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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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50. 地下迷宮へ向かう 途中で

主要メンバーでありながら、今まで 出番の少なかった ミズキくんが、ようやく日の目をあびそうです。

  時間がもったいないから、とりあえず 移動しよう ―――。



  兵士長の冷静な《提案》によって、叶人たち 一行は、抜け道を通って ハートの城内に侵入していた。

  早朝にも関わらず、舞踏会の準備のためか、城の使用人たちは せかせかと動き回っている 《気配》があるが、《案内役》が優秀なおかげで、誰にも見つからずに 奥へと進んでいる。

  どこを見ても、赤い景色 …… 高級そうな赤い絨毯が敷き詰められている長い廊下は、ずっと同じ景色だと 眩暈を起こしそうだ。

「あー …… 真っ赤って、目に悪い光景よね……」


  寝不足と、心労と。

  叶人の体力は いつもの半分以下になっていた。


「アリス様、寝てないから よけいにおツライですよね……」

  横から オオカミ少年が心配そうに 顔をチラ見してくるが、もう仲間なのだから、もっと堂々とすればいいのに…… と、叶人は思う。

  赤ずきんは 《ヘタレ》と馬鹿にしていたが、彼は なかなかの 《気配りさん気質》であり、その点は 将来 《有望》だ。

  少なくとも、他人に対して 気を遣えないヤツは、自分なら 御免こうむりたい。


「ふーむ、基本は赤で、あとは 白しか無いとは…… なんとも趣味が悪い女王だな」

「おい、マント野郎。 アンタに 他人様の趣味に対して どーこー言えると思ってるのか?」

  相変わらず 緊張感のない賢者様と、成り行きで ついてくることになってしまた 馬場 幸志は、意外にも仲良く会話している。


「こんな 《抜け道》なんか作って、兵士長ったら 職務怠慢なんじゃないの?」

「あはは~、ご心配なく、赤ずきんちゃん。 そう簡単には 進めない 《からくり》になっているから、今のところ 侵入された形跡はないんだよ」

「…… 俺たち、特に何事もなく 通ってこれたけど、これって兵士長が 何かしてたの?」

「そりゃあ、モチロン。 自分が通るのに、仕掛けを解かない おバカさんはいないだろ?」

  なんたって、今は アリスちゃんも一緒なわけだし、怪我でもさせたら大変だからね~。


  赤ずきんと瑞樹は、《怖いもの知らず》な性格を発揮して、兵士長に対しても 平気で接しているし …… やはり、ここに集まる面々は、《タダ者》ではない。




  一時の 真面目な雰囲気はどこへやら。

  いつもの へらへらモードに戻ってしまった兵士長に、瑞樹は すっと 体を寄せて近付いた。

「…… 何、少年? いくら 《カワイイ顔》をしてても、俺 《男の子》は興味ないよ?」

「俺だって、アンタみたいな男は パスだね」


  カワイイと言われることを、瑞樹は 昔から 気にしていて、勇者やヒーローに 必要以上に こだわっていたのも、元々は そこに原因がある。

  男に生まれたからには、やはり 《カッコイイ》とか 《頼りになる》と言われたい。

  けれど今は、なにが 本当に 《カッコイイ》のか、以前よりは 明確にわかってきている。


「…… って、俺のことは どうでもいいんだよ。 それより、アンタの話だってば」

「俺の話? …… どうしたら、こんな イイ男になれるかって?」

「こんな時に、冗談は いらねーよ。 言っておくけど、今のアンタじゃ、誰の心も動かないよ」

「!」


  瞬殺されても おかしくないほど、際どいセリフを放ったことを 瑞樹は知っていた。

  けれど、今ここで、兵士長に 《この話題》を振れるのは、自分しかいないと 思ったから、ためらわずに言葉を続ける。


「チカラがすべてで、無力な俺は いつだって 命の危険にさらされてきた…… でも、強いから 《人が集まる》ってものでもないし、弱いから すべてがダメなんてこともないんだって――― 俺は教えられたんだ」

