表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
48/75

45. 裁判のあとに

 《現在の状況》を 少しずつ整理しつつ、段々と 主人公カナトの 内面を掘り下げていく予定です。

  あっという間に、《裁判》の日がやってきてしまい―――。

  わずか 一日だけだが、特に 《危険》なことも起こらずに、裁判は順調に 《終了》した。



「お疲れ様でした、カナト。 これで、また一つ …… あなたのことが好きになりました。 これ以上 僕を夢中にさせて、あなたは どうしようというんですか」


  裁判直後だというのに、狂ったウサギは すでに顔が 崩れている。

  …… いいのか、白ウサギ。

  この状態を知らない 《城の関係者》や、裁判を傍聴しに来た 《一般住人》は、ドン引きしているではないか。


「…… ノールも、お疲れ様。 司会進行というよりも、ほとんど 《仕切ってくれた》から、助かったわ」


  叶人が ブタさんの弁護人となり、《発言》をしたことが 《決めて》となって、《裁判長》の役目である 《よくわからない人》が、迷惑なオオカミに対して 《有罪》を言い渡したのだ。


  ねじれた世界、ローリィヴェルテ。

  何よりも、強い者だけが生き残れる、非情な世界。

  生き残ることだけが、すべて。

  死ぬか、生きるか、選択肢が 二つしか無い。


  そんな 《世界のり方》に、異議を唱えるかたちとなったのが、まさに今回の裁判だった。


「有罪であっても、《死刑》ではない ――― あなたは、新しい 《考え方》と 《方法》を、この場で示しました。 住人たちにとっても、さぞ刺激的な光景だったでしょう」

