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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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57. かくれんぼ

「それで、アリスちゃん。 王様ってば 全然姿が見えないけど、あたし達は どうすればいいの?」


  がらんと 何も無い部屋を見渡しながら、赤ずきんの少女が問いかける。


  それぞれ 危険な仕掛け満載の通路を突破し、出口の無い 《密室》へと集合した、叶人たち 七人。

  兵士長という 有力な 《戦力》が抜けたとはいえ、無力というわけではない。


「時間は あまり残されていない …… なのに、敵の姿が 見えない。 これってさ、攻撃しても命中するのかな?」

「見えないだけで、存在しているのは 確かなのだろう?」

「兵士長の話だと、確実に、《いる》ってことだったわ」

「兵士長の話を まるまる ぜーんぶ信用しちゃうのは、ちょっと問題だと あたしは思うけどな~」

「チャッキー …… その言い方は、いくらなんでも 兵士長さんに失礼 …… ぐはっ」

「ふふふ …… ここまで 信用度の低い 《仲間》というのも、滑稽であるな」

「賢者さん、笑い事じゃないの。 メルたち、みーんな 真剣なの」

「おおう、すまぬな。 そう 怒るな、妖精王」

「むむむ~」


  この部屋に、王様は いる。

  見えないだけで、存在している。

  ならば、実体も この場にあるという考えでいいのだろう。

  

「なあなあ、兵士長って、俺たちの 《仲間》っていう認識で、みんな いいのかよ?」

「すいません、コージーさん。 僕に そんな重要なこと、聞かないでください……」

「じゃあ、誰に 聞けばいいんだよ? おーい、芹澤?」

「…… それを言うならさー、コージーだって、同じ枠なんじゃない? だって、これまで 《成り行き》で参加してるわけだしさー」

「なんだと? ここまで来て、お前たちは この俺を 《仲間外れ》にすると言うのか? 新手の 《嫌がらせ》か? これからの未来を担う 若者が、こんなんでいいのか!」

「…… ええと、コージーさん 落ち着いてください。 少なくとも、僕は あなたが頼りになる 《おにーさん》だと わかってますし……」

「うわー、やだー。 ここに来るまで、何があったのよ、リーヤ?」

「…… チャッキーと同じだよ。 一緒に 危険を乗り越えれば、仲良くなれるってこと」

「そうだぞ、赤ずきん。 そなたも 我と一緒で、もう すっかり 《仲良しこよし》ではないか。 手でも繋ぐか?」

「いやー! ニコちゃんが 《ど変態》だと、より わかっただけじゃないのよー!」


  こんな状態でさえ、周囲は 騒がしい。

  この集団ならば、たとえ 死を前にしても、こういった会話ができるのであろう。

  ある意味、頼もしい。


「…… 実体があるなら、攻撃すれば 当たるはずだよね? 問題は、どこに攻撃すればいいのか…… それに、王様は 魔法使いだから、それなりの 《防御態勢》があると考えて……」

