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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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4.≪護衛≫を選ぶ 基準とは

 冒頭は ≪白ウサギ≫の視点から始まり、そのあと 主人公視点に戻ります。

  そんな顔を しないでほしい。

  そんな顔をしてもらうために、助けたわけではない。




  無意識に、胸のあたりに手を当てた≪アリス≫を、今すぐ 抱きしめてしまいたかった。


  彼女は、自分が今 ≪どんな顔≫をしているのか、きっと気付いていないのだろう。


  常より ≪野蛮人≫と称している ハートの≪兵士長≫は もちろんのこと、男女問わず、今のアリスの表情を見たら 正気を保てないはずだ。

  …… 可愛らしくて、他に 言葉が見つからない。


「あぁ……… 僕は何て幸運なんでしょう」


  相変わらず続いていた エースの攻撃も適当にかわしつつ、顔は勝手に にやけてしまう。


  確かに、懐中時計は 自分にとっての『大事なモノ』であり、それを失った事によって≪特別な能力≫も 失ってしまったのだが。

  白ウサギは、露ほども 後悔などしていなかった。


  むしろ、飛んでくる矢から アリスを救えた事、救えるモノが 手元にあったことに対して、歓喜しているのに―――― 何かを言いたそうにしていた≪案内人≫の顔色を、アリスは 正確に感じ取ってしまったようだ。


  自分のせいで、懐中時計を失わせてしまった……と、彼女は責任を感じているらしい。

  壊れた理由は 事実ではあるが、これは 自分で望んだことであって、彼女に 非は無いというのに。

  こんな事くらいで 胸を痛めているなんて…… 何て 繊細で、心優しくて、おまけに可愛らしいのだろう。


  白ウサギは、その 神々しい美貌を崩して、つい うっとりとしてしまう。

  腕の中に閉じ込めて、今すぐ 頬ずりしたい衝動に駆られたが、かろうじて ぐっと堪えた。

  代わりに、熱い視線を送るくらいは 許してほしい。


  二歩くらい 叶人が後ずさりをしたが、よもや 自分に対して引いている…… とは 考えない白ウサギであった。


「待っていて下さい、アリス。 目の前の ≪赤い野蛮人≫と、後ろから ノコノコ出てきた≪気色悪いゴミ≫など、すぐに消してあげますからね」


  語尾が甘くなってしまうのは、不可抗力である。

  彼女に罪を問うならば、可愛らしすぎることだけだ。


  甘く蕩けた言葉からは一転、あっという間に 吹雪のごときオーラが 白ウサギを包む。

「…… 僕たちの 愛の門出を邪魔する 不届き者は―――― 消えてしまいなさい」


  叶人の背後に現れた≪気色悪いゴミ≫に向かって、白ウサギは躊躇うことなく 短剣の切っ先を向けた。






  今更だが、すごく おかしな事になってしまった―――― と、叶人は ぼんやりと思う。


  理由はわからないが…… 知るのも恐ろしい気がするが、≪白ウサギ≫殿は、自分のことを ことのほか気に入ったらしい。 …… というか、気に入り過ぎて、すでに変な方向へと 走り出してしまったようだ。


  とりあえず、飛んできた矢から 救ってもらった礼は、後で しなければならない。 どうやら大事なモノまで 失わせてしまったみたいだし、相応の礼が できるかどうかは 別としても。


  愛の門出って…… 何だ。 突っ走りかたが、尋常ではない。 やはり、恐怖の≪みーちゃん≫様に 通じた部分がある。

  とにかく、一度 状況を整理しなければ。


  どんな時でも、人間関係の把握は 生き残るためには 重要。 周囲の人物たちを もう一度おさらいしてみよう。


  まず、誰にも 与さない、中立の≪案内人≫。

  それから、どう見ても 害をなすであろう≪兵士長≫。

  さらに、考えようによっては、この場にいる中で 唯一味方になりそうな≪白ウサギ≫。

  そして、新たに背後から現れた……… ≪第四の人物≫。


「…………… 誰?」

 

