断片
これは、とあるお話の終わり。
本来あるべきだったもの。
改変される前のもの。
正しい物語の終わり。
あの子が蛇足をしなければ、こうなっていた。
途中から全部改稿されそうだったのを、最後だけ何とか守り通せたよ。だから途中は抜けてる。
できれば君の想像力で補ってもらいたい。
僕は消されてしまった物語もすべて知っているけれど、誰かに教えるのはマナー違反だからね。できないんだ。
だから何とか消される前のを持ってきたんだよ。消される前なら、誰の目に触れてもおかしくないからさ。例えば、僕とは何の縁もゆかりもない君にも。
これこそが、本来あるべき姿なんだよ。
──……諄くなってしまったね。
とにかく、途中までは、順調に進んでたんだ。
いつもどおり、この物語も、幕を閉じようとしていた。
誰も抵抗することなく、正しく終わるはずだったのに。
久しぶりに、何の異常もバグもなく、書庫に収められると思ったのにな。
なんで変に手を加えちゃうかな~、あの子は。
そうだ、文句言ってこよう。
とりあえず、読んでて。
最後の方だけだから、短いけど。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「じゃ、次の森探すよ。ありがとな、ツィーとシン、ライ」
簡素な身なりのハトの森の狩人は、そう言って手を振ると、人間でいうところのこめかみに、人差し指を当てながら駆けていった。
『世話になった。』
小さな呟きは、肌の露出が皆無なアカハの森の狩人。目元だけかろうじて出てはいるのだが、影になっていてその瞳の色は伺えない。
その声を聞き取れるのは、狩人の優れた聴覚があればこそ。注目すれば、僅かに首肯もしていた。
その隣に立つ、似たような外套をまとった少女がそれを繰り返す。
「お世話になったって、キトは言ってるよ」
それは、もう耳慣れた光景だ。
最後に手を振り、近寄ってきたヴォルグの背に乗ってカルに先導されながら去っていった。
その後を追うヴォルガは、時々こちらを振り向きながら。
〈 また来てくれるかしら 〉
──さみしくなるね。
そうだな。
込み入った事情のある他の森の狩人を見送り、この森の狩人と精は、こっそり言葉を交わし、今までの仕事に戻っていくのであった。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
ただいまー。
あの子逃走したみたい。
仕方ないから探してくるよ。
ついでに修正できればいいけど、致命的な変更点とか無いよね?
続きも前も全部あの子が変えちゃったみたいだから、それと繋がる物語はないけど、よかったら、想像してあげて。
人形たちが不満を溜めすぎて動き出さないように。
じゃね。今度は修正できた暁に。
……言葉間違ってるかも。まいっか。