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空カラフル一人のロリ

 ○



 なんとなくオチがついたところで、俺達は仲よく連れ立って帰路に付いた。早く帰ってネットの海にもぐりたい。最近の学生諸君は『スマフォ』なる怪しげなマジックアイテムでいつでもどこでもヌードデッサン用の参考資料が見れるらしいが、生憎俺はその所持を禁じられている。一応携帯自体は持っているのだが、小2の頃からネットには繋がらないキッズ仕様そのままなので、色々と捗らない。エロ画像、もといヌードデッサン用参考資料が見れなくて携帯電話にどんな使い道があると言うのだろう。いや、ない! と言い切ってしまえる。少なくとも俺にとっては。第六十三回、輝け! 引く程友達いないグランプリ高校生の部で堂々六位入賞を果たした俺に、電話やメールをする相手など存在しないのだ! 俺のアドレス帳には警察、病院、こなゆきしか登録されていない。脅威の固有名詞一つではあるが、こなゆきがいるせいで友達いないグランプリでは毎度悔しい思いをしている。

 下校中にはありがちなことだけど、思考をそんな風にあらぬ方向へと飛ばしていると急に、ぽつぽつと雨が降ってきた。

 本当に急だ。天気予報では降雨確率は確か0パーセントだったはずだけれど、すぐにぽつぽつとした大人しい降り方から、台風が接近しているかの様な豪雨になった。ちなみに天気予報において、俺は石原の次男を信用していない。信用度で言えば、ヤン坊マー坊天気予報こそがやはり一番だろう。次いで森田さん、木原さんと続く(俺調べ)。え? 元のデータは全部同じだから大差ないって? うっせ、いいんだよこういうのは気分の問題なんだよ。

 突然の雨に、こなゆきは項垂れて泣き真似をした。 

「ふぇーん葵ちゃん、わたし傘もってきてないよぉ」

「ふ……君に泣き顔は似合わないな」

 俺はこなゆきの目元を優しくぬぐってやった。別に泣いてはいなかったし、それを知らない程俺もアホではないが、そうせずにはいられなかったのだ。俺はふっと優しく微笑んで、バックからこんなこともあろうかと持っていた携帯用カッパを取り出す。

 こなゆきは落胆の色を隠さない。

「うぅ、カッパは一人用の雨具……もういい、わたしにかまわず葵ちゃんだけでも生きて……」

「ジェシー(適当)諦めるにはまだ早いぜ! 俺に名案がある!」

 重要なのは、発想の転換だ。カッパは確かに一人の人間しか着用できないが、その代わりその着用した一人は、全周囲からの雨を防ぐことができる……つまり?

 そう、カッパを着た人間を傘として使用すればいいんだよ! 

 俺はこなゆきにカッパを被せ、その華奢な体を持ち上げた。大して重くはないが、落とすわけにはいかないのでバランスには気を使う。

「これはやばい……」

 もちろんいい意味で。傘の誕生以来大して進化してこなかった雨具の歴史を、今俺が何の気なしに飛躍的進化をさせてしまった感がある。ハッハー! 俺の下校はレボリューションだぜ!

 しかし。

 最初こそ「ジュアッ」とか「許さないぞバイキンマンっ!」とか叫んで(ガキか)はしゃいでいたこなゆきが、すぐに降ろせ降ろせと喚き始めるようになってしまった。

 極近い上空からぽつぽつと、精気の無い声が落ちてくる。

「ねぇ……わたし達、すっごく見られてるよ……」

「まぁ斬新な方法だからな。十年は先行ってるでしょ、時代の」

 帰ったらとりあえず知り合いの弁理士に電話だ。特許を取らずにおいて、泣き寝入りはしたくない。

「ねぇ、集団下校中の小学生がこっち見て笑ってるよ……」

「ははは、まぁ小学生はなんでもおかしがるものだから。取りあえずお下劣な三文字言葉言えば笑えるんだから、幸せだよな。ボンボンとか、この年で改めて見るとひいちゃうぜ」