  まともな説明をくれそうな 案内人に、一応尋ねてみた。


  できるなら、あまり 直視はしたくない。

  白ウサギが ≪気色悪いゴミ≫と表現したのも、あながち間違ってはいなかった。


「彼は、≪四十三番目の アリス≫ですよ」


  第四の人物…… 四十三番目の アリスとは、どこから見ても 疑いようのない 完璧な≪男≫だった。


「アリスって…… 男の人でも、可能だったんだね……」

  遠い方角を見てしまうのは、彼の 性別のせいではない。 彼の≪恰好≫に、大きな問題がある。


  ≪アリス≫特有の エプロンドレスは、男であっても ≪標準 装備≫になるらしい。

  水色ワンピースに 白エプロンの 叶人に対して、彼は ≪緑のワンピース≫に ≪黄緑色のエプロン≫であり、たくましい足元は≪黄色のニーハイソックス≫と、ストラップの付いた≪深緑色の靴≫。


  カメレオンでも 目指しているのだろうか? もしくは、色合い的に≪迷彩服≫のつもりなのだろうか?


「いやぁ~ いつ見ても、目がチカチカするよな~」

  のんきな感想は、もちろん エースである。 悔しいが、その意見に一票を投じたい。


  男アリスは、少し斜め上から 叶人を見下ろし、初めて 口を開いた。

「よぉ、新入りアリス。 ビギナーのくせして、護衛二人を 手玉に取るってのは、どういうこった?」


  短い 金の髪、ぎょろっとした青い瞳、筋肉モリモリの マッチョな体―――― この外見で エプロンドレス着用なのだから、この≪世界の意思≫とやらは、相当な ゲテモノ好きといえる。


「俺は ≪四十三番目のアリス≫で、バルドって名前だ。 今 参加中の中じゃ、けっこうな古株だぜ?」


  確かに、叶人の≪九十九番≫から比べたら、かなり 若い番号だ。

  それだけ長く この世界に留まり、ゲームに慣れたベテランだと うかがえる。


  バルドの後ろに控えるのは、おそらく≪護衛≫なのだろう―――― 金髪グラマーの美女が見えた。

  彼女の手には、大ぶりの弓矢がある。 叶人を狙って射ったのは、彼女のようだ。


「口を慎みなさい、ゲテモノ風情が」

  刃よりも鋭い声は、白ウサギのものだった。


「おいおい、そんな小さなナリして、強がってどうする? ナイト気取りもいいとこだが、その様子じゃ、正式に ≪護衛≫として認められてねぇんだろ? …… 話にならねぇな」

「彼女は、僕の≪アリス≫です。 他の男を 選ぶなんて、あり得ない」

  自信たっぷりに 宣言してくれるが…… 叶人には、返す言葉が無い。


  とりあえず、≪大きくな~る≫の薬瓶は、ぎゅっと握りしめておいた。 念のために。


  何も言わないのが 一番だ。

  下手にしゃべって、余計な≪誤解≫やら ≪妄想≫に走られても困る。


「ハッ…… だっせぇな、≪白ウサギ≫。 こんな モヤシ野郎が、護衛の中でも 上位に入っているなんざ 冗談としか思えねぇ。 まだ、後ろの≪兵士長≫の方が、殺し甲斐があるってもんだ」

「え、なになに、俺のこと? 噂の≪四十三番目≫に褒められるなんて、光栄だなぁ」

「僕は モヤシではなく、≪白ウサギ≫です!」

  突っ込む箇所は そこなのか、白ウサギ。


「え~と…… ≪四十三番目≫さんは…… 結局 何をしに来たわけ?」

  できるならば 放置したい面々だったが、自らの身が狙われたこともあって、無視はできない。


  用が無いなら ただちに帰りやがれ―――― という、本音は閉まっておくが。

「何か…… だって? そんなの、考えればわかるだろ? お前を 潰しに来たんだよ」

「潰しに…… って、私 害虫ではないんだけど。 そういう目に遭う 理由も無いし」

「ゲームの説明は 聞いただろ? 俺たちは ≪感謝のドロップ≫を集めるために、各地を旅してるって」

  もちろん、先程 案内人から聞いたばかりだが。


「今 参加してるのは…… ざっと三十人。 まぁ 早い話、邪魔なんだわ…… その人数が」

「……… 邪魔?」

「そ、邪魔だ。 邪魔で仕方がねぇ。 だから、俺は考えた。 ビギナーのうちに消しておけば、後々 邪魔になる心配もなくなるってコトをさ」

  ニヤリと 口元を歪めた顔は、悪役そのものだといえる。


  そういえば、ハリウッドスターの シュワちゃんに、雰囲気が似ている。

  決めた、バルドのニックネームは≪シュワちゃん≫だ。


「随分と 自分勝手な話のうえに…… おまけに≪小心者≫とは、ベテランさんが 聞いて呆れるわ。 後進の≪育成≫は、先輩方の≪務め≫。 それを あろうことか潰すだなんて…… 底の浅い男だこと」


