表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

花籠めに

作者: 十月十日

はな-ごめ-に【花籠めに】

花ともろともに。花ぐるみに。

 山の頂上に辿り着くと、暖かな風が吹いた。予感は当たったようだ。大木の根元に佇む人影がある。

 淡い紅の着物を纏ったその人は、こちらに気づくと少し驚いたように目を丸くした。その人の元に歩み寄り、手に持った扇を手渡す。畳まれた地味なそれがその人の手に渡った瞬間、ふいに艶めくように見えた。

 長い袖を翻して、大木を振り仰いだその人はぱらりと扇を開いた。花も葉もついていない、節くれだった木の枝だけが描かれている白地の扇だ。白い残光が闇に長く尾を引き、ざあっと音を立てて風が駆け抜ける。掻き乱される髪を押さえて木を見上げると、無意識に口元が綻んだ。

 穏やかな嵐に誘われて、無数の蕾が震えている。今にも開こうとしているようなそれは、もう一度扇が一閃すればすぐにでも弾けてしまうのだろう。

 その光景は、初めてここへ来た五年前、扇を託されたあの日から、この心を奪ったまま消えることがない。

 振り返ったその人が、美しい花の咲いた扇を掲げてふわりと微笑む。昔交わした会話が脳裏に甦った。

(貴方、好きな人は居ないの?)

(……いないよ。好きな人はいない)

 好きな「人」などいない。心は全て貴女に奪われてしまっているのだから。

 春の夜の薫りがする、桜色の風が舞い上がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