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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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47. ご主人様は 誰?

 新キャラ追加で、叶人の周囲は さらに騒がしくなる予定です。

  叶人の身幅と同じくらいの、太くて しかっかりとした 《茎》。

  色艶はいいが、葉は 一枚も無いし、本当に ただの茎でしかない。


  高さは、《兵士長》の身長よりは 低い――― 推定、百七十五センチであろうか。

  人間 丸々ひとり入れるような、膨らんだ 花の《蕾》は、淡い黄緑色から 白へとグラデーションしていた。

  ちょうど、白系の 《カラーの花》と 似たような色合いは、叶人も 好きだったりする。


  …… が、しかし、これはいったい 何なのであろうか。

  こころなしか、先程よりも 蕾の膨らみが大きくなってきた気もする。

  パンパンに 膨れ上がって、いまにも はち切れそうな状態は、この大きさだと 奇妙だ。


「んー …… これって、もしかしてさ~」

「何よ、兵士長。 知ってるの?」

「確証はないけど、ソレっぽいかな~ ……っていう程度だけどね」

「もったいぶっていないで、教えなさいよ」


  叶人が 詰め寄ると、兵士長は じっと見つめてきた。

「…… 何?」

「あー …… いや、一番の 《被害者》になりそうだなーと」

「被害者? じゃあ、やっぱり この花、危険なモノなの?」

「危険というより、予測不可能って感じかな」

「だから、いったい何なのよ?」


  先の見えてこない会話に、若干 イライラしだした叶人の 背後で、かすかに音がした。


  どくん  どくん  どくん


「………… 何だか、生き物の 《鼓動》みたいに聞こえるんだけど」

「まぁ、花だって生き物だしね~」

「そういう意味で言っているんじゃ―――」


  どくん  どくん  どくん


「兵士長! さっきより、音が大きいです!」

「そりゃ そうでしょ。 生まれる直前なんだから」

「う、生まれる!?」

「何が生まれるというんですか、兵士長!?」

「我々は、どうすれば……!」


  兵士長の発言に、兵士たちは ウロウロと落ち着きが無くなった。

「こら、仮にも 城の兵士だろ? こんな事くらいで、動揺してんじゃないよ」

「あなたが、わざと 動揺させるような言い方してんじゃないのよ」

「え~、心外だな」

「へっ…… 兵士長!」

「蕾の先端が、開いてきました!」

「全員、戦闘配置に付け!」


  たかが 花くらいで ――― 通常なら そう思うのだが、ここは ねじれた世界。

  何が起こるか、わからない。

  用心することは、決して 悪いことではないのだ。


「………」

  叶人も、いつでも 武器を召喚できるように、意識を集中させる。


  アリスは、普段 武器を持ち歩かないのが 特徴だ。

  念じると、目の前に武器が現れ、戦闘態勢を解くと 自然に消滅する ――― 実態があるのかどうか、いまいち よくわからない。

  けれど、叶人は《荷物が少なくていいや》 と好意的にとらえ、そのあたりの 《世界の真相》なんて、とりあえず どうでもよかった。

  武器があって、戦えれば それでいい。

  わからないことを考える前に、目の前には やらなければいけないことが、山積みなのだから。


  ずぼっ


「兵士長! あ、足が出てきました!」

「あ~、足だねぇ」


  ずるん


「兵士長! 今度は 手が!」

「本当だねぇ」


  メリメリメリメリ


「兵士長! 花びらが めくれて、中から……!」

「ウルサイよ、見てるんだから わかってるって」

「…… かわいそうよ、相手してあげなさいよ」