  やめておけばいいのに、思わず 言い返してしまうところが、≪悪いクセ≫だと自覚している。


「ほ~……」

  シュワちゃんこと…… バルドは、さらに笑みを深くしながら、右手を軽く上げた。


  白い霧が発生し、少しずつ≪何か≫が 輪郭を現す。

「俺様 愛用の≪大斧≫だ―――― 弓矢なんかじゃ 甘っちろい。 てめぇは コレで 頭かち割ってやる!」


  後悔はしない主義の 叶人だったが、今だけは その主義を撤回しようかと考えた。






「おらおら、どーした!? 逃げてばかりじゃ いずれ捕まるぜ!?」

  大斧を 器用にも振り回して暴れるバルドに、一歩下がった後方から 矢を射ってくる グラマー美女。


  近接攻撃と 遠距離攻撃の、バランスの取れた戦い方だ。

  さすが、ベテラン。


「ちょっと、ど~したのアリス? 迷ってないで、早く 俺に決めちゃいなよ? 薬をくれるだけでいいんだからさ~」

  一応 応戦しながらも、しきりに≪大きくな~る≫の瓶を 奪い取ろうとする、 諦めの悪い≪兵士長≫。


「見た目が醜悪なだけでなく、僕の≪アリス≫に対して 武器を向けるとは…… 苦しんで死になさい!」

  当然といえば当然、白ウサギさんの怒りは 頂点を超えてしまったらしい。

  赤い瞳が さらに血走っていて、怖い。


  売られた喧嘩を 安易に買ってしまった、自分が悪い。 わかっている。

  わかっているからこそ、この場を 何とかしなければ。


  ちび姿で 不利とはいえ、エースと白ウサギは 健気にも善戦していた。 ただ 逃げ回るだけの自分とは、雲泥の差である。


  もし、≪護衛≫を選ぶなら……?


  どう考えてみても、この場をひっくり返す≪策≫は それ以外に思い浮かばない。

  バルドを挑発しておいて、まだ 他人の力を当てにするのか―――― と、罵られても 甘んじて受けよう。 事実として。


  決意を固めた 叶人の瞳が、真っ直ぐ前を向く。

  近くで 剣を振るっていたエースが、ぴゅうと 口笛を吹いた。 ≪いいカオするじゃん≫と、言われているような気がした。


  うるさい、茶化すな、ほっといてくれ。


「…… 私の、≪護衛≫は……」

  人間は 窮地に陥った時には 必ず、助けてくれそうな人を『本能』で選ぶ 生き物なのだろう。


「私なら、決して自分の事を 傷付けない人を、選ぶ。 だから…………」

  ≪白ウサギ≫と。


  声には出さずに、唇の動きだけで 伝えるが、本人には 通じたようだ。

  一瞬、信じられないような 驚いた顔。

  あんなに 自信たっぷりなくせして、どこか不安だったんだろうか―――― すぐに我にかえり、幼子のように無邪気な 満面の笑みで、白ウサギは 受け取った薬を いっきにあおる。


  まばたきの間に、ちび姿は 元の立派な≪青年≫へと変化し。

「僕を 選んだことを、後悔させません。 …… 必ず、あなたを幸せにします」


  …… 五歩くらい、距離を開けたくなるようなセリフは 遠慮してほしい。





  こうして、叶人の 大事な≪護衛≫は、妄想癖のある 問題大アリな≪白ウサギ≫に決定した。

 エプロンドレス着用の、シュワちゃん…… あなたには 想像できましたか?


 次回、叶人の 『専用武器』が決定し、ようやく出発の準備が整うはず。お楽しみに。

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