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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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68. 選ぶことの 意味

  百、 ネコが数を数え終わるまでに。


  この中の、誰か 一人。


  混ざっている 《ニセモノ》を探し出し、殺すこと。


「……… そうしなければ ………」

「捕えられたアリスちゃんは ……」

「ネコによって、アリス様は ……」


  ろくじゅうごー  ろくじゅうろーく  ろくじゅうしーち


「…… どうすんだ」

「選ぶっていったって、条件が 条件だし」

「ねえ、本当に 選ばなくちゃいけないの?」

「だって、この空間の支配者は、間違えなく ネコなんだし ………」


  支配者に逆らって、万が一、叶人に 何かあったとしたら。


「だっ …… だめ、だめ!」

「でも、何を基準に、その 《一人》を決めるんだよ?」

「正直 ……… もう、俺、何がホンモノなんだか、全然 わからないんだけど」

「考えたって、だいたい あたし達に わかることなんて あるの!?」

「ぼ、僕は ………」

「ねえ、ウサギちゃんも 黙ってないで、何か考え ―――――」


  振り返ったメンバーから 少し離れた位置で、白ウサギは 何をしていたかというと。


「…………… なに、アレ」

「ヤバくない?」

「いつも、かなり ヤバイとは思うけど ………」


  恍惚の表情を湛えて、空中の 《ある場所》を 熱心に見つめているではないか。


「……… 気色悪いの~」

「妖精ちゃん、見ちゃだめだよ」

「チャッキー ……… その言い方は、さすがに」

「甘いよ、リーヤ。 ウサギちゃんを甘やかしたって、ろくなことないんだから!」

「……… まあ、でも、《あの姿》を見る限り、白ウサギは 《ホンモノ》ってことで、いいんじゃないの?」

「……… だよね」

「アレ以上、気色悪い生き物があったら、速攻で あたしが撃ち殺す」


  その場の全員が 数歩ずつ 後ずさりしていく中、幼い妖精王だけは、パタパタと 白ウサギに近づいていく。

「ちょっっ!」

「だめだよ、メル!」

「そのウサギ、危険だから!」

「う~?」


  小首をかしげながら、《危険物》へと 平気で近寄れるのは、幼い証拠とでもいうべきか。

「うさちゃんは、何を見てるの~?」

「……… 決まっているでしょう。 僕が見るのは、いつだって カナトだけです」

「む~? ご主人様は~、ここには いないのに~?」

「何を言っているんですか? カナトなら、ずっといるでしょう」

「うにゅ~?」


  何もない空中に視線を向けたまま、うっとりと 甘い声。

「ああ ……… 僕のカナト。 待っていて下さいね。 こんな窮屈な空間から、すぐに助け出してみせますから」

「ちょっとー。 カッコいい宣言のところ悪いけど、カウントは もう八十まできてるんだけど」

「……… 本格的に、ヤバくなってきたな」

「誰か一人、選ばなくても アウトなんでしょ?」

「何としても、誰かひとり、死ななきゃなんないって ………」


  焦る面々など 目もくれずに、白ウサギは空中に向け、ぐずぐずに崩れた顔で話しかける。

「この僕に、陳腐な 《まやかし》なんて、無意味です。 すぐ近くにいるのに、あなたのことが わからないはずがないでしょう?」

「……… 本格的に、おかしくなってるね、ウサギちゃん」

「い、いや …… 待って」

「どうしたの、リーヤ」

「……… 何か、聞こえない?」


  オオカミ少年のリーヤは、その 獣耳を、ピクピクとさせる。


「……… む~?」

「君は、仮にも 妖精王でしょう?」

  しかも、叶人に 名前を与えられた身。


「……………………… ご主人さま?」


「!」

「!」

「!」


「……… バカバカしい、こんな事くらいで、僕から あなたを引き離そうとしたって、無駄です。 僕を惑わせることなんて、この世界では 誰もできない ―――― カナト、あなた以外は」