「…… 裁判の内容よりも、あなたの 《その状態》のほうが、よっぽど 《刺激的》だと思うわよ?」


  黙って立っていれば、世界の中でも 最上級の美貌の持ち主である。

  かつては、容赦なく 人を斬り裂く 《殺戮者》と異名までついていた、白ウサギ。


  彼と出くわすだけで、《殺される》と怯える住民がいる…… とは、ウソではないのだろう。

  今日も、裁判が始まった頃は、白ウサギとは 《目を合わさない》ようにしていた住人が多かったのを見ると、そう感じる。


  それでも、白ウサギは ずいぶんと変わったのだ。

  叶人と出会い、数日を共に過ごし、《護衛》として精一杯 働いている姿は、誰が見ても 《変わった》と思ってもらえる 《変化》だといえるはずだ。

  …… ぐずぐずに溶けた顔だけは やめてほしいが、これも 変化の一部であるのなら、許容範囲として受け止めるべきなのだろう。


「急いで、書類の整理と 残りの手続きをしてきますから、部屋で待っていて下さいね」

「私にも、何か 手伝えることは ある?」

「カナト…… あなたという人は、なんて 優しい……」

「え、別に 普通だけど」

「いいえ! 僕のカナトは、決して 《普通》であるはずがありません!」

「その言い方は、ちょっと 傷付くわね……」


  確かに、こんな白ウサギを 《護衛》に選び、安心しているアリスなど、《普通》とは 呼ばないのかもしれない。

「僕のカナトは 《特別》で、至上のものであって、何ものにも代えられない、とても素晴らしい……」

「あー、はいはい、ありがとう。 嬉しいわ。 ――― それで、手伝うことは あるのかしら?」


  繰り返すようだが、裁判は終わったばかりであり、周囲には 人が わんさかいる状態なのだ。

  恥ずかしげもなく言うウサギを 早々に止めて、叶人は 本題へと話を戻す。

  もちろん、白いお耳を ギュッと掴むという、一番効果的なやり方で。


「…… 痛いです、カナト。 はっ…… そうか。 《愛》というのは 《痛いもの》なんですね?」


  ――― 何を、悟った様なセリフを言っているのだ、ばかウサギは。

  相変わらず、ツッコミどころが満載な様子を見て、最近 感じていた 《違和感》が、ますます際立ってくる。


  白ウサギは、無理をして、《平常》を保とうとしているのではないか――― と。

  そう思わずには、いられない。


「…… ノール、私が 前に言った言葉なんだけど―――」


  『無理はしても、無茶はしないで』と。

  帽子屋の課題に出発する前に、お願いしたことがあった。


「はい、カナト。 もちろん、覚えています。 僕は、あなたが言った言葉は、何一つ 忘れはしません」

「それはそれで、けっこう 厄介ね……」

  こっちだって、時には 忘れてほしいことだってあるのだ。

「あのね、《撤回》はしないけど、《修正》はしてもいいかしら?」

「修正…… ですか?」

「ええ、そうよ。 本当はね…… 《無理》だって、してほしくはないわ」

「!」


  案の定、白ウサギの顔色が、変わった。

  変わったことに、気付いてしまった。


「僕は……」

  無理はしていません ――― と、言いたくても言えないのが、白ウサギの特徴だ。

  それが、ウソだから。

  ウソである限り、口にしてはいけない。 ウソである限り、彼は 無理をしていると 確定されてしまう。

「僕は……」

「私は、旅が続けられなくなる方が イヤよ」

「それも、覚えています。 あなたを そんな目に遭わせないようにするのが、僕の役目です」

「わかっているなら、どうして……」

「はいはーい、お二人さん、ちょっとお邪魔するよ?」


  詰め寄った叶人の前に、赤い服が ぬっと割り込んだ。

  声で、すぐに 誰だかがわかる。


「何よ、兵士長?」

「いや~、仲睦まじくて 妬けるね~。 うっかり、ウサギさんのこと斬っちゃいそう」

「言いながら、すでに 剣を引き抜くのは やめなさいよ」

「ははは~、だから うっかりだってば。 ところでウサギさん、早く 仕事終らせた方がいいんじゃないの?」

「…… そうですね。 すみません、カナト。 少しの間、僕に会えなくても 我慢していて下さいね?