「…… 少年、俺に 何を言いたいの?」

「―――――― もう少し、《素直》になれば?」

「!」


  臆病で、考えの浅い、取るに足らぬガキ ――― 瑞樹に対して そう思っていた兵士長は、ようやく 少年の顔を まじまじと 見つめた。

「アンタさ、頭 いいんだから、もう少し 《周りの人のこと》、もっとよく見た方がいいよ? 今だって、俺のこと マトモに見たの、これが初めてでしょ? アンタって、見ているようで、けっこう 見てないことが多いよ」

「…… ずいぶんと、知ったような口をきくじゃないか」

「生意気だって言いたいの? 仕方ないじゃん、だって俺、《平成っ子》だもん。 遠慮なんて知らずに育った世代だからさ、そこは あきらめて?」


  聞き慣れぬ 平成という言葉を出して、とりあえず 兵士長の怒りの矛先を、器用に ずらす。

「確かに 俺は まだガキだし チカラもないけど…… 学ぶことも 吸収することも たくさんあるよ?」


  叶人と出会い、こうして たくさんの仲間に囲まれた 今ならば。

  その中から 自分が 《何を学んだのか》。

  《なりたい自分》になるためには どうすればいいか ――― それに 気付く機会を与えられた。


「俺もね、同じだったんだ …… 他人なんて、利用するものだって。 特に、護衛を解任して、一人旅になってからは、とにかく 自分が生きるためなら 何でもやった。 他人のことなんて 少しも考えている余裕なんてなかったから」


  まずは 生きることが、この世界においての 最優先事項なのだ。

  それは 誰に対しても 平等だから、誰にも 非難されなかった。

  お互い様なのだ。 文句を言える人なんて、この世界には いやしない。


「そんな時にね、叶人さんだけは違った。 必要じゃないモノには 見向きもしなかった俺に、あの人は 教えてくれたんだよ」


  はっきりと、言葉として 口に出したわけではない。

  ただ、行動で 示してくれた。 切り捨てるだけが、最善ではないと。

  常に 周囲のあらゆるモノに対して気を配り、観察しているからこそできる、そんな 生き方。


「逃げるのも、戦うのも、かわすことも…… すべて、周りを見ているからこそ、取れる行動でしょ? 叶人さんが 強いのは、いつも見ているからだ。 あの人、自分のことを 《何でも利用する極悪人》とか言ってるけど、あの人は 利用するだけで終らせない」


  きちんと、そこに在るモノには、心を 尽くす。 愛情を持って 接する。

  だから、利用された側も、利用されるのではなく、自ら 《協力したい》と変化していく。


「俺に足りなかった 一番のモノは、周りを 見ていなかったことだった。 ただ強くなりたいとか、生き延びたいとか、自分だけ良ければ それでいい …… 間違っちゃいないだろうし、誰にも 責められないはずなのに。 それだけじゃ、悲しいと感じた。 虚しいとも思った」


