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第2章 坊主連盟

  第2章 坊主連盟


 ある日の午後便利屋福来で福来剛毅と富吉憧一がまたたわいもない会話をしている。

「兄貴、これ格好いいだろう」と憧一が神聖戦士ニキのフィギュアを見せながら言う。

「俺は特撮ヒーローには興味がない」と剛毅はきっぱりと言った。


 すると、玄関のドアが開いて、20歳前後の坊主頭の美しい青年が1人中に入ってきた。この青年は身長170センチくらいのスリムな体型で、カジュアルな服装をしていて、さわやかな印象を与えていた。そして、ズボンのポケットからトランプのスペードのエースを取り出すと、このカードを剛毅と憧一に見せて、「こんにちは。僕、成子仁なるこ・じんといいます。神岡さんからの紹介でこちらに伺いました」と清々しい口調で言った。剛毅は立ち上がってカードを受け取ると、仁に座るように勧めた。仁が座ると、剛毅も座った。


「それでは、成子さん、ご依頼の件というのは」と剛毅が話しかけると、仁は「あの、僕のことは仁と呼んでください。みんなそう呼びますので」と、はきはきとした口調で言った。

「それじゃ、仁君、話してくれるかな」

「はい、僕は最近坊主連盟というところで働き始めました。坊主連盟というのはヘアスタイルとしての坊主の普及と拡大を目的として活動している団体です。連盟からは働いた日にきっちり日給をいただけるので本当にありがたく思っています。しかし、こんな簡単な仕事でお金がもらえるというのはどこかおかしな気がするんです」

「仕事の内容は?」

「それが映画のDVDを観て感想文を書くだけなんです」

「それはおいしすぎる仕事だな。俺もやりたいな」と憧一が口を挟むと、剛毅は余計なことは言うなといった感じの表情で憧一をにらんだ。

「怪しいと思うなら、その仕事を辞めたらいいんじゃないかな」と剛毅が穏やかな口調で言うと、「そういうわけにはいきません。僕が坊主連盟で働くようになったのは僕が働いているカフェバーのマスターから勧められたのがきっかけなので、たいした理由もなく辞めたりしたらマスターに悪いです」

「カフェバーでも働いてるの」

「そうです。もともと春吉にあるチャボーズというカフェバーで働いていまして、今は午後3時から6時までは坊主連盟で働いて、そのあとの時間はチャボーズで働いています」

「確認するけど、坊主連盟では何か危ない目にあいそうな感じなのかな」

「いいえ、今のところそんなことはありません」

「だったらもうしばらくそこで働いてみたらどうだろう。俺たちが連盟のことを調べてみるから」

「ありがとうございます。それでは、僕はこれから住吉にある坊主連盟の事務局に行きますので、きょうはこれで失礼します」と言って、仁は立ち上がり、玄関から出て行った。

「兄貴、仁君っていい感じの子だよね」

「そうだな。俺は坊主連盟のことを調べるから、お前は仁君の周囲を当たってみてくれ」


 午後7時頃、剛毅は坊主連盟の事務局があるという場所に来た。入口のドアには「坊主連盟」というプレートが貼ってある。剛毅はドアを開けて中に入った。


 中に入ると、そこはバーでカウンターの向こうに坊主頭の中年の男がいた。その男は剛毅を見ると、「すみません、まだ開店前なんです」と声をかけた。

「そうでしたか。お店の名前を見て、どんなお店なのかと思ってつい…。何か団体の名前みたいですね」

「よくそう言われます。坊主好きの人を集めたいと思いまして、こういう名前にしたんですがね」

「やっぱりそうなんですか。開店までどこか適当なところで時間をつぶしたいんですが、いいお店をご存じですか」

「それなら、春吉にあるカフェバーのチャボーズをお勧めします。落ち着いた雰囲気のいいお店です」

「ありがとうございました」と言って剛毅は店から出た。


 便利屋福来に戻った剛毅は憧一に自分の調査結果を伝えた後、憧一に尋ねた。

「そっちはどうだった?」

「チャボーズに行って、マスターやお客さんたちと話したんだけど、とにかく仁君の評判はすごくいい。真面目でよく気が利いてさわやかで明るいと言われていて、仁君に会うのが楽しみであの店に通っている常連客もいるんだって」と憧一はうれしそうな口調で言った。

「なるほど。そういうことなら正面突破でよさそうだな」と剛毅は何かを悟ったような態度で言った。


 翌日、剛毅はチャボーズに行った。開店前だったので、店内には50歳くらいの男が1人いるだけだった。

「マスターの草場さんですよね。俺は便利屋の福来剛毅といいます。坊主連盟と成子仁君のことで、お訊きしたいことがあります」と剛毅が言うと、その男は「はい、草場です。何でも訊いてください」とさほど驚いた様子もなく答えた。


 さらに翌日の夕方、便利屋福来にまた成子仁が訪ねてきた。

「調査結果を教えてください」と仁が言うと、「それはここではなく、もっといい場所で教えるから、俺たちと一緒に来てくれないか」と剛毅は明るい口調で言った。

剛毅と憧一は仁を連れて外に出た。


 3人は春吉にあるチャボーズの前に来た。

「ここは僕が働いているお店ですよ」と仁は少し驚いたような様子で言った。

「いいから、中に入って」と剛毅は促した。


 仁が店内に入ると、突然クラッカーの鳴る音がした。仁は突然の事に何がなんだかわからないといった様子だ。すると、店内にいたマスターと5人の客たちが歌い始めた。

「ハピバースデイ・トゥーユー、ハピバースデイ・トゥーユー、ハピバースデイ・ディア・ジン、ハピバースデイ・トゥーユー」

そして、6人が口々に「誕生日おめでとう」と言った。

「ありがとうございます」と仁は感激した様子で言った。

「マスター、あのことを説明してください」と剛毅が促した。

「仁、君はいつも一生懸命よく働いている。だから、給料を上げようと言ったら、断っただろう。それで、坊主連盟のマスターに協力してもらって、ああいう形で昇給分を渡したというわけだ。来月からはもう面倒なことをしなくてもいいよな」

「はい」と仁は目をうるませて答えた。

 

 そして、仁の誕生日を祝うパーティーが始まった。

「こういうのっていいよね」と憧一が楽しそうに言うと、「そうだな」と剛毅は笑顔で答えた。

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