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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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44. シンデレラは 靴職人

 少しずつ 人数が増えたことで、会話が ややこしくなっていますが。

 どれが 誰のセリフなのかを、想像しながら読んで頂けると ありがたいです。


※誤字 修正しました

  《地球》という場所での 《シンデレラ》というものは、女の子であった気がする。




「はじめまして、オレが 靴職人の《シンデレラ》だ!」


  ハートの国の城下町、帽子屋で。

  毛むくじゃらの 《オヤジ》に名乗られても――― いまいち 信じたくはない。


「ちょっと、遅かったじゃないのよ シンデったら!」

「悪い悪い…… ちょっと 事情があって遅れちまったんだ、勘弁してくれよ」


  どうやら、帽子屋とは 旧知の仲らしい。

  オネェと オヤジ。

  …… なんともいえない組み合わせだ。


「それで…… 依頼の 《アリス》っていうのは、このお二人かい?」

「そうよー。 可愛い二人なんだから、気合い入れて 作ってよね!」

「そりゃあ、まかせてくれよ! …… というわけだが、お二人さん?」


  オヤジ…… 否、シンデレラが、叶人と瑞樹に 視線を戻した。

「まずは、それぞれ 《採寸》をさせてくれねぇか? それを元に 《木型》を作成して、それから いっきに靴を仕上げちまうのさ」

「採寸って、どうすればいいの?」

「そりゃあ、直接触ってみなきゃならんから、とりあえず その 《靴下》を脱いで……」

「――― なんて 《破廉恥はれんち》な!!」


  真っ赤なおめめを 真っ赤に血走らせて、白いウサギさんが 間に割って入る。

「は…… 破廉恥だって? おいおい、白ウサギ殿、それはないだろう? オレは職人なんだから……」

「職人であろうと関係ありません! 僕のカナトに 靴下を脱げ…… などと、しかも 触れるだなんて、なんて 《人でなし》な要求を!」

「い…… いや、ノール 落ち着いて? 別に 採寸くらい、なんともないから」

「そんなわけないでしょう! こんなヒドイことを許してはいけません!」

「え…… ヒドイの、オレって?」

「ヒドイんじゃないのー、ウサギちゃんから見たらさー」


  あぁ…… なんだか、ものすごく 《懐かしい》展開だ。


「ウサギちゃん 暴走してるし、ミズキから やっちゃえば?」

「あー …… その方がいいかも。 シンデレラさん、俺からお願いします」

「お…… おう、わかった。 んじゃあ、ちょっと こっちのイスに座って、ココに足を乗っけてくれ」

「…… ミズキくん、スカート気を付けて…… その、その態勢だと いろいろ見えて……」

「きゃー、何してんのよ ミズキ! パンツ見えてるじゃないのよ!」

「えっ」


  相変わらず、赤ずきん三人組は やかましい。


「ちょっとー、見せるなら アタシに見せなさいよー …… ぐふふ」

「…… 帽子屋よ、我のはどうだ?」

「キャー イヤー、誰よ あんた!!」


  店内に、野太い悲鳴が 加わる。


「…… ふむ、声をかけたのだが、応答が無いので 勝手に入らせてもらったぞ」

「あら、ニコル。 昨日はどこへ泊っていたの?」

「せっかくハートの国に来たので、少々 冒険をしていたのだ」

「…… 冒険って……」


  ほぼ裸の 賢者様は、夜中に 何をなさっていたのやら。


「それはそうと、ココが 噂の帽子屋で間違えないのだな。 よし、帽子屋よ、我にも ぜひ 《衣装》を作ってはくれぬか?」

「衣裳って…… あんた、マントしか着ていないじゃないのー!」