  変わりたいと願う気持ちは、きっと 誰の心の中にも ある。

  大切なのは、その気持ちと 《どう向き合うか》…… なのだ。


  叶人が 周囲と少し違って見えるのは、自分の心に 常に 《正直》だからだろう。

  その姿が、痛々しくも 真っ直ぐで、潔いから。

  絶対に、そういう 生き方など できないと思っていたことを、実践しているから。


「だから みんな 叶人さんに惹かれるんだ…… 違う?」


  叶人といれば、いつかは 自分も そうなれると錯覚する。

「でも、それは 間違いだ。 あの人と 一緒にいるだけじゃ、何も変わらない」


  恋でも、ましてや 愛でもない、ただの 《憧れ》。

  そんな 中途半端な気持ちで、ただ 隣に立っているだけでは、何の役にも立たないではないか。


「…… 俺の言いたいこと、わからない? 簡単なことだよ」


  こちらの真意をはかろうと、鋭い視線を向けてくる 兵士長に、瑞樹は 笑って答えた。



「―――― 本当に、自分が 《求めているモノ》が何なのか、ちゃんと知らなくちゃ」


  ああしたい、こうしたい…… そんな、日々の 小さな願いではなくて。

  自分の、生きる 《根っこ》の部分。

  それを 知って、受け止めて、それから どうすればいいのかを考えていく。

「そうでなきゃ、いくら 叶人さんの そばにいたって、何も変わらない。 何も 変えられない」


  それが、一年 この世界で生き延び、そして 叶人や 周囲の者から 学んだことなのだ。


「ただ 《好き》…… って気持ちだけじゃ、どうにもならないよ? もともと、兵士長の 《印象》なんて、叶人さんの中では 最低の部類でしょ?」

「…… どうやら、殺されたいらしいね~」

「事実だからって、怒らないでよ。 仕方ないじゃん、過去のことを気にしたって。 そんな時間があるなら、未来へ使うべきだって、そう思わない?」


  兵士長は、もう一度 少年の顔を まじまじと見た。

  年のころは 十代半ば…… 世界の住人である自分からしたら、とんでもなく 《年下》で、それこそ ゴミみたいな存在のはずなのに。


  なぜだか、反論ができない。

  少年の 瞳の奥にある 《何か》に、気付いてしまったから。

  くだらない…… と、つっぱねることが 逆に愚かな行為だと、本能でわかる。



「…… とりあえず、殺さないであげるよ」

  ――――― 今は。

「この俺に、説教した その無謀な勇気は褒めてあげるけど」

「ぐえっ …… ちょっと、くるしっ……」

「苦しくないさ、すこ~し、絞めてるだけだし」

「しっ…… 死ぬ、マジ、しぬっ!」


  宙に浮いた足をジタバタと 必死で動かす少年の姿が ひどく滑稽で、久々に 《黒いモノ》が蘇りかけた矢先―――。

「こら、何をやってるのよ」


  小さな手が、兵士長の 腕に触れた。


「何って…… うーん、仲良くしてるだけだよ?」

「どこが、仲良くなのよ。 瑞樹、死にかけてるじゃない。 バカなことやってないで、さっさと 手を放して」

「え~ …… 心外だなぁ」

「瑞樹も、兵士長に ケンカ売るときは、細心の注意を払いなさい。 そうしないと、この人 短気だし、すごーく 子供っぽいから、危ないわよ?」


  呆れながらも、しっかりと クギをさし、今度は 後方でモメている 赤ずきんとオオカミ少年のそばへ向かっていく、叶人。


「…… ほら、やっぱり、評価は 最低ライン―――」

「本当に、斬るよ?」

「なんだよー、事実を言ってるだけなのに」


  もう一度、首を絞められては かなわないと、瑞樹は 猛ダッシュで 兵士長から離れた。



「…… くそガキのくせに」

  確かに、少年の放った言葉は、兵士長の 心に深く侵入してきた。



  『あの人と、一緒にいるだけじゃ 何も変わらない』

  『好きって気持ちだけじゃ、どうにもならないよ?』


  なぜ、いきなり、自分に対して、こんなことを 言い出した?

  何の 目的で? 何を 狙って?


  親切心だけで、あの少年が 行動するとは とても思えない。


  人の行動には、必ず 《理由》がある。

  ならば、今回は?