「アリスちゃん…… 君は あの光景を見て、驚かないの?」


  花びらがめくれ、開き切った花の中心には、人影が見える。

「驚いてるわよ。 でも、この世界なんて、こんなことばかりじゃない」

「う~ん、慣れというものは 恐ろしいねー」

「本当よ」


  花の中で。

  小さな子が。

  裸で。

  体育座りをしている。


「…… ダメね、ニコルのせいで 感覚がマヒしてるんだわ」


  超絶美形の、黒マント一枚…… アレを抜く 《衝撃映像》でも見ない限り、しばらくは無理だろう。

  赤の森で見た、人が死ぬ場面――― あんな禍々しい光景さえも、記憶から塗り替えてしまう、強烈さ。


「感謝したくないけど、感謝なのかしら。 おかげで、けっこう冷静よ」

「つまんないな~。 俺としては、めいいっぱい怖がって、俺の背中に 隠れてくれるのを期待してたんだけど」

「あら、隠れるわよ。 だって、私は 《戦闘向き》じゃないもの。 兵士長、頑張って!」

「可愛い顔して、言うことが コレだもんね~」

  使えるものは、なんだって利用する。

  たとえ、それが 兵士長でも。


  そんな やり取りをしているうちに、前方では 変化があった。

「あ、目を開きました!」

「なんだか、キョロキョロしてますね……」

「あれは、子供? 子供というか、幼児?」

「子供ならば、俺が 責任をもって、親御さんに―――」

「あれ、君 いたの?」


  ひと言も発せず、また 存在感も薄かったために、叶人も うっかり、もう一人 この場にいたことを忘れていた。

「いたの…… とは失礼な! 俺は、れっきとした 《七十九番目のアリス》だぞ! だいたい、お前たち兵士も、こんな 《優男》に頼り過ぎだ! いいか、俺は 世のため人のため、これまで いくつもの依頼を達成し、この世界に 大きく貢献してきた、《馬場 幸志》だ! 兵士長だか なんだか知らないが、お前の出る幕は無い! ここは、この俺にまかせて、その女を連れて 安全なところへ―――」


「ご主人さまぁぁぁぁ!」



  叶人と 目が合った瞬間、花の幼児は 目を輝かせて 叫んだのである。






「ご主人様、ご主人様、ご主人様ぁぁ」

  緑色の髪と瞳の、五歳児――― が、裸で 宙を舞いながら、こちらへと向かってくる。


  この状況を、どう対処すればいい?


「…… 私、食べられるのかしら?」

「俺だって、まだ 味見もしてないんだから、先を越されるわけにはいかないな~」

「私は 《食べ物》じゃないわよ」


  近くまで 飛んできた幼児は 女の子のようだが、背中に アゲハ蝶のような 黒い《羽》が生えている。

  ウサギと出会い、ゴリ子に遭遇し、オオカミ少年やブタと知り合って、イモムシとも関わって……。

  今度は、チョウチョ か?

「人外の 知り合いが、増えていくわ……」


  呑気に ため息をついていられるのは、兵士長がいるせいでもある。

  とりあえず、少しくらいなら 助けてくれるほどの 《仲》にはなったはずだ。

  そして、途中まで 飛んできた幼児が、ふいに 何かに引っ掛かって、動きを止めたのも 理由のひとつだった。


「うええぇぇぇぇん」


  足に絡まるのは、緑色の ツルのようなもの。

  それ以上、幼児が 花から出られないように縛ってある、鎖の役目なのだろうか。

「ご主人様、ご主人様、ご主人様ぁぁ」


  涙をポロポロとこぼしながら、必死に 訴えられても――― 正直 自分には どうしようもないと、叶人は思う。

「…… 鎖だね、アレは」


  兵士長が、叶人の前に立ちながら 幼児へと指さす。

「この世界はね、みんな ああやって生まれてくるんだ」

「みんな?」

「全員が、花から出てくるわけじゃないよ? そうじゃなくて…… 気が付いたら、突然 世界にポーンと、立っているわけ。 子供なら 子供の姿で。 大人なら 大人の姿で」

