黒い砂時計
黒い砂時計
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(つーかこんだけ街中がピンク色だっつーのに、なんでオレだけブルーなんだよ)
クリスマスが近いこともあってか、街中がカップルで溢れている。その中で、ポツンと歩いている少年が一人。
瀬戸口彩牙。街の高校に今年の四月から通っている、上向きの髪が特徴の学生だ。
(こんなことならワンランク上の共学校に行きゃあよかったな……)
瀬戸口の通う高校は男子校なのだ。確かに初めは共学校を志望していたが、担任の『現実を見ろ』の一言で今の高校を受験する羽目となったのだ!! とはいえ、こちらも悪いとは言えず、中々充実した生活を送っている。
そんなことを考えていると、瀬戸口の視界にあるものが飛び込んできた。反対側の歩道だ。
「やーやーキミキミー。今オレと目ェ合ったよねェ」
「へ? い、いや……」
「五十嵐さん。こいつそーとービビってマスヨ」
中学生と思われる少年が、いかにもという感じの高校生二人に物言いをつけられているようだ。
(あーあー。いらねェもん見ちまったな)
そう思いながら、瀬戸口は三人の方へ歩き出す。その右手はパーカーのポケットに入っている。
「丁度今喉乾いてんだよ、オレら」
「こういうときって『なら僕がお飲み物買って来ましょうか』って言うもんだろーが!!」
少年は、肩をビクゥ!! と震わせて答える。
「ひ、ひゃ、わわ分かりました!! すぐ行きますから許して下「放っとけ」
突然言葉を遮った者の正体を確かめようと後ろを振り返ると、逆立った黒髪の少年が立っていた。
「放っとけよそんな奴等。他人を傷付けることしか出来ねぇ奴等なんかな」
「…………いい度胸してんな。テメェ見た所高校生のようだが、オレをそこらの高校生と同視してたら後悔すんぞ」
「死亡フラグ一本入りました」
「テンメェェェェェェェェェェェェェ!!」 直後、ビュン!! という音と共に瀬戸口の体が横合いへ吹き飛んだ。
驚いたのはむしろ加害者の方だった。
「…………どんだけ強いのかと思ったらこれかよ」
「口だけッスネ、ダッセー」
二人は瀬戸口を一笑すると、先程の少年を連れて歩き出していった。
この出来事は道を歩いているカップル達もたくさん見ていた。だが、誰一人と気付かなかった。これまで瀬戸口の思惑通りだったということを。
(……中々痛ェじゃねェの。だが、後悔すんのはテメェの方だ)
瀬戸口は仰向けに倒れたまま、ポケットの『それ』を取り出した。『それ』は、時計だった。それも、砂時計。だが、一般的な砂時計と比べると格段に雰囲気が異質である。そう感じさせる要因は、その砂の色。土色では無く真っ黒な砂が入っているのだ。
『黒い砂時計』と呼ばれる『それ』は、瀬戸口の右手によってアスファルトの上で上下を返された。
瞬間、瀬戸口の視界が歪み、モノクロに変貌した。しかし、その一瞬後には元の色が染み込んでいた。
が、
瀬戸口は、『先程とは反対側の歩道に立っていた』
「丁度今喉乾いてんだよ、オレら」