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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
5/75

5.専用武器の名は ≪提琴≫と書く

 一人の≪護衛≫と、一つの≪武器≫。 それは、すべての≪アリス≫に与えられた、旅の必需品です。 主人公・叶人にとっての、護衛は 白ウサギ。 そして、肝心の 武器は…… ここで決まります。

※誤字発見、修正しました

  もっと早く、他の≪護衛≫のことを 案内人に尋ねていれば、違った展開に

なったはずだ。




  ≪兵士長≫と ≪白ウサギ≫以外で、妥当なところといえば…… ≪兵士≫の誰か、である。

  得意な武器などの≪特性≫を詳しく聞いて、よく考えてから 決めたであろう。

  叶人は 元々≪慎重派≫なのだ。

   間違っても、前者二人は 絶対に選ばない道である。


「今更 言ったって、もう遅いし」


  選択の時間を 縮めてしまったのは、自分の判断ミスが原因だ。

  やんわりと バルドを≪あしらう≫事だって、冷静になれば できたはず。

  カチンときて 食ってかかった、自分が悪い。


  白ウサギの中身は アレだが、≪兵士長≫よりは 見込みがある。


  グラマー美女の 矢が飛んできた時も、エースは いっさい動かなかった―――― 動けなかったのではなく、わざと 動かなかったのだ。

  動いたのは 白ウサギだけ。 大事なモノを捨ててまで、叶人を優先した その≪行動力≫に、心が傾いたのは 否定できない…… 多少の≪問題≫は、大目に見るべきなのだろう。


「あんなに 真剣な≪白ウサギ≫殿は、初めて見ますね」

  傍観者―――― 案内人は、珍しそうに 白ウサギを眺めていた。


  整い過ぎた≪顔≫、流れるような≪剣さばき≫、隙を見せない≪真剣な表情≫―――― どれをとっても、まるで一枚の絵画のように 美しい光景だった。

  …… ウサギ耳など、気にならなくなってくる。


  いいや、落ち着け。 外見に 惑わされるな。

  中身は ≪みーちゃん≫ 二号なのだ。

 

  冷静さを欠くと、この世界では 危険だということが、身にしみて わかったばかりではないか。

  これ以上、自分に不利な≪選択≫を、増やしては いけない。


  銀髪を揺らしながら、果敢に攻める 白ウサギだったが、相手は 二人、バルドと グラマー美女。

  柄の長い≪大斧≫を振り回すバルドと、≪大弓≫を使う グラマー美女に対して、白ウサギの武器は ≪短剣≫のみ。

  近付かないと 攻撃できない≪間合い≫の短さは、正直 苦しい。


  何とか、しなければ。

  唯一の≪護衛≫として、自らの意思で 白ウサギを選んだのだ。


  選んだからには、彼は すでに≪身内≫も同然。

  身内が 危機に瀕している時に、黙って見ている程 腐ってはいない…… つもりだ。


  そういえば。

  出発の準備として、≪アリス≫には、『二つのモノ』が許されていたはず。

  一人の≪護衛≫と、それから もう一つ――――。


「君も、自分の≪武器≫を選べば いいんじゃない?」

  静かになっていた エースが、横から口をはさんだ。


「そう、武器だ! 案内人、武器ってどうするの? どうやって選ぶの?」


  戦闘の経験など 皆無だが、そんなことは 言っていられない。

  ちょっとした≪加勢≫くらいは、できないと 困る。 今後のためにも。


「武器は…… 頭の中で、思い浮かべて下さい。 ≪武器≫そのものを 連想するのではなく、どうやって≪戦いたい≫か。 あなた自身が目指す≪戦闘スタイル≫を、思い浮かべて下さい。 そうすれば、自然に 武器の種類が決まり、あなたが≪念じる≫…… つまり、≪召喚≫することで、武器は 手の中に現れます」