「えっ…… 最初から、大人の人もいるの!?」

「もちろんだよ。 だって、住人を生み出すのは、すべて 《世界の意志》だからね」

「…… 世界の意志 ……」


  世界の意志が、作りたいと思った モノを、ポンと 世界に出現させる。

  ただ、それだけ。

  たった それだけで、命は 始まる。


「あの子は、花の妖精なのかな…… でも、変だな。 あの子は、まだ 《名前》が付いていないみたいだ」

「どうしてわかるの?」

「名前が付いていれば、すぐにでも 動き出すことができるからさ。 でも、あの子は鎖に繋がれて、動けない。 名前っていうのは、この世界では すごく 《重要》なんだって、前に教えたでしょ?」


  その人の、行動さえも 規制できるほどの、強大なチカラを持つ。

  それ故、簡単に 他人には名前を教えずに、《役割名》で呼び合うのが一般的なのだ。


「ご主人様、ご主人様ぁぁ。 名前、名前、名前ぇぇぇ」

「…… アリスちゃん、どうやら 君は、《名付け親》に指名されたみたいだね」

「は!? ちょっと待ってよ、何で私が……」

「ご主人様、ご主人様、ご主人様ぁぁぁぁ」


  これだけ 周囲に人がいるのに、幼児の瞳は、叶人へ 一直線に向かっていた。

「君って、幼児まで 《たぶらかして》しまうんだね……」

「人聞きの悪いことを 言わないでよ!」

「でも、実際に どうするの? ものすご~く、一生懸命 呼んでるよ?」

「うっ………」


  汚れを知らぬ、清い眼差しが、涙をこぼしながら 助けを求めている。


  名前を付けたら、あの子の足の鎖は 切れるのだろうか。

  鎖が切れたら、あの子は 自由になるのだろうか。

  自由にした結果、何か 災いが起きる――― なんて可能性は、ないのだろうか。

「…… 完全に無いとは 言い切れないね。 妖精のすべてが 《善》だとは、とても言えない。 もともと、人間に対しては 近寄らないしね~」


  世界の中でも、《妖精》という生き物は 特殊だ。

  人に干渉しない代わりに、干渉されるのも 嫌う。

  妖精は、妖精の仲間内だけでの 生活を守り、他との接触を避ける、孤高の生き物。


  ネバーランドで悪事を働いていた、ティンカーベル。

  彼女は、妖精にしては 異例なのだ。

  そして、叶人に 幾度となく協力してくれた、言葉を話さない、各地の妖精さんたち――― それらもまた、叶人に近付いてきたことが 珍しいのだという。


  そして、今回の、幼児。

  今まで出会った妖精たちは、みな 手のひらサイズで、とても小さかった。

  それなのに、幼児は 人間に当てはめると 五歳児前後。

  光る羽ではなく、蝶の羽を持つ…… 本当に、妖精なのだろうか。

「花の妖精というより、《チョウチョ娘》と表現した方が 近いんじゃないかしら……」

「ご主人様、ご主人様ぁぁぁ」

「あー …… もう、わかったわよ」

「まっ …… 待て、芹沢! 危険かどうかも判断せずに、簡単に近付くなんて……」

「やかましいわよ、馬場 幸志。 危なかったら、兵士長がなんとかするでしょ」

「わ~、思いきり 責任放棄だね~、アリスちゃん」


  小さい子供は、正直に言って 苦手だ。

  泣かれたって、どうすればいいのか わからない。

「…… そんなに、泣かないで」


  だから、叶人は 手を伸ばした。

  正体不明な、チョウチョ娘に対して。


「名前を…… 付ければいいの?」

「…… うん」

「言っておくけど、私には 《ネーミングセンス》なんて、これっぽっちも無いのよ?」

「…… うん」

「ものすごーく恥ずかしい、変な名前を付けられたら、どうするの?」

「…… ご主人様がくれた名前なら、何でもいいのぉ。 だから、ご主人様が いいのー」


  涙を流しながら、幼児の周囲には 花が舞っていた。

  悲しい気持ちに反応してなのか、青い花ばかりがヒラヒラしている。

  叶人は ハンカチを取りだして、幼児の目元を 軽くぬぐってあげた。

  そして、頬に触れると、幼児は たちまち笑顔に変わる。