「マントを 甘くみてはならぬぞ? それに、この下の下着も、立派な 《オシャレ》である」

「キイィィ、許せないわ! 服をまともに着ない奴なんて、いくら美形でも、アタシ 許せないわ!」


  …… 帽子屋さん、ぜひ もっと言ってやってくれ。


「ニコちゃんが作ってもらえるなら、あたしだって いいでしょ? ね?」

「だから、チャッキー …… ミズキくんと違って、僕たちは 課題に参加していないんだから、ダメだって……」

「だって、ニコちゃんよりも、あたしの方が 服の作りがいがあるじゃないのよ!」

「そういう問題じゃぁないと思うけど…… ぐふっ」


  …… また、オオカミの 苦しい悲鳴が……。

「チャッキー、すぐに リーヤを殴るのはやめなさい」

「えー ……」

「いいんです、アリス様。 僕は 慣れてるんで……」

「慣れちゃダメでしょう。 あんまり慣れてると、いずれ 《あんなの》になっちゃうわよ?」


  あんなの ――― 叶人の視線の先には、もちろん 白ウサギがいる。

「…… リーヤがあんな風になるのは、やだ~」

「僕も、さすがに……」

「――― 二人とも、何か言いましたか?」


  刃のような殺気をまとって、白ウサギが背後に立つ…… 見ているだけで怖いから、やめてほしい。



「君の周りって、どうして こうも、おかしな人達ばかりなのかね~?」


  誰もいないはずが、突然、耳元で声がして、叶人は 慌てて 左を向くと―――。

「なっ…… え、兵士長?」

「おはよう、アリスちゃん。 今日も可愛いね」

「おぉ、兵士長! 今日は遠慮なく、我の下着を 見てよいぞ!」

「ちょっと、エースくん! 兵士長なら、この変態マント 斬って!」

「…… 俺、可愛い子の声しか 聞こえないんでー」


  ――― 本当に、何故 こうも、おかしな連中ばかりが寄ってくるのか。

  朝のナーバスな気持ちなど 吹き飛ばしてくれるような 《変人の集団》に、叶人は ため息をつくしか なかったのである。






「それでは、改めまして…… 俺はハートの国の兵士長で、別名は ハートのエースだよ、赤ずきんちゃん」

  恭しく自己紹介をしているのは、まぎれもなく 三日間一緒に過ごした、あの兵士長だ。


「へー …… 噂には聞いていたけど、確かにカッコイイね、おにーさん」

「ふふ、ありがとう。 赤ずきんちゃんも 可愛いね。 アリスちゃんと出会う前なら、デートに誘いたいくらいだね~」

「えへへ、嬉しーな。 嬉しいけど……」


  ジャキッと、聞き慣れない音が 室内に響く。

  なんと――― 手ぶらだったはずの赤ずきんの手に現れたのは、黒く光る 《猟銃》だった。

「さっきから…… やたらとアリスちゃんに 馴れ馴れしいんじゃないの、おにーさん?」

  今すぐに ぶっ放しそうな剣幕だが、さすが兵士長、まったく動じていない。


「えー そうかな? まあ…… しいていえば? 三日間、抱き合って眠った仲だし?」

「なっ……」

「――― 即刻、殺しましょう、赤ずきん」

「りょうかーい★」

「ちょっと、何 こんな時だけ 一致団結してるの、お二人さん?」


  帽子屋の 店内で、猟銃を構えた美少女と、短剣を構えた白ウサギ…… 疲れる光景だ。

「あなたが、しょうもないウソをつくからでしょ、兵士長」

「え、ウソじゃないのに」

「…… ぶっとばすわよ?」

「君は 怒った顔が 一番可愛いよね~」

「カナトは、いつでも 可愛いんです!」


  つい、兵士長にイラッときたのを反省しつつ、このままでは 話がちっとも前に進まないので。

  深呼吸して 落ち着いてから、話題を変えることにした。


「…… まずは、シンデレラさん? 瑞樹の採寸は、終った?」

「お、おぉ 終ったよ。 次は お嬢さんでいいのか?」

「ええ、お願いするわ」


  叶人は、瑞樹が座っていたイスに 交代して座る。