「どういうこと? 本当に、そこに ……」

「芹澤が………」

「さっきから、何を 当たり前のことを。 大体、何ですか、 あなた達は」


  振り返ったウサギ男は、冷ややかな表情に一変する。


「僕が倒れている間も、あなた達は カナトのそばにいた。 僕よりも、長い時間。 僕が抱きしめてあげたかった時間も、カナトのそばに ………」

「お、おい」

「何だか、八つ当たりされてる?」


  視線が刃になるのなら、全員を切り裂くくらいの迫力は充分にあった。


「……… カナトと共に過ごしながら、何故、わからないんですか」

「だ、だって ……」

「気配も感じないし、ましてや 音だって聞こえな ―――――」

「違います」

「え?」


  今、すぐそこに。

  叶人がいる ―――― そのことを指しているのでは、ない。


「………… メル、わかったかも」

「!」

「ご主人さまが、いつも 《していたこと》。 大事なのは、それ?」


  何かに気が付いた様子の 妖精王は、きょろきょろと 辺りを見渡した。


「うーんと、うーんと」

「メ、メル?」

「何を 探してるの?」

「うーんと、うーんと。 ご主人さま、前に言ってたの」


  必ず、どこかに。

  《抜け道》がある。

「もうダメって時こそ、何かあるはず ………」

「仕掛けとか、抜け道とか ……… 探したくても、もう時間が!」

「――――――― あ、わかった、俺」


  ヒーローに憧れて。

  この世界なら、強くなれると期待して。


  そんな自分に与えられたのは、オモチャのような 木のパチンコ。


  騙されて、殺されかけて、知らずに 自分も 同じ道に進んで、叶人を騙して。


  それでも、自分は 今、ここにいるということ。

  その 《意味》を。


「答えなんて ―――― 最初から、悩む必要なんて、なかったんだ」


  自分が、ホンモノであるというならば。

「叶人さんと 過ごして、叶人さんに付いてきたんなら、気付かなきゃいけなかったんだ」


  気付いた瞬間に、視界が一斉に開けていくような 感覚。

  追いかけていきたいのなら、こんなところで 立ち止まっている場合ではない。


「ミズキ ………」

「メルも、わかった。 探すのは、ココじゃないの」

「ま、待って。 あたしには、何が 何だか ………」

「チャッキー ……… ぼ、僕もわかった」

「はっ!?」

「僕たち、ひとり ひとりが 《ホンモノ》なら」


  ここまでの道のりを、思い出せばいい。

「思い出す ………?」

「カナトが常に 何を言っていたか、忘れたとは言わせませんよ」

「アリスちゃんが ……… 言っていたこと ………」


  赤ずきんは、今までの 出来事を急いで振り返ってみた。

  ほんの短い期間だというのに、様々なことが 山盛りにあって。


  気が付いてみれば、こんなにも大人数になっていて。


「何故、カナトの周りに 人が集まるのか。 何故、カナトに こんなにも惹かれるのか ――― もちろん、カナトが誰よりも可愛いから、当たり前の話ですけどね」


  窮地に陥った時こそ、逆転の時。

  敵の真意を 見極められる時。


  相手が、狙っているモノは、何なのか。

「それは ……… あたし達の、《分裂》」

  信頼、信用、絆 ――― この ねじれた世界において、笑い話にしかならないものを、壊すため。


「それで ……… そこに、アリスちゃんがいる意味 ………」


  壊れていく仲間たちを、見せつけるため?




「―――― どうやら、答えに辿り着いたようね」


  ふいに、目の前に現れたのは、どこかに行ってしまっていた マッチ売りの少女だった。

「マッチちゃん!?」

「どこから ………」

「どうやって ………」

「あら、入り込むことは 意外と簡単なのよ」

  多少の 準備は必要だが。


「さて、カウントは お終い。 答えを出す時間よ」


  いつもなら、叶人が言うべき 促しのセリフを、代わりに マッチ売りの少女が放つ。


  この世界は、常に 試される。

  それも、命を懸けて。

  間違えれば、それで 終了。


「ふん ……… お前も来たのか」

「もちろんよ。 だって もう、私はマスターのものですもの」


  かつての 《同僚》であれ、容赦しない。

「ふふ ……… でも、今回は私の出番は、ないみたいだわ」


  マッチ売りの少女が、何かをするよりも前に。

「自分たちだけで、ちゃんと 気付いているわ」

「何だと?」

「愚かな ネコ。 一歩を踏み出した者には、どうしたって 《敵わない》ってことを ―――」

  身をもって 知ればいい。



「――――― さあ、見せてあげると いいわ」


  叶人が 見ている、目の前で。


「自分たちだけで選んだ、ただ一つの 《答え》を」


  誰が ニセモノで、誰を 殺すのか。



「最初から、答えなんて 決まっているんですよ ――― ね、カナト」



  そうして、彼らは ただ一つの答えを 選ぶ。


  もちろん ――――― 誰も 《選ばない》こと。

  即ち、誰も 《殺さない》ということを。




「……… ふざけやがって ……」

  彼らが 指示に従うことなく、支配者たる自分に 歯向かうというのなら。

「この空間ごと、ぶっ潰してやるだけさ」


  せっかく、面白い舞台を作ってやったというのに。

「むしろ、親切だ。 どうせ、いずれ お前らは死ぬ! 世界の意志に敵うわけなんかない! マッチ売りが、一番よく知っているだろうが!」


  叫ぶネコの声に反応して、空間が歪み 崩れ出す。


「ちょっと、ちょっと、ちょっとー!」

「何してくれてんだ、ばかネコ!」

「思い通りにならないからって、ガキかよ!」

「……… ほんと、進歩が無いわね」

「お、落ち着いているけど マッチちゃん!?」

「何か 解決策とか!」

「……… 落ち着きなさい」

「落ち着きたいですけど、ぼ、僕には難し―――――」


  揺れる周囲に比例して 動揺する面々をよそに、マッチ売りの少女は 呆れた声を上げた。




「……… マスター、もう充分よ」

「……… はい?」



  奏でている音を、止めて。


「……… へ?」


  叶人が 演奏を止めた瞬間、空間が安定し始める。


「どういうこと? 私、何かしていたの?」

  隣にいた 赤い男に質問しようとして、すでに その場から消えていることに気が付いた。

「え、え、兵士長? なに、どこ? まさかの 置いてけぼり?」



  ―――― 違います。


「え?」


  ―――― あなたは、あるべき場所へと戻るだけです。


「あるべき、場所 ………?」


  ―――― はい、それは もちろん。




「僕の腕の中ですよ、カナト ――――――」



  白ウサギの ひどく甘ったるいささやきが、聞こえたような気がした。

皆さま お久しぶりの最新話でございます。お休みしていたわけではありませんが、前回から すでに四カ月 …… 過去 最高ですかね。疲れすぎはいけませんね。本当に、健康は大事です。倒れる 一歩手前な生活を送っている水乃ですが、皆様も 季節の変わり目ですので ご自愛くださいませ。

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