「………… まさか!?」


  少年の、言った言葉を すべて 並べてみると――――。

「あんの、ガキ!」



  兵士長、叶人さんと 幸せになってね ――― という意味では、もちろん ない。

  それどころか、まったくの 逆だ。

「ナマイキにも、この俺に対して、いっちょまえに 《ライバル宣言》とは、いい度胸じゃないの」


  初めは、ただの 憧れだった。

  あの人のように、カッコイイ 生き方をしたいと思った。

  そのうち、自分に 何が足りないのか、わかるようになってきた。

  つまり、ただ 好きという気持ちだけでは、恋に 恋しているのと同じであって。


  その先を、望むのなら。


「自分自身が 《進化》して、彼女の隣に立っても 恥ずかしくないと思えるように、頑張るってことか? ついでに、そう できないヤツは、目障りだから、消えろって?」


  つまりは、そういうことか。

  なかなか、どうして。 肝が据わっている少年ではないか。

「確かに、あの 帽子屋の 《お茶会》を、たった一人で 切り抜けただけはあるな」

  強くはないからこその、戦い方を知っている。


「八十一番のアリスか……」

  侮ってばかりもいられないと、認識を変える必要がありそうだ。



  『もう少し、周りの人のこと、見たほうがいいよ?』


  図星だと気付かされた後では、怒る気にもなれない。

  ため息をつくのも悔しくて、結局 目的の場所に到着するまで、兵士長は それ以上 言葉を発さなかった。





「ほんとーに、ここなの?」

  仕掛け満載の 抜け道を通り、一行は 城の 最奥部となる 《行き止まり》の場所に来ていた。


「ただのカベしか無いけど?」

「まあまあ、赤ずきんちゃん、見てなさいって。 …… そーれ」


  何の 変哲も無い 壁の一部を、兵士長が順番に押していく。

「全部で 十七か所、順番通りに押していくと…… あら不思議。 扉が 出現するんだよ~」

「うわっ、なにこれ」

「すごーい、宝探しみたい」

「はい、ちびっこ諸君、目立つから ここで騒がないように。 じゃあ、みんな急いで 扉の中へ入って!」


  指示の通りに 全員が 中に入ると、扉はすぐに閉じられてしまった。

「ね、大丈夫なの? 後で 出られなくなったりしない?」

「大丈夫よ、チャッキー。 仮にそうなったとしても、兵士長さえ 捕まえていれば問題ないわ」

「ふむ、そうだな。 カナトが ここにいる以上、兵士長は どこかに行ったりはしないだろう。 なんせ、こやつは 見た目を裏切る、子供っぽい思考の持ち主―――」

「賢者さ~ん、ここを墓場にしたいのかな~?」

「本気で怒るでない。 冗談の通じぬヤツは、つまらないぞ?」

「あっ…… 待ってよ、アリスちゃん! もー、兵士長と ニコちゃんが バカなこと言ってるから、アリスちゃんが 先に行っちゃうじゃない!」


  先頭きって、奥へと進もうとする叶人に、兵士長は 慌てて追いついた。

「人のこと言えないくらい、アリスちゃんも 短気だと思うけどな~」

「…… なによ、私はもとから 短気だって認めているわよ? それよりも、そろそろ 《本題》に入りましょう。 時間がもったいないと言ったのは、兵士長、あなたよ?」

「はいはい…… 短気でも なんでも、君が 可愛いのはよくわかったよ……。 あーあ、重要機密なんだけど、今更 隠したって仕方ないしね~」



  そうして、案内人が 残した言葉の通り。


  ハートの国の 極秘事項―――― ハートの王様に関する話を、兵士長は 語りだしたのである。

 皆様、お待たせいたしました。 祝・50話目です。


 忙しいうえに、パソコンが調子悪く、買い替えたり なんだかんだとやっていたら、もう 三月も終盤になっていました。


 新しいパソコンは 慣れないので、とても 使いづらいです…。

 しかもプロバイダーを変えたら、ネットも ブチブチと よく切れるし、イライラしながら この話を打ち込みました。

 新しいモノって、便利になるんじゃないのか~(怒)!


 …… いや、おそらく 機械に疎い 私のやり方に問題があるのでしょう。


 文句を言っていても仕方がないので、操作に早く慣れたいと思います。


 さて、今まで あまり出番がなかった ミズキが、少しずつ出せるところまできました。のんびり更新でも、確実に この話が進んでいる証拠ですね。


 次回、王様の秘密や 地下迷宮についての 語りの場面になると思います。

 ゆっくり更新が続きそうですが、次回も お楽しみに。

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