すぐに終らせて、部屋に迎えにいきますから」

「我慢できないのは、ウサギさんの方じゃないの~?」

「…… いい加減、死になさい 野蛮人」

「二人とも、大差ないわよ…… いいから、ケンカしないの」


  冗談ではなく 本気で《殺傷沙汰》になる前に、叶人は 男二人を 引き離した。


  以前から知り合いらしい 口ぶりだったが――― 城の 《宰相》と《兵士長》なら、よく知っているはずだ。

  会えば 刃物を取り出すところなんか、よく似ている。

  いっそ、仲が良いのでは…… とまで、思ってしまうほどに。


「待っているから、早く 行ってらっしゃい」

「もちろんです、カナト!」


  びゅんっっと、効果音が出そうなくらいのスピードで、白ウサギは 城の奥へと消えた。

  裁判が終ったことで、傍聴していた 一般人は、出入り口へと殺到している。

  そんな ざわつく中で、近付いてきたのは ブタさん三兄弟だった。


「…… アリス」

「今回は、なんて お礼を言っていいか……」

「まさか本当に、こんな日がくるなんて……」


  派手な柄シャツから、一応 《正装らしきシャツ》に着替えたみたいだが――― 相変わらず 《チンピラっぽさ》が抜けない三人だといえる。

  全身を赤く染め、 暗い瞳をしていた数日前が まるで ウソのように、スッキリとした顔をしていた。

  この様子ならば、もう 彼らの心配はいらないだろう。


「お礼なんか…… 必要ないわ。 むしろ、お礼を言いたかったのは 私の方よ」


  元より、自分の都合で 森の異変と関わることになった。

  最終日に、しましまクッキーを 二男ブタが用意してくれなければ、課題は達成できなかったのだ。

「言うのが遅れてごめんなさい。 助けてくれて、ありがとう」

「そんな…… 俺たちは、別にたいしたことはしてねぇよ」

「あんたに してもらったことの方が、よっぽど大きいんだ」

「君のおかげで、僕たちは 変われたんだよ」


  そう言ってもらえるのは嬉しいが、そんな立派な人間でないことは、叶人自身が 一番よくわかっている。  

「私は、決して 褒められるようなアリスじゃないわ。 率先して 助けに入るような人間じゃないもの」


  けれど、叶人が起こした行動が 《キッカケ》になったのは、事実だ。

  今は、それができただけで、充分である。

「…… お礼は、いらないわ。 その代わり、今回のことを 忘れないで」


  苦しいとき、つらいとき、悲しいとき。

  誰かに、その思いを 伝えること。

  自分ひとりで、抱え込まないこと。

  助けてほしいと、そう思う心に 気付くこと。


  ダメになったら、ダメになればいい。

  そういう時は、一旦 休んで、回復するのを じっと待てばいいのだ。

  人が誰も周囲にいなくても、空でも 森でも 海でも…… 自然だって、時には 味方をしてくれる。


  苦しいときほど、自分の本当の 《望み》と向き合うチャンスなのだ。


  たとえ、それが 《叶わぬ願い》だとしても。

  自分を見つめ、もがいた先には、きっと 《新たな道》が開けるはずだから。  

「苦しんだ記憶を、忘れないで。 そして、それを乗り越えて 《今がある》ということを、時々 思い出してね」



  ブタさん達は、早くも 新たな店の出店準備で 大忙しのようだった。

  邪魔するオオカミが いなくなったことで、今後は落ち着いて 店を開けるだろう。

  オープンしたら、一度 行ってみるのもいいかもしれない。


  お礼はいらないと断ったのに、言葉はもちろんのこと…… なんと、《感謝のドロップ》まで頂いてしまった。

  三兄弟、ひとり 一個ずつ――― つまり、いっきに三個ゲットして、叶人の合計は 五個になった。

  加えて、彼らの 《名前》まで 教えてもらえた。

  長男・ジェイ、二男・ケイ、三男・エル …… だそうだが、思わずアルファベットの歌を 想像してしまったのは、内緒である。


  ドロップと、名前。

  それは、この世界の住人にとっての、《最大級》のお礼なのだ。

  彼らの 《思い》を無駄にせず、報いるためにも、叶人こそ 今回のことを忘れてはいけない。


  イモムシの件だって、本当は スッキリ 片付いているとはいえないのだ。

  彼との 《賭け》は、いわば 勝負の勝敗を《保留》にしただけ――― これからの 《行動》こそが、アリスとして判断されることになる。


  気を抜くヒマなんて、ない。

  アリスとしての 《特権》は、すべて 《重責》の裏返しなのだから。


「さて、じゃあ 部屋に行くとしますか……」

  叶人以外のメンバーは、裁判の傍聴のあとは、宿に戻って待機することになっている。

  叶人は 白ウサギと一緒に帰るために、ひとまずは 用意された《部屋》で、彼を待つしかない。

「…… で、何で 兵士長もついてくるのよ?」

「え~、だって、アリスちゃんが歩くから、俺も歩くってだけだよ」

  城の中でも、危険はいっぱいだからね~。


  明るく 爽やかに言ってくれるが、危険がある城というのは 問題アリなのではないのか。

「…… あなた、兵士長なんでしょう? 城内の 《安全管理》とか、あなたの仕事なんじゃないの?」

「んー、以前は そうだったけど…… ほら、俺、今は 《はぐれ護衛》だからさ~」

「はぐれ護衛?」


  護衛という言葉は よく耳にするが、はぐれ護衛なんて、聞いたこともない。

「あのね、アリスちゃん。 アリスが 世界に初めて召喚された時、その場で 護衛を決めるでしょ?」

「ああ、始まりの地での 《出発準備》よね?」

「そ。 一人の護衛と、一つの武器――― それを与えられて、アリスは 日々戦い抜いていくわけだけど」



  護衛が 《死んだ》場合。 又は、護衛を 《クビにした》場合。

  アリスは、《新しい護衛》を 再び選ぶことが許される。

「でも、その逆は どうなると思う?」

「…… 逆?」

「そ。 …… アリスが 《死んだ》場合。 もしくは、護衛に 《殺された》場合」

「こっ……!?」


  力不足で、アリスが死亡することは 理解できる。

  今までも、『そんなんじゃ 死んでしまうよ』と注意されもしてきた。

  しかし、よりにもよって――― アリスが、護衛に 《殺される》なんて……。


「弱いアリスなんて、すぐに死んでしまう。 これは、もはや《常識》だけどね。 それと同じくらい、護衛に 《見放されたアリス》は、放置されるか 殺される…… っていうのも、世界の《常識》なんだよ?」


  危険な状態でも、助けない。

  危険な場所に、置き去りにする。

  どうしても 《気に食わないから》と、命を奪う。


「護衛なんて、所詮は 《罪人》の集まりなんだよ。 何か罪を犯したから、《護衛》という 過酷な《罰》が与えられただけにすぎない。 そもそも、ひとりひとり 《感情》があるしね。 相性もあるし、好き嫌いもある。 すべての護衛が、ウサギさんのように 《従順》ではないんだよ?」

「…………」


  にこにこ にこにこ


  笑顔で言うセリフにしては、毒があり過ぎだ。

  今の情報をふまえて、兵士長が 《はぐれ》だという意味を推測してみると。

「あっ…… あなた、もしかして!?」

「あはは~、詳細は ご想像におまかせするよ」

「あら、そう…… もう、ついてこないで」

「えー、何で 俺だけそんな冷たい態度を取るの?」

「何でって、あなたねぇ、それはっ……」




「――― かつて、一番 それを 《実行》していたのは、他でもない ウサギさんなんだけどな~」


  《悪意のカタマリ》が、叶人の頭上に 落ちてきた気がした。

「あれ? どうしたの、アリスちゃん?」


  いつだって、人を 一番 《傷付ける》のは―――。


  ウソよりも、《真実》の方なのかもしれない。 

 新年あけまして… から、かなりの日が過ぎていますが。

 みなさま、本年も アリスをよろしくお願い致します。


 さて、暮れあたりから 再び 《超・多忙》という状態になりまして、しばらくは 更新のペースが落ちるかもしれません。

 《活動報告》の方にも 書かせて頂きますが、ゆっくりでも 続けていきますので、たまーに サイトをチェックして頂けるとありがたいです。


 物語は、カナトと白ウサギの関係性が 劇的に変化する章へとなっていきますので、作者としましても チカラが入っております。

 入り過ぎて カラ回りしないように注意しつつ、でも 意欲だけは満々… あとは、パソコンを開く時間があれば… ですね。


 切なくて、でも どこか暖かい―― そんな物語を目指して。

 次回は、新しい アリスが登場の予定。お楽しみに。


※お気に入りや 感想を下さる方へ

 いつも、感謝しております。貴重なご意見・ご感想は、そのまま 水乃のパワーになっておりますので、今後も応援 よろしくお願い致します。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