  ずいぶんと、抽象的な 作業のようだ。 自身が目指す 戦闘スタイル―――― と言われても。

  日頃から、≪可能か 不可能か≫を基準に 物事を考えていた、≪現実主義≫の 叶人にとって、≪望む 望まない≫という ≪理想≫寄りに考えることは 非常に難しかった。


  難しくても、やるしかない。 与えられた権利なら、余すことなく 使いきるべきだ。


「私が、望むのは…………」


  何かに、突出しなくても いい。

  十割の強さは 求めない…… おそらく、自分の性に合っていないだろうから。


  代わりに、六割のチカラでいいから、すべてに≪対応可能≫なことが望ましい。

  我ながら、≪強欲≫だとは 思う。 ≪卑怯≫とも いえる。

  それでも、何かを望めと いうのなら。


「強くもなく、弱くもない、チカラ的には 中級だけど、回復や支援も可能な…… ≪万能型≫」

  つまり――――――― 理想は ≪オールラウンダー≫。


「決まったようですね。 では、手元に集中して…… 武器を 召喚するのです」

  案内人に促されるまま、胸の前に広げた 両手の上に、霧にまぎれて ≪何か≫が落ちてくる。


「これは………」

「…… おや、武器にしては 非常に珍しいですね」


  珍しいどころの 話ではない。

  艶やかな 飴色に包まれ、女性的な丸みを帯びた 優美なフォルム。

「まさか…… ウソでしょ……」


  叶人には とても馴染みの深い、『提琴』と書く――――――― 楽器。


「≪九十九番目のアリス≫ちゃんてば、≪演奏家≫だったんだね。 ますます 興味湧いちゃうなぁ~」



  現れたのは、まぎれもなく 一挺の ≪ヴァイオリン≫だった。






  …… これを、具体的に どうしろと?


  オールラウンダーを願ったのは 自分だが、よもや 楽器が出てくるとは 誰も思うまい。


「楽器なんだから、弾くしか ないんじゃない?」

  しごく もっともなツッコミを ありがとう、兵士長。


  間違っていないから 頭にくるが、その言葉に従うとしよう。


  タリラ~ と、とりあえず 指で弦の調子を確かめる。

  …… うん、大丈夫、問題ない。 調弦も バッチリだ。 このまま 弾ける。


  こちらの変化に気付いた グラマー美女が、大弓を向けたので、叶人は 慌ててヴァイオリンを構えた。

  もう、どうにでもなれ―――― 右手に持った弓を 弦に乗せて、思いつくまま 即興で『曲』を奏でてみた。


  今 欲しいのは…… ≪妨害≫の音。

  グラマー美女が放つ 矢の軌道を、大幅に外させたい。


  タリラ リラリ タラララルラ トュルラリラ~


「…… !」

  半音ずらしの 奇妙な曲に、美女の腕が ぷるぷると震えていた。

  どうやら、矢を放つことが できないらしい。


  ……… よし、効果あり!


  間髪入れずに、今度は ≪支援≫の音。

  間合いでは劣る 白ウサギのために、補って余りある≪速さ≫を送りたい。


  タラル~ラ~リラ タタ タラ タタッタ~


  十六分音符の 軽快な曲に導かれ、白ウサギの攻撃は 加速していく。


「≪演奏家≫の能力は、特殊でさ。 簡単に説明すると、精神攻撃っていうのかな? 曲としては、その場にいる 誰もが聞こえているのに、演奏家が≪狙った相手≫にしか、その≪効果≫が表れない。 便利な能力だよなぁ~」

