第9話 戸惑い 〈ゆくらみんゆい〉
「そ、そんなことないよ! おかしくない! 私も、人前で歌うのは苦手だけど、聞いてるのは楽しいよ!」
私は必死になってそう言った。すると鳥羽くんが笑い出す。
わ、私もしかして、変なこと言った!? ぎゃー!
「ご、ごめん。望月さんって、そんなタイプだったとは思わなかったから」
「う、ううぅ……」
というか、私って、鳥羽くんと部屋二人っきりなの!? 両方とも聞く派だったら、沈黙じゃない?
大丈夫なのかな。不安……。
嬉しいけど、恥ずかしさの方が上。こんなことなら、無理やりにでも10人部屋に12人入るべきだったんじゃないのかなあ……。
「じゃあ、先歌う?」
「えええ!」
わ、私からかあ……。こういうときって、何を歌えばいいんだろう。
変なセレクトしたら、私、趣味の悪い子だって思われちゃうかもしれないし……。いや、鳥羽くんはそんな先入観を持つような人じゃないはず。
自分の好きな曲を思いっきり歌った方がいいよね。
私は、お気に入りの恋愛曲を入れた。あ、この曲かなり歌詞が恥ずかしいやつだ。やっちゃったあ~!
「……望月さん、曲、始まってるよ?」
「うううぅ……」
私は、なかなか歌いだせないでいた。この曲は「愛してる」とか「君が大好き」とかそんな歌詞ばっかりだ。なんでこの曲にしちゃったんだろう。
家でなら大声で歌えるけど、鳥羽くんの前でこんなの歌えるわけないよ!
「愛してるの一言も
僕は言えなかったけれど
謝らないでと
君は笑った」
「……っ!?」
私は驚いて鳥羽くんを見つめた。今、鳥羽くんが歌った……!?
「ごめん。この曲、僕も知ってたから。一緒に歌おう?」
「う、うん!」
恥ずかしいけど、一緒に歌うならまだマシかも……。
私たちは二人でその曲を歌った。
「愛してるの一言も
僕は聞けなかったけれど
ごめんなさいなんて
謝らないで」
この曲の歌詞、何度も思うけどやっぱりいいなあ。
相手のことを思いあってるってのがいいよね。作詞者って誰だっただろう?
「じゃあ、次は僕か」
鳥羽くんがそうつぶやきながら入れた曲は、私の知らない曲だった。
でも、ゆったりとした曲で、心地良い。知らないはずなのに、何故だか懐かしい気がした。
それにしても、鳥羽くん、歌上手くないとか言ってたけれどすごく上手い。歌うのが好きじゃないなんて、もったいないなあ。
その次に、私は「君がいなくなる前に」という曲を歌った。
「君がいなくなる前に
一度だけ聞かせて
君がいなくなる前に
一度だけあの言葉を
ありがとうも
さよならも
聞き飽きたけれど
君がいなくなる前に
もう一度聞かせて
あの言葉 もういちど」
うーん。さっきから私、同じような曲ばっかり歌ってるなあ……。
今年ももう終わりですね。
来年もよろしくお願いします。
まだまだ続きます。