「瑞樹が 冷静でいてくれて、嬉しいわ」

「だって、白ウサギを助けたいと思うのは、俺だって 同じだからね」

「え?」


  予想外の言葉に、叶人は 少年の顔を まじまじと見た。


「や、やだなー。 そんなに 意外?」

「ううん …… そうね、あなたは 最初から そういう人だったわよね」


  初めて 会った時に、見事に 騙された。

  けれど、すべてが ウソではなかったのも事実であって。


  敵に捕まり、自分が 死ぬかもしれないというときに、世話になった 《護衛》だけでも 逃がそうとするなんて ――― 簡単にできることではない。

  ズルくても、臆病でも、誰かを 護ろうと行動できる人は、それだけで素晴らしいことだ。


  思い返せば、少し 見ないうちに、また一段と、たくましくなっている気がする。

  あの お茶会の課題を たった一人でクリアし、今回は メルと共に 迷宮の奥までたどり着いて。

  仲間の中で、瑞樹が 一番の 成長株なのかもしれない。


「ねぇ ニコル! 魔法について、何か 感じることは?」

「残念だが、何も無いな。 ただ、隠しているのは 姿だけ …… 他に魔法を使おうとしたならば、必ず 我にはわかるぞ」

「つまり…… どこから攻撃してくるかは、感じ取れるっていうことね? それなら 話は早いわ」


  王様が、防御や 攻撃をしようとすれば、おのずと居場所が判明するということだ。


「みんな ―――― 用意は いい?」

「いつでも 撃っちゃうよ~」

「ニコルは 主に 《防御》を担当してくれる? 私は みんなの《補助》にまわるから」

「了解した。 そーれ、防御の 《結界》を張ったから、それぞれ 好きなように 動いてよいぞ」

「え、もう?」

「いつの間に!」


  見た目は ただの変態でも、一応は 《賢者》。 魔法使いの 頂点に立つ男なのだ。

「ふふふ…… 見直したか?」

「やっぱり、ますます その格好だけが問題になってくるわよね」

「町に帰ったら、ニコちゃん 《改造計画》でもしちゃう?」

「それ、おもしろそうね、チャッキー。 ぜひ やりましょう」


  無事に、帰れたら。

  白ウサギを、救うことが できたなら。


「できるわ …… いいえ、絶対に やってみせる」


  何一つ、失いたくはないのなら。

  その手を、離さなければいい。


「いっくよ~! うっかり 当たったら、ごめんねー。 その時は、ニコちゃんに治療してもらってね~」

「…… これは、下手に動くと こっちが危ないのかもしれないな……」



  馬場 幸志の つぶやきを かき消すかのように、その場に 猟銃の音が鳴り響く。

  どこかに いるはずの王様に向かって、それぞれが 攻撃を仕掛けていくのを、賢者だけは 静かに、後方から見守っていたのである。






  かすかな 空気の変化を感じ、兵士長は にやりと笑った。

「とうとう、始まったかな …… おっと」


  叶人を追っているという、北の刺客。

  スペード王の命により、極秘に 《アリス捕獲》のために やって来たらしいが。


  この動きは、どう考えても。

「殺しに来た ―――― と言った方が 正確なんじゃないかな~。 ねー、そこのところ、本当は どうなの?」

「口だけは うるさい男だな」

「相手にするな」

「赤の兵士長は、惑わすので有名だ。 奴の手に 乗るなよ」


  下っ端 七人に、指揮をとっている リーダーが一人。

  どれも、訓練された 申し分のない 戦士ばかりだ。

「んー? なーんか、さっきから気になってはいるんだけどー」


  黒い服に、黒い 覆面。 顔は見えなくても、感じることは ある。


「おたく …… もしかして、俺と 同類?」

「…………」

「あ、無言てことは、アタリだね! なんだ、そっか。 どうりで ――――」


  嫌な ニオイが、すると思った。


「………… お互い様だ」

「ははは、まあ そうだよね~。 この世に、同類ほど 嫌なモノは ないよね~」


  兵士長と、同類。

  つまり、相手の一人は……。


「早く 片づけろよ。 この男には 用はない」

「あー、冷たいな~ その言い方。 俺だって、こんな所で、おたく達の相手なんかしたくはないよ」

「だったら、死ね。 今すぐに」

「うわー、ものすごく直球だ。 個人的には そういうの好きだけど、今は ムカつくな~ …… それっ」

「ぐはっ」


  幅が広い 大剣を軽々と動かして、相手の急所を突く。

「強いのは 認めるけど …… 俺から見たら 《まだまだ》 だな~。 ちゃんと、実戦経験 積んでる? …… はい、二人目!」

「ぐふっ」

「あーあ、せっかく 手袋を新調したばかりなのに…… 君のせいで汚れたじゃないか」

「ぐはっ」


  狭い通路で、よかった。

  大人数を相手にする場合、背中からの 脅威を考えなくていい状況は、気が とてもラクなのだ。


「ねー、北の王様が アリスちゃんに 《興味》を持つのは わかるよ? すごく共感もするよ? 捕まえたくなるのも わかる。 それなのに ――――」


  この者たちは、王の命令を無視し、殺しに動いている。

  それは 何故? 誰の 差し金で?