  傍観者 その二…… になっていたエースが、貴重情報をくれる。


  …… なるほど。

  美女に送った≪妨害≫の曲に、味方である 白ウサギが反応していては、元も子もない。

  たしかに、超 便利な特殊能力だ。


  ほどなくして、カキーンと 甲高い金属音が響き、バルドの持つ 大斧が、回転しながら飛んでいくのが見えた。


「さあ、お遊びは 終了です」


  短剣を バルドの首元に突き付けた 白ウサギが、冷たく言い放つ。

  主人を助けたくとも、美女は 動けないままだった。


「か…… 勝った……」

  ほとんど 何もしていない叶人だが、それでも 全身から力が抜けていく 脱力感。

  気がゆるむと同時に、武器であるヴァイオリンは、姿を消していた。 不思議だ。


「お待たせしました、アリス。 今すぐ 始末しますので、少しだけ我慢していて下さいね」

  にっこり笑った 白ウサギが、躊躇いもなく 動こうとするから―――― 言葉よりも早く、叶人は 拳を突き出していた。


  ぼすっという、鈍い音。

  顔や 頭は ためらわれたので、一応 腹のあたりにしておいたのだが。


  可愛い≪白ウサギ≫を殴る、暴力的な≪アリス≫―――― 誰かに見られたら、≪九十九番≫の評判は 地に落ちるだろう。

「…………… 痛いです、アリス」

  真っ赤な おめめに涙をためつつ、健気な白ウサギは 強い抗議はしてこなかったので…… 謝罪の代わりに、痛むであろう 腹をさすってあげた。


  さすりながら、自分至上 最高と思える≪笑顔≫で、白ウサギに 釘をさす。

「人の命は、奪っては いけません」

  にっこりと、初めての≪笑顔≫を向けられたことで、当の 白ウサギは すっかり舞いあがってしまい…… この後、しばらくは 会話が不能になってしまった。


  誰か、白ウサギの ≪取り扱い 説明書≫を送ってほしい。






  勝者である 叶人が『消去』を望まなかったので、敗者となったバルド達は、引き下がるしかなかった。


「だいたい、≪消去≫って 何なの?」

「その言葉の通りだよ。 勝者となれば、敗者の≪末路≫を選べるって、画期的な制度さ。 煮るなり 焼くなり 好きにしていい…… なんて、すごく面白いだろ~?」


  …… 画期的とは、何事だ。

  武器を向け合ったのだから、ある程度は 仕方がないと思えるが―――― この世界の≪好きにしてよい≫とは、命までも左右する、という意味だろう。

  平和な日本国民として、見過ごせるはずがない。


「本当に、いいのですか? ここで どうにかしなければ、後々 バルドは仕返しをしてくるでしょう。 もしかしたら、もっと卑怯な手段で くるかもしれませんよ?」

「あ~…… そうかもな。 アイツ 古株だから、けっこう知り合いとか多いし。 ≪連合≫とか組んで、団体で襲ってくるかもね~」


  ぽや~んと 夢心地状態の 白ウサギは放置して、案内人と 兵士長は、叶人の≪判断≫が 甘いと指摘した。


  世界の事情に通ずる 二人が言うのだから、事実なのだろう。

  叶人としても、その可能性を 考えなかった わけではない。


  では、何かあるごとに 戦って、そのたびに≪消去≫を選べというのか。

「そんなの…… 切りが無いじゃない」


  別に、≪博愛主義≫でもないし、≪お人好し≫でもない。

  ≪偽善者≫と言われようが、命を自由にする権利など 誰にもない―――― と、信じているから。

「私は、私の 信念を貫くだけだよ」

  それが、この世界では 愚かな考えだとしても。


「その≪甘さ≫が…… いつか、命取りに ならないといいけどね~」

  意味深な言葉を残して、ちびエースは ふらりと姿を消した。



「あ~……… また、脱走しましたね、エース君」

  案内人は やれやれと肩をすくめた。

  その様子だと、初めてでは ないらしい。


「まぁ、彼は 放っておいていいでしょう。 どこかに また現れるはずです。 あなたの事を、すごく気に入っていましたからね」

  …… あれは、気に入ったうちに 入るのだろうか。

  ただならぬ 殺気を飛ばしていたのだが。


「気に入っていますよ、間違えなく。 あなたは 大物ばかりに目を付けられる…… いっそのこと、すべてを 味方に付けてしまいなさい。 そうすれば、あなたの≪危うい甘さ≫も、何とかなるかもしれませんよ?」




  叶人にとって 初めての≪戦闘≫は、運良く 勝利で幕をとじた。


  上級 護衛である≪白ウサギ≫を連れた、≪九十九番目のアリス≫―――― 珍しい≪演奏家≫でもあるらしい、油断はするな、気を付けろ。


  まだ 出発もしていないのに、ねじれた世界≪ローリィヴェルテ≫の全域、≪その他のアリス≫全員にも、そのウワサは 知れ渡ってしまうのである。

 護衛と武器が決まったところで、出発するはずが…… またしても、伸びてしまいました。 でも、ようやく 出発できるところまで きましたよ。 やった~。


 話の展開に 混乱している方は いないでしょうか?

 わからない事があれば、質問を頂ければ お答えします~。

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