「ご主人様ぁぁぁ」

  うにゃーんと、甘える子猫のような姿は、可愛い。

  確かに、可愛い。


「…… どうして、私が 《ご主人様》なの?」

「んー …… ご主人様だけだから。 キレイって、言ってくれたのは。 だから、ご主人様がいいのー」

「え?」


  そんなことを、自分は言っただろうか…… と。

  思い返していると、馬場 幸志が ぽつりと漏らす。

「確かに…… 芹沢、お前は言っていたな。 キレイで、燃やすのは 《勿体ない》って」

「みんな、何が出てくるのか わからないのに、ご主人様は キレイねって言ってくれたの。 ワルイものでも、キレイねって言ってくれるの。 簡単に判断しない、そういう人が いいのー」


  …… 喜んでくれるのは 嬉しいが、結局は 《花を処分するために》残っているのだ。

  他の兵士たちと、行動は たいして変わらない。

「それでも、ご主人様が いいのー」

「………… わかったわ」

「ほんとう?」

「あなたの名前、付けてあげる」



  名前に関する情報は、以前から 聞いている。

  名前を呼ぶことは、相手を 縛ることにもつながると。

  そして、名前を付けるという行為は、縛るどころか、相手を 《服従させる》ことになるということも。

「アリスちゃん…… いいんだね?」

「チョウチョ娘くらい、何よ。 ウチには、もっと 《強烈な御仁》がいるんだから、どうってことないわ」

  姿は 強烈だが、叶人は 信頼を寄せているのだ。

  たとえ、黒マント一枚の 男だとしても。


  外見や 種族なんて、人を判断する材料にはならない。

  いつだって、判断の基準は 《行動》なのだ。

  さらに、その行動の原点は、《意識》なのだ。

「あなたの名前は………」


  自慢ではないが、センスはゼロに等しい。

  親が 子に名前を与えるとき、そうとう苦労するのだと推測できる。


「名前は ――――― メルよ。 メルで どうかしら?」

「…… メル?」

  漢字にすると、《芽瑠》がいいだろうか。

  植物の 始まりを表す 《芽》という字に、光る宝石を意味する 《瑠》という字だ。

「これから 成長していくあなたには、いいと思うの。 どう?」

「…… うん、素敵な名前なの。 嬉しいの。 これで、ご主人様に 付いていけるの。 ありがとうなのぉぉ!」


  ブチッと、足を拘束していた 植物が切れたと同時に、裸の幼児が 叶人の首に飛び付く。

「ご主人様、ご主人様、ご主人様ぁぁ」

「ぐえっ…… ちょっと、苦しい……」

「いや~ さすがアリスちゃん、危機一髪だったね~」

「………… は?」


  すりすりと 甘えてくるチョウチョ娘。

  唖然と固まる 兵士数人。

  そして 馬場 幸志。

「どういうこと?」

  

  世界の意志ではなく、それ以外の者が 名付けるとき。

「もしも その名前を、世界の意志が気に入らなかったら、今頃 アリスちゃんの首は ゴロンと転がっていたかもしれないんだよね~」

「…………」


  そういう 《重要なこと》は、もっと早く言え ――― 。


  ははは~と笑う 兵士長に、とりあえず 無言で蹴りをかまして。


「うはーい、ご主人様ぁぁぁ」

  裸で 大喜びする幼児を抱っこしたまま、叶人は 気を強く持とうと、改めて思いなおすのであった 

 新キャラ・チョウチョ娘の登場です。


 戦闘で活躍…というよりは、みんなの癒し係となるのでしょうか。

 そして、まだ 出番が少ない馬場 幸志。

 何回も フルネームを連発しましたので、そろそろ 名前くらいは覚えて頂けたでしょうか。まだかな。


 この物語は キャラ数が多いため、活躍しないと 読者様から忘れられてしまう… ので、彼も 今後の活躍に期待しましょう。


 次回、白ウサギが 大決断… 叶人との関係が、はたしてどうなるのか。 お楽しみに。

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