ、信じたくないだけ。舞桜の表情からは、そんなことが読み取れた。
「そのままの意味だよ。だから、もしそれ以上を望んでいたんだったらごめんね。僕には舞桜が友達以上の関係を持ちたがってるように見えたんだ。……僕の、気のせいかな?」
舞桜をまっすぐに見つめながら言う。表面上では落ち着いているように見せかけられたけど、心の中ではとても落ち着いていられなかった。
もし、舞桜が怒って帰ってしまったりしたら。突然泣き出したら。僕の言葉で、舞桜を傷つけてしまったら。そうしたら、申し訳ない。
それに、いくら喫茶店の客が少ないからと言って、この店にいるのは僕らだけではない。他のお客さんもいる。だから、もし舞桜が怒鳴ったり泣いたりしてしまえば、お店の前曰くにもなるし、注目を浴びてしまうと思う。それはどうしても避けたかった。
それで、僕は平静を装っていながら、心の中では落ち着かずにはいられなかったのだ。
なかなか返事をしない舞桜を怪しんだ僕は、彼女の顔を覗きこんだ。
「舞桜?」
すると舞桜は突然立ち上がった。その勢いで、椅子が倒れそうになった。びっくりして、僕は舞桜を見上げる。
「どうしたの?」
「なんで、なんでそんなこと言うの?」
まずい、と僕は思った。舞桜の瞳には、もう涙が浮かんでいた。やっぱり、言い方が悪かったのかもしれない。いや、そうじゃない。どんな言い方であろうと、きっと舞桜は、泣いていたと思う。優しく言おうが、きつく言おうが、内容は同じだから。
望月さんに危害を加えないでほしい、と思っていた。でも、もしかしたら、これは間違いだったのかもしれない。
「舞桜」
「私、遥樹くんのことこんなに好きなのに。……鳥羽くんは、あの子のことが好きなの?」
あの子。その指示語が、望月さんを示しているということはすぐに分かった。舞桜は、なんで知っているんだろう。分かりやすかったのかな?
「そういうことじゃなくて。でも、望月さんは僕のクラスメイトだから、舞桜に何もしてほしくないし、できることなら、仲良くしてほしい」
そう言ったけれど、舞桜には伝わらなかった。彼女は泣きそうになって、喫茶店を飛び出して行ってしまった。
追いかけよう。ちゃんと誤解を解かないと。……でも、何の誤解を?
そう考えながらも、僕は飛び出して行った舞桜の後を追った。




