僕の中の神父が死ぬ事について
青白い月の光が暗い部屋の中に入り込んできた。その時になって僕の中の神父がおぞましい鈍器ようなモノで誰かに撲殺されているのに気がついた。
それは神父と言えるようなものでも無いほどに暴力的にそして確実に殺されていた。
まるで神父がそこに生きていた事実を頭から否定するかのように…
確かに神父は僕の中で生きていた。
昨日もウィスキーを飲みながら1人娘の話を(僕はその話いったい何度聞いただろうか)楽しそうに話していた。
僕は神父をそれまでにも何度も殺されいる。(あるいはそれは僕が殺してきたのかも知れない)しかし彼はもう誰にも殺される事はないだろうと思っていた。
僕もそのために最善の注意を払ってきたつもりだった。
しかし神父はまたしても理不尽にそして完膚無きまでに殺された。
そこには再生の余地はない。
それは僕にもわかる。
少し前まで神父の形をとっていたその肉の塊を見ていると僕は酷く悲しくなってきた。
誰だって神父を殺されたくなんかないのだ。
空になっていたウィスキーのグラスに少しずつ孤独と不安と恐怖が満たされていく。
それらは月の光に照らされて綺麗な光沢を放っていた。
暗い部屋の中で彼らは奇妙に混じり合い不気味な虹を作った。
それを見ているとなんだか悲しみが癒されいくような気がした。
不気味な虹は僕の周りを執拗に取り巻いて最後には僕を完全に支配した。それからは僕の中に神父が住むことはなくなってしまった。
彼らが住んでいた教会さえ僕の中にはもうないのだ。
悲しみが損なわれる事が何より悲しい。