「カッ…… カナト、こんな場所では いけません! せめて、姿が見えないように、別室へ……」

「大丈夫よ、足だけじゃないの」

「足であれ、あなたの やわ肌にっ……」

  面倒くさいのは嫌いなので、叶人は するすると、白い ニーハイソックスを 下げていく。


「うっっ」

「ぶはっ」

「…… えーと」

  白ウサギは 真っ赤になり、オオカミ少年は 鼻血を吹き、瑞樹は 微妙に横を向いた。


「なによ、どうかした?」

「君の そういう 《自覚の無い仕草》は、男にとったら 《扇情的》なんだよ?」

  ニヤニヤと 一人嬉しそうなのは、兵士長だった。

「??」

「アリスよ、人前で 簡単に肌をさらしては ならぬぞ?」

「…… それ、ニコちゃんには言われたくないと思うけどー」

「まったくよね」

「ねー」


  よくわからない 《男たちの反応》は無視をすることにして、叶人は 採寸を終らせた。


「よし、これで完了。 せっかくだから、赤ずきんも作ってやるよ、座んな」

「えー、ほんと? オジさん、ありがとう!」

「オジさん……」

  毛むくじゃらの シンデレラは、赤ずきんの 何気ない言葉に たいそうショックを受けたようだ。

「もう、仕方ないわね。 わかったわよ、赤ずきんも 衣装作ってあげるわ。 ただし、《ずきん》は 世界のルールだから、変えられないわよ?」

「うん、それは わかってる。 でも、今まで 赤い色ばっかりだったから、色とか柄を変えるくらいは 許されるよね?」


  アリスが、男であっても エプロンドレスが義務化されているように、他の 《役割》にも、定められた衣装があるらしい。

  そう考えると…… 《はだかの王子様》である、ニコルは どうなのだろう。

  本来は、その名の通り、はだかが正しいのだろうか。

  黒いマントに、派手な ビキニパンツと、黒の編み上げロングブーツ――― もしかしたら、はだかの方が、マシだったのかもしれない。

「ねぇ ニコル。 この際だから、《素敵な衣装》を 着てみる気はない?」

「無いな」

  …… 気持ち良く、にっこりと即答されてしまった。

  恐るべし、《マント愛好家》である。



「それで…… 兵士長は、何をしに来たの?」

  まさか、昼間っから 遊び歩いている程、彼もヒマではないだろう。

「んー、昨日話していた 《裁判》の日程が決定したから、それを伝えにね」

「…… 決まったんですか?」


  おかしくなっていた 白ウサギが、しゃきんと元に戻る。

「もちろん、以前と同様、ウサギさんが仕切ってくれるなら…… という条件で、三日後に 一日だけの裁判になったよ」

「…… そうですか」

「それから、その裁判が終ったら、しばらく 《舞踏会》が開かれることになったから、帽子屋さんと 靴屋さん、準備をよろしく」

「まぁ、舞踏会ですって? ステキ!」

「おぅ、腕がなるぜ!」


  叶人は、白ウサギの服を 引っ張った。

「ねぇ、ノール」

「はい、カナト」

「裁判のことだけど……」

「はい、僕は 進行役なので、当日は あなたと同じ席には いられません。 でも、何があっても 助けにいきますから、安心して下さいね」

「それは、信じているけど―――」


  何だろう、やはり、ウサギは 朝から様子が変だ。

  おかしいのは ウサギだから、ある程度は 仕方がないのだが。


  何かが、引っかかる。

  それは、彼が 口にしない、《秘密》に関わるものなのだろう。


  どうして、言ってはくれないのか…… という思いと。

  本人が 言わないのだから、信じて待つしかない…… という思いとが、ごちゃ混ぜになる。


「ねぇ、じゃあ 《舞踏会》って、なぁに?」

「女王が 《招待状》を出した者だけが出席できる、特別な 催しです。 だいたい、始まると七日間くらいは続いて、その間 招待客は、城に部屋を与えられて 滞在することになるんです」