「王様 以外の、背後で命令してる人って 誰なのか、こっそり教えてくれない?」

「…… 何の話だか」

「あれ、とぼけてる? この状況で、他でもない 俺が気付いているのに、シラを切り通せるはずないでしょ?」

「たとえ 事実であれ、貴様には 関係ない」

「大アリなんだな~、これが」

「!」

「ぐふっ」


  またたく間に、下っ端は 三人に減っていた。

「歯ごたえ無いな~、君たち」


  もともと 強いうえに、兵士長は 《殺し慣れ》していた。

  無駄なく、相手を 仕留める技にかけては、刺客にだって 劣らない。

  この世界で、長く生き残るということは、そういうことを表しているのだから。


「ねぇ、邪魔しないでくれるかな? あのアリスちゃんからは 手を引いて、今すぐ 国に帰れ。 そうすれば ……」

「何をしている、たかが一人に 怯むな!」

「…… 人の話を聞かないヤツだね。 そんなことだと、無駄に 命を落とすよ?」

「ぐふっ」

「言っておくけど、俺は 面倒くさいことは 大嫌いなんだ。 ついでに、一度言って 理解できないバカな奴も、大嫌いでね」

「うぐっ」

「多分 …… というか、間違えなく 短気だし」

「ぐあっ」


  死体が転がる中で、敵は 一人になっていた。

  叶人が かけてくれた 《音の効果》は、思った以上に 効いていたようだ。

  いつもよりも、さらに 体が軽い気がする。


「ほら、今日のところは 帰ってくれない? それとも、こんな所で ヤリ合うつもり?」

「………」

「時間があれば、殺したいところだけど、俺は 急いでいるから …… って、ちょっと、それが答えなわけ?」


  部下が 全滅したのに、表情ひとつ変えずに、淡々と 距離を詰めてくるとは。

「同類だと、なかなか 勝負がつかないってこと、知ってる?」

「さあ、それは わからないぜ?」

「なんとなーく、口調も似ているところなんか 最悪だよね~」


  キーン


  相手の 鋭い攻撃を、兵士長の大剣が 防ぐ。

「そんなに死にたいのなら、容赦しないぜ?」

「その言葉、そっくりお返しするよ」


  相手は、双剣の使い手だった。

  身長が そんなに高くはなく、体格も どちらかといえば 華奢。

  一撃の ダメージよりも、素早い攻撃を重視している 戦闘スタイルといえる。

「おたくも、仮にも 《兵士長》ってくらいだから、それなりには強いんだろうけどさ~」

「…… 貴様は、しゃべり過ぎだ」


  金属が ぶつかり合う、カン高い音が 通路の端まで響き渡る。


「ねぇ、誰の 差し金? 教えなよ? 俺が 始末しに行くから」

「…… 口を割るヤツなど、いると思うか?」

「へぇ~、いいのかな? 俺は、口を割らせるのも 得意だけど?」

「ぬかせ」


  スペードの兵士長が、王に背いて、誰かと 繋がっている。

  それは、誰だ? いったい、何のために?