「葵ちゃん、もうボンボンは……ってそんなのはいいや。ねぇ……もう降ろしてぇ……。カッパ返すから」

 ボンボンは……の続きが気になったけれど、俺は男らしく笑ってみせる。

「ははは、遠慮しないでいいって。体冷やすと免疫力落ちるし、なにより色々透けてエロティックになってしまうぞ?」

 こなゆきの声が、段々悲痛な色を帯びてきた。

「もういい、もういいの。こんな状態を知り合いに見られるくらいならもう、濡れた方が……ううん、死んだほうがいいっ! 明日から『やーいお神輿女!』とか言われていじめられちゃうっ!」

「ははは、イジメられたら俺の名前を出せばいいさ。たぶん、一瞬で止ま――」

「いいから降ろせや小僧♪」

「はひぃっ!」

 頭で降ろそうと考える前に、俺はこなゆきを降ろしていた。本当に怒っているときのこなゆきの声は、俺の脳ではなく脊髄に直接届く。長年の調教の賜物だった。そして、遮蔽物がなくなった途端、当然一瞬のうちに俺はびしょびしょになってしまう。はぁ、全く。男が濡れたところでなんの風情もないのに。よく勘違いされているが、水も滴るいい男ってのは、それを見て水がしたたってしまう程のいい男って意味で、濡れてるのは見ている女の方だ。 どこが? とか聞くんじゃないぞ。

 そんなことを思っていると。

 ぱっ、と雨が止んだ。雲まで強面の体育教師に怒鳴られた小学生の集団みたいに、すぐ解散した。晴れ間から、隠れていた西日が射し込んでくる。まるで画面を切り替えたかのように、それはほんの一瞬のできごとだった。

 ここまでなら、珍しいこともあるなぁですむのだけれど。

 今度は、雪が降ってきた。

 それからまた晴れて、次はあられ。飽き性の子供が回すテレビみたいに、目まぐるしく天気が変わる。この調子じゃヤリでもふるかな、と冗談めかして言ったらアリが降ってきた。

これは……少し考えられない、異常気象だ。

「まるで、終末だぁね」こなゆきがぼそっと言った。

「終末っていうと、黙示録とかノストラダムスとかの?」

「そう。皆言ってるよ、今年はマヤのカレンダーが終わる年だーとか、フォトンベルトに突入するからおわたーとか。怖いねぇ葵ちゃん」

 そんなことは毎年言われている気もするが。というかマヤは去年に終わって、案の定なにもなかったよな。でも確かに、今年に入ってから地球さんのヤンチャ振りは半端ねぇレベルになっている気もするし、欧州の研究所で作り出したブラックホールが暴走して、町が一つ消し飛んだのはつい最近の話だ。皆の考えが、『終末』とかそういう方向に行ってしまうことも、理解はできる。

 まぁ、とは言っても。

「終末ねぇ……ふぁああ」

「あ、あくびなんかして。なんだいそのやる気のない態度は。葵ちゃんだって宇宙船地球号の一員なんだよ? 無関係じゃないんよ?」

「……はふ。そんなこといってもさ。話が大きすぎて、俺にはよく掴めないんだよなぁ。ていうか、カッパ返してよ」

 残念ながら我が頭の性能は少し残念で(本当に残念です)抽象的な思考は苦手なのだった。俺に何かを伝えたいのなら、ダイレクトアタックで来て欲しい。擬人化とか大歓迎だ。

 そう、頭の中で思った。

 すると。

「ちょっと、葵ちゃんっ!?」

 急にこなゆきが悲鳴を挙げた。あまりに急な事に驚き俺は「ふえぇ?」と萌え萌えなリアクションを返してしまう。うん分かってる。すまない。

「もうっ、なにあらぬ方向に頭下げてるんだよっ! 私の視線を追って!」

 他人の視線を追従すること。それは普通の人間なら当たり前にやることらしいけれど、俺は意識しないとできない。言われて初めて俺はこなゆきが見つめている方向――真上に広がる夕焼け空を見つめる。


 ――驚いた。


 いなかっぺ風に言うと、たんまげたぁ。

 クールガイの俺がそんないなかっぺな反応をしてしまうくらいなのだから、どんなとんでもない事が起きているかは推して知るべし。

 なんと。


 雨、雪、あられ、アリときて、今度は一人の女の子が、降ってきているのだ。


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