「へー …… ずいぶんと、長いものなのね」

「カナトも、興味がありますか?」


  もちろん、乙女なのだから、興味くらいはある。

  ただ、自分は 踊りなんて 踊れないし、まして そんな場に行けるようなドレスなど、似合わないだろう。

「そりゃあ、興味くらいは……」

「そんなアリスちゃんに、はい、コレ!」


  横から、兵士長の腕が にゅっと伸びてきた。

「何?」

「女王様からの、招待状だよ」

「…… え?」

  手渡されたのは、薄いピンクに 金のバラが描かれている、高級な封筒だ。


「女王様の 一番の 《目当て》は、着飾った君を間近で 《愛でること》らしいけど…… まぁ、そこは適当に挨拶だけして、あとは楽しめばいいと思うよ?」

  …… 何だか、今 ものすごく 《危険》な言葉が含まれていたような。


「君と、君が選んだパートナーに、あとは 《お仲間》なら全員 参加していいって。 …… でも、君の場合、いったい どこまでが 《お仲間》になるのかなぁ…… ね?」


  意味深に笑う 兵士長は、やはり 意地が悪いと思う。


  彼の指摘の通り――― 叶人はまだ、白ウサギ 以外を、正式に 《仲間》だと 宣言していない。

  出会ってから、なんとなく 一緒に この町まで行動を共にしてしまったのだ。


  だから、切り捨てるならば、今だろう。

  仲間にするのも、今しかない。

「私の 《仲間》は―――」

  切り捨てるのは、簡単だ。

  人が 増えれば増えるだけ、厄介事の 数も増す。


  それでも、今 選べというのなら。



「仲間は――― ここにいる、《全員》よ」


  赤ずきん、オオカミ、アリスである 瑞樹、そして 賢者ニコル。

  なんとも 面倒くさい 顔ぶれではあるが、もう 今さらだ。

「…… ふーん、俺は その中には 入れてくれないわけねー」

「え?」

「ねぇ、それって わざと? アリスちゃんて、実は 俺を怒らせて、イジメられたいの?」

「えっ…… そんなわけないでしょう? …… っていうか、何で 怒ってるの?」

「カナトから 離れなさい、兵士長。 それ以上近寄るなら、僕は 斬りますよ」

「斬れるものなら どーぞ?」

「ほら、そうやって ノールを挑発しないでよ。 ノールも、いちいち 武器を出さないで」


  相変わらず、一触即発な 雰囲気の二人は、これはこれで 仲がいいような気もするが。


「踊れないけど、行ってもいいのかしら?」

「もちろんです。 正直、女王に会うのは反対ですが…… あなたが行きたいと言うのなら、僕は お供します」

「…… 女王様って、そんなに 《危険》なの?」


  そういえば、ハートの国に来る前にも、白ウサギは 『女王は、ちょっとアレですが……』と 言っていた気がする。

「大丈夫よ、ただの 《可愛いもの好き》なだけだから! 舞踏会に参加するなら、アリス衣装の他にも、ドレスを作らなくっちゃね! あぁ、俄然 ヤル気が出たわよ~」


  まずは、デザインとか 相談しちゃいましょう…… と。

  スケッチブックを取りに、店の奥へと引っ込んだ 帽子屋を見ながら、叶人は 白ウサギの様子を 窺った。



  三日後には 《裁判》があり、そのあとは お城での 《舞踏会》に参加することが決まり。

  それまでに、新しい 衣装を揃えたり、町で 住人からの 《依頼》を受けたりと、けっこう 忙しくなることが予想された。


  ――― ノールは、大丈夫なの?



  思わず、そう 口にしかけたところを、叶人は 慌てて 言葉を飲み込むのであった。

 新章スタートしたのは いいものの、書きたいエピソードがありすぎて、若干 まとまりなく話が進行しているような気も致しますが。


 カナト&白ウサギ …以外に、ようやく 正式な《仲間たち》という構図が出来上がりつつあります。

 彼らのことも、今後 少しずつ掘り下げて書く予定なので、主人公同様、可愛がって下さると嬉しいです。


 さて、今年も あと一日となりました。

 個人的に、《試練の年》ではありましたが、この物語を続けながら、新しい発見もあった一年でした。


 来年も、元気に アリスが書けるように、心身ともに 健康に気を付けてまいりたいと思います。

 皆様、よい お年をお迎え下さいませ。

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