「…… あー、面倒くさいな。 だから 同類なんて 大嫌いなんだよ」

「だったら、早く死んでくれ」

「そっちこそ」


  あまり、長居は していられない。

  叶人たち 一行は、ハートの王との戦いを始めてしまっているのだ。


  少しでも 早く、自分は戻らなければいけない。

「…… 戻る意味が、貴様には あるのか?」

「!」

「観察していたところ、貴様は 実に 信用されてない。 そんな所に、戻る価値はあるのか?」

「価値、ねぇ ……… それを言われてしまうと、なかなか難しいね」

「だったら……」

「でも、価値なんて、今は どうでもいいんだよな~ これが」

「!」


  大きく 剣を振り、相手と もう一度距離を取る。


「どういう意味だ?」

  知らないのか、あきらめてしまったのか ――― どちらかは わからないけれど。


「価値ばかりを 追っていたんじゃ、いつまで経っても 望むモノは 見えてこないってこと」

「何を ……」


  自分の 利益が一番で、他の誰かは どうでもいい。

  その考えには、大賛成であるけれど。


「俺はね、兵士長であり、殺し屋でもあり、でも 誰かの弟でもあり、ひとりの 《男》でもあるってことさ」

「まったく、理解に欠ける言葉だな」

「そうかな? そんなに難しいことじゃないよ」


  ただ、単に。 殺すことではなく、奪うことでもなく。

「たまには、《護る》って選択肢も 存在するってことさ!」

「くっ!」


  速いけれど、重い 一撃。

  体の芯に 叩き込んだかと思いきや、さすがに 相手も兵士長、国 一番の剣士だ。

  ギリギリのところで、かわされていた。


「…… 貴様 ……」

「次は、仕留めるよ?」

「バカを言うな。 そう簡単に、できると ―――――」

「邪魔です、どきなさい!」


  風とともに、第三の人物が その場に現れた。


「えっ」

「!」

「どかないと ―――― 斬ります!」


  冷たく 尖った刃のように、誰よりも 他人を寄せ付けない、世界屈指の 《殺戮者》であった男。


「ウ …… ウサギさん? 何で、ここに!?」

「スペードの 兵士長。 どきなさい。 僕は 急いでいるんです」

「…… 白ウサギは、動けなくなったと聞いたが?」

「時間がありません。やはり、ネバーランドで 殺しておくべきでした…… カナトには、内緒にして」


  青白い顔で、自慢の 短剣を構える、ウサギ男。


「今から、三つ 数えます。 その間に、消えなさい。 邪魔すれば、斬ります」

「へー、相変わらず、ずいぶんと あのアリスに ご執心のようだな」

「当然です。 彼女は、僕の 《すべて》ですから」


  誰が、何と 言おうと。

  たとえ、本人に 拒まれようと。


「彼女を 護るのは、僕の役目です。 彼女の 隣にいるのも、僕だけでいい」

「うーわ…… その意見には、断固 反対」

「ふーん、殺しは、アリスから禁止されてるんじゃなかったのか?」

「何事にも、例外は つきものです」

「ウサギさん …… とうとう開き直ったね ……」

「これだから、融通のきかない ウサギ人間は ……」

「僕は、由緒正しい 白ウサギです!」


  この期に及んで、突っ込むところは そこなのか。

  兵士長は、いっきに 気が抜けてしまった。

  白ウサギを 相手にするには、やはり 相当な 《忍耐力》が必要なのだろう。

「アリスちゃんて …… いろんな意味で、最強だね」

  こんな 面倒な生き物を、そばに置きたいだなんて。


「もちろん、僕のカナトは、誰よりも 可愛いんです」

  寿命が尽きるのが 近いせいか、とんちんかん具合も 最高潮に達しているらしい。


  関わっては、いけない。 関わると、面倒だ。

  イカレた 白ウサギの登場で、分が悪いと悟ったのか、スペードの兵士長は 退散してしまった。


「…… 何で ウサギさんが動けているのか、なんとなく、想像はできるけどさ。 あまり、無理して動かない方が いいよ?」


  そうしないと。

「アリスちゃんが、泣いてしまうから」

「…………… わかっています」



  それ以上は 何も言わずに、二人は 一本道を 進みだした。

  突き当たるのは、誰もが 遭遇する、《最後の扉》。

  この扉を 開いた者だけが、王の待つ 部屋へと入ることが許される。


「…… あれ? この扉、寝てる ……」

「カナトでしょう」


  白ウサギは 迷いもせず、いびきをかく 扉を両手で押し、まぶしい部屋へと足を踏み入れる。


「えっ」

「うそっ」

「ウサギちゃん!?」



  暴れまわっている 数人なんて、白ウサギの視界には入っていなかった。

  彼が 探すのは、いつだって、たった 一人。


「カナト!」

「……… ノール!?」



  何百年も、離れていたような 感覚。

  こんなに 体が求めるのに、どうして 離れようと 考えたのか、不思議でならない。


「アリスちゃーん、俺も いるんですけど~」

「わかってるわ、お疲れ様。 言いたいことも、聞きたいことも、それぞれ 山ほどあるんだけど ―――― とりあえず」


  怒っているのか 笑っているのか、叶人は 少々 複雑な顔をした。


「やっつけましょう ―――― 王様を」

「!」

「!」



  どうやって、引きずり出したのか。

  叶人たち 一行の前には、ハートの王様が 姿を現していたのである。

 登場人物が多いと、みんなを活躍させたくなって、予想以上に話が進まないことが。うーん、いつものことながら、難しいです。


 次回こそ、ハートの王様と直接対決へ。 カナトは、どんな時でも カナトでした… というような流れになる予定です。 お楽しみに。

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